会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。
> 2020/06/15 企業経営
新型コロナウイルス感染症の感染防止と株主総会当日の運営
Q 新型コロナウイルス感染症が流行していますが,株主総会を例年と同じ時期に開催することとしております。総会当日はコロナ対策としてどのようなことが考えられるでしょうか。
A 株主総会がクラスター発生の場とならないように,総会当日は以下の①から⑤の観点について,以下に記載のような対応を行うことが考えられます。
①会場設営
②受付対応の簡略化
③会場スタッフの感染防止策
④発熱や咳などの症状を有する株主への対応(入場自粛,退場要請)
⑤総会開催時間の短縮のための工夫
なお,本年6月の株主総会では導入が難しいかと思われますが,今後インターネット等を用いた株主総会の導入も考えられます。
(1)はじめに
新型コロナウイルス感染症の感染防止のため,全国で緊急事態宣言がなされている状況において,施設の利用やイベントの中止が呼びかけられています。
このような状況の中で,クラスター発生を防止するために今までのような株主総会の運営を見直す必要性が高まっております。
そこで,株主総会の運営にあたって企業として取り得る対応について以下ご紹介致します。
なお,経済産業省及び法務省の「株主総会運営に係るQ&A」においても新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からの株主総会の運営について記載されているためご参照ください(https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai_qa.html)。
(2)総会当日の運営に係る対応
株主総会の会場における運営においては,会社は感染拡大のリスクを低下させ,株主等が新型コロナウイルス感染症に罹患しないように配慮する必要があります。
1. 会場設営
三密対策として株主席の配置の間隔を広くとって株主が密集しないように配慮し,また,株主が前方に固まって着席することなどもないように促すことが考えられます。
加えて,株主総会会場のテーブル,イス,マイクの消毒及び換気扇を付けるなど会場の換気をすること等が考えられます。
他にも,会場入口に,アルコール消毒剤等を設置することや,マスクの着用の要請,マスクを持参していない株主に対するマスクの提供をすることが考えられます。
また,マイクについては,ハンディタイプではなく,スタンドタイプを用意して,スタンドマイクの周りは広く空間を取り,発言が終わるごとにスタッフにて消毒を行うことがよいと考えられます。
なお,総会終了後,株主の退場時には,退場者が密集しないように配慮し,あらかじめ指定した座席のブロックごとに時間差で退場して頂くよう誘導する等の準備をしておくことが考えられます。
2. 受付対応の簡略化
株主総会の開催時間の直前には来場者が集中し,入場待ちの株主が滞留して列などができてしまう可能性があります。
そのような事態を避ける一つの工夫として,議決権行使書と引替えに入場票を渡すことを省略し,入口にてスタッフに議決権行使書を掲げて呈示することのみを求め,スタッフは株主の議決権行使書に目を通すことで入場を認めることも考えられます。
3. 会場スタッフの感染防止策
株主総会の受付担当者,会場担当者は,受付事務などを通して多くの株主と対面し,会話をする機会が生じるため,マスクや場合によってはフェイスガードなどを装着し,感染防止策を図ることが考えられます。
加えて,咳やくしゃみなどの症状があるにもかかわらずマスクの着用を拒否する株主に対応するため,飛沫がスタッフに飛散しないように接触防止のための透明ボードやビニールカーテンを受付に設置することも考えられます。
また,スタッフも手指などの消毒を徹底し,検温を行ってから総会運営に取り組むことがよいと考えられます。
なお,総会当日,スタッフ・役員は健康状態が思わしくない場合などには自宅待機とすることがよいでしょう。
4. 発熱や咳などの症状を有する株主への対応(入場自粛,退場要請)
発熱や咳などの症状を有する株主については,入場自粛を要請することが考えられます。受付においてスタッフから声かけを行うことや,入場自粛の掲示をしておくことが考えられます。
また,入場にあたり検温を実施し,発熱のある方の入場自粛を要請することや,入場後体調がすぐれない方に退場を要請することが考えられます。
また,新型コロナウイルス感染症の罹患が疑われるにもかかわらず,入場自粛や退場要請に応じない方に対しては,入場制限や退場命令を行うことも可能と考えられます。
但し,入場制限や退場命令については,決議取消事由となってしまうリスクも考えられることから,いきなり入場を断ったり退場を命じるのではなく,別室(第二会場)への移動を案内し,それに従わない場合に入場を断ったり退場を命じるということも考えられます。
なお,別室へ案内する際,別室において発言機会を与えて,議事に参加できる状況を整える準備が必要となります。
5. 総会開催時間の短縮の工夫
感染拡大防止の観点からは,株主総会の短時間化を図ることも,合理的な対応です。
例年に比べて議事の時間を短くすることや,株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。
例えば,シナリオを簡略化した以下のような対応を検討するとよいでしょう。
<挨拶>
開会宣言や挨拶の段階で,新型コロナウイルス感染症対策として株主総会の短時間化に努めることや株主のマスク着用の要請,役員やスタッフのマスク着用,発言ごとにマイクの消毒を行うこと等について簡潔に説明することが考えられます。
<議事進行>
議事採決の回数を減らすことができるうえ,総会の時間管理がしやすい,一括審議方式を採用することが考えられます。
<定足数>
事務局で出席株主数(議決権行使数)を確認できていればよいため,定足数の結果を株主に説明することは必ずしも必要ではありません。
<会議の目的事項>
「目的事項は,招集通知に記載の通りです。」と述べれば足ります。
監査報告も,総会提出議案や書類等に法令若しくは定款違反,又は,著しく不当な事項があると認めるときに限り,法的義務が生じるため,省略することが可能と考えられます。
連結計算書類の監査結果は報告事項ですが,会議の目的事項が招集通知記載の通りである旨の説明を行うことにより報告済みと扱えると考えられます。
なお,重要な経営事項,重大な不祥事,重要な株主提案等があった場合には,説明が不十分となる恐れがあるため,関連事項については報告の省略などによる時間短縮をすることは避けるべきと考えられます。
<質疑応答>
質疑応答の打切りは,株主が議題を合理的に判断するために必要な質疑応答が尽くされたかという点から判断することを要します。
質疑の流れに応じてその場で判断する必要がありますが,株主に新型コロナウイルス感染症拡大を防止するためであるという趣旨を説明した上,例年よりも短い審議時間にすること,株主一人あたり1問程度に限定することも考えられます。また,長時間にわたり発言をする株主に対して,「簡潔にお願いします。」と促すことも考えられます。
ただし,重要な経営事項,重大な不祥事,重要な株主提案等があった場合には,審議時間の短縮を行うか,質疑を打ち切るかは慎重に判断することがよいでしょう。
(3)インターネット等を用いた株主総会
なお,本年6月の株主総会においては特に導入が難しいかと思われますが,今後インターネット等を用いた株主総会の導入も考えられるため,以下にご紹介致します。
現在,物理的に存在する会場において役員等と株主が一堂に会する形態で行われるリアル株主総会が一般的です。
他方,リアル株主総会の会場に存在しない株主も,インターネット等を用いて遠隔地から参加/出席できるハイブリッド型バーチャル株主総会も経済産業省から紹介されています。
このハイブリッド型バーチャル株主総会には,参加型と出席型があります。
<ハイブリッド参加型バーチャル株主総会>
株主が遠隔地から株主総会を傍聴することで議事の進行状況を視聴し,会社の経営を理解する有効な機会となります。
しかし,インターネット等を用いて参加する株主は当日の決議に加わることは出来ず,当日の議決権行使が出来ないため,事前の議決権行使や,委任状等で代理権を授与して代理人による議決権行使を行う必要があると考えられます。
<ハイブリッド出席型バーチャル株主総会>
株主が遠隔地からインターネット等を用いて株主総会に出席し,リアル出席株主と共に審議に参加した上,株主総会における決議にも加わることが想定されるものであり,株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使が可能となる形態のものです。
但し,バーチャル出席に向けた環境整備の必要や,どのような場合に決議取消事由に当たるかについての経験則が不足しているという留意点があります。
本年6月の株主総会においては,環境整備や時間的制約等からハイブリッド型バーチャル株主総会の導入は難しい場合が多いかと思われますが,今後の中長期的な目標として,インターネット等を用いた株主総会の導入により遠隔地の株主の出席機会の拡大が図れるものと思われます。
なお,リアル株主総会を一切開催せずに役員等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するというバーチャルオンリー型株主総会については,現行法においては解釈上難しい面があると解されています。
(4)おわりに
本年の株主総会においては新型コロナウイルス感染症感染拡大防止を図り,株主総会参加者の安全を守るため,本稿で紹介した対策など十分な対応を行うべきでしょう。
田島・寺西法律事務所
弁護士 秋山 周
このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。
※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。
直通電話 03-5215-7355
メール advice★tajima-law.jp (★をアットマークに変換してください。)
『企業法務診断室』では、田島・寺西法律事務所所属弁護士が、豊富な実務経験に基づきよくある相談への一般的な回答例を紹介しています。
事案に応じたピンポイントなご回答をご希望の方は、面談での法律相談をご利用ください。
遠隔地の方でもZOOMにて対応しています。