コラム・企業法務相談室

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> 2017/09/06 企業経営

グレーゾーン解消制度の利活用及び弁護士の利用方法

Q 腰に着用すると,筋肉の動作をサポートしつつ自動的に心拍数,体温,発汗量等を計測し,行動のアドバイスをするウェアラブル製品を考案したのですが医薬品医療機器等法の定める「医療機器」として規制を受けるかどうか,ビジネスを始める前に知る手段はあるでしょうか。


A グレーゾーン解消制度を利用する方法があります。


1 ビジネスモデルが法律に先行する場面の急増
 今日,既存の法律制定時には想定されていなかったビジネスモデルが急増しており,既存の法律の規制を受けるか明確でない場面が増えています。
そうした場合に,事業者が法律を自己解釈して(あるいは法律による規制に気付けずに)ビジネスを始めてしまえば,ある程度軌道に乗ったところで所管省庁から法律違反を問われるなどして,ビジネスが頓挫する可能性もあります。

 そこで,ビジネスを本格的に始動させる前に,ビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか予め公的判断を得ておきたい,というニーズに応えたのが,グレーゾーン解消制度です。


2 グレーゾーン解消制度
 グレーゾーン解消制度とは,事業者が新規に始動させようとするビジネスモデルが既存の法律による規制を受けるかどうか,事業所管省庁を経由して,規制所管省庁に確認する制度です(産業競争力強化法第9条)。
 この制度の特長は,事業者が規制所管省庁に直接照会するのではなく,事業者が事業所管省庁に照会を申請し,それを受けて事業所管省庁が規制所管省庁に照会することにあります(「企業実証特例制度」及び「グレーゾーン解消制度」の利用の手引き」(以下「手引き」といいます)参照)。
 通常,直接的な照会は事業者にとってハードルが高いことから,その点をクリアするために上記のような制度が設けられました。制度上,事業所管省庁が,事業者を実質的にサポートする役割を担うことになります。
 また,制度利用希望者は,一刻も早くビジネスを始動させたいとの考えから,通常,迅速な回答を求めています。このニーズに応えるべく,原則として申請後1か月以内に回答を受けられるとされています。
制度の流れを整理すると,



となります。施策がまとめられていく中で,事業者の負担を減らすことが重視された結果,このようにシンプルになっているようです。


3 企業実証特例制度
 照会の結果,既存の法律による規制を受けると判断されてしまい,そのままではビジネスの始動が不可能な場合でも,企業実証特例制度の活用によってそれが可能となる場合があります。
 企業実証特例制度とは,一定の条件の下,特例的に障害となっている規制を受けずにビジネスをテストする制度で,いわば『企業単位の「特区」認定制度』です(経済産業省:METIジャーナル平成28年12・1月号)。

 企業実証特例制度においては「特例措置の提案」(同法第8条)と「新事業活動計画の認定」(同法第10条)の二段階の申請手続を経ることになります。

 第一段階の「特例措置の提案」においては,まず事業者が事業所管省庁に対し,とある規制に関する特例措置を整備してほしいと要望します。そして,事業所管省庁が,その内容が法の目的・趣旨に照らして適切であると判断される場合に,規制所管省庁と協議・検討し,規制所管省庁が,規制の特例措置を整備するか否か判断します。事業所管省庁が事業者の要望を受けてから,原則として1か月程で整備するか否かの回答を受けられます(手引き参照)。適法に規制を回避する土台作りのようなものです。
 もっとも,規制の特例措置が整備されても,それだけでは事業者はその特例措置を活用できません。特例措置を活用するには,第二段階の「新事業活動計画の認定」が必要となります。
 第二段階においては,まず事業者が新事業活動計画を事業所管省庁に提出します。そして,事業所管省庁が検討し,適切だと認めた場合,認定に先立ち,規制所管省庁に対し同意を求めます。それに対し,規制所管省庁は規制が求める安全性等の観点から検討を行い,適切であると認めた場合,認定に同意します(手引き参照)。認定に同意を得て初めて,特例措置を活用できます。

 なお,第一段階の規制の特例措置の提案を行っていない事業者でも,第二段階の新事業活動計画の認定を受ければ,他の事業者の提案によって設けられた特例措置を活用することが可能です(手引き参照)。他の事業者の提案で作られた土台の利用が可能ということです。


4 公表されている情報
 平成29年7月21日に経産省より公表された,グレーゾーン解消制度及び企業実証特例制度の活用結果によれば,平成29年4月から6月の3か月間において経産省が申請を処理した件数は,グレーゾーン解消制度が8件(うち中小企業6件)であり,企業実証特例制度が0件のようです。昨年1年間をみれば,グレーゾーン解消制度が24件,企業実証特例制度が1件のようです。
グレーゾーン解消制度はそれなりに利用されているものの,企業実証特例制度は,今後の更なる活用が期待されるところです。

 グレーゾーン解消制度においては,手引き上,個別の回答結果がそのまま公表されることはなく,もっとも類似の申請が複数あり,回答内容につき類型化・抽象化が可能な場合は,事業所管省庁又は規制所管省庁において,ガイドラインのような形で公表される場合もある,とされています。
 もっとも,法令の解釈に関する照会及びそれに対する回答は,他の事業者にとっても価値ある情報です。それも踏まえてか,例えば経産省においては,事業者と調整したうえで,企業秘密等の企業の機微にかかわらない範囲で,制度利用事例が公表されています(企業実証特例制度及びグレーゾーン解消制度の活用実績)。


5 医療・ヘルスケア分野に関連する法律
 上記活用実績の中では,医療・ヘルスケア分野のビジネスに関する制度利用が散見されます。
 いくつか例を挙げれば,
①フィットネスクラブを運営する企業による,運動機能の維持など生活習慣病の予防のための運動指導に関す
 る照会
②簡易血液検査サービスを行う中小企業による,血液の簡易検査とその結果に基づく健康関連情報の提供に関
 する照会
③薬局店舗を展開する企業,口腔内の衛生用品等を提供する企業による,薬局店頭における唾液による口腔内
 環境チェックの実施に関する照会
④歯ぐきのセルフメディケーションサービスを提供する企業による,唾液を用いた歯ぐきの健康の郵送検査
 サービスに関する照会
 などです。
 制度利用が多い理由は,後述のとおり法律の解釈の難しさもさることながら,人の生命・身体に関するビジネスであり,内在するリスクが大きいこと,またそういったリスクヘッジに対する事業者側の意識が総じて高いことにあるのではないかと考えられます。
 わざわざ医療機関に出向かずとも,身近な場所で,あるいは郵送等の手段で,自身の健康状態を把握できるサービスを提供するビジネスがトレンドの一つであると考えられます。

 医療・ヘルスケア分野において規制を受け得る法律として,医師法や医薬品医療機器等法等が挙げられます(後者の正式名称は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」であり,旧薬事法が改正されたものになります)。

 医師法に関しては,新規ビジネスモデルにおけるサービスの「医業」「医行為」該当性等が照会されています。
「医業」は「当該行為を行うに当たり,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を,反復継続する意思をもって行うこと」と解されています(医師法第17条及び平成17年7月26日厚労省医政局長通知)。
 しかし,同通知にも「ある行為が医行為であるか否かについては,個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」と記載されているように,同通知を前提としても医行為該当性の判断はなかなか難しいでしょう。

 医薬品医療機器等法に関しては,新規ビジネスモデルにおける製品の「医療機器」「医薬品」該当性等が照会されています。
 「医療機器」は「人若しくは動物の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること,または人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く)であって,政令で定めるもの」と定められており(医薬品医療機器等法第2条4項),施行令の別表第一に具体的に列挙されています。誰が見ても治療器具だと分かる物から,体温計,コンタクトレンズ,補聴器,家庭用電気治療器(いわゆるマッサージ器)まで含まれます。
 しかし,該当性判断を詳細に定めた通知等が多く,全てを把握するには労力を要し,また通常,新規ビジネスモデルにおける製品は列挙されている物に含まれていないことが多いでしょう。
 同じ様に「医薬品」は「日本薬局方に収められている物」(1号),「人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く)」(2号),「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品,化粧品及び再生医療等製品を除く)」と規定されていますが,その該当性の判断は簡単ではありません。
 その他,同法においては「医薬部外品」「化粧品」も定義づけられていますが,新規ビジネスモデルにおける製品がこれらに該当するかは,同様に判断が難しいところです。


6 IoT分野に関連する法律
 IoTデバイスが急増し,既存のものに様々な機能が付加された製品が登場しています。それに伴い,それらに関する照会も増えているように見受けられます。
 この分野において規制を受け得る法律としては,電気用品安全法,消費生活用製品安全法等が挙げられます。

 電気用品安全法に関しては,「電気用品(特定電気用品を含む)」が規制対象であり,これに該当すると,事業の届出が必要になる等の様々な規制を受ける可能性があります。
 「電気用品」については,上記の「医療機器」同様,施行令別表でそれぞれ具体的に列挙されています。また,「電気用品の範囲等の解釈について」(平成26年12月22日商局第1号)「電気用品安全法 法令業務実施ガイド(第3版)」(平成29年1月1日)等の通達等も公表されています。もっとも,「医療機器」同様,通達等の内容の把握には一定の労力を要することになります。また,人の生命・身体に危害を及ぼす可能性があるからこそ規制されており,該当するとなれば必ず規制に従う必要があるので,慎重な判断が求められます。

 消費生活用製品安全法に関しては,「消費生活用製品」が規制対象であり,これに関する事故が発生した場合について規制されているほか,「特定製品(特別特定製品を含む)」「特定保守製品」に該当すると,電気用品安全法と似たような規制を受けます。また,「消費生活用製品安全法特定製品関係の運用及び解釈について」(平成22年12月10日商局第1号)等の通達等も公表されています。
 該当する物はそれほど多くありませんが,圧力鍋,乳幼児ベッド,ライター等が含まれており,例えば荷重の情報等から乳幼児の行動をデータ化して,健康状態を把握したり危険を防止したりするベッド様の製品を開発すれば,規制を受けるかもしれません。


7 専門家の利用の意義
 グレーゾーン解消制度の利用に当たっては,具体的に何を確認したいのか整理しておく必要があります。「規制の根拠となる法令がどのような規定となっており,そのうち,どの部分の解釈が明らかでないのか,新事業活動が規制の対象となるのか否かが判断できないポイントや,それによって新事業活動を行うことが難しい理由に加え,そのことに関する自己の見解を記載」することが求められているからです(手引き参照)。
  
 注意して頂きたいのは,照会結果は,照会時に存在するあらゆる法律の規制を受けるか否かについての回答ではないという点です。制度利用に当たっては上記のとおり,どの法律の(さらにはどの条文のどの文言による)規制を受けるか,ということを特定する必要があり,必然的に回答もその法律に(さらにはその条文のその文言解釈に)限定されます。したがって,事業者において,どの法律について照会すべきか予め精査する必要があります。
 もっとも,新しいビジネスモデルにおけるサービス・製品が革新的であればその分,想定していなかった法律による規制を受ける可能性が拡大します。そうした場合,どの法律に留意すべきか(そしてどの法律について照会すべきか)把握するうえで,弁護士を利用すれば時間を短縮できます。5や6で上記したとおり,判断が難しい場面が多々存在するわけですが,そもそもどの法律の規制に留意する必要があるのか,その見極めに時間を要することがあるからです。

 もちろん,上記のとおり,事業所管省庁が事業者に寄り添い,実質的にサポートする体制が整えられているので,漠然とした法律上の不安があるという段階でも,事業所管省庁にアクセスすれば親身になってサポートして頂けるものと思います。
ただし,申請に対する回答は原則1か月以内とされていますが,事業所管省庁に対する事前相談期間はこれに含まれません。そこで,事業所管省庁に相談に行く前に弁護士を利用して,ビジネスモデルの法的リスクを洗い出しておけば,事前相談を踏まえても長くはかからないでしょう。
 また,規制を受けるか否かの判断が微妙であることが窺われるケースにおいて,法的観点から少しでも有利になるように自己の見解を記載したいと考える場合,弁護士であれば公的立場からではなく,より事業者に寄り添った立場からアドバイスすることが可能です。
 
 予め法的リスクを排除できれば,それだけビジネスの展開に注力できると思います。

田島・寺西・遠藤法律事務所


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