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> 2015/07/06 労働問題

改正労働基準法(案)について

Q
近々,年次有給休暇に関するルールを改正し,従業員への年次有給休暇の取得を義務化することが議論されていると聞きました。
具体的にどのように変わる予定なのか教えてください。


A
平成27年4月3日,労働基準法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。

この法律案を提出する理由は,「長期間労働を抑制するとともに,労働者が,その健康を確保しつつ,創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため,年次有給休暇に係る時季指定の使用者への義務付け,高度な専門的知識等を要する業務に就き,かつ,一定額以上の年収を有する労働者に適用される労働時間制度の創設等の所要の措置を講ずる必要がある」と説明されています。

年次有給休暇の取得に関する法改正の内容としては,上記理由にもあるように,年次有給休暇に係る時季指定を使用者に義務付けることにあります。

具体的にいうと,法案では,使用者は,10日以上の年次有給休暇を付与する労働者に対して,1年に5日について年次有給休暇の時季を指定して与えることが義務付けられる,としています。

ただし,労働者が時季指定した日数や計画的に付与した日数がある場合には,その日数を年5日から差し引いた日数を時季指定すれば足り,その日数が年5日以上の場合には,使用者は年次有給休暇の時季指定の義務を免れます。

法案では,罰則規定も設けており,違反した者は,30万円の罰金に処せられることとされています。この改正によって,積極的な年休取得の進まない現状が改善され,最低でも年5日の年次有給休暇の取得を確実にする仕組みができることとなります。

本法案では,年次有給休暇に関する上記改正のほかにも,次のような改正が提案されています。

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
 →月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について,中小企業への猶予措置を廃止する。

著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
 →労働基準監督官による時間外労働に係る助言指導に当たり,「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。

企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正)
 →企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組みを促進するため,企業全体を通じて一つの労働時間等設定改善委員会の決議をもって,年次有給休暇の計画的付与等に係る事業場ごとの労使協定に代えることができることとする。

フレックスタイム制の見直し
 →フレックスタイム制における割増賃金の計算対象となる「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

企画業務型裁量労働制の見直し
 →企画業務型裁量労働制の対象業務としては,現行法上「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査および分析の業務」に限定されているところ,「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに,対象者の健康確保措置の充実や手続きの簡素化等の見直しを行う。

特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
 →職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1000万円以上)を有する労働者が,高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に,健康確保措置等を講じること,本人の同意や委員会の決議等を要件として,労働時間,休日,深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
 また,制度の対象者について,在社時間等が一定時間を超える場合には,事業者は,その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(労働安全衛生法の改正)

本コラム執筆時においては,この法律案は衆議院で審議中の状況ですが,この法案が成立した場合には,平成28年4月1日(①については平成31年4月1日)からの施行が予定されています。

田島・寺西・遠藤法律事務所


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