コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2013/09/05 事業再生・承継 『親族間の事業承継と遺留分の特例』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    親族間の事業承継と遺留分の特例

    Q 私はこれまで小さいながらも自分で起こした株式会社を経営してきたのですが,そろそろ長男に継いでもらおうかと思っています。会社を長男に継がせるにあたっては,どのようなことに注意する必要がありますか。

    A

    中小企業における事業承継では,そもそも後継者としての適任者は誰かということにはじまり,事業を承継させることにつき既存の従業員や取引先の理解を得ておくこと,事業を承継させるまでの後継者の育成を十分に行っておくことなど,考慮すべき事項は山ほどあるかと思います。

    そのような中で,法律的な視点からぜひとも留意していただきたいポイントとしては,相続の対象となる株式や事業用財産(会社名義ではなく先代経営者の個人資産となっているような工場や店舗など)を事業の承継者(=後継者)に集中して移転するということを挙げたいと思います。

    なぜこれが重要かというと,株式や事業用財産が複数の相続人に分散されてしまうことによって,親族間の対立・紛争が顕在化することがあり,株式が経営者に集中していないと,会社としての意思決定がスムーズにいかなくなるリスクが高まるからです。

    また,事業用財産については,これを後継者の所有に属さないこととすると,担保に供すべき財産がないことから,事業継続に必要な融資を受けられなかったり,後継者の事業意欲をそぐことになったりと,何かと不都合が生じることがあるからです。

    親族間の紛争を防止し,安定した経営を続けるためには,いかに所有と経営を一致させるかということに重きを置かなければなりません。

    とはいえ,株式や事業用財産を後継者に集中させることにのみ注力すると,次なる問題が発生することがあります。

    すなわち,先代経営者から後継者に株式や事業用財産を引き継がせるにあたっては,生前贈与,死因贈与,遺言などの方法によることになりますが,後継者以外にも相続人がいる場合には,後々にこの者の遺留分を侵害することになりかねないという問題が生じます。

    そこで,後継者候補以外の相続人(遺留分権者)には,株式や事業用財産以外の財産を引き継がせるなど,後継者以外の相続人への配慮は欠かすことができません。

    さらには,特定の相続人に生前贈与があり,かつ遺言が作成されていなかったような場合,残りの相続財産を相続人間で分ける際の計算方法は,原則として,贈与額の遺産額への合算(持戻し)を行ったうえで,各相続人の法定相続分に基づいて相続分を計算することとなります。

    この持戻しを行う財産の評価については,贈与時点ではなく,相続が開始した時点の評価で行うこととなっています。

    それゆえに,後継者が株式の生前贈与を受けていたところ,生前贈与から相続開始までの間に企業価値が大きく上昇した場合,後継者に贈与されていた株式の価値も上がることになるために,持戻しの額も大きく膨らみ,結果として,他の相続人の遺留分を侵害してしまうという事態に陥ることも考えられます。

    よって,株式や事業用財産の贈与の際には,後継者以外の相続人への配慮が重要であることは先に述べた通りですが,それにとどまらず,会社のこれまでの業績や将来的な見通しなどにも気を配ることが,後のトラブルを防ぎ,円満な事業承継を実現することにつながるでしょう。

    ところで,上記の事業の承継と遺留分の問題については,一定の要件を満たす後継者が,先代経営者からの贈与等により取得した自社株式について,後継者を含む推定相続人(遺留分権者)全員との間の合意を前提として,①その価額を遺留分算定基礎財産に算入しない(除外合意),または,②遺留分算定基礎財産に算入すべき価額を予め固定する(固定),といったことを可能とするような特例(経営承継円滑化法)もあります。

    除外合意,固定合意のいずれも,その合意の効力を生じさせるためには,「経済産業大臣の確認」と「家庭裁判所の許可」を得る必要があります。

    そのような手続きを踏む手間はありますが,除外合意をすることにより,その株式は遺留分算定基礎財産に算入されず,遺留分減殺請求の対象にもならないことになるため,先代経営者の相続に伴って株式が分散することの防止を図ることができます。また,固定合意により,先代経営者の相続開始時までに株式の価値が上昇しても,後継者ではない相続人の遺留分の額が増大することはなくなり,後継者としては,企業価値向上を目指して経営に専念することが可能となると言えます。

    事業を承継させるに当たっては,将来的な紛争を防ぐことを目的として,このような制度の活用を検討されても良いのではないでしょうか。

    なお,中小企業庁のホームページでは,事業承継を検討される方にとって有益な情報が得られると思いますので,ぜひともご覧ください。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


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  • 2013/08/01 事業再生・承継 『事業承継後の相続での非嫡出子への対応』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    事業承継後の相続での非嫡出子への対応

    Q 事業承継を受けた先代社長である父が亡くなり,兄弟と遺産分割協議を始めたところ,生前の交際相手との子どもと名乗る方が現れました。今後の法律関係を教えてください。

    A非嫡出子が相続を受けるためには認知を受けなければならず,亡父の死後3年は認知の訴えが可能です。これを経れば嫡出子と同等の相続分が発生します。

    1 非嫡出子

    婚姻関係にない男女の間に生まれた子を,「非嫡出子」といいます(法律上は「嫡出でない子」(民法779条)と表現されています。)。

    非嫡出子と父親との法的な親子関係は,父親の認知を受けることで初めて発生するものであるため,父親の認知を受けていない場合,親子関係はないものとして扱われます。

    そのため,扶養義務や相続等は発生しません。

    すなわち,父親は認知していない子に対しては,養育費等を支払う義務はなく,また認知されていない子は父親が亡くなった場合でも法定相続人にはなりません。

    2 認知の訴え(民法787条)

    そのため,父親との法的な親子関係を持つには,父親に子を認知してもらうことが必要になります。

    父親が認知を拒否する場合,当該子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,裁判所に認知の訴えを提起することが出来ます(もっとも,調停前置主義ですので,まずは家裁に調停の申し立てをすることになります。)。

    この認知請求権は放棄出来ないとされていますので(最判昭和37年4月10日),認知の訴えを提起しない旨の約束をした場合であっても,当該約束は無効となります。

    なお,父親の生存中は,いつでも訴えを提起が出来るものの,父の死後は3年に限って提起出来るとされています(787条但書)。

    本件でも,生前認知がなされていないのであれば,今後認知の訴えが提起されることが想定されます。

    3 相続分

    上述した通り,父親から認知された子は,父親との法的な親子関係が生じるため,父親が死亡した場合,子として,法定相続人となります(887条1項)。

    従来,非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であると規定されていましたが(旧900条4号但書),この規定が最判平成25年9月4日によって憲法14条1項違反と判示されたことから,その後国会で法改正に至り,同月5日以後に開始した相続については非嫡出子も嫡出子と同等の相続分を有することとなりました(同条項)。

    本件の場合,被相続人の遺言がないようですから,承継を受けた事業の継続に支障を来さないよう,現預金や株式,債券類等の金融資産を相続させる方向で遺産分割協議するのが望ましいと思われます。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


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