コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2017/09/28 労働問題 今だからこそ気を付けたいパワハラ、早めに弁護士に相談を!(遠藤啓之弁護士)

    今だからこそ気を付けたいパワハラ、早めに弁護士に相談を!

    パワーハラスメント(パワハラ)による被害を理由に会社に対する高額な請求がなされることがあります。この機会にパワハラについておさらいしてみたいと思います。


    1 パワハラとは
     パワハラについて、法的な明確な定義はありません。裁判例では、「パワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって、パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。」(東京地裁平成24年3月9日判決・労働法律旬報1788号30頁)としてパワハラを一般的に定義するものがある一方で、一般的定義をすることなく、具体的状況を認定して不法行為法上違法であると言えるかどうかによって判断するもの(東京高裁平成25年2月27日・労働判例1072号5頁、岡山地裁判決平成24年4月19日・労働判例1051号28頁、広島高裁松江支部判決平成21年5月22日・労働判例987号29頁など)や安全配慮義務違反があるとして債務不履行責任による損害賠償請求を認めるもの(名古屋地裁平成19年1月24日・判決労働判例939号61頁、東京地裁平成21年2月19日判決・労働判例982号66頁、大阪地裁平成22年2月15日・判時2097号98頁など)があります。
     また、平成24年1月30日付厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」によれば、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と定義されています。

    2 パワハラの類型
     厚生労働省の報告書や裁判例で、上司の部下である労働者に対する言動がパワハラとして不法行為法上違法とされ会社に使用者責任が成立する場合やそのような言動によって労働者に精神的・身体的苦痛が与えられ又は職場環境が悪化させられたことについて会社に職場環境配慮義務違反があるとされる類型には、次のようなものがあるとされています。
     ①上司の部下に対する直接的物理的暴力行為
     ②上司の部下に対する業務上必要な指導の範囲を逸脱した叱責
     ③上司の部下に対する人格・名誉への侮蔑的言動
     ④仲間はずれ・無視
     ⑤業務上遂行不可能なことの強要(過大な要求)
     ⑥業務上の合理性なく労働者の能力や経験よりも程度の低い仕事しか与えないこと(過少な要求)=いわゆる座敷牢、研修部屋などと言われたりもしています
     ⑦プライバシー事項への干渉・詮索
     ⑧嫌がらせ
     ⑨内部告発に対する報復

    3 パワハラの法的根拠(安全配慮義務)
     使用者である会社の社員・従業員に対するパワハラによる損害賠償責任の根拠は、雇用契約における使用者である会社の従業員に対する職場環境に関する安全配慮義務です。
     安全配慮義務については、もともとは、使用者である国の被用者である公務員に対する「国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務」として最高裁(小3)昭和50年2月25日判決・民集29巻2号143頁(以下「昭和50年最判」といいます。)によって認められました。
     その後、民間における雇用契約関係においても「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当である」とされています(最高裁(小3)昭和59年4月10日判決・民集38巻6号557頁(以下「昭和59年最判」といいます。))。
     安全配慮義務の根拠については、昭和50年最判が「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであ(る)」としています。
     現在では、平成20年3月1日施行の労働契約法により、法律上、使用者の労働者に対する安全配慮義務が明記されており(労働契約法第5条)、使用者は、労働契約上、労働者に対して安全配慮義務を負うことが明らかです。
     安全配慮義務の具体的な内容について、昭和50年最判は、「安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであ(る)」とし、昭和59年最判は「使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである」としています。
     そして、安全配慮義務違反の具体的な内容の主張及び立証責任については、「国が国家公務員に対して負担する安全配慮義務に違反し、右公務員の生命、健康等を侵害し、同人に損害を与えたことを理由として損害賠償を請求する訴訟において、右義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、国の義務違反を主張する原告にある、と解するのが相当である。」とされています(最高裁(小2)昭和56年2月16日判決・民集35巻1号56頁(以下「昭和56年最判」といいます。))。したがって、パワハラを受けたとする労働者が、具体的な事実がパワハラにあたることを主張立証しなければなりません。

    4 パワハラの法的構成
     パワハラ被害について安全配慮義務違反を理由に労働者が会社に対して損害賠償請求をする法的構成としては、債務不履行としての雇用契約上の安全配慮義務違反(民法第415条)、②パワハラをした上司・同僚を直接の不法行為者とし、会社をその使用者とする不法行為法上の使用者責任(民法第715条第1項)が考えられます。
     パワハラは、厚生労働省の報告書によると「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であり、これがパワハラを受けた労働者との関係で会社の債務不履行又は不法行為となるのは、会社がパワハラを受けた労働者に対する安全配慮義務に違反したと評価される場合です。
     上司の部下に対する指示、叱責等が「業務の適正な範囲を超えて」行われた場合、パワハラになります。
     パワハラをうけた労働者が会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求するには、パワハラを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等から職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為にあたることを具体的に主張・立証する必要があります。
     パワハラの結果生じる損害としては、
     ①身体に対する直接的暴力による損害(怪我の治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害が残った場合の逸失利益など)
     ②精神的苦痛を被ったことによる慰謝料、うつ病発症によって就労不能となった場合の休業損害、逸失利益
     ③自殺した場合の本人の慰謝料、逸失利益、遺族固有の慰謝料
    などが考えられます。

    5 労働者に特殊事情がある場合
     パワハラを受けた労働者がうつ病を発症した場合や、自殺した場合には、損害額が高額化する可能性がありますが、他方で、労働者側に特殊事情がある場合、パワハラとうつ病発症、自殺との因果関係が否定されたり、労働者の側にも心因的素因があったとして過失相殺が認められたりする可能性があります。
     関連して、長時間にわたる残業によりうつ病に罹患した労働者が死亡した事案で、会社の使用者責任を肯定しつつ、賠償額の決定にあたり、労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が損害の発生又は拡大に寄与した場合、労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様性として通常想定される範囲を外れるものでない場合には、労働者の性格を斟酌することはできないとした判例があります(最高裁(小2)平成12年3月24日判決・民集54巻3号1155頁)。
     他方で、幼稚園に保母として勤務した3か月後に心身症で入院し、翌日に退職したがその1か月後に自殺した保母の事案について、うつ状態に陥って自殺したのは、労働者の性格や心因的要素によるところが大きいとして過失相殺により8割の損害賠償額の減額を認定した原審の判断を維持した判例もあります(最高裁(小2)平成12年6月27日決定・労働判例795号13頁)。

    6 パワハラについてのご相談は、専門家である弁護士に!
     以上のように、何がパワハラに当たるのか、会社はどこまで責任を負わなければならないのか等については慎重に検討する必要があります。深刻な事態に陥った場合、労働者のパワハラ被害の拡大だけではなく、会社側の賠償責任も高額化する恐れがあります。パワハラについて問題が生じたら、まずは専門家である弁護士に相談しましょう。

    弁護士 遠藤啓之


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  • 2017/03/24 労働問題 内部通報制度民間事業者向けガイドライン改正のポイント(田島正広弁護士)

    内部通報制度民間事業者向けガイドライン改正のポイント



    1 はじめに

     平成 18 年4月の公益通報者保護法(以下「法」といいます。)施行後も,同法そしてこれを受けた企業の内部通報制度がその機能を十分には発揮できておらず,近時の企業不祥事でも内部通報制度の機能不全が見られるばかりか,通報者に対する不利益処分事例もなお見られることから,消費者庁においても通報制度の実効性向上が喫緊の課題と認識され,先般,「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます)が改正されました。

    2 ガイドライン改正のポイント

    (1)通報対象事実の拡大

     改正ガイドラインにおいては,通報者の匿名性の確保等及び通報者に対する不利益な取扱いの禁止が徹底されると共に,経営幹部が果たすべき役割が明確化され,経営幹部から独立性を有する通報ルートの整備及び内部通報制度の継続的な評価・改善について明記されました。     

     その中でも最も顕著な点としては,通報対象事実に法が対象とする法令違反のみならず内部規程違反も含めることが適当とされたことが挙げられます。法が適用対象としない内部規程違反をはじめとする企業倫理違反行為によっても,企業は社会的にひんしゅくを買うことが十分懸念され,ブランドイメージの毀損をはじめとする大きな経済的損失を受けることがあります。内部規程違反をも通報対象とすることは法改正なしに事業者に強制できることではありませんが,任意の取組みを推奨することで実質的に法体系の裾野を大きく拡大するものであり,企業として積極的に受け止めるべきところといえます。

    (2) 内部通報制度の意義と経営トップの責務

     内部通報制度の整備・運用は,組織の自浄作用の向上とコンプライアンス経営の推進,ひいては企業価値の向上と発展に資するものであり,同時に安全・安心な製品・サービスを提供することが,企業の社会的責任と社会経済的利益の観点から重要であることが明らかにされました。   

     また,制度整備・運用における経営トップの責務にも力点が置かれ,通報者への不利益取り扱いは許されないこと,企業倫理は利益追求に優先されるべきこと等につき,経営トップの全社的なメッセージの発信が求められています。

    (3) 通報制度の整備と外部窓口の活用

     通報制度の実効性確保の観点から,外部窓口として法律事務所の他,民間の専門機関への委託を採り上げた他,関係会社・取引先を含めた制度の整備・運用状況の定期的チェックと助言の必要性にも論及しています。外部窓口担当者による秘密保持を徹底し,通報者の特定可能な情報は通報者の書面による明示の同意なくして事業者に開示してはならない等の措置が必要とされています。

     通報窓口の利用者としては,取引先の従業員や退職者を含めて幅広く設定することが望ましいものとされ。経営幹部から独立性を有する社外取締役や監査役等への通報ルートの整備が適当とされる他,中立性・公正性からの疑義あるいは利益相反が生じる虞のある顧問弁護士等の外部窓口での起用は避けることが必要とされています。

    (4) 調査・是正措置と通報者保護

     調査・是正の実効性確保のため,調査担当部署に社内的な調査権限と独立性付与,そのための人員・予算の付与が必要とされた他,当該部署の調査に従業員が協力すべきことの内部規程への明記が求められ,是正措置と再発防止策,さらには関係行政機関への報告等も求められています。また,調査・是正措置の実効性確保のため,調査担当者のスキル向上のための十分な教育・研修や,通報対応状況に関する中立・公正な第三者等による検証・点検等を行うことが望ましいとされています。

     そして、通報制度の実効性確保のため通報者保護の徹底を図るべく,通報者の所属・氏名等の情報共有が許される範囲は必要最小限にすべきとされ,その特定につながり得る情報は通報者の書面・電子メール等による同意がない限り,この範囲を超えて開示してはならないものとされます。かかる同意取得に際しては,開示に伴う不利益を明確に説明すべきものとされ,また通報者を探索してはならないことを明確にして,全社的に周知徹底すべきとされています。

    (5) 通報受付・調査実施における秘密保持

     専用回線の設置,勤務時間外の個室・事業所外での面談の実施等により通報者の秘密を保護することが必要とされ,通報事案関連資料閲覧者の範囲を必要最小限に限定すること,当該記録の施錠管理,電磁的な情報セキュリティ対策等が求められています。また,通報者本人からの情報流出を防止するため,情報管理の重要性を十分に理解させることが望ましいものとされます。個人情報保護の徹底を図りつつ通報対応の実効性を確保するため,匿名通報も受け付けることが必要とされ,その際通報者と通報窓口担当者が双方向で情報伝達を行い得る仕組みを導入することが望ましいものとされています。

    (6) 解雇・その他不利益な取扱いの禁止

     事業者は,法及び内部規程の要件を満たす通報者のみならず調査協力者に対しても,解雇・その他の不利益取扱いをしてはならないこととされ,それが判明した場合には適切な救済・回復措置が求められています。違反者や通報に関する情報を漏らした者等に対する懲戒処分等の適切な措置の実施と,被通報者への事前の注意喚起による違反行為の予防が求められています。

     解雇・その他の不利益な取扱いがなされないよう通報者等に対するフォローアップを行うに際しては,経営幹部が責任をもって不利益取扱いを救済・回復するための適切な措置を講じることが求められ,是正措置及び再発防止策の確認等,必要な措置を講じることとされています。関係会社・取引先の従業員からも通報を受け付ける場合には,当該会社・取引先に対して通報者等が不利益な取扱いを受けないよう可能な範囲で必要な措置を講じることが望ましいものとされます。

    (7) 社内リニエンシー制度

     法令違反行為等の早期把握によるコンプライアンス経営の推進の観点から,調査開始前に自主的に違法行為等を内部通報したり,その調査協力をした従業員に対して,その状況に応じて懲戒処分等を減免する仕組みを整備することも考えられるものとされています。これは独占禁止法分野で導入されているリニエンシー制度に類似するもので,社内リニエンシー制度と呼ばれています。

    (8) 内部通報制度の評価・改善

     内部通報制度の実効性向上のため,制度の整備・運用状況・実績,周知・研修の効果,従業員等の制度への信頼度,本ガイドラインに準拠しない事項がある場合にはその理由,今後の課題について,内部監査や中立・公正な第三者機関等を活用した客観的な評価・点検の定期的な実施と,これを踏まえた経営幹部の責任での制度の継続的改善が求められています。

     また,通報制度の実効性は企業価値の維持・向上に関わることから,消費者,取引先,従業員,株主・投資家,債権者,地域社会等のステークホルダーにとっても重要なため,上記評価・点検の結果はCSR報告書やウェブサイトにおいて積極的にアピールすることが適当とされています。

    3 リスクマネジメントの観点からの通報制度の積極的活用

     以上を総括すると,今回のガイドライン改訂においては,内部通報制度の整備・運用が企業の自浄作用とコンプライアンスの向上に寄与し,企業価値の向上と永続性確保に資することが正面から説かれると共に、通報制度を実際に生かすための具体的施策が明らかにされたといえます。

     ところで、日頃から内部通報制度を真摯に機能させている企業においては、通報者が不利益処分を受ける虞もないでしょうし、通報対象事実に関する証拠隠滅の虞もないといえることから、会社外部の第三者に対するいわゆる3号通報の要件は直ちには満たさないといえます。この場合、社外へのいきなりの外部告発は、懲戒の対象ともなる違法な行為と評価されることになり得るので、企業としては、まさに自ら不祥事を把握して自浄作用を発揮する機会を確保できているといる訳です。

     自浄の機会もないままに、いきなりマスコミから不祥事を告発され、不祥事対応が後手に回ってしまうと、マスコミが報じない限りは不祥事を隠蔽しようとしていたとの印象を市場に与えかねず、不信感はブランドイメージを大きく毀損することになります。こうした後手の対応は、不祥事対応の場面で最もしてはいけないことです。反対に、まだマスコミが報じていない不祥事を自ら公表する企業は、その瞬間は相応の経済的損失を受けるとはいえ、その真摯な経be営姿勢は、他には不祥事はないだろうとの信頼を市場に生み出すところともなる訳です。

     こうして、企業としては消極的形式的に、いわばコンプライアンスらしさの隠れ蓑のために通報制度を運用するのではなく、むしろ通報制度が企業不祥事に関する情報を早期に経営陣に伝達し、自浄作用を発揮するための重要な契機であることを自覚して、これを企業の将来の発展のために積極的に運用すべきといえるでしょう。それこそが、経営陣の善管注意義務、内部統制システム構築義務の履行を確たるものとすることになります。同時に通報の現場で多く観られる雇用環境に関する通報を通して、従業員の雇用環境は守られるといえます。さらに、通報制度が十分に機能するようになれば、もし一部の従業員が何か不正をしようと思っても、その発覚を恐れてその実行を断念することが期待できます。まさに、抑止力として通報制度が機能することが、企業のあるべき姿といえるでしょう。


    弁護士 田島 正広


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  • 2015/07/06 労働問題 「改正労働基準法(案)について」(進藤亮弁護士)

    改正労働基準法(案)について

    Q
    近々,年次有給休暇に関するルールを改正し,従業員への年次有給休暇の取得を義務化することが議論されていると聞きました。
    具体的にどのように変わる予定なのか教えてください。


    A
    平成27年4月3日,労働基準法等の一部を改正する法律案が国会に提出されました。

    この法律案を提出する理由は,「長期間労働を抑制するとともに,労働者が,その健康を確保しつつ,創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため,年次有給休暇に係る時季指定の使用者への義務付け,高度な専門的知識等を要する業務に就き,かつ,一定額以上の年収を有する労働者に適用される労働時間制度の創設等の所要の措置を講ずる必要がある」と説明されています。

    年次有給休暇の取得に関する法改正の内容としては,上記理由にもあるように,年次有給休暇に係る時季指定を使用者に義務付けることにあります。

    具体的にいうと,法案では,使用者は,10日以上の年次有給休暇を付与する労働者に対して,1年に5日について年次有給休暇の時季を指定して与えることが義務付けられる,としています。

    ただし,労働者が時季指定した日数や計画的に付与した日数がある場合には,その日数を年5日から差し引いた日数を時季指定すれば足り,その日数が年5日以上の場合には,使用者は年次有給休暇の時季指定の義務を免れます。

    法案では,罰則規定も設けており,違反した者は,30万円の罰金に処せられることとされています。この改正によって,積極的な年休取得の進まない現状が改善され,最低でも年5日の年次有給休暇の取得を確実にする仕組みができることとなります。

    本法案では,年次有給休暇に関する上記改正のほかにも,次のような改正が提案されています。

    中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
     →月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について,中小企業への猶予措置を廃止する。

    著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
     →労働基準監督官による時間外労働に係る助言指導に当たり,「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。

    企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正)
     →企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組みを促進するため,企業全体を通じて一つの労働時間等設定改善委員会の決議をもって,年次有給休暇の計画的付与等に係る事業場ごとの労使協定に代えることができることとする。

    フレックスタイム制の見直し
     →フレックスタイム制における割増賃金の計算対象となる「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

    企画業務型裁量労働制の見直し
     →企画業務型裁量労働制の対象業務としては,現行法上「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査および分析の業務」に限定されているところ,「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに,対象者の健康確保措置の充実や手続きの簡素化等の見直しを行う。

    特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
     →職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1000万円以上)を有する労働者が,高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に,健康確保措置等を講じること,本人の同意や委員会の決議等を要件として,労働時間,休日,深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
     また,制度の対象者について,在社時間等が一定時間を超える場合には,事業者は,その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(労働安全衛生法の改正)

    本コラム執筆時においては,この法律案は衆議院で審議中の状況ですが,この法案が成立した場合には,平成28年4月1日(①については平成31年4月1日)からの施行が予定されています。

    田島総合法律事務所
    弁護士 進藤 亮

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  • 2015/05/28 労働問題 「従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて」(西川文彬弁護士)

    従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて

    Q 従業員がSNSで業務内容に関する書き込みをして,会社に損害を与えないか心配です。何か事前の予防策はありますか。また,従業員が会社に関する不適切な書き込みをした場合,当該従業員には,どのような責任追及が可能でしょうか。


    A 
    従業員による業務内容に関する書き込みを防ぐためには,従業員の問題意識を高めることが非常に重要です。
      就業規則を整備することも重要ですが,従業員の意識が低いままでは,SNSへの不適切な書き込みを防ぐことは期待できません。
      
      事後的な対応としては,不適切な書き込みをした従業員に対して,懲戒処分を行うことのほか,悪質な事案の場合には,損害賠償請求,刑事告訴を行うことが検討に値します。

    1 従業員によるSNSへの不適切な書き込みの代表的な例としては,レストランやホテルにおいて有名芸能人が顧客として訪れたことの書き込み,飲食店において食品を保存するための冷蔵庫内に寝そべっている写真をアップロードすることなどが挙げられます。

    先の例では,顧客のプライバシーを侵害し,後の例では,企業のブランドイメージを損なうこととなり,
    いずれの場合も,会社は,その信用を失い,顧客への謝罪,メディア対応等に追われ,会社の運営に重大な問題が発生することが考えられます。

    昨今においては,メディア等において,SNSへの書き込みによる問題が取り上げられ,世間でもSNSの危険性が認識されるようになってきましたが,現在においても,その危険性の認識が浸透しきっているとはいいがたい状態です。

    そのため,会社においては,従業員に,SNSへの書き込みがもたらす影響の重大性を改めて理解させる必要があります。

    具体的には,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けることに加え,
    従業員に対し,SNSへの書き込みに関する研修を行ったり,
    従業員との間でSNSへの書き込みに関する誓約書を取り交わしたり,
    SNSへの書き込みに関する社内のガイドラインを定め,同ガイドラインを従業員に周知すること
    が挙げられます。

    2 従業員が会社に関する不適切な書き込みを行い,会社に不利益をもたらした場合,まず,検討される責任追及手段としては,懲戒処分の実施が挙げられます。

    なお,懲戒処分の根拠として,就業規則において,SNSへの不適切な書き込みが懲戒事由として定められていることを要するため,事前の対策として,就業規則にSNSへの不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けておくことが意味を持ちます。

    もっとも,就業規則においてSNSへの不適切な書き込みが懲戒事由となることを定めたからといって,直ちに,懲戒処分が全て有効になるわけではなく,当該行為が企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有するかなどを勘案しながら,慎重に懲戒処分の実施を検討する必要があることには留意しなければなりません(最判昭和58年9月8日判例時報1094号121頁参照)。

    そして,書き込み内容が悪質な事案においては,懲戒処分に加え,民事上の責任追及として不法行為に基づく損害賠償請求,刑事上の責任追及として名誉毀損罪や威力業務妨害罪で刑事告訴をするといったことも検討に値します。

    なお,SNSの書き込みは自主的に削除することが容易なものですので,従業員に削除されてしまうと書き込みがなされていたという証拠が消滅する危険があります。

    そのため,従業員による不適切な書き込みを発見した際には,直ちに,当該書き込みをプリントアウトするように心がけてください。

    3 なお,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止したり,従業員に対して,SNS利用に関するガイドラインを交付したりしたとしても,上司からのパワハラや過度の残業等に関する告発的な書き込みを阻止することは難しく,また,そのような場合においては,書き込みが必ずしも違法とはされないこともあります。

    他人の名誉,信用と表現の自由のバランスの中で,告発行為の正当性,相当性が問われる場面です。

    この点,告発的に書き込まれた内容につき,会社に社会的批判を招来すれば,上記1で問題となる従業員の不適切な書き込みによる影響以上に,ブランドイメージが低下し,ひいては,商品・役務の不買運動にも発展する可能性があり,重大な損失をもたらしかねません(弁護士田島正広代表編著『リスクマネジメントとしての内部統制通報制度』17頁(税務経理協会,初版,2015年))。

    このような事態に対処するには,企業倫理違反行為に関する情報を社内に留保し,適切な対応を行うという自浄作用を発揮することを目的として,会社に内部通報窓口を設けることが極めて重要な意義を有するものといえます。

    以上のように,紛争の予防,事後対応について解説を行いましたが,
    紛争の予防の場面においては,就業規則やガイドラインの定め方,誓約書の作成,
    事後対応の場面においては,懲戒処分の実施の可否,刑事告訴等,法律的な判断が必要になってきますし,
    内部窓口の設置についても,専門家の助力があればより実効的な対応ができるものといえます。

    上記のような事案でお困りの際には,お気軽に当事務所まで,ご相談ください。


    田島総合法律事務所
    弁護士 西川 文彬


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  • 2015/05/22 労働問題 「社員のミスと損害賠償請求について」(進藤亮弁護士)

    社員のミスと損害賠償請求について

    Q 会社の従業員が業務としてクレーン車を運転中に,手元を狂わせたことにより,現場付近にいた通行人にぶつけてしまい,会社が当該被害者への治療費等を支出し,多大な損害を被りました。
    会社としては,この従業員に対して責任を追及し,会社の被った損害の賠償請求をしようと思っていますが,可能でしょうか。

    A 新年度を迎えて1か月が経過しました。新たに加わった新入社員に対して,指導や研修を重ねている会社も少なくないのではないでしょうか。 

    さて,今回は,会社の従業員が,業務中に故意または過失により会社に損害を発生させた場合に,会社は当該従業員に対してその損害の賠償を請求することができるかどうか,という問題です。

    この問題を法律的に整理すると,使用者たる会社には,次の請求権が発生すると考えることができそうです。

    ① 労働者の行為が,労働契約上の労務提供義務やこれに付随する義務に反するものである場合には「債務不履行」に該当し,使用者は債務不履行に基づく損害賠償請求権を取得する(民法415条)。

    ② 労働者の行為が,「不法行為」に該当するようであれば,使用者は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得する(民法709条)。一方で,会社は,労働者を使用することによって利益を得ているのであるから,労働者を使用することによって発生した損失も負担すべきであるという「報償責任」の考え方からすると,業務上の損害を発生させた行為の「全責任」を労働者に負わせることは適当とは言えません。

    また,労働者は使用者の指揮命令に従って業務に従事していること,労働者によるミスはもとより業務に内在するものであることなどからも,労働者が業務を遂行する上で生じた損害を使用者も分担することが公平の観点から望ましいと考えられます。

    使用者による労働者に対する損害賠償請求に関する問題については,茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日)が判断を示しています。

    最高裁は,「使用者がその事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態度,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」と判示し,いわゆる「労働者の過失による損害賠償に関する責任制限の法理」を示しました。

    上記判例の後,下級審において,そもそも従業員に対する損害賠償が可能かどうか,可能である場合にその損害の負担割合はどの程度とするかについて,上記判例法理に従い,判断されるようになっています。 

    本件の場合,詳細な事情が不明であるため,賠償請求が可能かどうかは一義的に判断できるものではありませんが,「手元を狂わせた」という過失が極めて軽微なものと認められる場合には,当該社員の会社に対する債務不履行や不法行為の成立が認められないケースもあり得るでしょう。

    また,クレーン車を運転するという行為には,相応の危険が内在するものであると言えます。

    業務に内在するリスクの発現可能性が高いにもかかわらず,使用者が事前に何らの予防措置も講じていなかったような場合においても,債務不履行や不法行為の成立が認められないこともあると考えられます。 

    また,債務不履行や不法行為が成立する場合であっても,労働者の過失の程度や業務に内在する危険の程度,使用者側の管理体制等に鑑み,ある程度賠償額が圧縮されることが予想されます。 

    なお,余談ですが,使用者が労働者に対して,債務不履行や不法行為に基づき損害賠償請求権を有している場合であっても,これを自働債権とし,賃金債権を受働債権として,労働者の意思にかかわらず使用者側から一方的に相殺することは,賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に反し,許されませんので,ご留意ください。

    田島総合法律事務所
    弁護士 進藤 亮

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