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> 2015/12/18 商取引

集合動産譲渡担保契約について

Q. A社と取引を行う予定なのですが,取引によって生じる債権の額からして,無担保とするのは不安です。A社の所有する不動産には既に担保権が設定されており,また,保証人を付けることも難しそうである一方,A社の倉庫にはA社の仕掛品や在庫商品が保管されているので,これらの物品を担保に取ろうかと考えています。・・・・

Q.
 A社と取引を行う予定なのですが,取引によって生じる債権の額からして,無担保とするのは不安です。
 A社の所有する不動産には既に担保権が設定されており,また,保証人を付けることも難しそうである一方,A社の倉庫にはA社の仕掛品や在庫商品が保管されているので,これらの物品を担保に取ろうかと考えています。
 すなわち,A社の倉庫内の複数の動産に譲渡担保権を設定しようと思うのですが,その場合における注意点などを教えてください。

A. 
 集合動産譲渡担保権の設定においては, 

 ① 譲渡担保権の目的となる動産について他の担保権が設定されていないかなど権利関係を確認すること 
 ② 目的動産をきちんと特定すること
 ③ 譲渡担保権の対抗要件を具備すること

等に留意する必要があります。 

 また,集合動産譲渡担保権設定契約書において,目的動産が集合動産譲渡担保の目的であることを明示すべきこと,目的動産について損害保険に付すること,目的動産の数量や管理状況を把握できるようにしておくこと,債務不履行時に目的動産の現実の引渡しが受けられるようにしておくことなどを定めておくことが肝要です。 
 以下,解説します。

●集合動産譲渡担保について 
 
 債権を保全するために,取引の相手方が倉庫等で保有している仕掛品や在庫商品といった複数の動産の集合物をまとめて譲渡担保権の目的にすることが認められており,そのような担保は「集合動産譲渡担保」と呼ばれています。 
 この集合動産譲渡担保が設定されると,譲渡担保権設定者(本件でいうA社)は,担保権実行までは「通常の営業の範囲内」であれば,担保の目的となっている集合動産のうちの個々の動産を自由に処分することができますが,個々の動産を処分した場合にはそれに見合うだけの動産を補充しなければなりません。そして,補充された個々の動産は,集合物に加わった時点で譲渡担保の対象となります。また,通常の営業の範囲を超えるような処分や担保権の設定は認められません。

●目的動産の権利関係の確認 

 集合動産譲渡担保を設定するに先立って,まず目的となる集合動産の権利関係を確認することが不可欠です。 
 動産は,質権や譲渡担保権,所有権留保,留置権,先取特権などの担保権が競合していることがあり,競合する権利の内容や対抗要件具備の先後によって,せっかく設定した集合動産譲渡担保が他の権利に劣後してしまい,結果として債権の回収可能性が低くなる事態に陥るリスクがあります。それゆえ,集合動産譲渡担保の目的たる集合動産について,自己に優先する第三者の権利が存在しないか,慎重に調査する必要があります。 

 なお,集合動産譲渡担保契約書において,これから設定しようとする譲渡担保権を阻害し得る事由や第三者の権利が存在しないことの表明保証に関する条項を置くことも望ましいでしょう。

●目的動産の特定 

 集合動産譲渡担保を設定するためには,担保の目的動産を特定することが要件として求められ,譲渡担保権設定者の一般財産から区別するに足りる程度に特定される必要があります。 
 この点,判例は,「構成部分の変動する集合動産であっても,その種類,所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法によって目的物の範囲が特定される場合には,一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができる」としています(最判S62.11.10)。

●集合動産譲渡担保の対抗要件 

 動産譲渡担保の対抗要件は「引渡し」であるところ,集合動産譲渡担保は,担保権設定後も担保の目的動産を担保権設定者が利用できることにメリットがあることから,ここでいう「引渡し」は,目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す「占有改定(民法183条)」の方法によって行われることになります。 

 なお,譲渡担保設定者(本件でいうA社)が法人である場合には,「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下,「特例法」といいます。」に基づく動産譲渡登記を行うことにより,民法178条の「引渡し」に代わる対抗要件を具備することもできます(特例法3条1項)。 
 この特例法に基づく登記と民法178条の引渡しが競合した場合,登記の時期と引渡しの時期の先後によって譲渡担保権の優劣が決せられるところ,対抗要件具備の時の証明が容易となることが特例法の登記制度を利用するメリットと言えます。

●その他

・明認方法 
 譲渡担保の目的となっている集合動産について,その保管場所において,当該集合動産が譲渡担保の目的となっていることを明示するよう譲渡担保権設定者(本件でいうA社)に義務付けておくことにより,第三者による譲渡担保権の競合などを防止することができ,後の紛争予防効果を期待することができます。

・損害保険 
 譲渡担保の目的となっている集合動産について,損害保険を付するものとし,保険事故が発生し,譲渡担保権設定者が保険金を受領した場合には,受領した保険金を被担保債権の弁済に充当する旨を定めておくことにより,万一,集合動産が滅失したとしても保険金から債権回収を図ることが望めます。

・目的動産の数量,管理状況の報告 
 譲渡担保権者は自己の手元に集合動産を置くわけではないため,譲渡担保の目的たる集合動産の価値や状況等を把握するため,譲渡担保権設定者に目的動産の数量や管理状況の報告を義務付けておくことが肝要です。

・不履行時の目的動産の現実の引渡し  
 被担保債権が履行されない場合に譲渡担保権の実行に速やかに移行できるようにするため,債務不履行があった場合には,譲渡担保権者が目的動産について現実の引渡しを受け,直接占有を得られるよう定めておくことが望ましいでしょう。

田島・寺西・遠藤法律事務所


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