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> 2015/05/28 労働問題
従業員によるSNSへの業務内容の書き込みについて
Q 従業員がSNSで業務内容に関する書き込みをして,会社に損害を与えないか心配です。何か事前の予防策はありますか。また,従業員が会社に関する不適切な書き込みをした場合,当該従業員には,どのような責任追及が可能でしょうか。
就業規則を整備することも重要ですが,従業員の意識が低いままでは,SNSへの不適切な書き込みを防ぐことは期待できません。
事後的な対応としては,不適切な書き込みをした従業員に対して,懲戒処分を行うことのほか,悪質な事案の場合には,損害賠償請求,刑事告訴を行うことが検討に値します。
1 従業員によるSNSへの不適切な書き込みの代表的な例としては,レストランやホテルにおいて有名芸能人が顧客として訪れたことの書き込み,飲食店において食品を保存するための冷蔵庫内に寝そべっている写真をアップロードすることなどが挙げられます。
先の例では,顧客のプライバシーを侵害し,後の例では,企業のブランドイメージを損なうこととなり,
いずれの場合も,会社は,その信用を失い,顧客への謝罪,メディア対応等に追われ,会社の運営に重大な問題が発生することが考えられます。
昨今においては,メディア等において,SNSへの書き込みによる問題が取り上げられ,世間でもSNSの危険性が認識されるようになってきましたが,現在においても,その危険性の認識が浸透しきっているとはいいがたい状態です。
そのため,会社においては,従業員に,SNSへの書き込みがもたらす影響の重大性を改めて理解させる必要があります。
具体的には,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けることに加え,
従業員に対し,SNSへの書き込みに関する研修を行ったり,
従業員との間でSNSへの書き込みに関する誓約書を取り交わしたり,
SNSへの書き込みに関する社内のガイドラインを定め,同ガイドラインを従業員に周知すること
が挙げられます。
2 従業員が会社に関する不適切な書き込みを行い,会社に不利益をもたらした場合,まず,検討される責任追及手段としては,懲戒処分の実施が挙げられます。
なお,懲戒処分の根拠として,就業規則において,SNSへの不適切な書き込みが懲戒事由として定められていることを要するため,事前の対策として,就業規則にSNSへの不適切な書き込みを禁止する旨の規定を設けておくことが意味を持ちます。
もっとも,就業規則においてSNSへの不適切な書き込みが懲戒事由となることを定めたからといって,直ちに,懲戒処分が全て有効になるわけではなく,当該行為が企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有するかなどを勘案しながら,慎重に懲戒処分の実施を検討する必要があることには留意しなければなりません(最判昭和58年9月8日判例時報1094号121頁参照)。
そして,書き込み内容が悪質な事案においては,懲戒処分に加え,民事上の責任追及として不法行為に基づく損害賠償請求,刑事上の責任追及として名誉毀損罪や威力業務妨害罪で刑事告訴をするといったことも検討に値します。
なお,SNSの書き込みは自主的に削除することが容易なものですので,従業員に削除されてしまうと書き込みがなされていたという証拠が消滅する危険があります。
そのため,従業員による不適切な書き込みを発見した際には,直ちに,当該書き込みをプリントアウトするように心がけてください。
3 なお,就業規則において,SNSへの業務内容に関する不適切な書き込みを禁止したり,従業員に対して,SNS利用に関するガイドラインを交付したりしたとしても,上司からのパワハラや過度の残業等に関する告発的な書き込みを阻止することは難しく,また,そのような場合においては,書き込みが必ずしも違法とはされないこともあります。
他人の名誉,信用と表現の自由のバランスの中で,告発行為の正当性,相当性が問われる場面です。
この点,告発的に書き込まれた内容につき,会社に社会的批判を招来すれば,上記1で問題となる従業員の不適切な書き込みによる影響以上に,ブランドイメージが低下し,ひいては,商品・役務の不買運動にも発展する可能性があり,重大な損失をもたらしかねません(弁護士田島正広代表編著『リスクマネジメントとしての内部統制通報制度』17頁(税務経理協会,初版,2015年))。
このような事態に対処するには,企業倫理違反行為に関する情報を社内に留保し,適切な対応を行うという自浄作用を発揮することを目的として,会社に内部通報窓口を設けることが極めて重要な意義を有するものといえます。
以上のように,紛争の予防,事後対応について解説を行いましたが,
紛争の予防の場面においては,就業規則やガイドラインの定め方,誓約書の作成,
事後対応の場面においては,懲戒処分の実施の可否,刑事告訴等,法律的な判断が必要になってきますし,
内部窓口の設置についても,専門家の助力があればより実効的な対応ができるものといえます。
上記のような事案でお困りの際には,お気軽に当事務所まで,ご相談ください。
田島・寺西法律事務所
弁護士 西川 文彬
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