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  • 2015/08/28 企業経営 上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~(西川文彬弁護士)

    上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。・・・

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,A社の役員もB社の株式を所有しておりません。このような場合に公開買付けを行う必要があるのでしょうか。

     また,A社の総株主の議決権の過半数を有する親会社(C社)がB社の株式を保有していたとしたら,結論に影響を与えますでしょうか。

     その他,金融商品取引法上気にしておくべきことはありますか,概要だけでも教えてください。
     ※B社が有価証券報告書提出義務のある発行者であることを前提としております。
     ※知人数名は,いずれも会社関係者ではないことを前提としております。

    A 金融商品取引法においては,一定の場合に,公開買付けを行うことが義務付けられておりますが,株券等所有割合が5%超となる買付けであっても,株券等所有割合の3分の1を超えない範囲での「著しく少数の者」からの買付けであれば,公開買付けは強制されません。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,知人数名(10人以下)から有償で譲り受けて株券等所有割合が10%になる者であるため,公開買付けは強制されません。

     もっとも,C社は,A社の特別関係者に該当するため,公開買付けが強制されるかの判断において,A社はC社が所有しているB社の株式も合算しなければなりません。本件において,買付け等開始時のC社の株券等所有割合と買付け等を行った後におけるA社の株券等所有割合の合計が3分の1を超えるのであれば,公開買付けを行わなければならないことになります。

     また,発行済株式総数の5%を超えて保有すること(「大量保有者」と呼ばれます。)になるため,大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要があります。
     さらに,A社は,B社の主要株主(総株主等の議決権の10%以上の議決権を保有している株主)となるため,インサイダー取引の未然防止のため,売買報告義務,短期売買利益提供義務が課せられ,空売りが禁止されるなどの規制を受けることになります。

    1 公開買付け

    (1) 概要

     公開買付けとは,「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。)の申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うことをいう。」とされています(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)27条の2第6項)。

     そして,金商法においては,株主および投資者への適正な情報開示を図り,また,株主などに株券等の平等な売却機会を与える必要があることなどから,一定の要件に該当する場合には,公開買付けを行うことが義務付けられています(金商法27条の2第1項)。

    (2) 公開買付けが強制される取引

     具体的には,有価証券報告書提出義務がある発行者の株券等について,発行者以外の者が行う買付等であって,以下に該当するものは,適用除外に該当しない限り,公開買付けによらなければならないとされています。
     
    ① 株券等所有割合(金商法27条の2第8項1号,以下同じ)が5%超になる市場外での買付け(同条第1項1号)

     本号においては,著しく少数の者からの買付け等(金融商品取引法施行令(以下,「令」といいます。)6条の2)などは対象外とされており,また,特別関係者(後述)がある場合には,その者の所有割合を加算する必要があります。

    ② 著しく少数の者からの買付け等で株券等所有割合が3分の1超になる買付け(同項2号)

     著しく少数の者」とは,10名以下とされ,当該買付けの際の相手方の人数と,それ以前の60日間に市場外で買付け等(一定の買付け等は除かれます。)を行った際の相手方(一定の者は除かれます。)の人数を合計した延べ人数で判断されます(令6条の2第3項)。

    ③ 取引所金融市場における有価証券の売買等であって競売買の方法以外の方法で内閣総理大臣が指定したもの(特定売買等)によって,株券等所有割合が3分の1超になる買付け等(同項3号)
     
     特定売買等として,各取引所の立会外取引が指定されています(平成17年7月8日金融庁告示第53号)。

    ④ 市場内外の取引を組み合わせた急速な買付け等(同項4号)

     本号は,32%までの株式を市場外で買付け,その後,市場内で2%の株式を買い付けたり,第三者割当てを受けるといった態様を規制するために設けられました。

     具体的な規制内容は,以下のとおりです(令7条2項ないし4項,発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下,「他社株府令」といいます。)4条の2第1項,2項)。
      
     ア)3か月以内に,株券等の総数の10%超の株券等の取得を行い,
     イ)上記ア)の取得のうち,株券等の総数の5%超の株券等の取得が市場外(公開買付けを除く)
       または立会外取引によるものであって,
     ウ)取得後における株券等所有割合が3分の1超となる場合

    ⑤ 他者の公開買付け期間中における競合買付け等(同項5号)

     公開買付者は,別途買付の禁止により公開買付け以外の方法で買付けを行うことができないこととのバランスや投資者がいずれの者によって会社を支配させる方が相当かを判断できるようにする必要があるという観点から設けられた規制です。

     具体的には,他者が公開買付けを行っている期間中に,対象者の株券等の3分の1超を所有している者が5%を超える株券の買付け等(市場内外を問いません)を行う場合には,公開買付けによらなければならないとされています(令7条5項,6項,他社株府令4条の2第3項)。

    ⑥ 上記①ないし⑤に準ずるものとして政令で定める株券等の買付け等(同項6号)

     具体的には,5%超基準から除外されるPTS(私設取引システム)における上場有価証券の買付等(令7条7項1号),実質基準特別関係者を加算して4号を適用した場合の買付等(令7条7項2号)が政令で定められています。

    (3) 特別関係者
      
     復数の者が共同して対象者の株券等の買付けを行う場合があることを考慮して,公開買付けの要否を判断するにあたっては,買付者の株券等所有割合に買付者の特別関係者の株券所有割合を加えて算定されます(金商法27条の2第1項1号)。

     そして,特別関係者は,形式基準の特別関係者(同条第7項1号,令9条)と実質基準の特別関係者(金商法27条の2第7項2号)に区分されております。

     形式基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」(同項1号)とされ,金融商品取引法施行令9条において詳細に規定されております。

     具体的には,買付者が法人の場合,その役員(令9条2項1号),買付者が他の法人に対して特別資本関係(当該法人等の総株主等の議決権数の20%以上の株式又は出資を自己または他人名義で所有する関係)を有する場合における当該他の法人等及びその役員(同項2号)などが挙げられます。

     実質基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者との間で、共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、若しくは当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使すること又は当該株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡し、若しくは譲り受けることを合意している者」(同項2号)とされ,合意の時点で特別関係者になるとされています。

    (4) 適用除外

     上記①から⑥に該当して,投資者保護などの観点から,公開買付けによる必要性の低いものなどについては,適用除外とされています(金商法27条の2条第1項ただし書,令6条の2)。

     具体的には,権利行使による買付け等の適用除外(新株予約権の行使により株券を取得する場合など),関係者からの買付け等の適用除外(1年間継続して買付者の形式基準の特別関係者である者から行う株券等の買付けなど),25名未満のすべての株主の同意がある場合の適用除外などが挙げられます。

    (5) 小結

     今回,A社は,B社の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けるということであり,買付後のA社の株券等所有割合が5%を超える場合(上記①)に該当するとも思われますが,上記①においては,「著しく少数の者からの取得」は除外されており,今回A社が買い付けるのは,10名以下の知人数名であることから,上記①には該当しません。また,A社の株券等所有割合は10%になるため,著しく少数の者から買付けであっても3分の1を超えない(上記②)ことから,公開買付けによる必要はないものと考えられます。

     また,A社の親会社であるC社は,A社を被支配法人(令9条5項)とするものであり,A社の特別関係人(令9条2項3号)であることから,公開義務の存否においては,A社はC社がB社の株券を有しているか,また,その数を確認する必要があるといえます。今回,C社の株券等所有割合を合算しても,3分の1を超えない場合には,公開買付けは不要ですし,反対に,3分の1を超えるようでしたら,公開買付けを行う必要があります(上記②)。
     
    2 大量保有報告

     上場会社等の発行する株券等の保有者は,その株券等保有割合が5%を超えたとき(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く),5営業日以内(初日は算入しない)に大量保有報告書を財務局長等に提出しなければなりません(金商法27条の23第1項,株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下,「大量保有府令」という。)2条)。

     さらに,大量保有報告書の提出義務者は,大量保有者となった日後に株券等保有割合が1%以上増減した場合,(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く)その他の大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更があった場合には,その日から5営業日以内(初日は参入しない)に変更報告書の提出義務があります(金商法27条の25第1項,大量保有府令9条)。

     本件では,A社は,B社の発行する株式を株券等保有割合5%を超えて保有することになりますので,大量保有報告書の提出が義務付けられ,また,変更報告書の提出事由が生じた場合には,変更報告書の提出義務を負います。

    3 インサイダー取引未然防止のための主要株主等に対する規制

    (1) 売買報告書

     上場会社等の役員及び主要株主は,自己の計算において,当該上場会社等の特定有価証券等の買付け等又は売付け等をした場合には,適用除外となる場合を除き,その売買等に関する報告書を翌月15日までに財務局長等に提出しなければなりません(金商法163条,令43条の10)。

     この規制は,インサイダー取引の間接的な防止との制度趣旨の下,主要株主の上場会社等への短期売買利益の提供義務の実効性を確保する観点から,行政当局が主要株主による自社株の売買を把握できるようにするものになります。

    (2) 短期売買利益の返還
     
     上場会社等の役員または主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため,上場会社等の役員または主要株主がその特定有価証券等について,自己の計算において6か月以内の短期売買取引(買付け等後6か月以内に売付け等または売付け等後6か月以内に買付け等)をして利益を得た場合には,適用除外となる場合を除き,当該上場会社等は,その利益を上場会社等に提供すべきことを請求できます(金商法164条)。

    (3) 空売りの禁止

     株価が下落するような内部情報を知ったものが不当な利益を得るために利用する恐れのある特殊な取引を禁止することにより,間接的にインサイダー取引の防止を図るため,上場会社等の役員または主要株主による一定の空売りが禁止されています(金商法165条)。

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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  • 2015/08/21 企業経営 共有に属する株式の権利行使(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    共有に属する株式の権利行使

    Q 以前,我が社のある株主が亡くなりました。その株主には3名の相続人がいるようなのですが,遺産分割協議が行われたかどうかは不明です。かかるところ,株主総会において,株主の相続人3名のうちの2名の連名で,議決権行使書面が送られてきました。我が社として,この議決権行使の取扱いについて,気を付けることはありますでしょうか。

    A
     まず,会社としては,亡くなった株主の相続人に対して,株式の帰属関係を確認することが重要です。

     株式が誰に帰属しているかが明らかになれば,株式が帰属している者に議決権を行使させれば足ります。しかし,本件の場合,2名の連名で議決権を行使しようとしているため,未だ株式が共有状態であることが予想されます。

     未だ遺産分割が終了していないなどの理由で,株式が共有されている場合,会社としてどのように対応すればよいか問題となります。
     
     株式が共有に属する場合における株式の権利行使については,会社法第106条に定めがあります。
     
     同条によると,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない」とされています。

     すなわち,会社としては,株式の共有者からの権利行使者に関する通知において指定されている者に権利行使させることが原則です。

     したがって,会社としては,株式の共有者に対して,株式に関する権利行使者を指定して会社に通知するよう求め,当該指定された者に権利行使させるべきであると考えられます。

     ところで,会社法第106条但書には,「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない」との定めがあります。

     そこで,例えば,本件で遺産分割協議が未了で,株式が相続人3名の共有に属するという場合,会社は,株式の共有者のうちの一部の者により,会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま権利が行使されたとしても,同条但書の同意により,当該権利行使を適法なものとすることができるのか,ということが問題となります。

     この会社法106条但書の株式会社の同意によりいかなる権利行使が適法なものとなるのかについては,学説が分かれている問題であったところ,近時,最高裁判決が出ました(最判平成27年2月19日)。

     上記最高裁判決は,まず,会社法106条本文は,準共有株式についての権利行使の方法について民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(民法264条但書)を設けたものと解されるとした上で,会社法106条但書は,株式会社が当該権利の行使に同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解しました。

     そして,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条但書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではない,と判示しました。

     すなわち,上記判示からすると,会社法106条本文に基づく指定および通知がない場合であっても,民法の共有に関する規定に従って株式に関する権利が行使され,これにつき株式会社の106条但書の同意がなされることにより,当該権利の行使は適法となると考えられます。

     それゆえ,会社として106条但書に定める同意により株式の共有者による権利行使を認める場合には,株式の共有者が誰なのか,株式の共有者による権利行使が,保存行為,処分行為,又は管理行為のいずれに該当するのか,該当する行為に要求される民法の共有に関する規定に従って権利行使されているのか,という点に留意する必要があるでしょう。

     ちなみに,上記最高裁判例の事例においては,株主総会における「議決権の行使」の適法性が問題となったのですが,最高裁は「議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である」と判示しました。

     その上で,本事案においては,議決権の行使が各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられていないため,会社が106条但書による同意をしても,議決権行使は適法となるものではない,と判断しました。

     したがって,本件では,議決権の行使が問題となっていることから,特段の事情がない限り管理行為となるので,当該議決権の行使が,共有者の持分の価格に従って,その過半数で決せられたものであることが確認できれば,適法な権利行使と認めてよいと考えられます。

    田島・寺西・遠藤法律事務所

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  • 2015/07/24 企業経営 株式会社における自己株式の合意取得について(西川文彬弁護士)

    株式会社における自己株式の合意取得について

    Q 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,いずれの機関による決議が必要になるのでしょうか。また,市場において行う取引で上場株式である自己株式を取得することを検討していますが,具体的にはどのような取引があるのでしょうか。


    A 株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会決議による必要があります(会社法第156条第1項)。しかし,一定の場合には,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能です。  

     上場株式である自己株式(以下,「上場自己株式」といいます。)を市場において行う取引(以下,「市場取引」といいます。)によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。
    ※本稿は,東京証券取引所における市場取引を前提としております。



    1 自己株式の取得の規制

     会社が株主との合意に基づいて自己株式を取得することは,以下の弊害が生ずるおそれがあることから,その取得価額は株主への分配可能額の範囲内でなければならず(財源規制),また,株主の平等等を確保するため,法が定める手続等の規制に従わなければなりません(手続規制)。

     弊害としては,

    ①資本金・準備金を財源とする取得は,株主への出資払戻と同様の結果を生じ会社債権者の利益を害する(資本の維持),

    ②株主への分配可能額を財源とする取得でも,流通性の低い株式を一部の株主のみから取得すると株主相互間の投下資本回収の機会の不平等を生じさせ,また取得価額いかんによっても残存株主との間の不公平を生じさせる(株主相互間の公平),

    ③反対派株主(グリーンメーラー等を含む)から株式を取得することにより取締役が自己の会社支配を維持する等,経営をゆがめる手段に利用される(会社支配の公正),

    ④相場操縦(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)第159条),インサイダー取引(金商法第166条)などに利用される(証券市場の公正)

    等が挙げられています(江頭憲治郎著『株式会社法』246頁(株式会社有斐閣,第6版,2015年))。

    2 自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合の決議  

     株式会社が自己株式を株主との合意に基づいて取得する場合,原則として,株主総会の決議によって

    ①取得する株式の数

    ②株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額

    ③株式を取得することができる期間(1年を超えることはできません)

    を定めることが必要であり(会社法第156条第1項),その上で,取締役会において,取得価格等を決定することになります(会社法第157条,取締役会設置会社の場合)。

     しかし,以下の場合には,上記弊害がそれほど懸念されないことから,取締役会の決議によって,自己株式を取得することが可能とされます。

    (1)取締役会設置会社における子会社からの取得(会社法第163条)

    (2)株式会社が市場において行う取引又は公開買付けの方法による取得(会社法第165条)※取締役会の決議によって定めることができる旨の定款の定めが必要

    (3)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社において,株主全員から譲渡しの申し込みを受ける場合の取得(会社法第459条第1項第1号)  

     なお,特定の株主から取得する場合(株主全員に譲渡の勧誘をする方法(会社法158条,同159条),市場取引等(会社法165条)以外の方法により取得する場合)には,上記①から③までの事項のほか,その株主の氏名も株主総会の決議による必要があります(会社法160条1項,同309条2項2号)。 

     特定の株主から取得する場合には,剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがある会社(上記(3))も株主総会決議による必要がある点に注意が必要です。

    3 上場自己株式を市場取引によって取得する方法

     上場自己株式を市場取引によって取得する方法としては,オークション市場による単純買付けによる方法,事前公表型による方法(オークション市場における買付け,終値取引(ToSTNeT-2)による買付け,自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け)が挙げられます。 

    (1) オークション市場における単純買付けによる方法   

     オークション市場における単純買付けとは,自己株式の取得枠の決定について公表した上で,オークション市場において単純買付けを行う場合を指します。なお,個々の取得をした場合には,速やかに,取得対象の株式の種類,株式の総数,取得価額の総額を開示することとされています。   
     上場会社がオークション市場における単純買付けを行う場合,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下,「有価証券取引規制府令」といいます。)により,1日に2以上の金融商品取引業者等に対して,株式の買付等を行わないこと(有価証券取引規制府令第17条第1号),価格規制(同条第2号),数量規制(同条第3号)などの適用を受けます。

    (2) 事前公表型による方法   

     事前公表型の自己株式取得とは,買付日の前日にあらかじめ具体的な買付内容を公表した上で,オークション市場,終値取引(ToSTNeT-2)又は自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)において,自己株式取得のための買付けを行うものを指します。

     事前公表型のオークション市場における買付け及び終値取引並びに自己株式立会外買付取引は,有価証券取引規制府令第23条(取引の公正の観点から適当と認められる方法)の要件を満たす買付け方法となっており,同府令第17条から第20条の適用が除外されます。

     ここで,事前公表型のメリットは,

    ①日々の株価等の動向をみながら機動的な買付けが可能であり,また,公開買付け等と異なり,法定公告が求められることがないためコスト・メリットが高い。

    ②株主からまとまった数量の買付けを行うことが可能。

    ③インサイダー取引規制や相場操縦規制の問題はディスクロージャーにより対応。

    ④東証における売買制度の利用により,他の株主の取引機会を確保し,取引の公正性や透明性を確保。

    とされ,加えて,事前公表型の終値取引(ToSTNeT-2)及び自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)については,

    ①既に決定した価格で取引が行われるため,あらかじめ買付(株主にとっては売付)代金が確定。

    ②ToSTNeT-2 では時間優先の仕組み,ToSTNeT-3 では取引参加者間でのあん分比例の仕組みにより,他の株主の取引機会を確保。

    ③既に決定した価格で,かつ,立会時間外の取引のため,マーケットに直接的なインパクトを与えることはない。

    というメリットがあるとされています(『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』8頁(株式会社東京証券取引所,改訂版,2015年)。

     以下,各買付方法の概要をご説明いたします。

    ① 終値取引(ToSTNeT-2)による買付け   

     東証の立会市場以外の市場(以下,「ToSTNeT 市場」といいます。)における売買で,立会市場で決まった最終値段で,立会時間外に売り注文と買い注文を集めて取引を成立させるものです。

     自己株式取得は午前8 時20 分から8 時45 分の前日最終値段を利用した取引で行われます。

    ② 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による買付け   

     東証のToSTNeT 市場における売買であり,終値取引(ToSTNeT-2)と異なり,自己株式取得のための売買のみが行われるものです。具体的には,自己株式取得のための買付けを行おうとする日の前営業日に,買付会社から買付けの委託を受けた証券会社が東証に届出(銘柄,買付数量,買付値段等)を行ったうえで,買付日の午前8 時から8 時45分まで売り注文を集めて買付会社の買い注文との間で取引を成立させるものです。

     買付値段は前営業日の立会市場における最終値段(最終気配値段を含む。買付日が配当落等の期日である場合や,前営業日に最終値段(最終気配値段を含む)がない場合は買付日における当該銘柄の基準値段)となります。

     終値取引と異なり,買い注文が買付会社の注文に限定されています。

    また,信用取引の利用はできません。

    ③ オークション市場における買付け 

     事前に買付内容を公表した上で,東証のオークション市場を利用して買付けを行うものです。

     有価証券取引規制府令23条において,事前公表型のオークション市場における買付けでは,前日終値以下の価格(成行注文禁止)で発注することとされています。

     なお,オークション市場では,需給動向によって株価が決定し,売買が成立していくため,発注価格を上回る値段で株価が推移した場合には,結果としてその日に買付けが行えない可能性も指摘されています(前掲『東証市場を利用した自己株式取得に関するQA集』12頁)。

     以上,自己株式の取得における手続規制からの側面(授権決議を行う機関,市場取引の内容)について概説いたしましたが,一般的に,自己株式の取得は,その重要性から厳格な手続が要求されています。また,上場企業においては,金融商品取引法における規制も存在しますので,自己株式の取得及び取得方法は慎重に決定する必要があります。

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 西川 文彬

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  • 2014/05/23 企業経営 「顧問弁護士を社外取締役に選任することの可否~会社法,東証独立性基準に照らして」(田島正広弁護士)

    顧問弁護士を社外取締役に選任することの可否~会社法,東証独立性基準に照らして

    Q 東京証券取引所に上場している当社は,社外取締役を顧問弁護士に依頼しようと思いますが,問題はありますか。

    A 顧問弁護士が社外性の要件を満たすかは必ずしも明確ではありませんが,実務上就任事例が散見されるに至っています。その際,顧問弁護士がこれまで受けていた報酬の金額次第では,東証の独立性基準に抵触する可能性があるので留意する必要があります。

    1 会社法上の社外取締役の要件

    2014年改正会社法は企業統治のあり方を見直すと共に,社外取締役・社外監査役の要件を改めて,独立性に疑問のある場合を排除する一方,時間の経過による例外を定めています。本問と関連するのは,会社の使用人に関する制限です。すなわち,会社法が必要条件として求める社外取締役の要件には次の条項が挙げられています(会社法2条15号から抜粋。要約は筆者)。

    イ 現在も含め就任前10年内に,当該会社,子会社の業務執行取締役,執行役又は支配人その他の使用人に就任したことがないこと。

    ハ 当該会社の自然人たる支配株主,又は親会社の取締役,執行役,支配人その他の使用人でないこと。

    この点,従前兼任の可否の問題は,顧問弁護士の社外監査役への選任の可否について主として議論されてきました。すなわち,監査役の独立性を求める会社法335条2項が兼任を禁止する「使用人」に顧問弁護士が該当するか,弁護士の職務の独立性,営利性の両面に照らし,これが従業員と同視されるべきかの問題です。

    本問の社外取締役に求められるのが独立的立場からの企業統治,業務執行に関する監督であることに照らせば,監査役と社外取締役とで独立性に関する議論に大きな相違があるとも思えません。会社法においても社外監査役と社外取締役の要件において,使用人の兼任制限に特段の相違は設けられていません。

    この点,会社法335条2項の「使用人」論については,従来法務省は,民事局4課の回答で,顧問弁護士も旧276条(会社法335条2項に相当)の「使用人」に該当すると解しており,「会社の顧問弁護士である者をその会社の監査役に選任する場合には,監査役就任の承諾を得る際に,顧問契約を解除しておくのが相当である」としていました。

    これに対して,日弁連は,会社の顧問弁護士は独立した業務をしており,使用人ではなく,顧問弁護士が当該会社の監査役を兼任することは旧商法276条には抵触しない,ただし兼任することの妥当性については慎重に配慮せよとの立場をとってきました。日弁連の見解は,顧問弁護士は独立した業務であり,会社ないし経営陣に対する従属関係にはないことを基準として考えていて,弁護士倫理18条の「自由かつ独立した立場」とも関わっているとされます(以上,公益財団法人日弁連法務研究財団・「コーポレート・ガバナンスと法律業務」1 家近正直弁護士(大阪弁護士会会員)講演録参照)。

    最高裁は,監査役である弁護士がその会社の訴訟代理人となることは容認しており(最判昭和61年2月18日民集40巻1号32頁),個別事件の訴訟代理人と顧問弁護士との間で独立性・従属性に違いがあるとも思えないことに照らせば,顧問弁護士の兼任についても容認されるべきようにも思えるところです。

    これらに鑑みて,私としては,弁護士業務の独立性に力点を置く日弁連の見解に魅力と自負心を感じる訳ですが,ただし,法務省の上記認識を前提とする限り,顧問弁護士の使用人性を正面から否定できるかどうかについて法的リスクが全くないとまでは言い難く,とすれば,顧問弁護士を社外取締役に選任した場合に,社外性が認められないことを理由とする責任や手続的瑕疵がなお懸念される余地が残ることにもなります。

    例えば,選任に関わる経営陣の善管注意義務違反,登記上の問題,社外取締役の責任限定契約の無効等の問題等です。特に,会社の唯一の社外取締役が顧問弁護士だったとなると,監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社であれば,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示が必要だったことになり(会社法327条),手続的瑕疵の余地を残すことにもなります。


    なお,この点について法務省は,現段階としては特段の見解を示してはいません。また,社団法人日本監査役協会監査法規委員会は,会社法が顧問弁護士の社外監査役就任を特に制限していないことを前提にして,後述の独立性基準を満たしておればその選任に問題はないとのスタンスを示していますhttp://www.kansa.or.jp/support/el001_100301.pdf)。

    実際に実務上も,収受している顧問料が後述の独立性を害する程高額ではないことを開示して顧問弁護士を独立役員に任用する旨のIR情報が散見されるに至っている状況です。

    こうした実例の集積により,これらの任用判断に関する実務の方向性も社外性を容認する方向性へと固まっていくことが期待され,そうなれば上記手続的瑕疵の懸念も杞憂となっていくように思われます。

    2 東京証券取引所における独立性基準

    一方,東京証券取引所においては,経営陣と一般株主との利益相反問題に関し,一般株主保護の観点から,経営陣から独立した役員を確保することを目的として,独立役員(社外取締役・社外監査役)の確保に係る企業行動規範が導入されています。

    そこでは,上場内国株券発行者は,社外取締役または社外監査役を1名以上確保することが義務付けられており(上場規程436条の2),また,社外取締役の確保に関する努力義務もある他(同445条の4),独立役員届出書の提出が義務付けられています(同436条の2)。

    ここでいう独立性の基準のうち,本問と関係する条項は,次の通りです(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)。

    c 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント,会計専門家又は法律専門家

    d 最近においてaから前cまでに該当していた者
    ここでは,使用人という立て付けではなく,むしろ「役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ている」かどうかという実質基準が定められており,かつ,独立性基準に抵触しない場合であっても、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」とはいえない場合には,独立役員の要件を満たさないとされています。

    顧問弁護士が,実際に一般株主と利益相反を生じる事態はあまり考えられませんが,役員報酬以外に多額の報酬を得ることはむしろ想定され得ることです。ここでは,多額とはいくらかが問われることになりますが,金額の多寡は独立性基準において,一般株主から見た時に利益相反を生じる虞を感じさせる事情の判断材料と位置付けられているように思われます。それは,多分に事案毎の判断になるだけに,一定程度高額に及ぶ場合には,前項同様社外取締役選任についてリスクが懸念される場合が否定しきれないように思われます。

    なお,結果として,社外監査役を含め独立役員が不在ということになれば,企業行動規範に違反したものとして,状況次第で,公表措置,上場契約違約金の徴求,改善報告書・改善状況報告書の徴求,特設注意市場銘柄への指定など所定の措置を講じられることがあり得るところとなります。

    3 まとめ

    これらに照らすと,顧問弁護士を顧問契約を維持したまま社外取締役に選任することについては,会社法上は実例の集積の中でその社外性への懸念が否定される実務的運用が確立することが期待される段階といえるでしょう。また,独立性基準上は,顧問弁護士としての報酬額が相当程度高額に渡らないよう自粛することが,リスクを軽減するための確実な方法と言わざるを得ないこととなります。本来会社法の「使用人」概念について,よりきめ細かく独立性を阻害する要因を法律ないし省令で具体化すべきであり,また,独立性基準上も「多額」性について具体的な運用基準を明確化すべきところと思われますが,それが実現していない現状においては,上記リスクと実務の展開を踏まえて,漸進的な対応を取るのがこの問題に対する適切な対応であるように思います。
    (2016年7月改訂)

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 田島 正広


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  • 2014/05/14 企業経営 「改正会社法における社外取締役の要件と東証の独立性基準,要件を欠く場合のリスク」(田島正広弁護士)

    改正会社法における社外取締役の要件と東証の独立性基準,要件を欠く場合のリスク

    Q 当社は,東京証券取引所への上場を検討していますが,社外取締役を選任するに際して,どのような要件を守る必要がありますか。また,要件を欠く者を選任した場合のリスクを教えてください。

    A 改正会社法において具体化された社外取締役の要件と,独立役員(社外取締役・社外監査役)に関する東京証券取引所の独立性基準を遵守する必要があります。この要件を満たさない場合には,会社法上の責任や証券取引所の各種措置の対象となることがあります。


    1 会社法上の社外取締役の要件

    改正会社法は企業統治のあり方を見直すと共に,社外取締役・社外監査役の要件を改めて,独立性に疑問のある場合を排除する一方,時間の経過による例外を定めています。すなわち,改正会社法が定める社外取締役の要件は次のいずれをも満たすものとされます(会社法改正案2条15号。要約は筆者)。

    イ 現在も含め就任前10年内に,当該会社,子会社の業務執行取締役,執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」といいます)に就任したことがないこと。

    ロ 前号に該当するとしても,就任前10年内に当該会社,子会社の取締役、会計参与又は監査役に就任したことがある場合には,その職に就任する前10年間に当該会社,子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。

    ハ 当該会社の自然人たる支配株主,又は親会社の取締役,執行役,支配人その他の使用人でないこと。

    ニ 当該会社のグループ内兄弟会社の業務執行取締役等でないこと。

    ホ 当該会社の取締役,執行役,支配人その他の重要な使用人,又は自然人たる支配株主の配偶者又は二親等内の親族でないこと。

    ここでは,当該会社・子会社の業務執行取締役等経験者の就任制限が就任前10年間のものに限られた点が特徴的です。


    2 東京証券取引所における独立性基準

    一方,東京証券取引所においては,経営陣と一般株主との利益相反問題に関し,一般株主保護の観点から,経営陣から独立した役員を確保することを目的として,独立役員(社外取締役・社外監査役)の確保に係る企業行動規範が導入されています。

    そこでは,上場内国株券発行者は,社外取締役または社外監査役を1名以上確保することが義務付けられており(上場規程436条の2),また,社外取締役の確保に関する努力義務もある他(同445条の4),独立役員届出書の提出が義務付けられています(同436条の2)。

     ここでいう独立性の基準は,次の通りです(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)。

    a 当該会社の親会社又は兄弟会社の業務執行者

    b 当該会社を主要な取引先とする者・その業務執行者,又は当該会社の主要な取引先・その業務執行者

    c 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント,会計専門家又は法律専門家

    d 最近においてaから前cまでに該当していた者

    e 次の(a)から(c)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者

    (a) aから前dまでに掲げる者
    (b) 当該会社又はその子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与を含む。)
    (c) 最近において前(b)に該当していた者

    なお,独立性基準に抵触しない場合であっても、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」とはいえない場合には,独立役員の要件を満たさないとされている点に留意が必要です。


    3 改正会社法と東証独立性基準の概観と要件を満たさない場合のリスク

    業務執行取締役等に関する限りは,会社法改正案の方が10年という縛りを設けている分要件が厳しいと見ることができますが,対象の範囲という点では,東証独立性基準の方が,会社側か役員側のどちらかにとっての主要な取引先である場合や役員報酬以外の多額の財産を得ている専門家(顧問弁護士ではないが,個別事件の依頼を受けたに過ぎない弁護士も対象),さらには親族等も含まれ,要件が厳しいと言えるでしょう。これらの要件該当性については規制の趣旨との関連で,多分に規範的・専門的判断が求められるところと言えます。

    また,選任した者がこれらの要件を満たさない場合ですが,まず,会社法上社外取締役として選任した者が要件を満たしていなかったとなれば,選任に関わる経営陣の善管注意義務違反,登記上の問題,社外取締役の責任限定契約の無効等の問題を生じます。その際,特に問題となるのは被選任者全員がその要件を欠く場合です。

    この場合は,本来は監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社であれば,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示が必要だったところとなり(改正会社法327条),手続的な瑕疵を残すことになります。

    他方,東証独立性基準については,社外監査役を含め独立役員が不在ということになれば,企業行動規範に違反したものとして,状況次第で,公表措置,上場契約違約金の徴求,改善報告書・改善状況報告書の徴求,特設注意市場銘柄への指定など所定の措置を講じられることがあり得るところとなります。

    近時は,インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ(ISS),グラスルイス等の議決権行使助言会社が,より厳しい独立性基準を基礎として,経営陣に対して厳しい議決権行使を行うケースも見られます。

    これらの議決権行使を敵対的なものとばかり位置付けずに,むしろその理解を得られるような経営を実践することは,それ自体一般株主を初めとする多くのステークホルダーの利益にかなうことであり,その支えの上に立ってこそ,グローバリゼーションの時代において企業の永続性の確保がより確実になるといえます。そのためには,独立役員特に社外取締役の関与により一般株主との利益相反を回避し,より透明性の高い企業統治を実現する必要があるというべきでしょう。

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 田島 正広


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