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> 2013/08/07 企業経営
企業不祥事対応の際の取締役・監査役等会社役員の不祥事公表義務と会社法上の責任
Q 当社の製造した冷凍食品に国内未承認添加物が混入していたことが判明しました。この事実を速やかに公表しないと,当社の役員(取締役・監査役等)は法的責任を負わされますか。
A 善管注意義務違反により損害賠償責任を負わされる場合があり得ます。
会社役員に不祥事の公表が義務づけられるかどうかについては,リーディング・ケースとなったダスキン事件が参考になります。
同事件の控訴審で大阪高裁は,不祥事の公表が損害発生ないし拡大防止のために必要とされる場合があり,取締役がその検討を怠ること,及びその任務懈怠に対する監査を監査役が怠ることが善管注意義務違反を構成する場合があることを認めたと評されています(大阪高判平成18・6・9判時1979号115頁。最高裁の上告不受理により確定。)。
その際,判旨は必ずしも全ての不祥事の公表を直ちに求めている訳ではなく,「『自ら積極的には公表しない』という方針を採用し,消費者やマスコミの反応をも視野に入れた上での積極的な損害回避の方策の検討を怠った点において,善管注意義務違反」を認定しています。
かかる判旨からすれば,当該会社の知名度や事業規模を前提に,不祥事の内容とその発覚のリスクの程度,その隠蔽による消費者被害やその反応,マスコミの反応と信頼喪失の虞等を総合衡量し,損害回避のためにいかなる方策が適切であるかを検討すべきことこそが直接的に求められているというべきでしょう。
すなわち,どれだけの損害が統計的に発生する虞があるのかをベースに,当該損害回避のために的確な措置の検討を役員に求めた結果,当該不祥事の公表を安易に怠ることが善管注意義務違反を構成する場合がある旨判示したものと思われます。
その意味でこの問題は,直接的には不祥事公表義務というよりは,損害回避策検討義務とでも呼ぶべきものでしょう。
損害回避策の検討状況に解釈上の力点が置かれる限り,判旨はむしろリスク管理に関する,経営判断の原則に依拠した事例判断と観るべきように思われます。
この点,経営判断の原則の適用に当たっては,不祥事を公表しないという判断における合理的根拠と誠実な行動,さらにはそれがもっぱら会社の利益であると信じることが求められることになります(ヤクルト事件控訴審判決・東京高判平成20・5・21判タ1281号12頁参照)。
すなわち,同原則による取締役の免責を認めるためには,事実認識の過程が合理的であったか,並びに判断の過程・内容に明らかな不合理がなかったかが必要とされ,その際,非公表の判断の結果,損害の発生・拡大のリスクがどの程度に及ぶのか,損害の回避策として公表がどの程度必要かつ有用であるのかをどれだけ慎重に検討したかが問われることになるのです。
これに対しては,不祥事は損得の計算によることなく,全て直ちに公表すべきとの規範的な基準による議論の余地もないではありません。
しかし,現時点の解釈として観る限り,公表が会社に法的に義務付けられる場合を除けば,不公表による重大な損害の発生を防止するための善管注意義務に基づく判断以外に,不祥事の公表を取締役に法的に義務付ける根拠は見出しがたいように思われます。
以上の解釈を前提にすれば,本件で会社役員に不祥事公表が義務付けられるのかについては,会社自身に特段の法的義務が課せられていない限りは,損害の発生・拡大防止の観点から公表を適切に行わなかったことを理由とする善管注意義務違反の問題として扱われ,それ故にこそ経営判断原則に照らしてそれを行わないことが許容されうるものかどうかをもって責任の有無が判断されることになるでしょう。
もとより,コンプライアンス違反の事実が発覚し,社会的批判に晒され,巨額の損害を生じるリスクが飛躍的に増大している今日においては,調査と公表を行わないことが適切と解される余地はいよいよ縮減しているというべきですし,その延長線上には,公表に関する法的ルールの設定の可能性が存していると思料されるところです
(以上,同文舘出版「会社役員の法的責任とコーポレートガバナンス」当職執筆部分参照)。
田島・寺西・遠藤法律事務所
弁護士 田島正広
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