コラム「企業法務相談室」一覧

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  • 2013/08/22 企業経営 『貸付金等の債権回収の手段~督促・訴訟・強制執行・民事保全』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    貸付金等の債権回収の手段~督促・訴訟・強制執行・民事保全

    Q 印刷会社を経営する私は,同業の社長さんに運転資金を融資しましたが,すでに返済期日は過ぎているのに貸付金を返済してもらえません。どのような方法で回収することが出来るでしょうか。

    A 裁判外での交渉による任意の回収,裁判手続を経ての強制的な回収等が挙げられます

    資金を貸し付ける際,単なる借用書等ではなく,返済を怠った場合には強制執行をされても異議を唱えない旨の記載がある公正証書を作成している場合,裁判の手続きを経ることなく強制執行をすることが可能となります。

    しかし,そのような公正証書を作成していない場合には,次のような方法による債権回収が考えられます。

    ①裁判外での回収

    まず,裁判所の手続きを利用せずに回収することが考えられます。その場合,債務者に対し内容証明郵便を送付し,任意に支払うよう請求する方法がよく利用されます。

    内容証明郵便は,送付日付や書面の内容が証明されるため,裁判になった際,請求したという事実や請求した日時が証明されるため,時効中断の証拠になるという利点があります。

    ②裁判手続の利用

    次に,裁判所の手続きを紹介します。任意に支払っていただけない場合,裁判所の手続を利用することになると思われます。

    特に債権回収の際に利用される手続きを挙げます。

    (1) 少額訴訟(民事訴訟法368条以下)

    債権額が60万円以下の場合,少額訴訟を利用することが考えられます。

    少額訴訟手続とは,少額な金銭をめぐる紛争について,時間をかけず,紛争額に相応する費用負担で解決できるよう,手続きを簡易化し,迅速に処理できるようにした簡易裁判所の訴訟手続の特則をなすものです。

    原則として1回の期日で審理が終了し,即日判決が言い渡される訴訟です。

    少額訴訟の対象は,60万円以下の金銭支払請求を目的とする訴えであり, 1回の期日で審理を終了するため,証拠は即時に取調べが出来るものに限定されています。

    したがって,債権が60万円以下であり,争点が複雑でない場合は,この少額訴訟を利用することにより,早期に解決することが可能です。

    もっとも,控訴が出来ないこと,上記のように原則として審理が1期日であり,証拠が制限されていることから,被告が通常の手続きに移行することを希望した場合,もしくは裁判所が少額訴訟により審理することが相当でないと判断した場合等は,通常訴訟に移行することになります。

    また,一人の原告について同一の裁判所での利用は年10回までという利用制限もあります。

    (2) 督促手続(民事訴訟法382条以下)

    督促手続とは,金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求につき,債権者の申立てにより,証拠調べをすることなく,また債務者を審尋することなく書記官が債務者に対し,支払督促を発付し,簡易迅速に債権者に対し債務名義を付与することを目的とする手続きのことを指します。

    本来,任意に債務を履行しない債務者に対し強制執行をするためには,訴訟を提起し,給付判決を得ることが必要です。しかし,金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求は,その証明が容易であり,かつ比較的争いが少ないと考えられることから,このような請求については,簡易迅速に処理できるよう,督促手続という制度が設けられています。

    書記官から支払督促が発付され,当該支払督促正本が債務者に送達後2週間以内に債務者から異議申立てがない場合は,それから30日以内に債権者の申立てによって,支払督促に仮執行の宣言が付せられます。

    そして,仮執行宣言付支払督促に対しても,送達後2週間以内に債務者から異議の申立てがない場合,又は督促異議の申立てがされてもそれが却下されたときは,その仮執行宣言付支払督促は確定判決と同一の効力が認められることになります。

    一方,債務者から督促異議の申立てがあった場合,当然に通常訴訟に移行することになります。
    したがって,請求につき争いがなく,債務者からの異議がないと思われる場合には,督促手続を利用することで,迅速に債務名義を取得することができ,債権を回収することが可能となります。

    (3) 通常訴訟・保全

    少額訴訟や督促手続から通常訴訟に移行した場合,また,そもそも金額等につき相手方と争いがある場合など少額訴訟や支払督促に適さない場合には,通常の訴訟により判決を求めることになります。

    なお,訴訟をしている間に相手方の財産が減少し,債権を回収できなくなる虞がある場合には,通常訴訟の前に仮差押えを検討することも必要になります。

    ③ 証拠の提出

    裁判では,相手方にお金を貸し付けたこと等を立証する必要があります。

    その際,証拠となるものとしては,借用書,領収書等が一般的ですが,それらの証拠がない場合には,相手方が借りていることを認めたメールや,お金を貸し付けるために自己の預金から引き出したことが分かる通帳等を証拠として提出します。

    以上が主な債権回収の方法となります。

    しかし,債権回収をしようとする場合,どのような方法により債権を回収するかのみだけでなく,債務者に支払うだけの能力があるかを検討することも重要です。

    といいますのも,いくら勝訴判決を得たとしても,債務者に財産がない場合には回収することが出来ず,費用と時間を無駄にすることになってしまうからです。

    そのため,債権を回収しようとする際は,強制執行をした場合に相手方から債権を回収できるかを見極めた上で,上記手続きを利用して頂ければと思います。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


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  • 2013/08/07 企業経営 『企業不祥事対応の際の取締役・監査役等会社役員の不祥事公表義務と会社法上の責任』(田島正広弁護士)

    企業不祥事対応の際の取締役・監査役等会社役員の不祥事公表義務と会社法上の責任

    Q 当社の製造した冷凍食品に国内未承認添加物が混入していたことが判明しました。この事実を速やかに公表しないと,当社の役員(取締役・監査役等)は法的責任を負わされますか。

    A 善管注意義務違反により損害賠償責任を負わされる場合があり得ます。

    会社役員に不祥事の公表が義務づけられるかどうかについては,リーディング・ケースとなったダスキン事件が参考になります。

    同事件の控訴審で大阪高裁は,不祥事の公表が損害発生ないし拡大防止のために必要とされる場合があり,取締役がその検討を怠ること,及びその任務懈怠に対する監査を監査役が怠ることが善管注意義務違反を構成する場合があることを認めたと評されています(大阪高判平成18・6・9判時1979号115頁。最高裁の上告不受理により確定。)。

    その際,判旨は必ずしも全ての不祥事の公表を直ちに求めている訳ではなく,「『自ら積極的には公表しない』という方針を採用し,消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方策の検討を怠った点において,善管注意義務違反」を認定しています。

    かかる判旨からすれば,当該会社の知名度や事業規模を前提に,不祥事の内容とその発覚のリスクの程度,その隠蔽による消費者被害やその反応,マスコミの反応と信頼喪失の虞等を総合衡量し,損害回避のためにいかなる方策が適切であるかを検討すべきことこそが直接的に求められているというべきでしょう。

    すなわち,どれだけの損害が統計的に発生する虞があるのかをベースに,当該損害回避のために的確な措置の検討を役員に求めた結果,当該不祥事の公表を安易に怠ることが善管注意義務違反を構成する場合がある旨判示したものと思われます。

    その意味でこの問題は,直接的には不祥事公表義務というよりは,損害回避策検討義務とでも呼ぶべきものでしょう。

    損害回避策の検討状況に解釈上の力点が置かれる限り,判旨はむしろリスク管理に関する,経営判断の原則に依拠した事例判断と観るべきように思われます。

    この点,経営判断の原則の適用に当たっては,不祥事を公表しないという判断における合理的根拠と誠実な行動,さらにはそれがもっぱら会社の利益であると信じることが求められることになります(ヤクルト事件控訴審判決・東京高判平成20・5・21判タ1281号12頁参照)。

    すなわち,同原則による取締役の免責を認めるためには,事実認識の過程が合理的であったか,並びに判断の過程・内容に明らかな不合理がなかったかが必要とされ,その際,非公表の判断の結果,損害の発生・拡大のリスクがどの程度に及ぶのか,損害の回避策として公表がどの程度必要かつ有用であるのかをどれだけ慎重に検討したかが問われることになるのです。

    これに対しては,不祥事は損得の計算によることなく,全て直ちに公表すべきとの規範的な基準による議論の余地もないではありません。

    しかし,現時点の解釈として観る限り,公表が会社に法的に義務付けられる場合を除けば,不公表による重大な損害の発生を防止するための善管注意義務に基づく判断以外に,不祥事の公表を取締役に法的に義務付ける根拠は見出しがたいように思われます。

    以上の解釈を前提にすれば,本件で会社役員に不祥事公表が義務付けられるのかについては,会社自身に特段の法的義務が課せられていない限りは,損害の発生・拡大防止の観点から公表を適切に行わなかったことを理由とする善管注意義務違反の問題として扱われ,それ故にこそ経営判断原則に照らしてそれを行わないことが許容されうるものかどうかをもって責任の有無が判断されることになるでしょう。

    もとより,コンプライアンス違反の事実が発覚し,社会的批判に晒され,巨額の損害を生じるリスクが飛躍的に増大している今日においては,調査と公表を行わないことが適切と解される余地はいよいよ縮減しているというべきですし,その延長線上には,公表に関する法的ルールの設定の可能性が存していると思料されるところです
    (以上,同文舘出版「会社役員の法的責任とコーポレートガバナンス」当職執筆部分参照)。


    田島・寺西・遠藤法律事務所
    弁護士 田島正広


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