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  • 2017/09/06 企業経営 グレーゾーン解消制度の利活用及び弁護士の利用方法(田島・寺西法律事務所)

    グレーゾーン解消制度の利活用及び弁護士の利用方法

    Q 腰に着用すると,筋肉の動作をサポートしつつ自動的に心拍数,体温,発汗量等を計測し,行動のアドバイスをするウェアラブル製品を考案したのですが医薬品医療機器等法の定める「医療機器」として規制を受けるかどうか,ビジネスを始める前に知る手段はあるでしょうか。


    A グレーゾーン解消制度を利用する方法があります。


    1 ビジネスモデルが法律に先行する場面の急増
     今日,既存の法律制定時には想定されていなかったビジネスモデルが急増しており,既存の法律の規制を受けるか明確でない場面が増えています。
    そうした場合に,事業者が法律を自己解釈して(あるいは法律による規制に気付けずに)ビジネスを始めてしまえば,ある程度軌道に乗ったところで所管省庁から法律違反を問われるなどして,ビジネスが頓挫する可能性もあります。

     そこで,ビジネスを本格的に始動させる前に,ビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか予め公的判断を得ておきたい,というニーズに応えたのが,グレーゾーン解消制度です。


    2 グレーゾーン解消制度
     グレーゾーン解消制度とは,事業者が新規に始動させようとするビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか,事業所管省庁を経由して,規制所管省庁に確認する制度です(産業競争力強化法第9条)。
     この制度の特長は,事業者が規制所管省庁に直接照会するのではなく,事業者が事業所管省庁に照会を申請し,それを受けて事業所管省庁が規制所管省庁に照会することにあります(「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き」(以下「手引き」といいます)参照)。
     通常,直接的な照会は事業者にとってハードルが高いことから,その点をクリアするために上記のような制度が設けられました。制度上,事業所管省庁が,事業者を実質的にサポートする役割を担うことになります。
     また,制度利用希望者は,一刻も早くビジネスを始動させたいとの考えから,通常,迅速な回答を求めています。このニーズに応えるべく,原則として申請後1か月以内に回答を受けられるとされています。
    制度の流れを整理すると,



    となります。施策がまとめられていく中で,事業者の負担を減らすことが重視された結果,このようにシンプルになっているようです。


    3 企業実証特例制度
     照会の結果,既存の法律による規制を受けると判断されてしまい,そのままではビジネスの始動が不可能な場合でも,企業実証特例制度の活用によってそれが可能となる場合があります。
     企業実証特例制度とは,一定の条件の下,特例的に障害となっている規制を受けずにビジネスをテストする制度で,いわば『企業単位の「特区」認定制度』です(経済産業省:METIジャーナル平成28年12・1月号)。

     企業実証特例制度においては「特例措置の提案」(同法第8条)と「新事業活動計画の認定」(同法第10条)の二段階の申請手続を経ることになります。

     第一段階の「特例措置の提案」においては,まず事業者が事業所管省庁に対し,とある規制に関する特例措置を整備してほしいと要望します。そして,事業所管省庁が,その内容が法の目的・趣旨に照らして適切であると判断される場合に,規制所管省庁と協議・検討し,規制所管省庁が,規制の特例措置を整備するか否か判断します。事業所管省庁が事業者の要望を受けてから,原則として1か月程で整備するか否かの回答を受けられます(手引き参照)。適法に規制を回避する土台作りのようなものです。
     もっとも,規制の特例措置が整備されても,それだけでは事業者はその特例措置を活用できません。特例措置を活用するには,第二段階の「新事業活動計画の認定」が必要となります。
     第二段階においては,まず事業者が新事業活動計画を事業所管省庁に提出します。そして,事業所管省庁が検討し,適切だと認めた場合,認定に先立ち,規制所管省庁に対し同意を求めます。それに対し,規制所管省庁は規制が求める安全性等の観点から検討を行い,適切であると認めた場合,認定に同意します(手引き参照)。認定に同意を得て初めて,特例措置を活用できます。

     なお,第一段階の規制の特例措置の提案を行っていない事業者でも,第二段階の新事業活動計画の認定を受ければ,他の事業者の提案によって設けられた特例措置を活用することが可能です(手引き参照)。他の事業者の提案で作られた土台の利用が可能ということです。


    4 公表されている情報
     平成29年7月21日に経産省より公表された,グレーゾーン解消制度及び企業実証特例制度の活用結果によれば,平成29年4月から6月の3か月間において経産省が申請を処理した件数は,グレーゾーン解消制度が8件(うち中小企業6件)であり,企業実証特例制度が0件のようです。昨年1年間をみれば,グレーゾーン解消制度が24件,企業実証特例制度が1件のようです。
    グレーゾーン解消制度はそれなりに利用されているものの,企業実証特例制度は,今後の更なる活用が期待されるところです。

     グレーゾーン解消制度においては,手引き上,個別の回答結果がそのまま公表されることはなく,もっとも類似の申請が複数あり,回答内容につき類型化・抽象化が可能な場合は,事業所管省庁又は規制所管省庁において,ガイドラインのような形で公表される場合もある,とされています。
     もっとも,法令の解釈に関する照会及びそれに対する回答は,他の事業者にとっても価値ある情報です。それも踏まえてか,例えば経産省においては,事業者と調整したうえで,企業秘密等の企業の機微にかかわらない範囲で,制度利用事例が公表されています(企業実証特例制度及びグレーゾーン解消制度の活用実績)。


    5 医療・ヘルスケア分野に関連する法律
     上記活用実績の中では,医療・ヘルスケア分野のビジネスに関する制度利用が散見されます。
     いくつか例を挙げれば,
    ①フィットネスクラブを運営する企業による,運動機能の維持など生活習慣病の予防のための運動指導に関す
     る照会
    ②簡易血液検査サービスを行う中小企業による,血液の簡易検査とその結果に基づく健康関連情報の提供に関
     する照会
    ③薬局店舗を展開する企業,口腔内の衛生用品等を提供する企業による,薬局店頭における唾液による口腔内
     環境チェックの実施に関する照会
    ④歯ぐきのセルフメディケーションサービスを提供する企業による,唾液を用いた歯ぐきの健康の郵送検査
     サービスに関する照会
     などです。
     制度利用が多い理由は,後述のとおり法律の解釈の難しさもさることながら,人の生命・身体に関するビジネスであり,内在するリスクが大きいこと,またそういったリスクヘッジに対する事業者側の意識が総じて高いことにあるのではないかと考えられます。
     わざわざ医療機関に出向かずとも,身近な場所で,あるいは郵送等の手段で,自身の健康状態を把握できるサービスを提供するビジネスがトレンドの一つであると考えられます。

     医療・ヘルスケア分野において規制を受け得る法律として,医師法や医薬品医療機器等法等が挙げられます(後者の正式名称は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」であり,旧薬事法が改正されたものになります)。

     医師法に関しては,新規ビジネスモデルにおけるサービスの「医業」「医行為」該当性等が照会されています。
    「医業」は「当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を,反復継続する意思をもって行うこと」と解されています(医師法第17条及び平成17年7月26日厚労省医政局長通知)。
     しかし,同通知にも「ある行為が医行為であるか否かについては,個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」と記載されているように,同通知を前提としても医行為該当性の判断はなかなか難しいでしょう。

     医薬品医療機器等法に関しては,新規ビジネスモデルにおける製品の「医療機器」「医薬品」該当性等が照会されています。
     「医療機器」は「人若しくは動物の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること,または人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)であって,政令で定めるもの」と定められており(医薬品医療機器等法第2条4項),施行令の別表第一に具体的に列挙されています。誰が見ても治療器具だと分かる物から,体温計,コンタクトレンズ,補聴器,家庭用電気治療器(いわゆるマッサージ器)まで含まれます。
     しかし,該当性判断を詳細に定めた通知等が多く,全てを把握するには労力を要し,また通常,新規ビジネスモデルにおける製品は列挙されている物に含まれていないことが多いでしょう。
     同じ様に「医薬品」は「日本薬局方に収められている物」(1号),「人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く)」(2号),「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品,化粧品及び再生医療等製品を除く)」と規定されていますが,その該当性の判断は簡単ではありません。
     その他,同法においては「医薬部外品」「化粧品」も定義づけられていますが,新規ビジネスモデルにおける製品がこれらに該当するかは,同様に判断が難しいところです。


    6 IoT分野に関連する法律
     IoTデバイスが急増し,既存のものに様々な機能が付加された製品が登場しています。それに伴い,それらに関する照会も増えているように見受けられます。
     この分野において規制を受け得る法律としては,電気用品安全法,消費生活用製品安全法等が挙げられます。

     電気用品安全法に関しては,「電気用品(特定電気用品を含む)」が規制対象であり,これに該当すると,事業の届出が必要になる等の様々な規制を受ける可能性があります。
     「電気用品」については,上記の「医療機器」同様,施行令別表でそれぞれ具体的に列挙されています。また,「電気用品の範囲等の解釈について」(平成26年12月22日商局第1号)「電気用品安全法 法令業務実施ガイド(第3版)」(平成29年1月1日)等の通達等も公表されています。もっとも,「医療機器」同様,通達等の内容の把握には一定の労力を要することになります。また,人の生命・身体に危害を及ぼす可能性があるからこそ規制されており,該当するとなれば必ず規制に従う必要があるので,慎重な判断が求められます。

     消費生活用製品安全法に関しては,「消費生活用製品」が規制対象であり,これに関する事故が発生した場合について規制されているほか,「特定製品(特別特定製品を含む)」「特定保守製品」に該当すると,電気用品安全法と似たような規制を受けます。また,「消費生活用製品安全法特定製品関係の運用及び解釈について」(平成22年12月10日商局第1号)等の通達等も公表されています。
     該当する物はそれほど多くありませんが,圧力鍋,乳幼児ベッド,ライター等が含まれており,例えば荷重の情報等から乳幼児の行動をデータ化して,健康状態を把握したり危険を防止したりするベッド様の製品を開発すれば,規制を受けるかもしれません。


    7 専門家の利用の意義
     グレーゾーン解消制度の利用に当たっては,具体的に何を確認したいのか整理しておく必要があります。「規制の根拠となる法令がどのような規定となっており,そのうち,どの部分の解釈が明らかでないのか,新事業活動が規制の対象となるのか否かが判断できないポイントや,それによって新事業活動を行うことが難しい理由に加え,そのことに関する自己の見解を記載」することが求められているからです(手引き参照)。
      
     注意して頂きたいのは,照会結果は,照会時に存在するあらゆる法律の規制を受けるか否かについての回答ではないという点です。制度利用に当たっては上記のとおり,どの法律の(さらにはどの条文のどの文言による)規制を受けるか,ということを特定する必要があり,必然的に回答もその法律に(さらにはその条文のその文言解釈に)限定されます。したがって,事業者において,どの法律について照会すべきか予め精査する必要があります。
     もっとも,新しいビジネスモデルにおけるサービス・製品が革新的であればその分,想定していなかった法律による規制を受ける可能性が拡大します。そうした場合,どの法律に留意すべきか(そしてどの法律について照会すべきか)把握するうえで,弁護士を利用すれば時間を短縮できます。5や6で上記したとおり,判断が難しい場面が多々存在するわけですが,そもそもどの法律の規制に留意する必要があるのか,その見極めに時間を要することがあるからです。

     もちろん,上記のとおり,事業所管省庁が事業者に寄り添い,実質的にサポートする体制が整えられているので,漠然とした法律上の不安があるという段階でも,事業所管省庁にアクセスすれば親身になってサポートして頂けるものと思います。
    ただし,申請に対する回答は原則1か月以内とされていますが,事業所管省庁に対する事前相談期間はこれに含まれません。そこで,事業所管省庁に相談に行く前に弁護士を利用して,ビジネスモデルの法的リスクを洗い出しておけば,事前相談を踏まえても長くはかからないでしょう。
     また,規制を受けるか否かの判断が微妙であることが窺われるケースにおいて,法的観点から少しでも有利になるように自己の見解を記載したいと考える場合,弁護士であれば公的立場からではなく,より事業者に寄り添った立場からアドバイスすることが可能です。
     
     予め法的リスクを排除できれば,それだけビジネスの展開に注力できると思います。

    田島・寺西法律事務所


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  • 2016/02/05 企業経営 特別支配株主の株式等売渡請求(西川文彬弁護士)

    特別支配株主の株式等売渡請求

    Q 平成26年会社法改正により,特別支配株主の株式等売渡請求という制度が新設されたと聞きました。どのような制度か教えてください。



    A この制度は,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する株主(特別支配株主)が,対象会社に対して一定の事項を記載した通知を行い,対象会社において,その承諾や売渡株主に対する通知・公告等の手続を経ることにより,特別支配株主が少数株主の有する株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債を指します。以下,同じ。)の全部を,少数株主の個別の承諾なく,直接,金銭を対価として取得すること(キャッシュアウト)を可能にするものです。

    1 制度の概要

     この制度は,特別支配株主が対象会社の株主総会決議を経ることなく,少数株主の有する株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債を指します。以下,同じ。)の全部を,少数株主の個別の承諾なく,少数株主から直接,金銭を対価として取得すること(キャッシュアウト)を可能にするものです。
     キャッシュアウトの利点としては,長期的視野に立った柔軟な経営の実現,株主総会に関する手続きの省略による意思決定の迅速化,株主管理コストの削減が挙げられます(坂本三郎編著『一問一答平成26年改正会社法』251頁(商事法務,第2版,2015年))。
     この制度により,これまでのキャッシュアウトの手法である全部取得条項付種類株式の取得において,常に,株主総会の特別決議が要求されていたこととは異なり,機動的なキャッシュアウトが可能になりました。

    2 要件

    ? 特別支配株主
     特別支配株主とは,対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する者をいいます(会社法(以下,「法」といいます。)179条1項)。
     議決権保有割合の算定に当たっては,特別支配株主となる者が自ら保有する議決権に加えて,その者の特別支配株主完全子法人(特別支配株主となるものが発行済株式の全部を有する株式会社その他これに順ずるものとして法務省令で定める法人)が有する議決権も合算されます(同条1項)。
     また,上記,議決権保有割合は,対象会社に対し,株式等売渡請求をする旨を通知するとき,その承認を受けるとき,売渡株式等の全部を取得する取得日において,満たしている必要があります(法179条の3第1項,法179条の9第1項)。

    ? 対象会社
     対象会社は,公開会社に限られず,公開会社でない場合にも利用できることとされています。なお,清算株式会社は,対象会社となることはできません(法509条第2項)。

    ? 対象となる株式等
     株式売渡請求は,対象会社の株主(対象会社及び特別支配株主は除きます。以下,売渡請求の対象となる株主を「売渡株主」といいます。)の全員に対して行わなければなりません(法179条第1項本文)。なお,既に特別支配株主の支配が及んでいる特別支配株主完全子法人については,特別支配株主が,同法人に対して株式売渡請求をしないことを選択することができます(同条第1項ただし書,法179条の2第1項第1号)。
     そして,株式売渡請求は,売渡株主の有する対象会社の株式の全部(種類株式発行会社であれば全種類株式)について行わなければなりません(法179条第1項)。
     また,特別支配株主は,株式売渡請求と併せてする場合に限って,新株予約権者に対して,新株予約権の売渡請求をすることもできます(同条第2項)。なお,この請求が新株予約権付社債に付された新株予約権の場合,当該新株予約権の募集事項に別段の定めがある場合を除き,社債部分についても売渡請求をしなければなりません(同条第3項)。

    3 手続 

    ? 手続の流れ
    ? 特別支配株主から対象会社への通知
     特別支配株主は,株式等売渡請求をしようとするときは,対象会社に対し,株式等売渡請求の条件(売渡株主に当該売渡株式の対価として交付する金額又はその算定方法,株式を取得する取得日等)を定め,対象会社に通知する必要があります(法179条の2,同法179条の3)。

    ② 対象会社による承認
     特別支配株主は,株式等売渡請求につき対象会社の承認を受けなければなりません。対象会社が取締役会設置会社である場合は,承認するか否かの決定は,取締役会の決議によらなければなりません(法179条の3第1項)。
     なお,対象会社が種類株式発行会社である場合,株式等売渡請求の承認が,種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは,定款の定めがない限り,当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要になります(法322条第1項第1号の2,同条第2項)。

    ③ 売渡株主等に対する通知・公告等
     対象会社は,特別支配株主の株式等売渡請求を承認したときは,取得日の20日前までに,売渡株主等(売渡株主及び売渡新株予約権者)に対し,株式等売渡請求を承認した旨,特別支配株主の氏名又は名所及び住所,株式等売渡請求の条件等を通知しなければなりません(法179条の4第1項第1号)。
     また,売渡株式の登録株式質権者及び売渡新株予約権の登録新株予約権者に対しても,株式等売渡請求の承認をした旨を通知する必要があります(同項第2号)。
     これらの通知のうち,売渡株主に対するもの以外については,公告をもって代えることができるとされています(同条第2項)。

    ④ 事前開示手続
     対象会社は,売渡株主等に対する通知又はこれに代わる公告のいずれか早い日から取得日後6か月(対象会社が公開会社ではない場合,取得日後1年)を経過するまでの間,特別支配株主の氏名等や株式等売渡請求の条件等を記載した書面等をその本店に備え置き,売渡株主等による閲覧等に供しなければなりません(法179条の5)

    ⑤ 特別支配株主による売渡株式等の取得
     株式等売渡請求をした特別支配株主は,取得日に,売渡株式等の全部を取得します(法179条の9第1項)。
     なお,特別支配株主が取得した株式が譲渡制限株式の場合であっても,譲渡承認があったものとみなされるため,実際に譲渡承認を得る必要はありません(同法第2項)。

    ⑥ 事後開示手続
     対象会社は,取得日後遅滞なく,株式と売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面等を作成し,取得日から6か月間(対象会社が公開会社ではない場合,取得日から1年間),当該書面等をその本店に備え置くととともに,取得日に売渡株主等であったものによる閲覧等に供しなければなりません(法179条の10,会社法施行規則33条の8)。

    ? 撤回
     特別支配株主は,株式等売渡請求について対象会社の承認を受けた後は,取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限って,売渡株式等の全部について,株式等売渡請求の全部を撤回できます(法179条の6第1項)。
     対象会社が撤回の承諾をしたときは,遅滞なく,売渡株主等に対し,当該撤回を承諾した旨を通知又は公告しなければなりません(同条第4項,第5項)。対象会社がこの通知又は公告をした時点で,株式等売渡請求は,売渡株式等の全部について撤回したものとみなされます(同条第6項)。

    ? 備考
     対象会社が株券発行会社である場合は,株式等売渡請求の承認に際して,株券の提出に関する通知及び公告を行う必要があります(法219条第1項第4号の2)。
     また,対象会社が上場会社の場合,社債株式振替法,金融商品取引法,有価証券上場規程等にも配慮する必要があります。
       
    4 売渡株主等による対抗措置

    (1) 売渡株式等の取得をやめることの請求(法179条の7)
     売渡株主は,株式売渡請求が法令に違反する場合(同条第1項第1号),対象会社が売渡株主に対する通知若しくは事前開示手続を行う義務に違反した場合(同項第2号),売渡株式等の売買価格等が著しく不当である場合(同項第3号),売渡株式等の全部の取得をやめることの請求ができます。
     また,株式売渡請求に併せて新株予約権売渡請求がされており,新株予約権売渡請求が法令に違反する場合などの差止請求の要件が認められる場合には,売渡新株予約権者にも,売渡株式等の全部の取得をやめることの請求が認められます(同条第2項)。
     もっとも,売渡株主等が取得日の20日前に通知を受けるとして,準備期間及び審理期間が20日間しかないことからすれば,訴訟で差止の判決を取得することは時間的に困難です。株式等売渡請求の差し止めを求めるのであれば,早急に仮処分の申し立てを行う必要があるといえます。

    ? 売買価格の決定の申立て(法179条の8)
     また,売渡株式の売買価格に不服がある売渡株主等は,取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に,裁判所に対し,その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます。

    ? 売渡株式等の取得の無効の訴え(法846条の2)
     株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部取得の無効は,訴えによってのみ主張することができることとされています(同条第1項)。提訴期間は,取得日から6か月間(対象会社が公開会社でない場合には,1年間)です。
     提訴権者は,取得日において売渡株主又は売渡新株予約権者であった者(同条第2項第1号),取得日において対象会社の取締役,監査役または執行役であった者並びに対象会社の取締役若しくは清算人(同項第2号)であり,被告は,特別支配株主です(法846条の3)。
     無効事由については,明示的な規定は設けられておらず,解釈に委ねられています。無効事由の具体例としては,①取得者の持株要件(法179条1項)の不足,②対価である金銭の違法な割当て(法179条の2第3項),③対象会社の取締役会・種類株主総会の決議の瑕疵(法179条の3第3項,法322条第1項第1号の2),④売渡株主等に対する通知・公告・事前開示書類の瑕疵・不実記載(法179条の4,179条の5),⑤取得の差止仮処分命令への違反(法179条の7)等であるとされ,⑥対価である金銭の交付の不履行が著しい場合,⑦対価金銭の額の著しい不当又は「締出し目的の不当」も無効原因となり得るとされています(江頭憲治郎著『株式会社法』282頁(有斐閣,第6版,2015年))。

    ? 役員への責任追及
     さらに,対象会社の取締役が株式等売渡請求の承認に際し,善管注意義務に違反して承認をした場合(例:売渡株主等の利益の配慮を怠り,売渡株式等の売買価格が相当でないにもかかわらず承認をした場合など)には,売渡株主等は,取締役に対し,第三者に対する損害賠償責任を追及することも考えられます。

    弁護士 西川 文彬

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  • 2015/08/28 企業経営 上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~(西川文彬弁護士)

    上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。・・・

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,A社の役員もB社の株式を所有しておりません。このような場合に公開買付けを行う必要があるのでしょうか。

     また,A社の総株主の議決権の過半数を有する親会社(C社)がB社の株式を保有していたとしたら,結論に影響を与えますでしょうか。

     その他,金融商品取引法上気にしておくべきことはありますか,概要だけでも教えてください。
     ※B社が有価証券報告書提出義務のある発行者であることを前提としております。
     ※知人数名は,いずれも会社関係者ではないことを前提としております。

    A 金融商品取引法においては,一定の場合に,公開買付けを行うことが義務付けられておりますが,株券等所有割合が5%超となる買付けであっても,株券等所有割合の3分の1を超えない範囲での「著しく少数の者」からの買付けであれば,公開買付けは強制されません。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,知人数名(10人以下)から有償で譲り受けて株券等所有割合が10%になる者であるため,公開買付けは強制されません。

     もっとも,C社は,A社の特別関係者に該当するため,公開買付けが強制されるかの判断において,A社はC社が所有しているB社の株式も合算しなければなりません。本件において,買付け等開始時のC社の株券等所有割合と買付け等を行った後におけるA社の株券等所有割合の合計が3分の1を超えるのであれば,公開買付けを行わなければならないことになります。

     また,発行済株式総数の5%を超えて保有すること(「大量保有者」と呼ばれます。)になるため,大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要があります。
     さらに,A社は,B社の主要株主(総株主等の議決権の10%以上の議決権を保有している株主)となるため,インサイダー取引の未然防止のため,売買報告義務,短期売買利益提供義務が課せられ,空売りが禁止されるなどの規制を受けることになります。

    1 公開買付け

    (1) 概要

     公開買付けとは,「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。)の申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うことをいう。」とされています(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)27条の2第6項)。

     そして,金商法においては,株主および投資者への適正な情報開示を図り,また,株主などに株券等の平等な売却機会を与える必要があることなどから,一定の要件に該当する場合には,公開買付けを行うことが義務付けられています(金商法27条の2第1項)。

    (2) 公開買付けが強制される取引

     具体的には,有価証券報告書提出義務がある発行者の株券等について,発行者以外の者が行う買付等であって,以下に該当するものは,適用除外に該当しない限り,公開買付けによらなければならないとされています。
     
    ① 株券等所有割合(金商法27条の2第8項1号,以下同じ)が5%超になる市場外での買付け(同条第1項1号)

     本号においては,著しく少数の者からの買付け等(金融商品取引法施行令(以下,「令」といいます。)6条の2)などは対象外とされており,また,特別関係者(後述)がある場合には,その者の所有割合を加算する必要があります。

    ② 著しく少数の者からの買付け等で株券等所有割合が3分の1超になる買付け(同項2号)

     著しく少数の者」とは,10名以下とされ,当該買付けの際の相手方の人数と,それ以前の60日間に市場外で買付け等(一定の買付け等は除かれます。)を行った際の相手方(一定の者は除かれます。)の人数を合計した延べ人数で判断されます(令6条の2第3項)。

    ③ 取引所金融市場における有価証券の売買等であって競売買の方法以外の方法で内閣総理大臣が指定したもの(特定売買等)によって,株券等所有割合が3分の1超になる買付け等(同項3号)
     
     特定売買等として,各取引所の立会外取引が指定されています(平成17年7月8日金融庁告示第53号)。

    ④ 市場内外の取引を組み合わせた急速な買付け等(同項4号)

     本号は,32%までの株式を市場外で買付け,その後,市場内で2%の株式を買い付けたり,第三者割当てを受けるといった態様を規制するために設けられました。

     具体的な規制内容は,以下のとおりです(令7条2項ないし4項,発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下,「他社株府令」といいます。)4条の2第1項,2項)。
      
     ア)3か月以内に,株券等の総数の10%超の株券等の取得を行い,
     イ)上記ア)の取得のうち,株券等の総数の5%超の株券等の取得が市場外(公開買付けを除く)
       または立会外取引によるものであって,
     ウ)取得後における株券等所有割合が3分の1超となる場合

    ⑤ 他者の公開買付け期間中における競合買付け等(同項5号)

     公開買付者は,別途買付の禁止により公開買付け以外の方法で買付けを行うことができないこととのバランスや投資者がいずれの者によって会社を支配させる方が相当かを判断できるようにする必要があるという観点から設けられた規制です。

     具体的には,他者が公開買付けを行っている期間中に,対象者の株券等の3分の1超を所有している者が5%を超える株券の買付け等(市場内外を問いません)を行う場合には,公開買付けによらなければならないとされています(令7条5項,6項,他社株府令4条の2第3項)。

    ⑥ 上記①ないし⑤に準ずるものとして政令で定める株券等の買付け等(同項6号)

     具体的には,5%超基準から除外されるPTS(私設取引システム)における上場有価証券の買付等(令7条7項1号),実質基準特別関係者を加算して4号を適用した場合の買付等(令7条7項2号)が政令で定められています。

    (3) 特別関係者
      
     復数の者が共同して対象者の株券等の買付けを行う場合があることを考慮して,公開買付けの要否を判断するにあたっては,買付者の株券等所有割合に買付者の特別関係者の株券所有割合を加えて算定されます(金商法27条の2第1項1号)。

     そして,特別関係者は,形式基準の特別関係者(同条第7項1号,令9条)と実質基準の特別関係者(金商法27条の2第7項2号)に区分されております。

     形式基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」(同項1号)とされ,金融商品取引法施行令9条において詳細に規定されております。

     具体的には,買付者が法人の場合,その役員(令9条2項1号),買付者が他の法人に対して特別資本関係(当該法人等の総株主等の議決権数の20%以上の株式又は出資を自己または他人名義で所有する関係)を有する場合における当該他の法人等及びその役員(同項2号)などが挙げられます。

     実質基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者との間で、共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、若しくは当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使すること又は当該株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡し、若しくは譲り受けることを合意している者」(同項2号)とされ,合意の時点で特別関係者になるとされています。

    (4) 適用除外

     上記①から⑥に該当して,投資者保護などの観点から,公開買付けによる必要性の低いものなどについては,適用除外とされています(金商法27条の2条第1項ただし書,令6条の2)。

     具体的には,権利行使による買付け等の適用除外(新株予約権の行使により株券を取得する場合など),関係者からの買付け等の適用除外(1年間継続して買付者の形式基準の特別関係者である者から行う株券等の買付けなど),25名未満のすべての株主の同意がある場合の適用除外などが挙げられます。

    (5) 小結

     今回,A社は,B社の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けるということであり,買付後のA社の株券等所有割合が5%を超える場合(上記①)に該当するとも思われますが,上記①においては,「著しく少数の者からの取得」は除外されており,今回A社が買い付けるのは,10名以下の知人数名であることから,上記①には該当しません。また,A社の株券等所有割合は10%になるため,著しく少数の者から買付けであっても3分の1を超えない(上記②)ことから,公開買付けによる必要はないものと考えられます。

     また,A社の親会社であるC社は,A社を被支配法人(令9条5項)とするものであり,A社の特別関係人(令9条2項3号)であることから,公開義務の存否においては,A社はC社がB社の株券を有しているか,また,その数を確認する必要があるといえます。今回,C社の株券等所有割合を合算しても,3分の1を超えない場合には,公開買付けは不要ですし,反対に,3分の1を超えるようでしたら,公開買付けを行う必要があります(上記②)。
     
    2 大量保有報告

     上場会社等の発行する株券等の保有者は,その株券等保有割合が5%を超えたとき(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く),5営業日以内(初日は算入しない)に大量保有報告書を財務局長等に提出しなければなりません(金商法27条の23第1項,株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下,「大量保有府令」という。)2条)。

     さらに,大量保有報告書の提出義務者は,大量保有者となった日後に株券等保有割合が1%以上増減した場合,(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く)その他の大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更があった場合には,その日から5営業日以内(初日は参入しない)に変更報告書の提出義務があります(金商法27条の25第1項,大量保有府令9条)。

     本件では,A社は,B社の発行する株式を株券等保有割合5%を超えて保有することになりますので,大量保有報告書の提出が義務付けられ,また,変更報告書の提出事由が生じた場合には,変更報告書の提出義務を負います。

    3 インサイダー取引未然防止のための主要株主等に対する規制

    (1) 売買報告書

     上場会社等の役員及び主要株主は,自己の計算において,当該上場会社等の特定有価証券等の買付け等又は売付け等をした場合には,適用除外となる場合を除き,その売買等に関する報告書を翌月15日までに財務局長等に提出しなければなりません(金商法163条,令43条の10)。

     この規制は,インサイダー取引の間接的な防止との制度趣旨の下,主要株主の上場会社等への短期売買利益の提供義務の実効性を確保する観点から,行政当局が主要株主による自社株の売買を把握できるようにするものになります。

    (2) 短期売買利益の返還
     
     上場会社等の役員または主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため,上場会社等の役員または主要株主がその特定有価証券等について,自己の計算において6か月以内の短期売買取引(買付け等後6か月以内に売付け等または売付け等後6か月以内に買付け等)をして利益を得た場合には,適用除外となる場合を除き,当該上場会社等は,その利益を上場会社等に提供すべきことを請求できます(金商法164条)。

    (3) 空売りの禁止

     株価が下落するような内部情報を知ったものが不当な利益を得るために利用する恐れのある特殊な取引を禁止することにより,間接的にインサイダー取引の防止を図るため,上場会社等の役員または主要株主による一定の空売りが禁止されています(金商法165条)。

    田島総合法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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  • 2015/08/21 企業経営 共有に属する株式の権利行使(進藤亮弁護士)

    共有に属する株式の権利行使

    Q 以前,我が社のある株主が亡くなりました。その株主には3名の相続人がいるようなのですが,遺産分割協議が行われたかどうかは不明です。かかるところ,株主総会において,株主の相続人3名のうちの2名の連名で,議決権行使書面が送られてきました。我が社として,この議決権行使の取扱いについて,気を付けることはありますでしょうか。

    A
     まず,会社としては,亡くなった株主の相続人に対して,株式の帰属関係を確認することが重要です。

     株式が誰に帰属しているかが明らかになれば,株式が帰属している者に議決権を行使させれば足ります。しかし,本件の場合,2名の連名で議決権を行使しようとしているため,未だ株式が共有状態であることが予想されます。

     未だ遺産分割が終了していないなどの理由で,株式が共有されている場合,会社としてどのように対応すればよいか問題となります。
     
     株式が共有に属する場合における株式の権利行使については,会社法第106条に定めがあります。
     
     同条によると,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない」とされています。

     すなわち,会社としては,株式の共有者からの権利行使者に関する通知において指定されている者に権利行使させることが原則です。

     したがって,会社としては,株式の共有者に対して,株式に関する権利行使者を指定して会社に通知するよう求め,当該指定された者に権利行使させるべきであると考えられます。

     ところで,会社法第106条但書には,「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない」との定めがあります。

     そこで,例えば,本件で遺産分割協議が未了で,株式が相続人3名の共有に属するという場合,会社は,株式の共有者のうちの一部の者により,会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま権利が行使されたとしても,同条但書の同意により,当該権利行使を適法なものとすることができるのか,ということが問題となります。

     この会社法106条但書の株式会社の同意によりいかなる権利行使が適法なものとなるのかについては,学説が分かれている問題であったところ,近時,最高裁判決が出ました(最判平成27年2月19日)。

     上記最高裁判決は,まず,会社法106条本文は,準共有株式についての権利行使の方法について民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(民法264条但書)を設けたものと解されるとした上で,会社法106条但書は,株式会社が当該権利の行使に同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解しました。

     そして,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条但書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではない,と判示しました。

     すなわち,上記判示からすると,会社法106条本文に基づく指定および通知がない場合であっても,民法の共有に関する規定に従って株式に関する権利が行使され,これにつき株式会社の106条但書の同意がなされることにより,当該権利の行使は適法となると考えられます。

     それゆえ,会社として106条但書に定める同意により株式の共有者による権利行使を認める場合には,株式の共有者が誰なのか,株式の共有者による権利行使が,保存行為,処分行為,又は管理行為のいずれに該当するのか,該当する行為に要求される民法の共有に関する規定に従って権利行使されているのか,という点に留意する必要があるでしょう。

     ちなみに,上記最高裁判例の事例においては,株主総会における「議決権の行使」の適法性が問題となったのですが,最高裁は「議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である」と判示しました。

     その上で,本事案においては,議決権の行使が各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられていないため,会社が106条但書による同意をしても,議決権行使は適法となるものではない,と判断しました。

     したがって,本件では,議決権の行使が問題となっていることから,特段の事情がない限り管理行為となるので,当該議決権の行使が,共有者の持分の価格に従って,その過半数で決せられたものであることが確認できれば,適法な権利行使と認めてよいと考えられます。

    田島総合法律事務所
    弁護士 進藤 亮


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  • 2015/07/24 企業経営 株式会社における自己株式の合意取得について(西川文彬弁護士)

    株式会社における自己株式の合意取得について

    Q 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,いずれの機関による決議が必要になるのでしょうか。また,市場において行う取引で上場株式である自己株式を取得することを検討していますが,具体的にはどのような取引があるのでしょうか。


    A 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会決議による必要があります(会社法第156条第1項)。しかし,一定の場合には,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能です。  

     上場株式である自己株式(以下,「上場自己株式」といいます。)を市場において行う取引(以下,「市場取引」といいます。)によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。
    ※本稿は,東京証券取引所における市場取引を前提としております。



    1 自己株式の取得の規制

     会社が株主との合意に基づいて自己株式を取得することは,以下の弊害が生ずるおそれがあることから,その取得価額は株主への分配可能額の範囲内でなければならず(財源規制),また,株主の平等等を確保するため,法が定める手続等の規制に従わなければなりません(手続規制)。

     弊害としては,

    ①資本金・準備金を財源とする取得は,株主への出資払戻と同様の結果を生じ会社債権者の利益を害する(資本の維持),

    ②株主への分配可能額を財源とする取得でも,流通性の低い株式を一部の株主のみから取得すると株主相互間の投下資本回収の機会の不平等を生じさせ,また取得価額いかんによっても残存株主との間の不公平を生じさせる(株主相互間の公平),

    ③反対派株主(グリーンメーラー等を含む)から株式を取得することにより取締役が自己の会社支配を維持する等,経営をゆがめる手段に利用される(会社支配の公正),

    ④相場操縦(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)第159条),インサイダー取引(金商法第166条)などに利用される(証券市場の公正)

    等が挙げられています(江頭憲治郎著『株式会社法』246頁(株式会社有斐閣,第6版,2015年))。

    2 自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合の決議  

     株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会の決議によって

    ①取得する株式の数

    ②株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額

    ③株式を取得することができる期間(1年を超えることはできません)

    を定めることが必要であり(会社法第156条第1項),その上で,取締役会において,取得価格等を決定することになります(会社法第157条,取締役会設置会社の場合)。

     しかし,以下の場合には,上記弊害がそれほど懸念されないことから,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能とされます。

    (1)取締役会設置会社における子会社からの取得(会社法第163条)

    (2)株式会社が市場において行う取引又は公開買付けの方法による取得(会社法第165条)※取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めが必要

    (3)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社において,株主全員から譲渡しの申し込みを受ける場合の取得(会社法第459条第1項第1号)  

     なお,特定の株主から取得する場合(株主全員に譲渡の勧誘をする方法(会社法158条,同159条),市場取引等(会社法165条)以外の方法により取得する場合)には,上記①から③までの事項のほか,その株主の氏名も株主総会の決議による必要があります(会社法160条1項,同309条2項2号)。 

     特定の株主から取得する場合には,剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社(上記(3))も株主総会決議による必要がある点に注意が必要です。

    3 上場自己株式を市場取引によって取得する方法

     上場自己株式を市場取引によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。 

    (1) オークション市場における単純買付けによる方法   

     オークション市場における単純買付けとは,自己株式の取得枠の決定について公表した上で,オークション市場において単純買付けを行う場合を指します。なお,個々の取得をした場合には,速やかに,取得対象の株式の種類,株式の総数,取得価額の総額を開示することとされています。   
     上場会社がオークション市場における単純買付けを行う場合,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下,「有価証券取引規制府令」といいます。)により,1日に2以上の金融商品取引業者等に対して,株式の買付等を行わないこと(有価証券取引規制府令第17条第1号),価格規制(同条第2号),数量規制(同条第3号)などの適用を受けます。

    (2) 事前公表型による方法   

     事前公表型の自己株式取得とは,買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表した上で,オークション市場,終値取引(ToSTNeT-2)又は自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)において,自己株式取得のための買付けを行うものを指します。

     事前公表型のオークション市場における買付け及び終値取引並びに自己株式立会外買付取引は,有価証券取引規制府令第23条(取引の公正の観点から適当と認められる方法)の要件を満たす買付け方法となっており,同府令第17条から第20条の適用が除外されます。

     ここで,事前公表型のメリットは,

    ①日々の株価等の動向をみながら機動的な買付けが可能であり,また,公開買付け等と異なり,法定公告が求められることがないためコスト・メリットが高い。

    ②株主からまとまった数量の買付けを行うことが可能。

    ③インサイダー取引規制や相場操縦規制の問題はディスクロージャーにより対応。

    ④東証における売買制度の利用により,他の株主の取引機会を確保し,取引の公正性や透明性を確保。

    とされ,加えて,事前公表型の終値取引(ToSTNeT-2)及び自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)については,

    ①既に決定した価格で取引が行われるため,あらかじめ買付(株主にとっては売付)代金が確定。

    ②ToSTNeT-2 では時間優先の仕組み,ToSTNeT-3 では取引参加者間でのあん分比例の仕組みにより,他の株主の取引機会を確保。

    ③既に決定した価格で,かつ,立会時間外の取引のため,マーケットに直接的なインパクトを与えることはない。

    というメリットがあるとされています(『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』8頁(株式会社東京証券取引所,改訂版,2015年)。

     以下,各買付方法の概要をご説明いたします。

    ① 終値取引(ToSTNeT-2)による買付け   

     東証の立会市場以外の市場(以下,「ToSTNeT 市場」といいます。)における売買で,立会市場で決まった最終値段で,立会時間外に売り注文と買い注文を集めて取引を成立させるものです。

     自己株式取得は午前8 時20 分から8 時45 分の前日最終値段を利用した取引で行われます。

    ② 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け   

     東証のToSTNeT 市場における売買であり,終値取引(ToSTNeT-2)と異なり,自己株式取得のための売買のみが行われるものです。具体的には,自己株式取得のための買付けを行おうとする日の前営業日に,買付会社から買付けの委託を受けた証券会社が東証に届出(銘柄,買付数量,買付値段等)を行ったうえで,買付日の午前8 時から8 時45分まで売り注文を集めて買付会社の買い注文との間で取引を成立させるものです。

     買付値段は前営業日の立会市場における最終値段(最終気配値段を含む。買付日が配当落等の期日である場合や,前営業日に最終値段(最終気配値段を含む)がない場合は買付日における当該銘柄の基準値段)となります。

     終値取引と異なり,買い注文が買付会社の注文に限定されています。

    また,信用取引の利用はできません。

    ③ オークション市場における買付け 

     事前に買付内容を公表した上で,東証のオークション市場を利用して買付けを行うものです。

     有価証券取引規制府令23条において,事前公表型のオークション市場における買付けでは,前日終値以下の価格(成行注文禁止)で発注することとされています。

     なお,オークション市場では,需給動向によって株価が決定し,売買が成立していくため,発注価格を上回る値段で株価が推移した場合には,結果としてその日に買付けが行えない可能性も指摘されています(前掲『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』12頁)。

     以上,自己株式の取得における手続規制からの側面(授権決議を行う機関,市場取引の内容)について概説いたしましたが,一般的に,自己株式の取得は,その重要性から厳格な手続が要求されています。また,上場企業においては,金融商品取引法における規制も存在しますので,自己株式の取得及び取得方法は慎重に決定する必要があります。

    田島総合法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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