コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2015/06/09 商取引 「メールマガジン配信に関する特定電子法及び特定商取引法の規制」(田島・寺西法律事務所)

    メールマガジン配信に関する特定電子法及び特定商取引法の規制

    Q 当社は自社開発商品について店舗販売及び通信販売を行っており,新商品開発や既存商品の割引セールを行うたび,メルマガを配信しています。先日とある異業種交流会に参加した際,他の参加者と名刺を交換しました。名刺記載のメールアドレス宛に,本人の同意を得ずしてメルマガを配信することに問題はありますか?

    A 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律,及び特定商取引法の制限を受け,問題となる場合があります。

    1 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特電法)の改正  

    平成20年に特電法が改正され,「オプトイン方式」が導入されて以降,企業の広告宣伝メール全般の送信については,厳しい制限が課せられることとなりました。  

    具体的には一部例外を除いて,あらかじめ同意した者に対してのみ,広告宣伝メールを送信することができるにとどまることとなります。  

    特電法の規制を受けるメール(特定電子メール)とは,「営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人」である送信者が「自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」を指します(消費者庁 『特定電子メールの送信等に関するガイドライン』)。  

    ご質問のような新商品開発,もしくは既存商品の割引セールを行うたび配信されているメルマガは,それら商品の広告・宣伝が主として行われていると考えられますので,特定電子メールに該当する可能性が高いと言えます。

    2 オプトイン方式の例外  

    そもそも前提として,特電法第3条1項本文で  
     送信者は,次に掲げる者以外の者に対し,特定電子メールの送信をしてはならないと規定され,

    そして同項1号で,   
     あらかじめ,特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者・・・に対し通知した者 

    と規定されていることで,オプトイン方式が採用されていることが示されています。  

    もっとも,特電法の趣旨は電子メールの送受信上の支障の防止にあるところ,下記の場合にはそのような支障が経験上それほど懸念されないことから,法第3条1項2号から4号において,同意を通知したもの以外の者であっても,その者に宛てて特定電子メールの送信が可能なものが定められています。  

    同項2号   
     前号に掲げるもののほか,総務省令・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者  

    同項3号   
     前二号に掲げるもののほか,当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者  

    同項4号   
     前三号に掲げるもののほか,総務省・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては,営業を営む者に限る。)

    そのうち上記2号のいわゆる「自己の電子メールアドレスの通知をした者」については,さらに施行規則において,

    第2条1項   
     法第3条1項2号の規定による送信者又は送信委託者に対する自己の電子メールアドレスの通知の方法は,書面により通知する方法とする。ただし,次の各号に掲げる特定電子メールを受信する場合の通知の方法は,任意の方法とする。  

    同項1号   
     第6条各号のいずれかに掲げる場合に該当する特定電子メール  

    同項2号   
     法第3条1項1号の通知の受領のために送信がされる一の特定電子メール

    と規定されています。

    3 書面による通知  

    書面により自己の電子メールアドレスを通知した場合には,書面を提供した側にも,書面の通知を受けた者から電子メールの送信が行われることについての一定の予測可能性があるものと考えられるため(上記ガイドライン),上記のように規定されています。
    そして,「名刺」も書面に該当します。

    したがってご質問の場合については,名刺をくれた方に対して,たとえメルマガを配信することについて具体的に同意を得ずに配信しても,特電法上は問題ないものと考えられます。

    4 特定商取引法(特商法)による規制  

    ところが特商法において,通信販売等の形態で消費者と取引をする場合において,事業者が取引の対象となる商品や役務などについての電子メールによる広告(電子メール広告)を行う場合についての規制が存在します。  

    販売業者等が,電子メール広告に基づき通信手段により申込みを受ける意思が明らかであり,かつ,消費者がその表示により購入の申込みをすることができるものであれば上記規制に服することになります(消費者庁 『改正特定商取引法における「電子メール広告規制(オプトイン規制)」のポイント』)。  

    したがって,ご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,特商法の規制も考慮しなければなりません。  

    特電法と特商法は,前者の趣旨が「電子メールの送受信上の支障の防止」であるのに対し,後者の趣旨は「消費者保護,取引の公正」であり,また管轄庁が異なることから,その関係性については明らかにされておらず,それぞれ全く別の法的規制として該当性を検討し,要件を満たす必要があります。  

    特商法における電子メール広告に該当すれば,相手(消費者)からあらかじめ請求や承諾を得ていない限り,電子メール広告の送信が原則的に禁止されます(特商法12条の3第1項)。そして,同項における例外は 

    ①特商法施行規則11条の3第2項   
     契約の申込みの受理及び当該申込みの内容,契約の成立及び当該契約の内容,並びに契約の履行に係る事項のうち重要なものの通知に付随して,通信販売電子メール広告をする場合  

    ②同条の4第1号   
     相手方の請求に基づいて,又はその承諾を得て電磁的方法により送信される電磁的記録の一部に掲載することにより広告がなされる場合

    ③同2号
     電磁的方法により送信しようとする電磁的記録の一部に広告を掲載することを条件として利用者に電磁的方法の使用に係る役務を提供する者・・・による当該役務の提供に際して,広告がなされる場合

    とされています。

    ③については,フリーメールアドレスサービスにおいて,利用条件として利用者がそのアドレスからメールを送ると,当該メールに事業者の広告が掲載されることとなるもの等を指します。したがって,残る①,又は②に該当しない限り,上記規制に服することになります。

    ②については,広告宣伝でないメルマガ等の一部に広告を掲載する場合を指し,ただし,消費者が上記メルマガ配信の請求や承諾をしたものにとどまり,広告宣伝を主目的とするメルマガの配信について請求や承諾をしていない場合は適用除外になりません(上記ポイント)。また「一部に掲載」にとどまるか否かは,メルマガ全体を見て主副の関係が逆転していないか,という観点から判断されるようです。  

    したがって,仮にご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,「電子メール広告を送ること」についてあらかじめ請求や承諾を得ておかなければならず,さらに,原則としてその請求又は承諾を得た記録を,書面又は電子データの形式で保存する義務が課せられることになります(特商法12条の3第3項)。

    5 結論  

    以上の通り,ご質問のメルマガが,主に開発した新商品又は割引セールを実施している既存商品の広告・宣伝を目的としている場合,名刺を取得したことで特電法による規制は受けずとも,電子メール広告に該当する可能性があり,特商法の規制を受ける可能性が高い以上は,あらかじめ本件メルマガの配信に関する請求又は承諾を得る必要があるでしょう。

    田島総合法律事務所

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  • 2015/05/28 労働問題 「従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて」(西川文彬弁護士)

    従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて

    Q 従業員がSNSで業務内容に関する書き込みをして,会社に損害を与えないか心配です。何か事前の予防策はありますか。また,従業員が会社に関する不適切な書き込みをした場合,当該従業員には,どのような責任追及が可能でしょうか。


    A 
    従業員による業務内容に関する書き込みを防ぐためには,従業員の問題意識を高めることが非常に重要です。
      就業規則を整備することも重要ですが,従業員の意識が低いままでは,SNSへの不適切な書き込みを防ぐことは期待できません。
      
      事後的な対応としては,不適切な書き込みをした従業員に対して,懲戒処分を行うことのほか,悪質な事案の場合には,損害賠償請求,刑事告訴を行うことが検討に値します。

    1 従業員によるSNSへの不適切な書き込みの代表的な例としては,レストランやホテルにおいて有名芸能人が顧客として訪れたことの書き込み,飲食店において食品を保存するための冷蔵庫内に寝そべっている写真をアップロードすることなどが挙げられます。

    先の例では,顧客のプライバシーを侵害し,後の例では,企業のブランドイメージを損なうこととなり,
    いずれの場合も,会社は,その信用を失い,顧客への謝罪,メディア対応等に追われ,会社の運営に重大な問題が発生することが考えられます。

    昨今においては,メディア等において,SNSへの書き込みによる問題が取り上げられ,世間でもSNSの危険性が認識されるようになってきましたが,現在においても,その危険性の認識が浸透しきっているとはいいがたい状態です。

    そのため,会社においては,従業員に,SNSへの書き込みがもたらす影響の重大性を改めて理解させる必要があります。

    具体的には,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けることに加え,
    従業員に対し,SNSへの書き込みに関する研修を行ったり,
    従業員との間でSNSへの書き込みに関する誓約書を取り交わしたり,
    SNSへの書き込みに関する社内のガイドラインを定め,同ガイドラインを従業員に周知すること
    が挙げられます。

    2 従業員が会社に関する不適切な書き込みを行い,会社に不利益をもたらした場合,まず,検討される責任追及手段としては,懲戒処分の実施が挙げられます。

    なお,懲戒処分の根拠として,就業規則において,SNSへの不適切な書き込みが懲戒事由として定められていることを要するため,事前の対策として,就業規則にSNSへの不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けておくことが意味を持ちます。

    もっとも,就業規則においてSNSへの不適切な書き込みが懲戒事由となることを定めたからといって,直ちに,懲戒処分が全て有効になるわけではなく,当該行為が企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有するかなどを勘案しながら,慎重に懲戒処分の実施を検討する必要があることには留意しなければなりません(最判昭和58年9月8日判例時報1094号121頁参照)。

    そして,書き込み内容が悪質な事案においては,懲戒処分に加え,民事上の責任追及として不法行為に基づく損害賠償請求,刑事上の責任追及として名誉毀損罪や威力業務妨害罪で刑事告訴をするといったことも検討に値します。

    なお,SNSの書き込みは自主的に削除することが容易なものですので,従業員に削除されてしまうと書き込みがなされていたという証拠が消滅する危険があります。

    そのため,従業員による不適切な書き込みを発見した際には,直ちに,当該書き込みをプリントアウトするように心がけてください。

    3 なお,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止したり,従業員に対して,SNS利用に関するガイドラインを交付したりしたとしても,上司からのパワハラや過度の残業等に関する告発的な書き込みを阻止することは難しく,また,そのような場合においては,書き込みが必ずしも違法とはされないこともあります。

    他人の名誉,信用と表現の自由のバランスの中で,告発行為の正当性,相当性が問われる場面です。

    この点,告発的に書き込まれた内容につき,会社に社会的批判を招来すれば,上記1で問題となる従業員の不適切な書き込みによる影響以上に,ブランドイメージが低下し,ひいては,商品・役務の不買運動にも発展する可能性があり,重大な損失をもたらしかねません(弁護士田島正広代表編著『リスクマネジメントとしての内部統制通報制度』17頁(税務経理協会,初版,2015年))。

    このような事態に対処するには,企業倫理違反行為に関する情報を社内に留保し,適切な対応を行うという自浄作用を発揮することを目的として,会社に内部通報窓口を設けることが極めて重要な意義を有するものといえます。

    以上のように,紛争の予防,事後対応について解説を行いましたが,
    紛争の予防の場面においては,就業規則やガイドラインの定め方,誓約書の作成,
    事後対応の場面においては,懲戒処分の実施の可否,刑事告訴等,法律的な判断が必要になってきますし,
    内部窓口の設置についても,専門家の助力があればより実効的な対応ができるものといえます。

    上記のような事案でお困りの際には,お気軽に当事務所まで,ご相談ください。


    田島総合法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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  • 2015/05/22 労働問題 「社員のミスと損害賠償請求について」(田島総合法律事務所)

    社員のミスと損害賠償請求について

    Q 会社の従業員が業務としてクレーン車を運転中に,手元を狂わせたことにより,現場付近にいた通行人にぶつけてしまい,会社が当該被害者への治療費等を支出し,多大な損害を被りました。
    会社としては,この従業員に対して責任を追及し,会社の被った損害の賠償請求をしようと思っていますが,可能でしょうか。

    A 新年度を迎えて1か月が経過しました。新たに加わった新入社員に対して,指導や研修を重ねている会社も少なくないのではないでしょうか。 

    さて,今回は,会社の従業員が,業務中に故意または過失により会社に損害を発生させた場合に,会社は当該従業員に対してその損害の賠償を請求することができるかどうか,という問題です。

    この問題を法律的に整理すると,使用者たる会社には,次の請求権が発生すると考えることができそうです。

    ① 労働者の行為が,労働契約上の労務提供義務やこれに付随する義務に反するものである場合には「債務不履行」に該当し,使用者は債務不履行に基づく損害賠償請求権を取得する(民法415条)。

    ② 労働者の行為が,「不法行為」に該当するようであれば,使用者は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得する(民法709条)。一方で,会社は,労働者を使用することによって利益を得ているのであるから,労働者を使用することによって発生した損失も負担すべきであるという「報償責任」の考え方からすると,業務上の損害を発生させた行為の「全責任」を労働者に負わせることは適当とは言えません。

    また,労働者は使用者の指揮命令に従って業務に従事していること,労働者によるミスはもとより業務に内在するものであることなどからも,労働者が業務を遂行する上で生じた損害を使用者も分担することが公平の観点から望ましいと考えられます。

    使用者による労働者に対する損害賠償請求に関する問題については,茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日)が判断を示しています。

    最高裁は,「使用者がその事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態度,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」と判示し,いわゆる「労働者の過失による損害賠償に関する責任制限の法理」を示しました。

    上記判例の後,下級審において,そもそも従業員に対する損害賠償が可能かどうか,可能である場合にその損害の負担割合はどの程度とするかについて,上記判例法理に従い,判断されるようになっています。 

    本件の場合,詳細な事情が不明であるため,賠償請求が可能かどうかは一義的に判断できるものではありませんが,「手元を狂わせた」という過失が極めて軽微なものと認められる場合には,当該社員の会社に対する債務不履行や不法行為の成立が認められないケースもあり得るでしょう。

    また,クレーン車を運転するという行為には,相応の危険が内在するものであると言えます。

    業務に内在するリスクの発現可能性が高いにもかかわらず,使用者が事前に何らの予防措置も講じていなかったような場合においても,債務不履行や不法行為の成立が認められないこともあると考えられます。 

    また,債務不履行や不法行為が成立する場合であっても,労働者の過失の程度や業務に内在する危険の程度,使用者側の管理体制等に鑑み,ある程度賠償額が圧縮されることが予想されます。 

    なお,余談ですが,使用者が労働者に対して,債務不履行や不法行為に基づき損害賠償請求権を有している場合であっても,これを自働債権とし,賃金債権を受働債権として,労働者の意思にかかわらず使用者側から一方的に相殺することは,賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に反し,許されませんので,ご留意ください。

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  • 2014/06/06 知的財産 「特許権実施の際の事業活動分野の制限と不公正な取引方法の該当性」(田島正広弁護士)

    特許権実施の際の事業活動分野の制限と不公正な取引方法の該当性

    Q 業界で多くの企業がライセンスを受けているある特許の通常実施権の設定を受けるため交渉中ですが,先方提案としては事業活動を行う分野を厳しく制限しており,実質的に当社の製品製造のために当該特許を実施することが困難となっています。このような条件は適法なのでしょうか。

    A 当該事業分野の制限が,広く実施されている特許について差別的な取引拒絶と見うる程度に至っておれば,不公正な取引方法として独占禁止法上問題とする余地があります。

    独占禁止法の目的は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益確保と国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあります。これと,発明の保護・実施許諾による利活用による産業育成を図る特許法との関係が問われることになります。

    この点,独占禁止法第21条は,「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」としています。
    公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日制定,平成22年1月1日改正,以下「知財指針」という)によれば,同条の趣旨としては,「技術に権利を有する者が,他の者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は,外形上,権利の行使とみられるが,これらの行為についても,実質的に権利の行使とは評価できない場合は,同じく独占禁止法の規定が適用される。すなわち,これら権利の行使とみられる行為であっても,行為の目的,態様,競争に与える影響の大きさも勘案した上で,事業者に創意工夫を発揮させ,技術の活用を図るという,知的財産制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合は,上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず,独占禁止法が適用される。」としています。すなわち,「権利の行使」に該当するかどうかは,形式的外形的判断によるのではなく,多分に規範的評価を伴う実質判断によることになるのです。

    そして,「ライセンサーがライセンシーに対し,当該技術を利用して事業活動を行うことができる分野(特定の商品の製造等)を制限すること」が独占禁止法の制限する不公正な取引方法に該当するかについては,「原則として不公正な取引方法に該当しない」(知財指針第4-3)とされているものの,次のような場合には例外的に不公正な取引方法に該当するとされます(同指針第4-2)。

    ① 自己の競争者がある技術のライセンスを受けて事業活動を行っていること及び他の技術では代替困難であることを知って,当該技術に係る権利を権利者から取得した上で,当該技術のライセンスを拒絶し当該技術を使わせないようにする行為。

    ② ある技術に権利を有する者が,他の事業者に対して,ライセンスをする際の条件を偽るなどの不当な手段によって,事業活動で自らの技術を用いさせるとともに,当該事業者が,他の技術に切り替えることが困難になった後に,当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為。

    ③ ある技術が,一定の製品市場における事業活動の基盤を提供しており,当該技術に権利を有する者からライセンスを受けて,多数の事業者が当該製品市場で事業活動を行っている場合に,これらの事業者の一部に対して,合理的な理由なく,差別的にライセンスを拒絶する行為。

    本件では,③に該当する段階に至っておれば,不公正な取引方法に該当することになります。

    田島総合法律事務所
    弁護士 田島正広


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  • 2014/05/23 企業経営 「顧問弁護士を社外取締役に選任することの可否~会社法,東証独立性基準に照らして」(田島正広弁護士)

    顧問弁護士を社外取締役に選任することの可否~会社法,東証独立性基準に照らして

    Q 東京証券取引所に上場している当社は,社外取締役を顧問弁護士に依頼しようと思いますが,問題はありますか。

    A 顧問弁護士が社外性の要件を満たすかは必ずしも明確ではありませんが,実務上就任事例が散見されるに至っています。その際,顧問弁護士がこれまで受けていた報酬の金額次第では,東証の独立性基準に抵触する可能性があるので留意する必要があります。

    1 会社法上の社外取締役の要件

    2014年改正会社法は企業統治のあり方を見直すと共に,社外取締役・社外監査役の要件を改めて,独立性に疑問のある場合を排除する一方,時間の経過による例外を定めています。本問と関連するのは,会社の使用人に関する制限です。すなわち,会社法が必要条件として求める社外取締役の要件には次の条項が挙げられています(会社法2条15号から抜粋。要約は筆者)。

    イ 現在も含め就任前10年内に,当該会社,子会社の業務執行取締役,執行役又は支配人その他の使用人に就任したことがないこと。

    ハ 当該会社の自然人たる支配株主,又は親会社の取締役,執行役,支配人その他の使用人でないこと。

    この点,従前兼任の可否の問題は,顧問弁護士の社外監査役への選任の可否について主として議論されてきました。すなわち,監査役の独立性を求める会社法335条2項が兼任を禁止する「使用人」に顧問弁護士が該当するか,弁護士の職務の独立性,営利性の両面に照らし,これが従業員と同視されるべきかの問題です。

    本問の社外取締役に求められるのが独立的立場からの企業統治,業務執行に関する監督であることに照らせば,監査役と社外取締役とで独立性に関する議論に大きな相違があるとも思えません。会社法においても社外監査役と社外取締役の要件において,使用人の兼任制限に特段の相違は設けられていません。

    この点,会社法335条2項の「使用人」論については,従来法務省は,民事局4課の回答で,顧問弁護士も旧276条(会社法335条2項に相当)の「使用人」に該当すると解しており,「会社の顧問弁護士である者をその会社の監査役に選任する場合には,監査役就任の承諾を得る際に,顧問契約を解除しておくのが相当である」としていました。

    これに対して,日弁連は,会社の顧問弁護士は独立した業務をしており,使用人ではなく,顧問弁護士が当該会社の監査役を兼任することは旧商法276条には抵触しない,ただし兼任することの妥当性については慎重に配慮せよとの立場をとってきました。日弁連の見解は,顧問弁護士は独立した業務であり,会社ないし経営陣に対する従属関係にはないことを基準として考えていて,弁護士倫理18条の「自由かつ独立した立場」とも関わっているとされます(以上,公益財団法人日弁連法務研究財団・「コーポレート・ガバナンスと法律業務」1 家近正直弁護士(大阪弁護士会会員)講演録参照)。

    最高裁は,監査役である弁護士がその会社の訴訟代理人となることは容認しており(最判昭和61年2月18日民集40巻1号32頁),個別事件の訴訟代理人と顧問弁護士との間で独立性・従属性に違いがあるとも思えないことに照らせば,顧問弁護士の兼任についても容認されるべきようにも思えるところです。

    これらに鑑みて,私としては,弁護士業務の独立性に力点を置く日弁連の見解に魅力と自負心を感じる訳ですが,ただし,法務省の上記認識を前提とする限り,顧問弁護士の使用人性を正面から否定できるかどうかについて法的リスクが全くないとまでは言い難く,とすれば,顧問弁護士を社外取締役に選任した場合に,社外性が認められないことを理由とする責任や手続的瑕疵がなお懸念される余地が残ることにもなります。

    例えば,選任に関わる経営陣の善管注意義務違反,登記上の問題,社外取締役の責任限定契約の無効等の問題等です。特に,会社の唯一の社外取締役が顧問弁護士だったとなると,監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社であれば,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示が必要だったことになり(会社法327条),手続的瑕疵の余地を残すことにもなります。


    なお,この点について法務省は,現段階としては特段の見解を示してはいません。また,社団法人日本監査役協会監査法規委員会は,会社法が顧問弁護士の社外監査役就任を特に制限していないことを前提にして,後述の独立性基準を満たしておればその選任に問題はないとのスタンスを示していますhttp://www.kansa.or.jp/support/el001_100301.pdf)。

    実際に実務上も,収受している顧問料が後述の独立性を害する程高額ではないことを開示して顧問弁護士を独立役員に任用する旨のIR情報が散見されるに至っている状況です。

    こうした実例の集積により,これらの任用判断に関する実務の方向性も社外性を容認する方向性へと固まっていくことが期待され,そうなれば上記手続的瑕疵の懸念も杞憂となっていくように思われます。

    2 東京証券取引所における独立性基準

    一方,東京証券取引所においては,経営陣と一般株主との利益相反問題に関し,一般株主保護の観点から,経営陣から独立した役員を確保することを目的として,独立役員(社外取締役・社外監査役)の確保に係る企業行動規範が導入されています。

    そこでは,上場内国株券発行者は,社外取締役または社外監査役を1名以上確保することが義務付けられており(上場規程436条の2),また,社外取締役の確保に関する努力義務もある他(同445条の4),独立役員届出書の提出が義務付けられています(同436条の2)。

    ここでいう独立性の基準のうち,本問と関係する条項は,次の通りです(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)。

    c 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント,会計専門家又は法律専門家

    d 最近においてaから前cまでに該当していた者
    ここでは,使用人という立て付けではなく,むしろ「役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ている」かどうかという実質基準が定められており,かつ,独立性基準に抵触しない場合であっても、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」とはいえない場合には,独立役員の要件を満たさないとされています。

    顧問弁護士が,実際に一般株主と利益相反を生じる事態はあまり考えられませんが,役員報酬以外に多額の報酬を得ることはむしろ想定され得ることです。ここでは,多額とはいくらかが問われることになりますが,金額の多寡は独立性基準において,一般株主から見た時に利益相反を生じる虞を感じさせる事情の判断材料と位置付けられているように思われます。それは,多分に事案毎の判断になるだけに,一定程度高額に及ぶ場合には,前項同様社外取締役選任についてリスクが懸念される場合が否定しきれないように思われます。

    なお,結果として,社外監査役を含め独立役員が不在ということになれば,企業行動規範に違反したものとして,状況次第で,公表措置,上場契約違約金の徴求,改善報告書・改善状況報告書の徴求,特設注意市場銘柄への指定など所定の措置を講じられることがあり得るところとなります。

    3 まとめ

    これらに照らすと,顧問弁護士を顧問契約を維持したまま社外取締役に選任することについては,会社法上は実例の集積の中でその社外性への懸念が否定される実務的運用が確立することが期待される段階といえるでしょう。また,独立性基準上は,顧問弁護士としての報酬額が相当程度高額に渡らないよう自粛することが,リスクを軽減するための確実な方法と言わざるを得ないこととなります。本来会社法の「使用人」概念について,よりきめ細かく独立性を阻害する要因を法律ないし省令で具体化すべきであり,また,独立性基準上も「多額」性について具体的な運用基準を明確化すべきところと思われますが,それが実現していない現状においては,上記リスクと実務の展開を踏まえて,漸進的な対応を取るのがこの問題に対する適切な対応であるように思います。
    (2016年7月改訂)

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 田島 正広


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