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> 2019/09/27 商取引
Gメンも登場! 消費税転嫁対策特別措置法を知っていますか!? 10月1日からの下請取引に十分に気を付けましょう!
令和元年10月1日から消費税率が10%になります。これに合わせて下請取引において知らないうちに消費税転嫁対策特別措置法に違反しないように気を付けましょう。
令和元年10月1日の消費税率の10%への増税に向けて、キャッシュレス決済・ポイント還元事業、軽減税率等がテレビやスマホニュース等で取り上げられています。
消費税転嫁対策特別措置法をご存知でしょうか。
この法律の正式名称は、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法という長いものであり、一般の方にはなじみがないかもしれません。
この法律によって、消費税率が引き上げられたにもかかわらず、きちんと増税分を支払ってくれなかったり(減額)、価格を据え置くと称して、消費税率の引き上げの前後で毎月の支払単価を同じにするために実質的に本体価格の値引き(いわゆる買いたたき)を求めたりすることが違反となります。
たとえば、本体価格100円の商品・サービスは、令和元年9月時点であれば税込みで108円ですが、令和元年10月1日から税込みで110円となります。そこで、下請取引に限らず、買い手側が支払う金額をそのままにしたいために税抜き本体価格100円の商品を税込み108円のままで買えるように売り手側に求めてくるのです。世の中の状況が何も変わっていないのに、日付が10月1日になって消費税率が引き上げられたから支払う金額が高くなるということで、買い手側は支払う金額を増税後の10月1日以降もそのままにしたいと思うのですが、これをされてしまうと、売り手側は実質的に値下げを強いられることになります。これでは、売り手側は、自分が商品・サービスを調達するときには10%の消費税を支払わなければならないのに、商品・サービスを供給するときには価格を据え置かれてしまうことで、利益がそこなされてしまいますし、最悪の場合、原価割れしてしまいます。そこで、消費税転嫁対策特別措置法はこれを禁止しています。
2. 下請法(下請代金支払遅延等防止法)との関係
消費税率の引き上げに伴って行われる減額や買いたたきは、下請法(正式名称は下請代金支払遅延等防止法)によっても禁止されていますが、消費税転嫁対策特別措置法は、これをさらに明確にするために、消費税率が引き上げられたにもかかわらず、契約書や発注書の税抜き・本体価格に増税後の消費税をきちんと乗せた金額ではなく、増税前の金額で支払おうとする減額や増税後も増税前の税込み価格に無理に据え置くことで本体価格の実質的値引きを強いる買いたたきを法律に違反する減額・買いたたきとしています。
消費税転嫁対策特別措置法では、下請法の下請事業者にあたる売り手側を特定供給事業者、下請法の親事業者にあたる買い手側を特定事業者と定義しています(資本金による区分の有無の違いはありますが、本コラムでは省略します。)。下請法では、減額は、契約時・発注時に定めた金額を、合理的な理由なく、下請事業者に責任がないにもかかわらず下げることを禁止しています。また、同様に、下請法では、これから契約・発注する際に、取引価格について通常の取引価格よりも著しく低い金額で一方的に定める行為を買いたたきとして禁止しています。
減額はいわば後出しじゃんけん、買いたたきはいわば契約前の低い価格の押し付けといえます。
ちなみに、買いたたきについては、原材料価格の高騰、消費税率の引き上げ、毎年の最低賃金の改定等に見られる人件費の高騰といった事情にもかかわらず、取引価格を現在の価格に一方的に据え置くことは、買いたたきにあたりうると考えられますので、令和元年10月1日以降の価格決めについては、留意する必要があります。下請事業者(売り手側・供給事業者)と十分に協議をした上で、合理的理由のある価格決定が求められるところです。
3. 何に気を付けるべきか?
消費税転嫁対策特別措置法を所管する中小企業庁(経済産業省の外局)では、消費税転嫁対策として、次のような事例は同法違反に当たりうるとして、注意を促しています。
参照:http://www.jtf.jp/pdf/gmen.pdf
(1) 御社は免税事業者だから消費税は払いません、消費税率引上げ後も8%に据え置きます。
消費税は、課税期間の基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等について納税義務が免除されます。そこで、下請事業者と取引をしている親事業者は、下請事業者に対して、「おたくは消費税を納税しなくていい免税事業者なんだから、消費税が上がっても価格はそのままでいいよね。」などと言われてしまい、消費税増税後も消費税10%で支払ってもらえなかったり(減額)、税込みの価格を8%で計算したときの金額と同額に据え置かれたり(買いたたき)されてしまうことがあります。
これは典型的な消費税転嫁対策特別措置法違反の減額・買いたたきにあたると解されますので、取引先に対してこのような対応をしたりしないように、また、取引先からこのような対応をされたら是正をするように求めたいところです。
(2) フリーの委託事業者には消費税はそのままにさせていただいております。
法人ではなく個人事業主、フリーの個人事業主が取引をする場合に、買い手側から、「フリーの事業者さんには消費税は据え置かせてもらっています。」等と言われることがあります。このような場合も消費税率は軽減税率を除いて10%に引き上げられており、契約時や発注時に決めた価格を支払う段階で一方的に減額することやこれから契約・発注するときに税込み価格を増税前の価格に据え置くことは本体価格の一方的な値引きとして減額・買いたたきとして消費税対策特別措置法に違反します。
取引相手が法人ではなくフリーの個人事業主であるからといって、消費税率増税後に契約・発注時点の本体価格の金額に増税後の10%の価格を乗せた金額よりも低い金額で一方的に支払ったり、本体価格に消費税を乗せた金額を消費税率増税後も同じになるように据え置いたりすることは、減額・買いたたきとして消費税転嫁対策特別措置法違反になりますので、ご留意ください。
(3) 税込み価格だから増税は関係ないよ。
契約書や発注書面に金額が「〇円(税込み)」とされている場合に、「増税後も同じ価格ですよ。契約書・発注書に書いてあるとおりですよ。」等と言われることがあります。
この場合、契約書や発注書面に「公租公課に変更があった場合には、変更後の公租公課で計算された金額を支払う。」旨の規定がなくても、契約・発注時点での本体価格・消費税額を計算することができますので、たとえ「税込み」表示であっても、消費税率引き上げ後は、引き上げ後の税率を本体価格にかけて算出された金額を払わなければなりません。
契約書や発注書面に金額が「〇円(税込み)」とされていても、支払う時点の消費税率で計算しなおした金額で支払わなければ減額にあたりますし、契約更新時等に合理的な理由なく消費税率引き上げ前の金額に据え置いた税込み金額を定めることは買いたたきにあたります。
なお、事業用建物賃貸借契約の場合、建物の賃料であっても消費税が課税され、契約書に税込みと記載されていることがよくありますが、消費税転嫁対策特別措置法上、例外とはなっていませんので、消費税率引き上げ後は、10%で計算した金額で支払う必要があります。
(4) (工事などの継続的役務提供の場合に)継続的な契約だし、前からの契約だから税率は増税前と同じだよ。
工事などのある程度一定の期間を要する契約や継続的な契約の場合、契約や発注時点と課税資産の譲渡・役務の提供の時点が大きくずれることがあります。この場合、経過措置として消費税率引上げの半年前を「指定日」として、指定日より前に契約等を行うことを条件に、改正前の税率である8%が適用される取引がありますが、これにあたらない場合には、継続的な契約であったとしてもしても、課税資産の譲渡等が税率引き上げ後になる場合には消費税率は10%となります。
4. 消費税率引き上げ後の下請け取引について
以上のように、消費税率引き上げ後も原価を維持したいとの思いから、消費税率引き上げ前と同じ金額での支払いに収まるようにしようとする動きが生じる可能性がありますが、それは消費税転嫁対策特別措置法に違反するおそれがありますので、十分に留意しましょう。買い手側は不当な減額、買いたたきにあたらないように気を付けるとともに、売り手側として不当な減額、買いたたきと思われる対応を求められたときには、買い手側にそのような対応は消費税転嫁対策特別措置法に違反することを伝えて、是正するように求めたいものです。
報復をおそれて交渉できない、そのようなときは専門家である弁護士に相談してください!
弁護士 遠藤啓之
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