コラム「企業法務相談室」一覧

会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。

  • 2021/10/13 企業経営 改正公益通報者保護法に基づき事業者がとるべき措置に関する指針の公表と実務上の留意点(田島正広弁護士)

    改正公益通報者保護法に基づき事業者がとるべき措置に関する指針の公表と実務上の留意点

    1 はじめに
    公益通報者保護法の改正を受けて,消費者庁から,公益通報者保護法第11条第4項の規定に基づき,公益通報対応業務従事者の定め(同条第1項)及び事業者内部における公益通報に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置(同条第2項)に関し,その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が公表されました(令和3年8月20日内閣府告示第118号)。 今後,これに基づく解説が公表される予定ですが,ここでは,指針に基づき実務的に求められる対応のポイントを,事業者の立場に立って概説します。

    2  従事者の定め(法第11条第1項)に関して
    指針は第3項において,従事者の定めとして次の通り定めています。

    1 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通 報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

    2 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。


    【解説】
    改正法は,公益通報対応業務を行う者であり,かつ当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者(以下,「公益通報対応業務従事者」といいます)に対しては,正当な理由なくして当該業務に関して知り得た事項で通報者を特定させるものを漏えいしてはならないとし(法12条),違反行為に対しては30万円以下の罰金を科すものとしています(法21条)。
    この義務と責任を科せられる主体となることを本人に明確に認識させることを事業者に求めるのが本項の趣旨です。
    公益通報対応業務従事者が通報者を特定可能な情報を漏えいさせることは,通報者の特定とその不利益処分を誘発する虞のあるもので,公益内部通報制度の健全な運用を阻害するものとして,刑事罰をもってそれを阻止しようとする趣旨は正当ですが,従事者に過酷な結果とならないよう事業者としての準備対応が必要です。

    【重要ポイント1 公益通報対応業務従事者の業務フローの明確化】
    公益通報対応業務従事者に,この義務と責任を科す前提として,公益通報対応業務従事者にその地位にあることの認識を明確に持たせることはもちろん,どのような業務処理を行えば通報者特定可能情報の漏えいとならないか,その業務フローを明確化し,そのモデルを示すことが事業者として求められます。消費者庁が今後示す解説や資料を踏まえて,Q&A等を作成して教育・研修を行うことも重要です。


    3  部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備(法第11条第2項)に関して
    指針は,第4項1において,上記体制整備として次の通り定めています。

    (1) 内部公益通報受付窓口の設置等
    内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。

    (2) 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
    内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。

    (3) 公益通報対応業務の実施に関する措置
    内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、当該調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

    (4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
    内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとる。


    【解説】
    内部公益通報受付窓口の設置に際し,是正に必要な措置を執る部署と責任者を明確に定めることはその出発点です。組織の長・幹部に関わる事案での独立性の確保もまた,通報調査を機能させるために不可欠です。事案関係者の利益相反の観点からの排除も同様です。通報に対応して必要な調査を実施し,判明した法令違反等に対する速やかな是正措置と事後の機能状況の確認等も通報制度としてのいわばパッケージと言えます。

    【重要ポイント2 通報対応サブラインの必要性】
     組織の長・幹部に関わる場面として究極の場面は経営トップの不正となります。その時でも機能する調査体制とは監査役(あるいは監査等委員たる取締役)による調査体制です。事業者としては,経営の根幹に関わる事案・経営トップに関わる事案対応のための通報対応サブラインとして監査役ルートを設置し,規程上もその要件を定めるべきでしょう。

    【重要ポイント3 通報を将来に活かす姿勢の重要性】
    通報に基づく調査の結果,法令違反等の対象事実が判然としないことは,むしろよくあることです。その際に,単に通報対象事実が存在しないことをもって対応を完了するのではなく,今後に備えてガバナンスのあり方を再検討することが重要です。例えば,取引先にキックバックを要求している疑念がある場合に,単独交渉を許さないこととし,交渉メールのCCに担当課の別の社員を入れるよう運用を変えることで,そのような要求は事実上難しくなる可能性があります。あるいは,パワハラに関する通報は間々観られますが,それに該当しないとの事例判断であっても,穏当ではない言動が精神的苦痛を与えかねないことを社内研修等で広く浸透させるだけで将来のパワハラは抑止できる可能性が高まります。内部公益通報を将来のガバナンス向上とコンプライアンス堅持に活かす姿勢が重要です。


    4  公益通報者を保護する体制の整備(法第11条第2項)に関して
    指針は,第4項2において,上記体制整備として次の通り定めています。

    (1) 不利益な取扱いの防止に関する措置
    イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
    ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

    (2) 範囲外共有等の防止に関する措置
    イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
    ロ 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
    ハ 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。


    【解説】
    内部公益通報に起因する不利益取扱いを防止し通報者を保護することは,内部公益通報制度を活かすための生命線と言うべきものです。また,公益内部通報に関する情報の範囲外共有は,通報者探索,ひいては通報者に対する不利益処分の誘因ともなりやすいものです。いずれも社内規程で明確にこれを制限すると共に,違反行為に対する懲戒処分その他の適切な措置が執れるよう体制整備をしなくてはなりません。これらが許されないことを経営トップのメッセージとして事業者内に浸透させることも重要です。

    【重要ポイント4 情報共有範囲の明確化】
    そもそも通報対応に必要な情報共有の範囲がどの範囲なのか,その主体,情報内容の範囲を,事前に明確に定めることが出発点となります。主体の点では,通報対応・調査に関与する担当者は担当部署において一般に定められていることと思料しますが,事案の関係者として利益相反の観点から関与できない場合もあり,事案毎に情報共有範囲を明確化する作業が必要となります。
    また,情報内容の点では,通報者との直接の連絡の必要性,調査の際の事実関係把握の必要性等の点で,必要な情報は異なり得るので,不必要に広範な情報を共有するべきではないでしょう。必要性のない範囲では内部公益通報者が特定されないよう匿名化して業務処理を行うことも,その特定による不利益処分防止のためには重要です。

    5  内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置(法第11条第2項)に関して
    指針は,第4項3において,上記措置として次の通り定めています。

    (1) 労働者等及び役員並びに退職者に対する教育・周知に関する措置
    イ 法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
    ロ 労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。

    (2) 是正措置等の通知に関する措置書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、速やかに通知する。

    (3) 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者等及び役員への開示に関する措置
    イ 内部公益通報への対応に関する記録を作成し、適切な期間保管する。
    ロ 内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。
    ハ 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等及び役員に開示する。

    (4) 内部規程の策定及び運用に関する措置
    この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。


    【解説】
    内部公益通報対応体制を実効的に機能させるためには,労働者等,役員,退職者に対する適切な教育・周知とその質問・相談への対応は不可欠です。また,内部公益通報対応による調査結果の通報者へのフィードバックは,通報で指摘された事実についての事業者としての調査結果を明確にして事案解決を図ると共に,適切な通報対応実施のための制度的担保とも言うべきものです。さらに,通報対応に関する記録の作成,保管は,通報対象事実及び通報対応に関する紛争に備えると共に事業者としての適切な通報対応の証明手段として重要です。対応体制の定期的な評価・点検は内部公益通報体制の改善に不可欠なものであり,また,運用実績の概要の労働者等及び役員への開示は,制度運用状況の確認と共に,通報者を特定されることなく調査が実施され事案解決に至った前例を通じて,制度への信頼感醸成の基礎となるべきものです。


    【重要ポイント5 内部公益通報の記録作成と運用実績開示の実効性向上】
    指針は,不利益取扱い及び範囲外共有防止のための措置を定め,それらの事態に際しては適切な救済・回復措置と違反に対する懲戒処分等の措置を求めています(第4項2)。したがって,通報対応においては,これらの措置の実施状況をもチェックすると共に記録化することで,制度の適正な運用状況の継続的確認が可能となり,後の制度改善にも活かされることになります。また,制度の運用実績の開示に当たっても,上記遵守状況は不利益処分の虞から通報をためらう可能性のある社員がまさに知りたい情報なのであり,これを含めた開示がなされることで,制度への信頼感はより効果的に高まると思料されます。


    6 終わりに
    内部公益通報制度は,不祥事の早期発見と自浄のために必要かつ極めて有益な制度です。その運用に際しては,通報対象事実の存否に着眼した調査を形式的に行うだけではなく,調査を契機に判明する課題にも目を向けることが重要です。また,通報対象事実が認定できない場合,当該結論をもって通報調査としては一段落するとはいえ,通報対応としては通報を将来に活かす姿勢に立ち,業務フローの変更や社内アンケート,研修の実施等による業務改善を行うことでガバナンス,コンプライアンスのあり方の再検討に繋げるべきものです。通報制度が機能することによる福利は,事業者内外の様々なステークホルダーに及ぶことを忘れては行けません。
    以上



    弁護士 田島 正広


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp

  • 2021/08/12 企業経営 公益通報者保護法改正の概要とポイント(2020年(令和2年)改正法) (田島正広弁護士)

    公益通報者保護法改正の概要とポイント(2020年(令和2年)改正法)

    公益通報者保護法は,公益通報者を社内の不利益処分から保護すると共に,国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り,国民生活の安定及び社会経済の健全な発展を実現するものです(法1条)。 同法は,2004年(平成16年)に公布され,2006年(平成18年)から施行されていますが,しかし,その後も法人,組織の不祥事の隠ぺいは後を絶たず,また公益通報者に対する不利益処分も散見される状況が続いています。そこで,公益通報者の保護をより確実にし,公益通報制度の実効性を高め,不祥事の早期是正と被害防止を実現するため,2020年(令和2年)同法は改正されました(2年以内に施行予定)。以下にその概要を紹介します。

    1 2020年(令和2年)改正法の概要

    同改正法の概要(消費者庁ウェブサイト)によれば,改正の基本的視点は次の通りです。

    ① 事業者自ら不正を是正しやすくするとともに,安心して通報を行いやすくすること
    ② 行政機関等への通報を行いやすくすること
    ③ 通報者がより保護されやすくすること

    これを制度の改善点毎に考察すると,講学上次の通り分析されています。

    (1)【公益通報の範囲の拡大】 
    ・公益通報の主体に退職者、役員を追加しました。

    ・通報対象事実に過料の対象となる行為及び本法違反行為を追加しました。

    ・2号通報(監督行政機関への通報)通報先に行政機関が予め定めた者(=外部委託先)を追加しました。

    (2)【公益通報者保護の拡充】
    ・労働者による2号通報では、真実相当性がなくとも一定事項を記載した書面を提出すれば保護します。
    ・労働者による3号通報(第三者への通報)では、通報者情報漏えい、重大な財産被害に相当の理由がある場合を保護します。
    ・退職者・役員を不利益処分から保護し、通報により解任された役員には損害賠償請求権を認めました。
    ・通報を理由とする通報者の損害賠償義務を免責しました。

    (3)【事業者・行政機関の措置の拡充】
    ・事業者に通報対応業務従事者設置義務、同従事者に守秘義務を課しました。
    ・行政機関に2号通報への調査・適当な措置、体制整備を義務付けました。

    参照:NBL No.1177 4頁以下



    2 改正法のポイント

    (1) 公益通報の範囲の拡大
    ① 公益通報の主体の拡大(法2条1項1号、同条2項4号)
    ・通報制度の実効化への期待から、退職者(「労働者であった者」)を退職後1年に限り公益通報の主体に加えて不利益処分(ex.退職金不支給)から保護することとしました(法2条1項1号)。
    ・組織内での対応の限界と通報による解決への期待から、「法令の規定に基づく」「法人の役員」を公益通報の主体に加えて不利益処分(解任を除く)から保護することとしました(法2条2項4号)。解任時には損害賠償請求権を認めています(法6条)。会計監査人は独立的であることから対象外とされました。

    ② 通報対象事実の拡大(法2条3項1号)
    ・通報制度による法令違反行為是正の推進への期待から、通報対象事実に刑事罰対象行為のみならず過料対象行為を加えました。命令違反が対象となる行為も刑事罰同様含まれます(法2条3項1号)。
    ・通報制度の実効化の観点から導入された公益通報対応業務従事者の守秘義務(法12条)、事業者の報告義務(法15条)の違反行為も罰金(法21条,12条)、過料(法22条、15条)が課せられることとなったことから、これらの義務違反行為も通報対象事実に含まれることとなりました(法2条3項1号)。
    【重要ポイント1】社内外の通報窓口に公益内部通報を行った結果,公益通報対応業務従事者が通報者を特定可能な事項を情報共有すべき範囲を超えて拡散させて通報者が所属部署内でも特定されてしまった場合,これ自体もまた公益通報者保護制度が対象とする通報対象事実となります。通報の取り扱いへの細心の注意が必要とされます。

    ③ 2号通報の通報先の拡大(法2条1項柱書)
    ・監督官庁が2号通報の外部窓口を設置することができるよう、監督権限のある「行政機関があらかじめ定めた者」を2号通報の通報先に追加しました(法2条1項柱書)。


    (2) 公益通報者保護の拡充
    ① 労働者による2号通報の要件緩和(法3条2号)
    ・事業者の経営陣の不正の場合1号通報(組織内及び指定窓口への通報)の機能不全が懸念され、2号通報への期待も高まるところ、行政機関職員には職務上の守秘義務があり、情報漏えいの虞も少ないことから、保護要件を緩和しました。真実相当性がない場合であっても、通報対象事実が生じ、または生じようとしていると思料し、かつ以下の事項を記載した書面(電子メール含む)を提出した場合を保護対象に加えています(法3条2号)。
     (イ)公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
     (ロ)当該通報対象事実の内容
     (ハ)上記思料の理由
     (ニ)当該通報対象事実について法令に基づく措置等適当な措置がとられるべきと思料する理由
    重要ポイント2】行政機関への公益通報がよりしやすくなることが想定されるので,企業等としては,より一層不祥事の早期発見,撲滅に真剣に取り組むことが求められることになります。同時に,1号通報による自浄機能を維持・発展させるためには,1号通報をより利用しやすくすると共に,通報者の保護を図り,その運用実績に基づく社員の安心感,信頼感を高めて,社員に1号通報を選択してもらえるような機運を醸成することが重要です。

    ② 労働者による3号通報の要件緩和(法3条3号)
    ・通報者探しによる不利益取扱いへの懸念がある場合でも通報制度を機能させるため、1号通報をすれば、「役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、同人を特定させると知りながら、正当理由なく漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合」を3号通報として保護することとしました(法3条3号ハ)。
    【重要ポイント3】公益通報者の保護が期待できない法人,組織においては,組織外の第三者への通報が容認されることになります。自浄の機会を確保するためには,日頃から公益内部通報者保護制度を適切に運用し,その実績を社内外に公表して,不利益取扱いへの懸念を払拭しておくことが重要です。
    ・法益侵害の重大性に鑑みて、個人の生命・身体に対する危害のみならず、個人の財産に対する損害についても、その発生又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合を保護対象に加えました(法3条3号ヘ)。

    ③ 退職者・役員の不利益取扱いからの保護(法5条1項及び3項、6条)
    ・公益通報の主体に加えられた退職者・役員に対する通報を理由とする不利益取扱い禁止を禁止しました(法3条3号ハ)。
      ex) 退職者→退職金の不支給,
          役員→報酬の減額、取締役会通知の不送付
    【重要ポイント4】組織に所属している限りは人間関係もあって内部通報がはばかられることも時に懸念されますが,退職者となれば,自由にモノが言える立場になることが多いでしょう。退職した今だから言えることを聞き出すことは,コンプライアンス体制の堅持には非常に有益な手段と言えます。退職理由の本音の部分が,実は法令,企業倫理違反行為に関連している可能性は否定できません。
    ・役員は事業者と委任・準委任関係にあり、信頼関係が失われれば解任はやむを得ませんが(法5条3項で保護対象から除外)、通報を躊躇させないよう公益通報を理由とする解任による損害賠償請求権を保障しました(法6条)。

    ④ 通報を理由とする損害賠償義務の免責(法7条)
    ・公益通報による事業者の名誉、信用等の損害賠償義務を懸念して通報を躊躇しないよう、労働者・退職者・役員の全てにつき法3条・6条による通報を理由とする損害賠償義務を免責しました(法7条)。
    ・免責の対象は、債務不履行、不法行為その他一切の請求権に及びます。


    (3) 事業者・行政機関の措置の拡充
    ① 事業者の取るべき措置義務(法11条)
    ・事業者は、1号通報を受け、通報対象事実の調査を行い、その是正に必要な措置を取る業務に従事する者(「公益通報対応業務従事者」)を定めなければなりません(法11条1項)
    ≫従事者以外への通報でも1号通報としての対応が必要となります。
    ・事業者は、1号通報に応じ、適切に対応するために必要な体制整備等の措置を取らなければなりません(法11条2項)。
    ・従事者を定める義務(同条1項)及び1号通報対応措置を取る義務(同条2項)は、常時使用する労働者数が300人以下の事業者では、努力義務とされています(同条3項)。
    ・各義務につき内閣総理大臣の指針が策定されることになります(同条4項)。
    ・各義務は内閣総理大臣(消費者庁長官に委任)による助言、指導、勧告の対象となり(法15条)、常時使用労働者300人超の場合は勧告違反が公表対象となります(法16条)。

    ② 公益通報対応業務従事者の義務(法12条)
    ・通報者が特定されることを懸念して1号通報を躊躇しないよう、公益通報対応業務従事者(退任者含む)は、正当理由なくして当該業務に関して知り得た事項で通報者を特定させるものを漏えいしてはならないとされます(法12条)。
    ≫当該業務と無関係に偶然に聞きつけた情報は対象外とされます。
    ≫「通報者を特定させるもの」かどうかは、実際に通報者が特定可能かどうかによります。
    ex) 通報のあった部門に女性職員が1名のみであれば、女性職員であることをもって特定可能と判断されるでしょう。
    【重要ポイント5】社内外の公益通報対応業務従事者としては,法人,組織内での公益内部通報の報告に際して,実際に特定不可能な内容での報告が求められることになります。通報対象事実の内容次第では,当該事実の発生した部署を具体的に特定しての報告が難しい場合も考えられます。書式の形式的運用ではなく,通報者の実際上の特定可能性を踏まえた慎重な個別具体的判断が求められます。
    ・通報窓口担当者でも公益通報対応業務従事者として定められていなければ本義務を負いません(この場合、事業者は同従事者を定める義務の違反となります)。
    ・本義務の違反には、30万円以下の罰金が科せられます(法21条)。

    ③ 公益通報対応業務従事者の義務(法13条)
    ・監督官庁は、2号通報対応義務(法13条1項)の適切な実施のために、2号通報に応じ、適切に対応するために必要な体制整備等の措置を取らなければならないものとされます(法13条2項)。
    ≫措置の内容については各行政機関に委ねることとして、内閣総理大臣による指針の対象外とされています。

    参照:消費者庁ウェブサイト,NBL No.1177 4頁以下



    3 改正法を踏まえた内部通報制度の運用のあり方

    公益通報者保護法は,企業不祥事の実態に即した制度改善に向けて改正されました。その際,上述したように,通報制度の運用上通報者保護の観点に細心の注意を払うことが求められるに至っています。内部通報制度(i) は企業統治の重要手段であり,取締役・監査役の善管注意義務を企業統治の場面で具体化する内部統制システム構築義務の履行場面となります。したがって,その実効的な運用は,善管注意義務の履行として不可欠なのです。

    内部通報制度をコンプライアンスらしさの隠れ蓑として,形式的に名ばかり運用しようとする事業者はもはや存在しないことと信じますが,むしろ通報者保護を確実にして社内の安心感,信頼感を高めることで,通報制度の積極展開を図り,不祥事に対する自浄をより確実なものとすることができれば,市場からのコンプライアンスへの信頼はより高められることにもなります。コンプライアンス違反への社会批判の高まりは,企業価値算定においてコンプライアンス堅持が不可欠の重要要素であることを意味します。公益内部通報制度の積極的展開は全てのステークホルダーにとって有益でこそあれ不利益となることはありません。

    以上


    ----------------------------------------------------------
    (i) 現在検討中の公益通報者保護法に基づく指針案では「内部公益通報制度」と呼ばれる。


    弁護士 田島 正広


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp

  • 2020/06/15 企業経営 新型コロナウイルス感染症の感染防止と株主総会当日の運営(秋山周弁護士)

    新型コロナウイルス感染症の感染防止と株主総会当日の運営

    Q 新型コロナウイルス感染症が流行していますが,株主総会を例年と同じ時期に開催することとしております。総会当日はコロナ対策としてどのようなことが考えられるでしょうか。


    A 株主総会がクラスター発生の場とならないように,総会当日は以下の①から⑤の観点について,以下に記載のような対応を行うことが考えられます。
    ①会場設営
    ②受付対応の簡略化
    ③会場スタッフの感染防止策
    ④発熱や咳などの症状を有する株主への対応(入場自粛,退場要請)
    ⑤総会開催時間の短縮のための工夫
     なお,本年6月の株主総会では導入が難しいかと思われますが,今後インターネット等を用いた株主総会の導入も考えられます。


    (1)はじめに

     新型コロナウイルス感染症の感染防止のため,全国で緊急事態宣言がなされている状況において,施設の利用やイベントの中止が呼びかけられています。
     このような状況の中で,クラスター発生を防止するために今までのような株主総会の運営を見直す必要性が高まっております。
     そこで,株主総会の運営にあたって企業として取り得る対応について以下ご紹介致します。
     なお,経済産業省及び法務省の「株主総会運営に係るQ&A」においても新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からの株主総会の運営について記載されているためご参照ください(https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html)。


    (2)総会当日の運営に係る対応

     株主総会の会場における運営においては,会社は感染拡大のリスクを低下させ,株主等が新型コロナウイルス感染症に罹患しないように配慮する必要があります。

     1. 会場設営

      三密対策として株主席の配置の間隔を広くとって株主が密集しないように配慮し,また,株主が前方に固まって着席することなどもないように促すことが考えられます。
      加えて,株主総会会場のテーブル,イス,マイクの消毒及び換気扇を付けるなど会場の換気をすること等が考えられます。
      他にも,会場入口に,アルコール消毒剤等を設置することや,マスクの着用の要請,マスクを持参していない株主に対するマスクの提供をすることが考えられます。

      また,マイクについては,ハンディタイプではなく,スタンドタイプを用意して,スタンドマイクの周りは広く空間を取り,発言が終わるごとにスタッフにて消毒を行うことがよいと考えられます。

      なお,総会終了後,株主の退場時には,退場者が密集しないように配慮し,あらかじめ指定した座席のブロックごとに時間差で退場して頂くよう誘導する等の準備をしておくことが考えられます。

     2. 受付対応の簡略化

      株主総会の開催時間の直前には来場者が集中し,入場待ちの株主が滞留して列などができてしまう可能性があります。
      そのような事態を避ける一つの工夫として,議決権行使書と引替えに入場票を渡すことを省略し,入口にてスタッフに議決権行使書を掲げて呈示することのみを求め,スタッフは株主の議決権行使書に目を通すことで入場を認めることも考えられます。

     3. 会場スタッフの感染防止策

      株主総会の受付担当者,会場担当者は,受付事務などを通して多くの株主と対面し,会話をする機会が生じるため,マスクや場合によってはフェイスガードなどを装着し,感染防止策を図ることが考えられます。
      加えて,咳やくしゃみなどの症状があるにもかかわらずマスクの着用を拒否する株主に対応するため,飛沫がスタッフに飛散しないように接触防止のための透明ボードやビニールカーテンを受付に設置することも考えられます。

      また,スタッフも手指などの消毒を徹底し,検温を行ってから総会運営に取り組むことがよいと考えられます。
      なお,総会当日,スタッフ・役員は健康状態が思わしくない場合などには自宅待機とすることがよいでしょう。

     4.  発熱や咳などの症状を有する株主への対応(入場自粛,退場要請)

      発熱や咳などの症状を有する株主については,入場自粛を要請することが考えられます。受付においてスタッフから声かけを行うことや,入場自粛の掲示をしておくことが考えられます。
      また,入場にあたり検温を実施し,発熱のある方の入場自粛を要請することや,入場後体調がすぐれない方に退場を要請することが考えられます。

      また,新型コロナウイルス感染症の罹患が疑われるにもかかわらず,入場自粛や退場要請に応じない方に対しては,入場制限や退場命令を行うことも可能と考えられます。
      但し,入場制限や退場命令については,決議取消事由となってしまうリスクも考えられることから,いきなり入場を断ったり退場を命じるのではなく,別室(第二会場)への移動を案内し,それに従わない場合に入場を断ったり退場を命じるということも考えられます。
      なお,別室へ案内する際,別室において発言機会を与えて,議事に参加できる状況を整える準備が必要となります。

     5. 総会開催時間の短縮の工夫

      感染拡大防止の観点からは,株主総会の短時間化を図ることも,合理的な対応です。
      例年に比べて議事の時間を短くすることや,株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。
      例えば,シナリオを簡略化した以下のような対応を検討するとよいでしょう。

      <挨拶>
      開会宣言や挨拶の段階で,新型コロナウイルス感染症対策として株主総会の短時間化に努めることや株主のマスク着用の要請,役員やスタッフのマスク着用,発言ごとにマイクの消毒を行うこと等について簡潔に説明することが考えられます。

      <議事進行>
      議事採決の回数を減らすことができるうえ,総会の時間管理がしやすい,一括審議方式を採用することが考えられます。

      <定足数>
      事務局で出席株主数(議決権行使数)を確認できていればよいため,定足数の結果を株主に説明することは必ずしも必要ではありません。

      <会議の目的事項>
      「目的事項は,招集通知に記載の通りです。」と述べれば足ります。

      監査報告も,総会提出議案や書類等に法令若しくは定款違反,又は,著しく不当な事項があると認めるときに限り,法的義務が生じるため,省略することが可能と考えられます。

      連結計算書類の監査結果は報告事項ですが,会議の目的事項が招集通知記載の通りである旨の説明を行うことにより報告済みと扱えると考えられます。

      なお,重要な経営事項,重大な不祥事,重要な株主提案等があった場合には,説明が不十分となる恐れがあるため,関連事項については報告の省略などによる時間短縮をすることは避けるべきと考えられます。

      <質疑応答>
      質疑応答の打切りは,株主が議題を合理的に判断するために必要な質疑応答が尽くされたかという点から判断することを要します。

      質疑の流れに応じてその場で判断する必要がありますが,株主に新型コロナウイルス感染症拡大を防止するためであるという趣旨を説明した上,例年よりも短い審議時間にすること,株主一人あたり1問程度に限定することも考えられます。また,長時間にわたり発言をする株主に対して,「簡潔にお願いします。」と促すことも考えられます。

      ただし,重要な経営事項,重大な不祥事,重要な株主提案等があった場合には,審議時間の短縮を行うか,質疑を打ち切るかは慎重に判断することがよいでしょう。


    (3)インターネット等を用いた株主総会

     なお,本年6月の株主総会においては特に導入が難しいかと思われますが,今後インターネット等を用いた株主総会の導入も考えられるため,以下にご紹介致します。

     現在,物理的に存在する会場において役員等と株主が一堂に会する形態で行われるリアル株主総会が一般的です。
     他方,リアル株主総会の会場に存在しない株主も,インターネット等を用いて遠隔地から参加/出席できるハイブリッド型バーチャル株主総会も経済産業省から紹介されています。
    このハイブリッド型バーチャル株主総会には,参加型出席型があります。

    <ハイブリッド参加型バーチャル株主総会>
     株主が遠隔地から株主総会を傍聴することで議事の進行状況を視聴し,会社の経営を理解する有効な機会となります。
     しかし,インターネット等を用いて参加する株主は当日の決議に加わることは出来ず,当日の議決権行使が出来ないため,事前の議決権行使や,委任状等で代理権を授与して代理人による議決権行使を行う必要があると考えられます。

    <ハイブリッド出席型バーチャル株主総会>
     株主が遠隔地からインターネット等を用いて株主総会に出席し,リアル出席株主と共に審議に参加した上,株主総会における決議にも加わることが想定されるものであり,株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使が可能となる形態のものです。
     但し,バーチャル出席に向けた環境整備の必要や,どのような場合に決議取消事由に当たるかについての経験則が不足しているという留意点があります。


     本年6月の株主総会においては,環境整備や時間的制約等からハイブリッド型バーチャル株主総会の導入は難しい場合が多いかと思われますが,今後の中長期的な目標として,インターネット等を用いた株主総会の導入により遠隔地の株主の出席機会の拡大が図れるものと思われます。
     なお,リアル株主総会を一切開催せずに役員等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するというバーチャルオンリー型株主総会については,現行法においては解釈上難しい面があると解されています。


    (4)おわりに

     本年の株主総会においては新型コロナウイルス感染症感染拡大防止を図り,株主総会参加者の安全を守るため,本稿で紹介した対策など十分な対応を行うべきでしょう。


    田島・寺西法律事務所
    弁護士 秋山 周

    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7355
    メール   advice@tajima-law.jp

  • 2017/09/06 企業経営 グレーゾーン解消制度の利活用及び弁護士の利用方法(田島・寺西法律事務所)

    グレーゾーン解消制度の利活用及び弁護士の利用方法

    Q 腰に着用すると,筋肉の動作をサポートしつつ自動的に心拍数,体温,発汗量等を計測し,行動のアドバイスをするウェアラブル製品を考案したのですが医薬品医療機器等法の定める「医療機器」として規制を受けるかどうか,ビジネスを始める前に知る手段はあるでしょうか。


    A グレーゾーン解消制度を利用する方法があります。


    1 ビジネスモデルが法律に先行する場面の急増
     今日,既存の法律制定時には想定されていなかったビジネスモデルが急増しており,既存の法律の規制を受けるか明確でない場面が増えています。
    そうした場合に,事業者が法律を自己解釈して(あるいは法律による規制に気付けずに)ビジネスを始めてしまえば,ある程度軌道に乗ったところで所管省庁から法律違反を問われるなどして,ビジネスが頓挫する可能性もあります。

     そこで,ビジネスを本格的に始動させる前に,ビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか予め公的判断を得ておきたい,というニーズに応えたのが,グレーゾーン解消制度です。


    2 グレーゾーン解消制度
     グレーゾーン解消制度とは,事業者が新規に始動させようとするビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか,事業所管省庁を経由して,規制所管省庁に確認する制度です(産業競争力強化法第9条)。
     この制度の特長は,事業者が規制所管省庁に直接照会するのではなく,事業者が事業所管省庁に照会を申請し,それを受けて事業所管省庁が規制所管省庁に照会することにあります(「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き」(以下「手引き」といいます)参照)。
     通常,直接的な照会は事業者にとってハードルが高いことから,その点をクリアするために上記のような制度が設けられました。制度上,事業所管省庁が,事業者を実質的にサポートする役割を担うことになります。
     また,制度利用希望者は,一刻も早くビジネスを始動させたいとの考えから,通常,迅速な回答を求めています。このニーズに応えるべく,原則として申請後1か月以内に回答を受けられるとされています。
    制度の流れを整理すると,



    となります。施策がまとめられていく中で,事業者の負担を減らすことが重視された結果,このようにシンプルになっているようです。


    3 企業実証特例制度
     照会の結果,既存の法律による規制を受けると判断されてしまい,そのままではビジネスの始動が不可能な場合でも,企業実証特例制度の活用によってそれが可能となる場合があります。
     企業実証特例制度とは,一定の条件の下,特例的に障害となっている規制を受けずにビジネスをテストする制度で,いわば『企業単位の「特区」認定制度』です(経済産業省:METIジャーナル平成28年12・1月号)。

     企業実証特例制度においては「特例措置の提案」(同法第8条)と「新事業活動計画の認定」(同法第10条)の二段階の申請手続を経ることになります。

     第一段階の「特例措置の提案」においては,まず事業者が事業所管省庁に対し,とある規制に関する特例措置を整備してほしいと要望します。そして,事業所管省庁が,その内容が法の目的・趣旨に照らして適切であると判断される場合に,規制所管省庁と協議・検討し,規制所管省庁が,規制の特例措置を整備するか否か判断します。事業所管省庁が事業者の要望を受けてから,原則として1か月程で整備するか否かの回答を受けられます(手引き参照)。適法に規制を回避する土台作りのようなものです。
     もっとも,規制の特例措置が整備されても,それだけでは事業者はその特例措置を活用できません。特例措置を活用するには,第二段階の「新事業活動計画の認定」が必要となります。
     第二段階においては,まず事業者が新事業活動計画を事業所管省庁に提出します。そして,事業所管省庁が検討し,適切だと認めた場合,認定に先立ち,規制所管省庁に対し同意を求めます。それに対し,規制所管省庁は規制が求める安全性等の観点から検討を行い,適切であると認めた場合,認定に同意します(手引き参照)。認定に同意を得て初めて,特例措置を活用できます。

     なお,第一段階の規制の特例措置の提案を行っていない事業者でも,第二段階の新事業活動計画の認定を受ければ,他の事業者の提案によって設けられた特例措置を活用することが可能です(手引き参照)。他の事業者の提案で作られた土台の利用が可能ということです。


    4 公表されている情報
     平成29年7月21日に経産省より公表された,グレーゾーン解消制度及び企業実証特例制度の活用結果によれば,平成29年4月から6月の3か月間において経産省が申請を処理した件数は,グレーゾーン解消制度が8件(うち中小企業6件)であり,企業実証特例制度が0件のようです。昨年1年間をみれば,グレーゾーン解消制度が24件,企業実証特例制度が1件のようです。
    グレーゾーン解消制度はそれなりに利用されているものの,企業実証特例制度は,今後の更なる活用が期待されるところです。

     グレーゾーン解消制度においては,手引き上,個別の回答結果がそのまま公表されることはなく,もっとも類似の申請が複数あり,回答内容につき類型化・抽象化が可能な場合は,事業所管省庁又は規制所管省庁において,ガイドラインのような形で公表される場合もある,とされています。
     もっとも,法令の解釈に関する照会及びそれに対する回答は,他の事業者にとっても価値ある情報です。それも踏まえてか,例えば経産省においては,事業者と調整したうえで,企業秘密等の企業の機微にかかわらない範囲で,制度利用事例が公表されています(企業実証特例制度及びグレーゾーン解消制度の活用実績)。


    5 医療・ヘルスケア分野に関連する法律
     上記活用実績の中では,医療・ヘルスケア分野のビジネスに関する制度利用が散見されます。
     いくつか例を挙げれば,
    ①フィットネスクラブを運営する企業による,運動機能の維持など生活習慣病の予防のための運動指導に関す
     る照会
    ②簡易血液検査サービスを行う中小企業による,血液の簡易検査とその結果に基づく健康関連情報の提供に関
     する照会
    ③薬局店舗を展開する企業,口腔内の衛生用品等を提供する企業による,薬局店頭における唾液による口腔内
     環境チェックの実施に関する照会
    ④歯ぐきのセルフメディケーションサービスを提供する企業による,唾液を用いた歯ぐきの健康の郵送検査
     サービスに関する照会
     などです。
     制度利用が多い理由は,後述のとおり法律の解釈の難しさもさることながら,人の生命・身体に関するビジネスであり,内在するリスクが大きいこと,またそういったリスクヘッジに対する事業者側の意識が総じて高いことにあるのではないかと考えられます。
     わざわざ医療機関に出向かずとも,身近な場所で,あるいは郵送等の手段で,自身の健康状態を把握できるサービスを提供するビジネスがトレンドの一つであると考えられます。

     医療・ヘルスケア分野において規制を受け得る法律として,医師法や医薬品医療機器等法等が挙げられます(後者の正式名称は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」であり,旧薬事法が改正されたものになります)。

     医師法に関しては,新規ビジネスモデルにおけるサービスの「医業」「医行為」該当性等が照会されています。
    「医業」は「当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を,反復継続する意思をもって行うこと」と解されています(医師法第17条及び平成17年7月26日厚労省医政局長通知)。
     しかし,同通知にも「ある行為が医行為であるか否かについては,個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」と記載されているように,同通知を前提としても医行為該当性の判断はなかなか難しいでしょう。

     医薬品医療機器等法に関しては,新規ビジネスモデルにおける製品の「医療機器」「医薬品」該当性等が照会されています。
     「医療機器」は「人若しくは動物の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること,または人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)であって,政令で定めるもの」と定められており(医薬品医療機器等法第2条4項),施行令の別表第一に具体的に列挙されています。誰が見ても治療器具だと分かる物から,体温計,コンタクトレンズ,補聴器,家庭用電気治療器(いわゆるマッサージ器)まで含まれます。
     しかし,該当性判断を詳細に定めた通知等が多く,全てを把握するには労力を要し,また通常,新規ビジネスモデルにおける製品は列挙されている物に含まれていないことが多いでしょう。
     同じ様に「医薬品」は「日本薬局方に収められている物」(1号),「人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く)」(2号),「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品,化粧品及び再生医療等製品を除く)」と規定されていますが,その該当性の判断は簡単ではありません。
     その他,同法においては「医薬部外品」「化粧品」も定義づけられていますが,新規ビジネスモデルにおける製品がこれらに該当するかは,同様に判断が難しいところです。


    6 IoT分野に関連する法律
     IoTデバイスが急増し,既存のものに様々な機能が付加された製品が登場しています。それに伴い,それらに関する照会も増えているように見受けられます。
     この分野において規制を受け得る法律としては,電気用品安全法,消費生活用製品安全法等が挙げられます。

     電気用品安全法に関しては,「電気用品(特定電気用品を含む)」が規制対象であり,これに該当すると,事業の届出が必要になる等の様々な規制を受ける可能性があります。
     「電気用品」については,上記の「医療機器」同様,施行令別表でそれぞれ具体的に列挙されています。また,「電気用品の範囲等の解釈について」(平成26年12月22日商局第1号)「電気用品安全法 法令業務実施ガイド(第3版)」(平成29年1月1日)等の通達等も公表されています。もっとも,「医療機器」同様,通達等の内容の把握には一定の労力を要することになります。また,人の生命・身体に危害を及ぼす可能性があるからこそ規制されており,該当するとなれば必ず規制に従う必要があるので,慎重な判断が求められます。

     消費生活用製品安全法に関しては,「消費生活用製品」が規制対象であり,これに関する事故が発生した場合について規制されているほか,「特定製品(特別特定製品を含む)」「特定保守製品」に該当すると,電気用品安全法と似たような規制を受けます。また,「消費生活用製品安全法特定製品関係の運用及び解釈について」(平成22年12月10日商局第1号)等の通達等も公表されています。
     該当する物はそれほど多くありませんが,圧力鍋,乳幼児ベッド,ライター等が含まれており,例えば荷重の情報等から乳幼児の行動をデータ化して,健康状態を把握したり危険を防止したりするベッド様の製品を開発すれば,規制を受けるかもしれません。


    7 専門家の利用の意義
     グレーゾーン解消制度の利用に当たっては,具体的に何を確認したいのか整理しておく必要があります。「規制の根拠となる法令がどのような規定となっており,そのうち,どの部分の解釈が明らかでないのか,新事業活動が規制の対象となるのか否かが判断できないポイントや,それによって新事業活動を行うことが難しい理由に加え,そのことに関する自己の見解を記載」することが求められているからです(手引き参照)。
      
     注意して頂きたいのは,照会結果は,照会時に存在するあらゆる法律の規制を受けるか否かについての回答ではないという点です。制度利用に当たっては上記のとおり,どの法律の(さらにはどの条文のどの文言による)規制を受けるか,ということを特定する必要があり,必然的に回答もその法律に(さらにはその条文のその文言解釈に)限定されます。したがって,事業者において,どの法律について照会すべきか予め精査する必要があります。
     もっとも,新しいビジネスモデルにおけるサービス・製品が革新的であればその分,想定していなかった法律による規制を受ける可能性が拡大します。そうした場合,どの法律に留意すべきか(そしてどの法律について照会すべきか)把握するうえで,弁護士を利用すれば時間を短縮できます。5や6で上記したとおり,判断が難しい場面が多々存在するわけですが,そもそもどの法律の規制に留意する必要があるのか,その見極めに時間を要することがあるからです。

     もちろん,上記のとおり,事業所管省庁が事業者に寄り添い,実質的にサポートする体制が整えられているので,漠然とした法律上の不安があるという段階でも,事業所管省庁にアクセスすれば親身になってサポートして頂けるものと思います。
    ただし,申請に対する回答は原則1か月以内とされていますが,事業所管省庁に対する事前相談期間はこれに含まれません。そこで,事業所管省庁に相談に行く前に弁護士を利用して,ビジネスモデルの法的リスクを洗い出しておけば,事前相談を踏まえても長くはかからないでしょう。
     また,規制を受けるか否かの判断が微妙であることが窺われるケースにおいて,法的観点から少しでも有利になるように自己の見解を記載したいと考える場合,弁護士であれば公的立場からではなく,より事業者に寄り添った立場からアドバイスすることが可能です。
     
     予め法的リスクを排除できれば,それだけビジネスの展開に注力できると思います。

    田島・寺西法律事務所


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。
    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。


    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp




  • 2016/02/05 企業経営 特別支配株主の株式等売渡請求(西川文彬弁護士)

    特別支配株主の株式等売渡請求

    Q 平成26年会社法改正により,特別支配株主の株式等売渡請求という制度が新設されたと聞きました。どのような制度か教えてください。


    A この制度は,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)が,対象会社に対して一定の事項を記載した通知を行い,対象会社において,その承諾や売渡株主に対する通知・公告等の手続を経ることにより,特別支配株主が少数株主の有する株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債を指します。以下,同じ。)の全部を,少数株主の個別の承諾なく,直接,金銭を対価として取得すること(キャッシュアウト)を可能にするものです。

    1 制度の概要

     この制度は,特別支配株主が対象会社の株主総会決議を経ることなく,少数株主の有する株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債を指します。以下,同じ。)の全部を,少数株主の個別の承諾なく,少数株主から直接,金銭を対価として取得すること(キャッシュアウト)を可能にするものです。
     キャッシュアウトの利点としては,長期的視野に立った柔軟な経営の実現,株主総会に関する手続きの省略による意思決定の迅速化,株主管理コストの削減が挙げられます(坂本三郎編著『一問一答平成26年改正会社法』251頁(商事法務,第2版,2015年))。
     この制度により,これまでのキャッシュアウトの手法である全部取得条項付種類株式の取得において,常に,株主総会の特別決議が要求されていたこととは異なり,機動的なキャッシュアウトが可能になりました。

    2 要件

    ? 特別支配株主
     特別支配株主とは,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する者をいいます(会社法(以下,「法」といいます。)179条1項)。
     議決権保有割合の算定に当たっては,特別支配株主となる者が自ら保有する議決権に加えて,その者の特別支配株主完全子法人(特別支配株主となるものが発行済株式の全部を有する株式会社その他これに順ずるものとして法務省令で定める法人)が有する議決権も合算されます(同条1項)。
     また,上記,議決権保有割合は,対象会社に対し,株式等売渡請求をする旨を通知するとき,その承認を受けるとき,売渡株式等の全部を取得する取得日において,満たしている必要があります(法179条の3第1項,法179条の9第1項)。

    ? 対象会社
     対象会社は,公開会社に限られず,公開会社でない場合にも利用できることとされています。なお,清算株式会社は,対象会社となることはできません(法509条第2項)。

    ? 対象となる株式等
     株式売渡請求は,対象会社の株主(対象会社及び特別支配株主は除きます。以下,売渡請求の対象となる株主を「売渡株主」といいます。)の全員に対して行わなければなりません(法179条第1項本文)。なお,既に特別支配株主の支配が及んでいる特別支配株主完全子法人については,特別支配株主が,同法人に対して株式売渡請求をしないことを選択することができます(同条第1項ただし書,法179条の2第1項第1号)。
     そして,株式売渡請求は,売渡株主の有する対象会社の株式の全部(種類株式発行会社であれば全種類株式)について行わなければなりません(法179条第1項)。
     また,特別支配株主は,株式売渡請求と併せてする場合に限って,新株予約権者に対して,新株予約権の売渡請求をすることもできます(同条第2項)。なお,この請求が新株予約権付社債に付された新株予約権の場合,当該新株予約権の募集事項に別段の定めがある場合を除き,社債部分についても売渡請求をしなければなりません(同条第3項)。

    3 手続 

    ? 手続の流れ
    ? 特別支配株主から対象会社への通知
     特別支配株主は,株式等売渡請求をしようとするときは,対象会社に対し,株式等売渡請求の条件(売渡株主に当該売渡株式の対価として交付する金額又はその算定方法,株式を取得する取得日等)を定め,対象会社に通知する必要があります(法179条の2,同法179条の3)。

    ② 対象会社による承認
     特別支配株主は,株式等売渡請求につき対象会社の承認を受けなければなりません。対象会社が取締役会設置会社である場合は,承認するか否かの決定は,取締役会の決議によらなければなりません(法179条の3第1項)。
     なお,対象会社が種類株式発行会社である場合,株式等売渡請求の承認が,種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは,定款の定めがない限り,当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要になります(法322条第1項第1号の2,同条第2項)。

    ③ 売渡株主等に対する通知・公告等
     対象会社は,特別支配株主の株式等売渡請求を承認したときは,取得日の20日前までに,売渡株主等(売渡株主及び売渡新株予約権者)に対し,株式等売渡請求を承認した旨,特別支配株主の氏名又は名所及び住所,株式等売渡請求の条件等を通知しなければなりません(法179条の4第1項第1号)。
     また,売渡株式の登録株式質権者及び売渡新株予約権の登録新株予約権者に対しても,株式等売渡請求の承認をした旨を通知する必要があります(同項第2号)。
     これらの通知のうち,売渡株主に対するもの以外については,公告をもって代えることができるとされています(同条第2項)。

    ④ 事前開示手続
     対象会社は,売渡株主等に対する通知又はこれに代わる公告のいずれか早い日から取得日後6か月(対象会社が公開会社ではない場合,取得日後1年)を経過するまでの間,特別支配株主の氏名等や株式等売渡請求の条件等を記載した書面等をその本店に備え置き,売渡株主等による閲覧等に供しなければなりません(法179条の5)

    ⑤ 特別支配株主による売渡株式等の取得
     株式等売渡請求をした特別支配株主は,取得日に,売渡株式等の全部を取得します(法179条の9第1項)。
     なお,特別支配株主が取得した株式が譲渡制限株式の場合であっても,譲渡承認があったものとみなされるため,実際に譲渡承認を得る必要はありません(同法第2項)。

    ⑥ 事後開示手続
     対象会社は,取得日後遅滞なく,株式と売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面等を作成し,取得日から6か月間(対象会社が公開会社ではない場合,取得日から1年間),当該書面等をその本店に備え置くととともに,取得日に売渡株主等であったものによる閲覧等に供しなければなりません(法179条の10,会社法施行規則33条の8)。

    ? 撤回
     特別支配株主は,株式等売渡請求について対象会社の承認を受けた後は,取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限って,売渡株式等の全部について,株式等売渡請求の全部を撤回できます(法179条の6第1項)。
     対象会社が撤回の承諾をしたときは,遅滞なく,売渡株主等に対し,当該撤回を承諾した旨を通知又は公告しなければなりません(同条第4項,第5項)。対象会社がこの通知又は公告をした時点で,株式等売渡請求は,売渡株式等の全部について撤回したものとみなされます(同条第6項)。

    ? 備考
     対象会社が株券発行会社である場合は,株式等売渡請求の承認に際して,株券の提出に関する通知及び公告を行う必要があります(法219条第1項第4号の2)。
     また,対象会社が上場会社の場合,社債株式振替法,金融商品取引法,有価証券上場規程等にも配慮する必要があります。
       
    4 売渡株主等による対抗措置

    (1) 売渡株式等の取得をやめることの請求(法179条の7)
     売渡株主は,株式売渡請求が法令に違反する場合(同条第1項第1号),対象会社が売渡株主に対する通知若しくは事前開示手続を行う義務に違反した場合(同項第2号),売渡株式等の売買価格等が著しく不当である場合(同項第3号),売渡株式等の全部の取得をやめることの請求ができます。
     また,株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされており,新株予約権売渡請求が法令に違反する場合などの差止請求の要件が認められる場合には,売渡新株予約権者にも,売渡株式等の全部の取得をやめることの請求が認められます(同条第2項)。
     もっとも,売渡株主等が取得日の20日前に通知を受けるとして,準備期間及び審理期間が20日間しかないことからすれば,訴訟で差止の判決を取得することは時間的に困難です。株式等売渡請求の差し止めを求めるのであれば,早急に仮処分の申し立てを行う必要があるといえます。

    ? 売買価格の決定の申立て(法179条の8)
     また,売渡株式の売買価格に不服がある売渡株主等は,取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に,裁判所に対し,その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます。

    ? 売渡株式等の取得の無効の訴え(法846条の2)
     株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部取得の無効は,訴えによってのみ主張することができることとされています(同条第1項)。提訴期間は,取得日から6か月間(対象会社が公開会社でない場合には,1年間)です。
     提訴権者は,取得日において売渡株主又は売渡新株予約権者であった者(同条第2項第1号),取得日において対象会社の取締役,監査役または執行役であった者並びに対象会社の取締役若しくは清算人(同項第2号)であり,被告は,特別支配株主です(法846条の3)。
     無効事由については,明示的な規定は設けられておらず,解釈に委ねられています。無効事由の具体例としては,①取得者の持株要件(法179条1項)の不足,②対価である金銭の違法な割当て(法179条の2第3項),③対象会社の取締役会・種類株主総会の決議の瑕疵(法179条の3第3項,法322条第1項第1号の2),④売渡株主等に対する通知・公告・事前開示書類の瑕疵・不実記載(法179条の4,179条の5),⑤取得の差止仮処分命令への違反(法179条の7)等であるとされ,⑥対価である金銭の交付の不履行が著しい場合,⑦対価金銭の額の著しい不当又は「締出し目的の不当」も無効原因となり得るとされています(江頭憲治郎著『株式会社法』282頁(有斐閣,第6版,2015年))。

    ? 役員への責任追及
     さらに,対象会社の取締役が株式等売渡請求の承認に際し,善管注意義務に違反して承認をした場合(例:売渡株主等の利益の配慮を怠り,売渡株式等の売買価格が相当でないにもかかわらず承認をした場合など)には,売渡株主等は,取締役に対し,第三者に対する損害賠償責任を追及することも考えられます。

    弁護士 西川 文彬

    こちらのコラムをご覧になりご相談をご希望の方は,弁護士西川までご連絡ください。

    直通電話 03-5215-7390

    メール  nishikawa@tajima-law.jp