コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2015/08/07 商取引 情報成果物作成委託における下請法上の留意点(著作権の処理含む)(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    情報成果物作成委託における下請法上の留意点(著作権の処理を含む)

    Q. 弊社(資本金1000万円)はCM制作会社(資本金1000万円)との間の取引基本契約に基づき,インターネット上の動画広告の作成を繰り返し委託しておりますが,この度増資(500万円のうち2分の1を資本金に組入れ)するにあたり,当該取引が下請法の適用対象となると聞きました。現在既に発注済の分も含め,今後取引を継続するにあたり,留意点としてどのようなことが考えられますか。

    A. 下請法の適用対象となりますので,発注書の交付義務等,一定の規制に服することに留意する必要があります。

    1 下請法の適用対象

     下請代金支払遅延等防止法(下請法 以下,特に示さない場合は下請法を指すものとします)は,独占禁止法の特別法として制定されたものであり,取引が下請法の適用対象となるかどうかは,取引内容並びに作成を委託する親事業者及び下請業者双方の資本金額によって形式的に定められます。

     下請法が適用される取引内容のひとつに,「情報成果物作成委託」があり,その中でもプログラム作成委託に該当するかしないかで,資本金額要件が異なります。
     インターネット上の動画広告の作成委託(以下,「本件作成委託」といいます)は「情報成果物作成委託」の3類型のうちのひとつである「自社で使用する情報成果物を自社で作成している会社が情報成果物の作成の全部又は一部を他の事業者に委託すること」に該当すると考えられ,またプログラム作成委託には該当しないものと考えられるため,①親事業者の資本金額が5000万円超(5000万1円以上)であり,かつ,下請業者の資本金額が5000万円以下(個人を含む)である場合,②親事業者の資本金額が1000万円超5000万円以下であり,かつ,下請業者の資本金額が1000万円以下(個人を含む)である場合に,下請法が適用されることになります(第2条7項及び8項)。

     本件においては,増資前は親事業者である御社及びCM制作会社双方の資本金額が1000万円であり,下請法の適用対象外でしたが,増資後は御社の資本金額が1250万円となることから,上記②の場合に該当し,下請法が適用されます。

    2 下請法が適用される場合の親事業者の義務等 

     下請法が適用される場合,親事業者は下請業者に対し,作成委託に当たって,概要以下の義務を負います。

    ①発注書面の交付(第3条)
    ②発注時における下請代金の支払期日の決定(第2条の2)
    ③取引記録の作成及び保存(第5条)
    ④支払遅延時の遅延利息支払い(第4条の2)

     ①については,親事業者及び下請業者の名称,下請業者の給付内容等,法定記載事項(公正取引委員会規則)を記載する必要があります。なお,発注書とは別に契約書の取交しは義務付けられていません。
     ②については,支払期日はコンテンツの受領後60日以内で,かつできる限り短い期間になるように定める必要があります。
     ③については,取引が完了した場合,給付内容,下請代金額等,取引に関する記録(書類又は電磁的記録)として作成し,2年間保存する必要があります。

    3 増資後に下請法の適用対象となった場合 

     本件では増資後に下請法の適用対象となっていますが,増資前,つまり下請法の適用対象外であったときに既に発注していた分の本件作成委託については,増資後に改めて発注書を作成する必要がないだけでなく,増資後に取引が完了した場合も,取引記録作成及び保存の義務を課せられることはありません。支払期日についても,コンテンツ受領後60日以内との制限を受けません。 

     もっとも,取引基本契約の期間が増資後も継続するとしても,増資後の個別発注については,原則通り下請法の適用があるため,上記した①ないし④の義務を課せられます。 
     なお,発注書の作成にあたり,発注書への記載が法定されている事項について取引基本契約に記載が存在する場合,個別発注書においてその点について繰り返し記載する必要はありません。取引基本契約及び個別発注書全体として,各法定記載事項が記載されていれば要件を満たしていることとなるからです。この場合,個別発注書に対し,取引基本契約が紐づけられている必要があります。

    4 著作権の処理 

     下請業者に原始的に発生する著作権を親事業者に譲渡する場合,作成委託の一内容として,下請業者の親事業者に対する「給付の内容」に含んで譲渡させる方法と,「給付の内容」には含まずに,後日,作成委託とは無関係に著作権の譲渡について別途対価を支払って行う方法があります。前者の場合,著作権の譲渡もまさに「給付の内容」に含まれるものとして発注書面に記載する必要があります。

     その際親事業者は,本来の作成委託料部分及び著作権の譲渡対価を含んだ下請代金の額を下請業者との十分な協議の上で設定して発注する必要があります。なぜなら,そのような協議を行うことなく,著作権の譲渡対価が本来の作成委託料に含まれているとして一方的に定め,その金額が一般的な対価に比べ著しく低かった場合,「買いたたき」に該当するとして下請法に違反する可能性があるからです。 
     「買いたたき」は親事業者の優越的な地位の濫用類型のひとつとして定められているところ,下請代金額を決定するにあたり,①発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を②不当に定めた場合に該当し,第4条5号が規定する親事業者の禁止事項に該当します。

     著作権の譲渡について下請業者の「給付の内容」に含めておきながらそれに対する対価を考慮せずに下請代金を定めると,本来の作成委託料のみの金額としては問題なくとも,本来の作成委託料及び著作権譲渡料の合計金額としては著しく低いと判断される可能性があるので,注意が必要となるのです。 

     本件においては,委託内容が動画広告であって,制作物について制作したCM制作会社に著作権が発生すると考えられますが,当該著作権の譲渡については取引基本契約において処理方法が予め定められているものと考えられます。当該処理方法として本来の作成委託料に含まれる形で,又はそれとは別に,著作権の譲渡に係る対価が適切に定められていれば,下請法適用後に特段問題となることはないと考えられます。

    5 下請法違反の勧告,公表,罰金等 

     親事業者が下請法に違反し,当該事実が公正取引委員会に把握された場合,違反事実を解消し,原状回復措置,再発防止措置等実施するよう勧告及び公表が行われます。 
     また,上記の発注書面の交付義務,取引記録の作成及び保存義務についての違反は重大違反と考えられているようであり,違反行為者及び会社は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

    6 その他 

     下請法の適用対象となる取引かどうかは,当該取引内容によって資本金額による形式的要件が異なり,また適用対象となった場合の親事業者の禁止行為も買いたたき以外に複数存在します。 

     下請法の適用対象となることが疑われる取引については,まずは資本金額から形式的に判断し,そのうえで親事業者の禁止行為に該当する取引形態となっていないかどうか速やかに判断する必要があります。 

    田島・寺西・遠藤法律事務所

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  • 2015/07/24 企業経営 株式会社における自己株式の合意取得について(西川文彬弁護士)

    株式会社における自己株式の合意取得について

    Q 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,いずれの機関による決議が必要になるのでしょうか。また,市場において行う取引で上場株式である自己株式を取得することを検討していますが,具体的にはどのような取引があるのでしょうか。


    A 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会決議による必要があります(会社法第156条第1項)。しかし,一定の場合には,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能です。  

     上場株式である自己株式(以下,「上場自己株式」といいます。)を市場において行う取引(以下,「市場取引」といいます。)によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。
    ※本稿は,東京証券取引所における市場取引を前提としております。



    1 自己株式の取得の規制

     会社が株主との合意に基づいて自己株式を取得することは,以下の弊害が生ずるおそれがあることから,その取得価額は株主への分配可能額の範囲内でなければならず(財源規制),また,株主の平等等を確保するため,法が定める手続等の規制に従わなければなりません(手続規制)。

     弊害としては,

    ①資本金・準備金を財源とする取得は,株主への出資払戻と同様の結果を生じ会社債権者の利益を害する(資本の維持),

    ②株主への分配可能額を財源とする取得でも,流通性の低い株式を一部の株主のみから取得すると株主相互間の投下資本回収の機会の不平等を生じさせ,また取得価額いかんによっても残存株主との間の不公平を生じさせる(株主相互間の公平),

    ③反対派株主(グリーンメーラー等を含む)から株式を取得することにより取締役が自己の会社支配を維持する等,経営をゆがめる手段に利用される(会社支配の公正),

    ④相場操縦(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)第159条),インサイダー取引(金商法第166条)などに利用される(証券市場の公正)

    等が挙げられています(江頭憲治郎著『株式会社法』246頁(株式会社有斐閣,第6版,2015年))。

    2 自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合の決議  

     株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会の決議によって

    ①取得する株式の数

    ②株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額

    ③株式を取得することができる期間(1年を超えることはできません)

    を定めることが必要であり(会社法第156条第1項),その上で,取締役会において,取得価格等を決定することになります(会社法第157条,取締役会設置会社の場合)。

     しかし,以下の場合には,上記弊害がそれほど懸念されないことから,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能とされます。

    (1)取締役会設置会社における子会社からの取得(会社法第163条)

    (2)株式会社が市場において行う取引又は公開買付けの方法による取得(会社法第165条)※取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めが必要

    (3)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社において,株主全員から譲渡しの申し込みを受ける場合の取得(会社法第459条第1項第1号)  

     なお,特定の株主から取得する場合(株主全員に譲渡の勧誘をする方法(会社法158条,同159条),市場取引等(会社法165条)以外の方法により取得する場合)には,上記①から③までの事項のほか,その株主の氏名も株主総会の決議による必要があります(会社法160条1項,同309条2項2号)。 

     特定の株主から取得する場合には,剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社(上記(3))も株主総会決議による必要がある点に注意が必要です。

    3 上場自己株式を市場取引によって取得する方法

     上場自己株式を市場取引によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。 

    (1) オークション市場における単純買付けによる方法   

     オークション市場における単純買付けとは,自己株式の取得枠の決定について公表した上で,オークション市場において単純買付けを行う場合を指します。なお,個々の取得をした場合には,速やかに,取得対象の株式の種類,株式の総数,取得価額の総額を開示することとされています。   
     上場会社がオークション市場における単純買付けを行う場合,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下,「有価証券取引規制府令」といいます。)により,1日に2以上の金融商品取引業者等に対して,株式の買付等を行わないこと(有価証券取引規制府令第17条第1号),価格規制(同条第2号),数量規制(同条第3号)などの適用を受けます。

    (2) 事前公表型による方法   

     事前公表型の自己株式取得とは,買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表した上で,オークション市場,終値取引(ToSTNeT-2)又は自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)において,自己株式取得のための買付けを行うものを指します。

     事前公表型のオークション市場における買付け及び終値取引並びに自己株式立会外買付取引は,有価証券取引規制府令第23条(取引の公正の観点から適当と認められる方法)の要件を満たす買付け方法となっており,同府令第17条から第20条の適用が除外されます。

     ここで,事前公表型のメリットは,

    ①日々の株価等の動向をみながら機動的な買付けが可能であり,また,公開買付け等と異なり,法定公告が求められることがないためコスト・メリットが高い。

    ②株主からまとまった数量の買付けを行うことが可能。

    ③インサイダー取引規制や相場操縦規制の問題はディスクロージャーにより対応。

    ④東証における売買制度の利用により,他の株主の取引機会を確保し,取引の公正性や透明性を確保。

    とされ,加えて,事前公表型の終値取引(ToSTNeT-2)及び自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)については,

    ①既に決定した価格で取引が行われるため,あらかじめ買付(株主にとっては売付)代金が確定。

    ②ToSTNeT-2 では時間優先の仕組み,ToSTNeT-3 では取引参加者間でのあん分比例の仕組みにより,他の株主の取引機会を確保。

    ③既に決定した価格で,かつ,立会時間外の取引のため,マーケットに直接的なインパクトを与えることはない。

    というメリットがあるとされています(『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』8頁(株式会社東京証券取引所,改訂版,2015年)。

     以下,各買付方法の概要をご説明いたします。

    ① 終値取引(ToSTNeT-2)による買付け   

     東証の立会市場以外の市場(以下,「ToSTNeT 市場」といいます。)における売買で,立会市場で決まった最終値段で,立会時間外に売り注文と買い注文を集めて取引を成立させるものです。

     自己株式取得は午前8 時20 分から8 時45 分の前日最終値段を利用した取引で行われます。

    ② 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け   

     東証のToSTNeT 市場における売買であり,終値取引(ToSTNeT-2)と異なり,自己株式取得のための売買のみが行われるものです。具体的には,自己株式取得のための買付けを行おうとする日の前営業日に,買付会社から買付けの委託を受けた証券会社が東証に届出(銘柄,買付数量,買付値段等)を行ったうえで,買付日の午前8 時から8 時45分まで売り注文を集めて買付会社の買い注文との間で取引を成立させるものです。

     買付値段は前営業日の立会市場における最終値段(最終気配値段を含む。買付日が配当落等の期日である場合や,前営業日に最終値段(最終気配値段を含む)がない場合は買付日における当該銘柄の基準値段)となります。

     終値取引と異なり,買い注文が買付会社の注文に限定されています。

    また,信用取引の利用はできません。

    ③ オークション市場における買付け 

     事前に買付内容を公表した上で,東証のオークション市場を利用して買付けを行うものです。

     有価証券取引規制府令23条において,事前公表型のオークション市場における買付けでは,前日終値以下の価格(成行注文禁止)で発注することとされています。

     なお,オークション市場では,需給動向によって株価が決定し,売買が成立していくため,発注価格を上回る値段で株価が推移した場合には,結果としてその日に買付けが行えない可能性も指摘されています(前掲『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』12頁)。

     以上,自己株式の取得における手続規制からの側面(授権決議を行う機関,市場取引の内容)について概説いたしましたが,一般的に,自己株式の取得は,その重要性から厳格な手続が要求されています。また,上場企業においては,金融商品取引法における規制も存在しますので,自己株式の取得及び取得方法は慎重に決定する必要があります。

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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  • 2015/07/06 労働問題 「改正労働基準法(案)について」(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    改正労働基準法(案)について

    Q
    近々,年次有給休暇に関するルールを改正し,従業員への年次有給休暇の取得を義務化することが議論されていると聞きました。
    具体的にどのように変わる予定なのか教えてください。


    A
    平成27年4月3日,労働基準法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。

    この法律案を提出する理由は,「長期間労働を抑制するとともに,労働者が,その健康を確保しつつ,創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため,年次有給休暇に係る時季指定の使用者への義務付け,高度な専門的知識等を要する業務に就き,かつ,一定額以上の年収を有する労働者に適用される労働時間制度の創設等の所要の措置を講ずる必要がある」と説明されています。

    年次有給休暇の取得に関する法改正の内容としては,上記理由にもあるように,年次有給休暇に係る時季指定を使用者に義務付けることにあります。

    具体的にいうと,法案では,使用者は,10日以上の年次有給休暇を付与する労働者に対して,1年に5日について年次有給休暇の時季を指定して与えることが義務付けられる,としています。

    ただし,労働者が時季指定した日数や計画的に付与した日数がある場合には,その日数を年5日から差し引いた日数を時季指定すれば足り,その日数が年5日以上の場合には,使用者は年次有給休暇の時季指定の義務を免れます。

    法案では,罰則規定も設けており,違反した者は,30万円の罰金に処せられることとされています。この改正によって,積極的な年休取得の進まない現状が改善され,最低でも年5日の年次有給休暇の取得を確実にする仕組みができることとなります。

    本法案では,年次有給休暇に関する上記改正のほかにも,次のような改正が提案されています。

    中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
     →月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について,中小企業への猶予措置を廃止する。

    著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
     →労働基準監督官による時間外労働に係る助言指導に当たり,「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。

    企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正)
     →企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組みを促進するため,企業全体を通じて一つの労働時間等設定改善委員会の決議をもって,年次有給休暇の計画的付与等に係る事業場ごとの労使協定に代えることができることとする。

    フレックスタイム制の見直し
     →フレックスタイム制における割増賃金の計算対象となる「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

    企画業務型裁量労働制の見直し
     →企画業務型裁量労働制の対象業務としては,現行法上「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査および分析の業務」に限定されているところ,「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに,対象者の健康確保措置の充実や手続きの簡素化等の見直しを行う。

    特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
     →職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1000万円以上)を有する労働者が,高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に,健康確保措置等を講じること,本人の同意や委員会の決議等を要件として,労働時間,休日,深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
     また,制度の対象者について,在社時間等が一定時間を超える場合には,事業者は,その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(労働安全衛生法の改正)

    本コラム執筆時においては,この法律案は衆議院で審議中の状況ですが,この法案が成立した場合には,平成28年4月1日(①については平成31年4月1日)からの施行が予定されています。

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  • 2015/06/09 商取引 「メールマガジン配信に関する特定電子法及び特定商取引法の規制」(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    メールマガジン配信に関する特定電子法及び特定商取引法の規制

    Q 当社は自社開発商品について店舗販売及び通信販売を行っており,新商品開発や既存商品の割引セールを行うたび,メルマガを配信しています。先日とある異業種交流会に参加した際,他の参加者と名刺を交換しました。名刺記載のメールアドレス宛に,本人の同意を得ずしてメルマガを配信することに問題はありますか?

    A 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律,及び特定商取引法の制限を受け,問題となる場合があります。

    1 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特電法)の改正  

    平成20年に特電法が改正され,「オプトイン方式」が導入されて以降,企業の広告宣伝メール全般の送信については,厳しい制限が課せられることとなりました。  

    具体的には一部例外を除いて,あらかじめ同意した者に対してのみ,広告宣伝メールを送信することができるにとどまることとなります。  

    特電法の規制を受けるメール(特定電子メール)とは,「営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人」である送信者が「自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」を指します(消費者庁 『特定電子メールの送信等に関するガイドライン』)。  

    ご質問のような新商品開発,もしくは既存商品の割引セールを行うたび配信されているメルマガは,それら商品の広告・宣伝が主として行われていると考えられますので,特定電子メールに該当する可能性が高いと言えます。

    2 オプトイン方式の例外  

    そもそも前提として,特電法第3条1項本文で  
     送信者は,次に掲げる者以外の者に対し,特定電子メールの送信をしてはならないと規定され,

    そして同項1号で,   
     あらかじめ,特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者・・・に対し通知した者 

    と規定されていることで,オプトイン方式が採用されていることが示されています。  

    もっとも,特電法の趣旨は電子メールの送受信上の支障の防止にあるところ,下記の場合にはそのような支障が経験上それほど懸念されないことから,法第3条1項2号から4号において,同意を通知したもの以外の者であっても,その者に宛てて特定電子メールの送信が可能なものが定められています。  

    同項2号   
     前号に掲げるもののほか,総務省令・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者  

    同項3号   
     前二号に掲げるもののほか,当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者  

    同項4号   
     前三号に掲げるもののほか,総務省・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては,営業を営む者に限る。)

    そのうち上記2号のいわゆる「自己の電子メールアドレスの通知をした者」については,さらに施行規則において,

    第2条1項   
     法第3条1項2号の規定による送信者又は送信委託者に対する自己の電子メールアドレスの通知の方法は,書面により通知する方法とする。ただし,次の各号に掲げる特定電子メールを受信する場合の通知の方法は,任意の方法とする。  

    同項1号   
     第6条各号のいずれかに掲げる場合に該当する特定電子メール  

    同項2号   
     法第3条1項1号の通知の受領のために送信がされる一の特定電子メール

    と規定されています。

    3 書面による通知  

    書面により自己の電子メールアドレスを通知した場合には,書面を提供した側にも,書面の通知を受けた者から電子メールの送信が行われることについての一定の予測可能性があるものと考えられるため(上記ガイドライン),上記のように規定されています。
    そして,「名刺」も書面に該当します。

    したがってご質問の場合については,名刺をくれた方に対して,たとえメルマガを配信することについて具体的に同意を得ずに配信しても,特電法上は問題ないものと考えられます。

    4 特定商取引法(特商法)による規制  

    ところが特商法において,通信販売等の形態で消費者と取引をする場合において,事業者が取引の対象となる商品や役務などについての電子メールによる広告(電子メール広告)を行う場合についての規制が存在します。  

    販売業者等が,電子メール広告に基づき通信手段により申込みを受ける意思が明らかであり,かつ,消費者がその表示により購入の申込みをすることができるものであれば上記規制に服することになります(消費者庁 『改正特定商取引法における「電子メール広告規制(オプトイン規制)」のポイント』)。  

    したがって,ご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,特商法の規制も考慮しなければなりません。  

    特電法と特商法は,前者の趣旨が「電子メールの送受信上の支障の防止」であるのに対し,後者の趣旨は「消費者保護,取引の公正」であり,また管轄庁が異なることから,その関係性については明らかにされておらず,それぞれ全く別の法的規制として該当性を検討し,要件を満たす必要があります。  

    特商法における電子メール広告に該当すれば,相手(消費者)からあらかじめ請求や承諾を得ていない限り,電子メール広告の送信が原則的に禁止されます(特商法12条の3第1項)。そして,同項における例外は 

    ①特商法施行規則11条の3第2項   
     契約の申込みの受理及び当該申込みの内容,契約の成立及び当該契約の内容,並びに契約の履行に係る事項のうち重要なものの通知に付随して,通信販売電子メール広告をする場合  

    ②同条の4第1号   
     相手方の請求に基づいて,又はその承諾を得て電磁的方法により送信される電磁的記録の一部に掲載することにより広告がなされる場合

    ③同2号
     電磁的方法により送信しようとする電磁的記録の一部に広告を掲載することを条件として利用者に電磁的方法の使用に係る役務を提供する者・・・による当該役務の提供に際して,広告がなされる場合

    とされています。

    ③については,フリーメールアドレスサービスにおいて,利用条件として利用者がそのアドレスからメールを送ると,当該メールに事業者の広告が掲載されることとなるもの等を指します。したがって,残る①,又は②に該当しない限り,上記規制に服することになります。

    ②については,広告宣伝でないメルマガ等の一部に広告を掲載する場合を指し,ただし,消費者が上記メルマガ配信の請求や承諾をしたものにとどまり,広告宣伝を主目的とするメルマガの配信について請求や承諾をしていない場合は適用除外になりません(上記ポイント)。また「一部に掲載」にとどまるか否かは,メルマガ全体を見て主副の関係が逆転していないか,という観点から判断されるようです。  

    したがって,仮にご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,「電子メール広告を送ること」についてあらかじめ請求や承諾を得ておかなければならず,さらに,原則としてその請求又は承諾を得た記録を,書面又は電子データの形式で保存する義務が課せられることになります(特商法12条の3第3項)。

    5 結論  

    以上の通り,ご質問のメルマガが,主に開発した新商品又は割引セールを実施している既存商品の広告・宣伝を目的としている場合,名刺を取得したことで特電法による規制は受けずとも,電子メール広告に該当する可能性があり,特商法の規制を受ける可能性が高い以上は,あらかじめ本件メルマガの配信に関する請求又は承諾を得る必要があるでしょう。

    田島・寺西・遠藤法律事務所

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  • 2015/05/28 労働問題 「従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて」(西川文彬弁護士)

    従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて

    Q 従業員がSNSで業務内容に関する書き込みをして,会社に損害を与えないか心配です。何か事前の予防策はありますか。また,従業員が会社に関する不適切な書き込みをした場合,当該従業員には,どのような責任追及が可能でしょうか。


    A 
    従業員による業務内容に関する書き込みを防ぐためには,従業員の問題意識を高めることが非常に重要です。
      就業規則を整備することも重要ですが,従業員の意識が低いままでは,SNSへの不適切な書き込みを防ぐことは期待できません。
      
      事後的な対応としては,不適切な書き込みをした従業員に対して,懲戒処分を行うことのほか,悪質な事案の場合には,損害賠償請求,刑事告訴を行うことが検討に値します。

    1 従業員によるSNSへの不適切な書き込みの代表的な例としては,レストランやホテルにおいて有名芸能人が顧客として訪れたことの書き込み,飲食店において食品を保存するための冷蔵庫内に寝そべっている写真をアップロードすることなどが挙げられます。

    先の例では,顧客のプライバシーを侵害し,後の例では,企業のブランドイメージを損なうこととなり,
    いずれの場合も,会社は,その信用を失い,顧客への謝罪,メディア対応等に追われ,会社の運営に重大な問題が発生することが考えられます。

    昨今においては,メディア等において,SNSへの書き込みによる問題が取り上げられ,世間でもSNSの危険性が認識されるようになってきましたが,現在においても,その危険性の認識が浸透しきっているとはいいがたい状態です。

    そのため,会社においては,従業員に,SNSへの書き込みがもたらす影響の重大性を改めて理解させる必要があります。

    具体的には,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けることに加え,
    従業員に対し,SNSへの書き込みに関する研修を行ったり,
    従業員との間でSNSへの書き込みに関する誓約書を取り交わしたり,
    SNSへの書き込みに関する社内のガイドラインを定め,同ガイドラインを従業員に周知すること
    が挙げられます。

    2 従業員が会社に関する不適切な書き込みを行い,会社に不利益をもたらした場合,まず,検討される責任追及手段としては,懲戒処分の実施が挙げられます。

    なお,懲戒処分の根拠として,就業規則において,SNSへの不適切な書き込みが懲戒事由として定められていることを要するため,事前の対策として,就業規則にSNSへの不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けておくことが意味を持ちます。

    もっとも,就業規則においてSNSへの不適切な書き込みが懲戒事由となることを定めたからといって,直ちに,懲戒処分が全て有効になるわけではなく,当該行為が企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有するかなどを勘案しながら,慎重に懲戒処分の実施を検討する必要があることには留意しなければなりません(最判昭和58年9月8日判例時報1094号121頁参照)。

    そして,書き込み内容が悪質な事案においては,懲戒処分に加え,民事上の責任追及として不法行為に基づく損害賠償請求,刑事上の責任追及として名誉毀損罪や威力業務妨害罪で刑事告訴をするといったことも検討に値します。

    なお,SNSの書き込みは自主的に削除することが容易なものですので,従業員に削除されてしまうと書き込みがなされていたという証拠が消滅する危険があります。

    そのため,従業員による不適切な書き込みを発見した際には,直ちに,当該書き込みをプリントアウトするように心がけてください。

    3 なお,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止したり,従業員に対して,SNS利用に関するガイドラインを交付したりしたとしても,上司からのパワハラや過度の残業等に関する告発的な書き込みを阻止することは難しく,また,そのような場合においては,書き込みが必ずしも違法とはされないこともあります。

    他人の名誉,信用と表現の自由のバランスの中で,告発行為の正当性,相当性が問われる場面です。

    この点,告発的に書き込まれた内容につき,会社に社会的批判を招来すれば,上記1で問題となる従業員の不適切な書き込みによる影響以上に,ブランドイメージが低下し,ひいては,商品・役務の不買運動にも発展する可能性があり,重大な損失をもたらしかねません(弁護士田島正広代表編著『リスクマネジメントとしての内部統制通報制度』17頁(税務経理協会,初版,2015年))。

    このような事態に対処するには,企業倫理違反行為に関する情報を社内に留保し,適切な対応を行うという自浄作用を発揮することを目的として,会社に内部通報窓口を設けることが極めて重要な意義を有するものといえます。

    以上のように,紛争の予防,事後対応について解説を行いましたが,
    紛争の予防の場面においては,就業規則やガイドラインの定め方,誓約書の作成,
    事後対応の場面においては,懲戒処分の実施の可否,刑事告訴等,法律的な判断が必要になってきますし,
    内部窓口の設置についても,専門家の助力があればより実効的な対応ができるものといえます。

    上記のような事案でお困りの際には,お気軽に当事務所まで,ご相談ください。


    田島・寺西法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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