コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2017/04/04 商取引 強制執行と銀行口座の調査について(進藤亮弁護士)

    強制執行と銀行口座の調査について

    【Question】
     民事訴訟で「被告は原告に対して●万円を支払え」という勝訴判決を勝ち取り,その判決は確定したのですが,相手方が判決に従った支払いをしてくれません。

     相手方は預貯金を蓄えているように思えるため,相手方の預貯金に対して強制執行することを検討しているのですが,相手方がどこの金融機関に口座を保有しているか全くわからない状態にあります。
     相手方が保有している預貯金口座を調査する手立てはないでしょうか。

    【Answer】
     弁護士会照会制度を利用することにより,以下の金融機関から「預金口座の有無」,「支店名」,「口座科目」,「預金残高(回答日時点)」の情報を得られる可能性があります(2017年4月1日時点)。
    ・ 三井住友銀行
    ・ みずほ銀行
    ・ 三菱東京UFJ銀行
    ・ ゆうちょ銀行

     なお,上記以外の金融機関については,照会への回答に口座名義人の同意が必要とされる場合が多く,その場合,「口座名義人の承諾がない場合は回答できない」という旨の回答がなされることになります。それゆえ,口座情報を得られる可能性は低いと言えます。

    【解説】
     弁護士会照会制度は,弁護士法第23条の2に規定された法律上の制度です。弁護士が受任した事件について証拠等を収集し,事実を調査するなど,その職務活動を円滑に処理するための手段として,法律上認められたものです。
     弁護士会が「照会権」を有しており,個々の弁護士は弁護士会に対する「照会申出権」を有しています。事実の調査等のため,弁護士が弁護士会に対して照会申し出をすると,弁護士会から照会先に必要な事項の報告を求め,照会先から弁護士会に回答がなされます。照会申し出をした弁護士は,弁護士会を経由して照会先からの回答を得ることになります。

     従前は,金融機関の多くが,弁護士照会への回答をするにあたっては口座名義人の同意を要求し,これがない場合には照会事項に回答しないという運用をしていました。
     しかしながら,今般,三井住友銀行及びみずほ銀行においては,判決や和解調書等の債務名義があるケースにおいて,債権差押えの準備のための預金残高の全店照会に応じる運用が開始されました。また,三菱東京UFJ銀行やゆうちょ銀行においても,近時の傾向として,同様のケースでの債権差押えの準備のための弁護士会照会に対して,協力的な運用をするようになっています(2017年4月1日時点)。

     勝訴判決を獲得後に預金債権の差押えをするにあたっては,金融機関名と取扱い支店名まで特定する必要があり,支店名まで特定されていない場合には差押債権の特定を欠くとして,債権差押え申立は不適法として却下されてしまいます。それゆえ,勝訴判決などの債務名義を得ても,口座情報を十分に調査できないことから,差押の対象となる債権が特定できないとして差し押さえることができず,勝訴判決が「絵に描いた餅」となっていたケースが散見されました。
     今般,一部の金融機関とはいえ三大メガバンクとゆうちょ銀行が,債権差押えの準備のための弁護士会照会に応じる運用を取るようになったことは,勝訴当事者による債権差押えの可能性を開き,権利の実現の一助になると言えるでしょう。

     ちなみに,弁護士会照会の1件当たりの費用(東京弁護士会に支払うべき費用・手数料※)は,8344円です(手数料7560円,郵便料784円。2017年3月16日現在)。また,法律扶助事件(法テラス利用の事件)の場合には,手数料7560円が免除され,郵便料784円のみの負担で利用することができます(2017年3月16日現在)。
    (※上記金額は弁護士会照会のための実費であり,調査等を受任した弁護士に対する弁護士報酬とは異なります。)

     なお,確定判決によって確定した権利については,消滅するまでの時効期間は10年とされています(民法174条の2第1項)。
     過去に勝訴判決を得ながら,預貯金口座の特定の問題等で強制執行ができずにいた方は,時効により権利が消滅する前に,弁護士会照会により預貯金の有無等を調査されることを検討する価値はあるのではないかと思料します。

    弁護士 進藤 亮

                     


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  • 2016/09/21 商取引 インサイダー取引規制の適用除外(知る前契約・計画)について(西川文彬弁護士)

    インサイダー取引規制の適用除外(知る前契約・計画)について

    Q 平成27年9月の有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正により,インサイダー取引規制の適用除外となる「知る前契約・計画」の範囲が拡大されたと聞きました。新しく設けられた制度の内容について教えてください。


    A  知る前契約・計画とは,会社関係者等が,未公表の重要事実を知る前に,売買の予定等の必要事項を記載した契約・計画を作成する等の手続を履践することで,その後,重要事実を知ることになっても予定通り売買が可能となる制度です。

    従前は,知る前契約・計画であっても,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下,「取引規制府令」といいます。)の個別列挙に定める類型に当てはまらないものについてはインサイダー取引規制の適用除外(金融商品取引法166条6項12号)となりませんでしたが,平成27年9月の改正により包括的な適用除外の規定(取引規制府令59条1項14号)が追加されました。

    包括的な適用除外の要件の概要は,以下のとおりであり,その全てを充足する場合にインサイダー取引規制の適用が除外されます。

    ①未公表の重要事実を「知る前」に締結・決定された契約・計画に基づく売買であること

    ②未公表の重要事実を「知る前」に,かかる契約・計画の写しを証券会社に提出する等したこと

    ③当該契約・計画の中で,売買の具体的内容(期日,期日ごとの売買の数量又は総額)が定められているか,又は裁量の余地がない方式により決定されること

    1 知る前契約・計画とは

    ~以下,金融商品取引法166条6項12号を引用~

     上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に締結された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等に関する契約の履行又は上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に決定された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等の計画の実行として売買等をする場合その他これに準ずる特別の事情に基づく売買等であることが明らかな売買等をする場合(内閣府令で定める場合に限る。)

    ~引用終了~

     未公表の重要事実を知る前に売買の決定がされている場合においては,会社関係者等と一般投資家との間に情報面の格差がなく,規制する必要がないと考えられるため,平成27年9月の内閣府令の改正により,後記2のとおり,適用除外に関する包括規定が新設され,その適用範囲が拡大されました。


    2 知る前契約・計画の要件

    (1)改正により新設された内容(注:下線引用者)

    ~以下,取引規制府令59条1項14号を引用~

    前各号に掲げる場合のほか次に掲げる要件の全てに該当する場合

    イ 業務等に関する重要事実を知る前に締結された特定有価証券等に係る売買等に関する書面による契約の履行又は業務等に関する重要事実を知る前に決定された特定有価証券等に係る売買等の書面による計画の実行として売買等を行うこと。

    ロ 業務等に関する重要事実を知る前に,次に掲げるいずれかの措置が講じられたこと。

    1) 当該契約又は計画の写しが,金融商品取引業者(法第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業(有価証券関連業に該当するものに限り,法第二十九条の四の二第十項に規定する第一種少額電子募集取扱業務のみを行うものを除く。)を行う者に限る。(2)並びに第六十三条第一項第十四号ロ(1)及び(2)において同じ。)に対して提出され,当該提出の日付について当該金融商品取引業者による確認を受けたこと(当該金融商品取引業者が当該契約を締結した相手方又は当該計画を共同して決定した者である場合を除く。)。  

    2) 当該契約又は計画に確定日付が付されたこと(金融商品取引業者が当該契約を締結した者又は当該計画を決定した者である場合に限る。)。

    3) 当該契約又は計画が法第百六十六条第四項に定める公表の措置に準じ公衆の縦覧に供されたこと。

    ハ 当該契約の履行又は当該計画の実行として行う売買等につき,売買等の別,銘柄及び期日並びに当該期日における売買等の総額又は数(デリバティブ取引にあっては,これらに相当する事項)が,当該契約若しくは計画において特定されていること,又は当該契約若しくは計画においてあらかじめ定められた裁量の余地がない方式により決定されること。

    ~引用終了~

    (2)各要件について 

    ア 「知る前」の意義   

      「売買等を行う時点において知っている未公表の重要事実を知る前」を意味すると考えられています(金融庁・証券取引等監視委員会「イン  サイダー取引に関するQ&A問5」)。

      すなわち,売買の計画段階において,未公表の重要事実Aを知っている場合,Aが公表された後において売買することを計画して,証券会社に計画書の写しを提出するなどしておけば,その間に,未公表の重要事実Bを知ったとしても,Aが公表又は中止されていれば,Bの公表前に当初の計画に基づいて売買を実行できることになります。

    イ 「として(契約・計画に基づく売買)」の意義

      契約の履行又は計画の実行として売買を行う必要があり,契約・計画された売買の恣意的な一部実行や一部中止は認められないと考えら れます。なお,契約・計画を中止・撤回して売買をしないことは原則として認められるとされています。

    ウ 証券会社(金融商品取引業者)への提出等の意義

      未公表の重要事実を知った後に契約書や計画書がねつ造されることを防止するために設けられたものになります。

      なお,証券会社においては,提出日を確認するだけで,それ以上に内容を確認すること等は求められていません。

    エ 「期日」の意義

      複数の日でも構いませんが,裁量の余地があるような定め方は認められません。

      すなわち,「●●年●●月●●日」や「●●年●●月●●日以降,東京証券取引所における終値が初めて●円を超えた日の翌営業日」等という定めは認められますが,「●●年●●月●●日まで」や「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日までの間」という定めは認められません。なお,「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日まで毎営業日100株」などという期日ごとの定めがある場合には裁量の余地がなく認められます。オ 「期日ごとの数量又は総額」の意義  期日ごとに数量又は総額を定める必要があります。すなわち,特定の日(1日)における「総額●●円」,「●●株」という定めは認められますが,「1000株以上1万株以下」や「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日まで総額1億円」という定めは認められません。


     これまでは,会社関係者等が未公表の重要事実Aを知っている場合,Aが公表された後において売買しようとしても,その間に未公表の重要事実Bを知ってしまうことで,売買の機会が失われることがありましたが,上記改正は,これまで困難であった自社株売買の機会の確保を図るものになります。

    弁護士 西川 文彬


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  • 2015/12/18 商取引 集合動産譲渡担保契約について(進藤亮弁護士)

    集合動産譲渡担保契約について

    Q. A社と取引を行う予定なのですが,取引によって生じる債権の額からして,無担保とするのは不安です。A社の所有する不動産には既に担保権が設定されており,また,保証人を付けることも難しそうである一方,A社の倉庫にはA社の仕掛品や在庫商品が保管されているので,これらの物品を担保に取ろうかと考えています。・・・・

    Q.
     A社と取引を行う予定なのですが,取引によって生じる債権の額からして,無担保とするのは不安です。
     A社の所有する不動産には既に担保権が設定されており,また,保証人を付けることも難しそうである一方,A社の倉庫にはA社の仕掛品や在庫商品が保管されているので,これらの物品を担保に取ろうかと考えています。
     すなわち,A社の倉庫内の複数の動産に譲渡担保権を設定しようと思うのですが,その場合における注意点などを教えてください。

    A. 
     集合動産譲渡担保権の設定においては, 

     ① 譲渡担保権の目的となる動産について他の担保権が設定されていないかなど権利関係を確認すること 
     ② 目的動産をきちんと特定すること
     ③ 譲渡担保権の対抗要件を具備すること

    等に留意する必要があります。 

     また,集合動産譲渡担保権設定契約書において,目的動産が集合動産譲渡担保の目的であることを明示すべきこと,目的動産について損害保険に付すること,目的動産の数量や管理状況を把握できるようにしておくこと,債務不履行時に目的動産の現実の引渡しが受けられるようにしておくことなどを定めておくことが肝要です。 
     以下,解説します。

    ●集合動産譲渡担保について 
     
     債権を保全するために,取引の相手方が倉庫等で保有している仕掛品や在庫商品といった複数の動産の集合物をまとめて譲渡担保権の目的にすることが認められており,そのような担保は「集合動産譲渡担保」と呼ばれています。 
     この集合動産譲渡担保が設定されると,譲渡担保権設定者(本件でいうA社)は,担保権実行までは「通常の営業の範囲内」であれば,担保の目的となっている集合動産のうちの個々の動産を自由に処分することができますが,個々の動産を処分した場合にはそれに見合うだけの動産を補充しなければなりません。そして,補充された個々の動産は,集合物に加わった時点で譲渡担保の対象となります。また,通常の営業の範囲を超えるような処分や担保権の設定は認められません。

    ●目的動産の権利関係の確認 

     集合動産譲渡担保を設定するに先立って,まず目的となる集合動産の権利関係を確認することが不可欠です。 
     動産は,質権や譲渡担保権,所有権留保,留置権,先取特権などの担保権が競合していることがあり,競合する権利の内容や対抗要件具備の先後によって,せっかく設定した集合動産譲渡担保が他の権利に劣後してしまい,結果として債権の回収可能性が低くなる事態に陥るリスクがあります。それゆえ,集合動産譲渡担保の目的たる集合動産について,自己に優先する第三者の権利が存在しないか,慎重に調査する必要があります。 

     なお,集合動産譲渡担保契約書において,これから設定しようとする譲渡担保権を阻害し得る事由や第三者の権利が存在しないことの表明保証に関する条項を置くことも望ましいでしょう。

    ●目的動産の特定 

     集合動産譲渡担保を設定するためには,担保の目的動産を特定することが要件として求められ,譲渡担保権設定者の一般財産から区別するに足りる程度に特定される必要があります。 
     この点,判例は,「構成部分の変動する集合動産であっても,その種類,所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によって目的物の範囲が特定される場合には,一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができる」としています(最判S62.11.10)。

    ●集合動産譲渡担保の対抗要件 

     動産譲渡担保の対抗要件は「引渡し」であるところ,集合動産譲渡担保は,担保権設定後も担保の目的動産を担保権設定者が利用できることにメリットがあることから,ここでいう「引渡し」は,目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す「占有改定(民法183条)」の方法によって行われることになります。 

     なお,譲渡担保設定者(本件でいうA社)が法人である場合には,「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下,「特例法」といいます。」に基づく動産譲渡登記を行うことにより,民法178条の「引渡し」に代わる対抗要件を具備することもできます(特例法3条1項)。 
     この特例法に基づく登記と民法178条の引渡しが競合した場合,登記の時期と引渡しの時期の先後によって譲渡担保権の優劣が決せられるところ,対抗要件具備の時の証明が容易となることが特例法の登記制度を利用するメリットと言えます。

    ●その他

    ・明認方法 
     譲渡担保の目的となっている集合動産について,その保管場所において,当該集合動産が譲渡担保の目的となっていることを明示するよう譲渡担保権設定者(本件でいうA社)に義務付けておくことにより,第三者による譲渡担保権の競合などを防止することができ,後の紛争予防効果を期待することができます。

    ・損害保険 
     譲渡担保の目的となっている集合動産について,損害保険を付するものとし,保険事故が発生し,譲渡担保権設定者が保険金を受領した場合には,受領した保険金を被担保債権の弁済に充当する旨を定めておくことにより,万一,集合動産が滅失したとしても保険金から債権回収を図ることが望めます。

    ・目的動産の数量,管理状況の報告 
     譲渡担保権者は自己の手元に集合動産を置くわけではないため,譲渡担保の目的たる集合動産の価値や状況等を把握するため,譲渡担保権設定者に目的動産の数量や管理状況の報告を義務付けておくことが肝要です。

    ・不履行時の目的動産の現実の引渡し  
     被担保債権が履行されない場合に譲渡担保権の実行に速やかに移行できるようにするため,債務不履行があった場合には,譲渡担保権者が目的動産について現実の引渡しを受け,直接占有を得られるよう定めておくことが望ましいでしょう。

    弁護士 進藤 亮


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  • 2015/11/06 商取引 事業投資有限責任組合における無権代理行為の追認(田島・寺西法律事務所)

    事業投資有限責任組合における無権代理行為の追認

    Q 当社はとある投資事業有限責任組合の有限責任組合員ですが,無限責任組合員が組合契約で定めた事業範囲を逸脱して業務執行を行ったことを知りました。もっとも,当該行為は上記組合にとって利益となる行為だったので有効としたいのですが,何か方法はありますか。


    A 投資事業有限責任組合法第3条1項に掲げる事業の範囲内である場合に限り,有限責任組合員全員で「追認」をすることができます。

    1 投資事業有限責任組合について

     投資事業有限責任組合(Limited Partnership 以下,「LPS」といいます)とは,投資事業有限責任組合契約(各当事者が出資を行い,共同で一定の事業の全部又は一部を営む契約)によって成立する無限責任組合員及び有限責任組合員からなる組合を指します(投資事業有限責任組合契約に関する法律2条及び3条 以下「LPS法」といいます)。

     LPSは,民法上の組合(民法667条1項)を基本としながらも,管理者たる無限責任組合員以外の組合員の責任を有限とすることを法的に認める仕組みが採用されており,民法上の組合に比べて投資家が出資に踏み切り易いようになっています。

     もっともその反面,LPSでは,組合員(無限責任組合員であると有限責任組合員であると問わない)の出資を「金銭その他の財産」に限定しています(LPS法6条2項)。民法上の組合と異なり,労務出資が認められていないのです。その理由は,出資を具体的に債務の引き当てになりうるものに限定して,組合と取引関係に入る第三者の保護の観点から,組合の責任財産の充実をはかることにあります。

     LPSでは,投資対象が制限されており,具体的にはLPS法3条1項に列挙されているものに限られます(1号から7号までは投資等資金の供給に関する事業,8号はコンサルティング事業,9号は他の投資組合向けの出資,10号は1号から9号までの事業に付随する事業,11号は外国法人への投資,12号は余裕金の運用)。これらの事業の全部又は一部を営むことを約することで(またそれを含めた絶対的記載事項等を組合契約書に記載することで),LPS法上の契約ということができることになります。

     LPSは無限責任組合員及び有限責任組合員からなることが必要とされているため,無限責任組合員又は有限責任組合員の全員の脱退が,組合の解散事由として定められています(LPS法13条2号)。

    2 無限責任組合員による業務執行

     LPSにおいては,業務執行は無限責任組合員がこれに当たることになります。民法上の組合同様,無限責任組合員は自己の名(○○投資事業有限責任組合 無限責任組合員 甲)で組合のために法律行為をすることができます。LPSは法人格を有しないため,無限責任組合員は,法人の機関としてではなく組合員全員の代理人的地位において業務を執行することとなるのです。なお,民法の委任の規定が準用されており,無限責任組合員は組合の業務を行う上で善管注意義務を負うことになります(LPS法16条)。

     無限責任組合員が複数存在する場合は,組合の業務の執行はその過半数をもって決します。LPS法上,業務執行組合員を定めるための規定は存在せず,LPS法17条において義務付けられている,組合契約の効力の発生の登記事項に業務執行権者が含まれておらず,さらには上記した組合契約書における絶対的記載事項にも業務執行権者が含まれていないことから,無限責任組合員は例外なく全員業務執行に携わらなくてはならず,LPS法7条1項の解釈として組合契約によって一切の業務執行権のない無限責任組合員を定めることはできません。

    3 無権代理行為の追認の可否

     本件においては,無限責任組合員の業務執行としての行為が組合契約において設けた組合の事業の範囲を逸脱しており,当該行為は法的には無権代理行為ということになります。民法上は無権代理行為は本人の追認があれば有効な代理行為とすることができますが(民法第 113 条第 1 項),本件の場合においても追認が可能であるか,LPS法7条4項との関係で問題となります。

     同項は,「無限責任組合員が第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合は,組合員は,これを追認することができない」と規定するところ,LPS法においては,LPS法の目的及び組合の事業範囲を法律上定めた趣旨に鑑み,法律上で定められた事業の範囲を逸脱した法律行為については追認を認めず,組合との関係では確定的に無効な行為(無限責任組合員による無権代理行為)とするものです(逐条解説48頁)。

     もっとも,第 3 条第 1 項各号に規定する範囲よりもさらに事業範囲を限定した場合も,契約で定めた事業範囲を超えた行為は全て無権代理行為となりますが,当該行為が法律上の事業範囲を逸脱したものでなければ,追認によりその効果を有効に組合に帰属させることができます。

     以上の通りであるので,無限責任組合員による行為が組合契約で定めた事業の範囲を逸脱しているとして,それが3条1項各号に規定する範囲内か否かによって,追認の可否が異なることになります。

     なお,3条1項各号の範囲外の行為であった場合,追認は認められないことになりますが,当該行為の相手方は,当該行為を行った無限責任組合員に対し,民法第 117条にしたがって無権代理についての責任追及をすることが可能です。


    田島・寺西法律事務所


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  • 2015/10/13 商取引 インサイダー取引規制~ストックオプションの行使について~(西川文彬弁護士)

    インサイダー取引規制~ストックオプションの行使について~

    Q 私は,上場会社の従業員ですが,会社から付与されたストックオプションを行使することを考えております。もっとも,私は,会社が他社との業務提携を決定したという未公表の情報を知っておりますので,ストックオプションの行使はインサイダー取引規制に反することになるのでしょうか。また,私がストックオプションを行使して得た株式を売却することは許されるのでしょうか。


    A ストックオプションとして付与された新株予約権を行使して株式を取得することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当するので,未公表の重要事実を知っていても,ストックオプションを行使して株式を取得することは可能です。
     もっとも,ストックオプションの行使によって得た株式を売却することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当しません。そのため,未だ公表されていない業務提携の決定(軽微基準に該当する場合を除きます。)という重要事実の決定をご存じであれば,株式を取得しても,当該事実が公表されるまでは売却することが許されません。


    1 インサイダー取引規制の概要

     インサイダー取引規制としては,会社関係者等によるインサイダー取引(金融商品取引法(以下,「法」といいます。)166条),公開買付関係者等によるインサイダー取引(法167条)に分けられます。 
     
     また,インサイダー取引を未然に防止する規制としては,上場会社等の役員及び主要株主に対する売買報告書提出義務(法163条),短期売買差益の提供義務(法164条),空売りの禁止(法165条)等が挙げられます。

     設例は,会社従業員による相談ですので,以下,会社関係者等によるインサイダー取引について概説いたします。

    2 会社関係者等によるインサイダー取引(法166条)

     会社関係者等によるインサイダー取引とは,

    会社関係者
    (①上場会社・親会社・子会社(子会社にかかる重要事実のみ)の役職員,②会計帳簿閲覧権者,③法令に基づく権限を有する者,④契約締結者・締結交渉中の者,⑤②,④と同一法人のほかの役職員)

    元会社関係者
    (会社関係者でなくなってから1年以内の者)

    情報受領者
    (会社関係者・元会社関係者から重要事実の伝達を受けた者等)

    重要事実の決定・発生後公表前に,職務等に関して(注:情報受領者には「職務等との関連性」は要求されません。)重要事実を知りながら特定有価証券等を売買等することを指します(法166条1項,3項)。

     設例において,会社従業員が職務に関して重要事実の決定を知ったような場合には,会社関係者(法166条1項)として,職務とは関係のない飲み会の席などで重要事実の決定を知った場合には,情報受領者(法166条3項)としてインサイダー取引規制の対象とされる可能性があるといえます。
     
    3 重要事実(法166条2項)

     次に,設例において会社従業員が知っている他社との業務提携の決定という事実が「重要事実」の決定といえるのか検討が必要になります。

     重要事実は,投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報とされており,上場会社等又はその子会社にかかる①決定事実(法166条2項1号,5号,一部軽微基準あり),②発生事実(同項2号,6号,一部軽微基準あり),③決算情報(同号3号,7号,重要基準あり),④バスケット条項(同項4号,8号)が定められています。

     上場会社等にかかる決定事実としては,株式や新株予約権の募集・自己株式の処分,資本金の額の減少,資本準備金又は利益準備金の額の減少,自己株式の取得,株式無償割当て,株式の分割,剰余金の配当,組織再編行為,業務上の提携等が挙げられています(法166条第2項1号)。

     そのため,設例において,他社との業務提携を決定したことを知っているのであれば,原則として,重要事実の決定を知っていることとなります。

     なお,業務提携の決定については,軽微基準(提携から3年以内の各事業年度において提携効果として見込まれる売上増加額が,最近事業年度の売上高に対して10%未満であること等,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49条1項10号)が定められていますので,軽微基準に該当する場合であれば,業務提携の決定を知っていても,インサイダー取引規制の違反とはなりません。

    4 適用除外(法166条6項)

     会社関係者等のインサイダー取引規制には一定の適用除外が定められており,証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保の観点から類型的に規制対象とする必要がないと考えられる取引については,適用除外とされています(法166条6項)。

     適用除外としては,既に有する権利を行使する場合(ストックオプションの行使等),法令に基づく場合(反対株主の株式買取請求等),重要事実を知る前に決定された売買等の計画の実行としての売買等(従業員持株会が株券の買付けを行う場合,株式累積投資制度(るいとう)による買付け等),組織再編がなされるにあたって売買等がされる場合,などが挙げられます。なお,適用除外に関しては,自社株売買に対する過度な制約を解除するため,近時,「知る前契約」「知る前計画」に係るインサイダー取引規制の適用除外に関して「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」が一部改正され,平成27年9月16日から施行されております(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」及び「金融商品取引法等に関する留意事項について」(「金融商品取引法等ガイドライン)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果並びにインサイダー取引規制に関するQ&Aの追加等について」http://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20150902-1.html#bessi4)。

     設例のストックオプションを行使して株式を取得することは,上記適用除外に該当し,インサイダー取引規制に違反することにはなりません。

     他方,ストックオプションを行使して得た株式を売却する場合は適用除外になりません。したがって,重要事実が公表されてからでなければ,売買をすることができないので,注意が必要です。

     なお,公表とは,①上場会社等又は上場会社等の子会社などにより多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置が取られたこと,または,②これらの者が当該事項の記載されている法定開示書類が公衆縦覧に供されていること(法166条4項)とされており,上場会社等のホームページにおける公開では足りないことに注意が必要です。実務上は,①のうち,東京証券取引所が運営している「TDnet(Timely Disclosure network)」による公表方法が中心となっています。

    5 罰則

     インサイダー取引規制に違反した場合の罰則としては,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金,又はこれらの併科になります(法197条の2第13号)。

     また,法人の代表者又は法人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には,その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます(法207条1項2号)。

     さらに,インサイダー取引規制の違反によって得た財産は原則として没収又は追徴されます(法198条の2)。

     このほか,行政上の措置として,インサイダー取引規制に違反して自己の計算で有価証券の売買等を行ったものに対して,金融庁から課徴金納付命令が出されます(法175条)。

    弁護士 西川 文彬

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