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> 2016/09/21 商取引
インサイダー取引規制の適用除外(知る前契約・計画)について
Q 平成27年9月の有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正により,インサイダー取引規制の適用除外となる「知る前契約・計画」の範囲が拡大されたと聞きました。新しく設けられた制度の内容について教えてください。
A 知る前契約・計画とは,会社関係者等が,未公表の重要事実を知る前に,売買の予定等の必要事項を記載した契約・計画を作成する等の手続を履践することで,その後,重要事実を知ることになっても予定通り売買が可能となる制度です。
従前は,知る前契約・計画であっても,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令(以下,「取引規制府令」といいます。)の個別列挙に定める類型に当てはまらないものについてはインサイダー取引規制の適用除外(金融商品取引法166条6項12号)となりませんでしたが,平成27年9月の改正により包括的な適用除外の規定(取引規制府令59条1項14号)が追加されました。
包括的な適用除外の要件の概要は,以下のとおりであり,その全てを充足する場合にインサイダー取引規制の適用が除外されます。
①未公表の重要事実を「知る前」に締結・決定された契約・計画に基づく売買であること
②未公表の重要事実を「知る前」に,かかる契約・計画の写しを証券会社に提出する等したこと
③当該契約・計画の中で,売買の具体的内容(期日,期日ごとの売買の数量又は総額)が定められているか,又は裁量の余地がない方式により決定されること
1 知る前契約・計画とは
~以下,金融商品取引法166条6項12号を引用~
上場会社等に係る第一項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に締結された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等に関する契約の履行又は上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に決定された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等の計画の実行として売買等をする場合その他これに準ずる特別の事情に基づく売買等であることが明らかな売買等をする場合(内閣府令で定める場合に限る。)
~引用終了~
未公表の重要事実を知る前に売買の決定がされている場合においては,会社関係者等と一般投資家との間に情報面の格差がなく,規制する必要がないと考えられるため,平成27年9月の内閣府令の改正により,後記2のとおり,適用除外に関する包括規定が新設され,その適用範囲が拡大されました。
2 知る前契約・計画の要件
(1)改正により新設された内容(注:下線引用者)
~以下,取引規制府令59条1項14号を引用~
前各号に掲げる場合のほか,次に掲げる要件の全てに該当する場合
イ 業務等に関する重要事実を知る前に締結された特定有価証券等に係る売買等に関する書面による契約の履行又は業務等に関する重要事実を知る前に決定された特定有価証券等に係る売買等の書面による計画の実行として売買等を行うこと。
ロ 業務等に関する重要事実を知る前に,次に掲げるいずれかの措置が講じられたこと。
1) 当該契約又は計画の写しが,金融商品取引業者(法第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業(有価証券関連業に該当するものに限り,法第二十九条の四の二第十項に規定する第一種少額電子募集取扱業務のみを行うものを除く。)を行う者に限る。(2)並びに第六十三条第一項第十四号ロ(1)及び(2)において同じ。)に対して提出され,当該提出の日付について当該金融商品取引業者による確認を受けたこと(当該金融商品取引業者が当該契約を締結した相手方又は当該計画を共同して決定した者である場合を除く。)。
2) 当該契約又は計画に確定日付が付されたこと(金融商品取引業者が当該契約を締結した者又は当該計画を決定した者である場合に限る。)。
3) 当該契約又は計画が法第百六十六条第四項に定める公表の措置に準じ公衆の縦覧に供されたこと。
ハ 当該契約の履行又は当該計画の実行として行う売買等につき,売買等の別,銘柄及び期日並びに当該期日における売買等の総額又は数(デリバティブ取引にあっては,これらに相当する事項)が,当該契約若しくは計画において特定されていること,又は当該契約若しくは計画においてあらかじめ定められた裁量の余地がない方式により決定されること。
~引用終了~
(2)各要件について
ア 「知る前」の意義
「売買等を行う時点において知っている未公表の重要事実を知る前」を意味すると考えられています(金融庁・証券取引等監視委員会「インサイダー取引に関するQ&A問5」)。
すなわち,売買の計画段階において,未公表の重要事実Aを知っている場合,Aが公表された後において売買することを計画して,証券会社に計画書の写しを提出するなどしておけば,その間に,未公表の重要事実Bを知ったとしても,Aが公表又は中止されていれば,Bの公表前に当初の計画に基づいて売買を実行できることになります。
イ 「として(契約・計画に基づく売買)」の意義
契約の履行又は計画の実行として売買を行う必要があり,契約・計画された売買の恣意的な一部実行や一部中止は認められないと考えられます。なお,契約・計画を中止・撤回して売買をしないことは原則として認められるとされています。
ウ 証券会社(金融商品取引業者)への提出等の意義
未公表の重要事実を知った後に契約書や計画書がねつ造されることを防止するために設けられたものになります。
なお,証券会社においては,提出日を確認するだけで,それ以上に内容を確認すること等は求められていません。
エ 「期日」の意義
複数の日でも構いませんが,裁量の余地があるような定め方は認められません。
すなわち,「●●年●●月●●日」や「●●年●●月●●日以降,東京証券取引所における終値が初めて●円を超えた日の翌営業日」等という定めは認められますが,「●●年●●月●●日まで」や「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日までの間」という定めは認められません。なお,「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日まで毎営業日100株」などという期日ごとの定めがある場合には裁量の余地がなく認められます。
オ 「期日ごとの数量又は総額」の意義
期日ごとに数量又は総額を定める必要があります。すなわち,特定の日(1日)における「総額●●円」,「●●株」という定めは認められますが,「1000株以上1万株以下」や「●●年●●月●●日から▲▲年▲▲月日▲▲日まで総額1億円」という定めは認められません。
これまでは,会社関係者等が未公表の重要事実Aを知っている場合,Aが公表された後において売買しようとしても,その間に未公表の重要事実Bを知ってしまうことで,売買の機会が失われることがありましたが,上記改正は,これまで困難であった自社株売買の機会の確保を図るものになります。
弁護士 西川 文彬
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