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> 2015/10/13 商取引

インサイダー取引規制~ストックオプションの行使について~

Q 私は,上場会社の従業員ですが,会社から付与されたストックオプションを行使することを考えております。もっとも,私は,会社が他社との業務提携を決定したという未公表の情報を知っておりますので,ストックオプションの行使はインサイダー取引規制に反することになるのでしょうか。また,私がストックオプションを行使して得た株式を売却することは許されるのでしょうか。


A ストックオプションとして付与された新株予約権を行使して株式を取得することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当するので,未公表の重要事実を知っていても,ストックオプションを行使して株式を取得することは可能です。
 もっとも,ストックオプションの行使によって得た株式を売却することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当しません。そのため,未だ公表されていない業務提携の決定(軽微基準に該当する場合を除きます。)という重要事実の決定をご存じであれば,株式を取得しても,当該事実が公表されるまでは売却することが許されません。


1 インサイダー取引規制の概要

 インサイダー取引規制としては,会社関係者等によるインサイダー取引(金融商品取引法(以下,「法」といいます。)166条),公開買付関係者等によるインサイダー取引(法167条)に分けられます。 
 
 また,インサイダー取引を未然に防止する規制としては,上場会社等の役員及び主要株主に対する売買報告書提出義務(法163条),短期売買差益の提供義務(法164条),空売りの禁止(法165条)等が挙げられます。

 設例は,会社従業員による相談ですので,以下,会社関係者等によるインサイダー取引について概説いたします。

2 会社関係者等によるインサイダー取引(法166条)

 会社関係者等によるインサイダー取引とは,

会社関係者
(①上場会社・親会社・子会社(子会社にかかる重要事実のみ)の役職員,②会計帳簿閲覧権者,③法令に基づく権限を有する者,④契約締結者・締結交渉中の者,⑤②,④と同一法人のほかの役職員)

元会社関係者
(会社関係者でなくなってから1年以内の者)

情報受領者
(会社関係者・元会社関係者から重要事実の伝達を受けた者等)

重要事実の決定・発生後公表前に,職務等に関して(注:情報受領者には「職務等との関連性」は要求されません。)重要事実を知りながら特定有価証券等を売買等することを指します(法166条1項,3項)。

 設例において,会社従業員が職務に関して重要事実の決定を知ったような場合には,会社関係者(法166条1項)として,職務とは関係のない飲み会の席などで重要事実の決定を知った場合には,情報受領者(法166条3項)としてインサイダー取引規制の対象とされる可能性があるといえます。
 
3 重要事実(法166条2項)

 次に,設例において会社従業員が知っている他社との業務提携の決定という事実が「重要事実」の決定といえるのか検討が必要になります。

 重要事実は,投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報とされており,上場会社等又はその子会社にかかる①決定事実(法166条2項1号,5号,一部軽微基準あり),②発生事実(同項2号,6号,一部軽微基準あり),③決算情報(同号3号,7号,重要基準あり),④バスケット条項(同項4号,8号)が定められています。

 上場会社等にかかる決定事実としては,株式や新株予約権の募集・自己株式の処分,資本金の額の減少,資本準備金又は利益準備金の額の減少,自己株式の取得,株式無償割当て,株式の分割,剰余金の配当,組織再編行為,業務上の提携等が挙げられています(法166条第2項1号)。

 そのため,設例において,他社との業務提携を決定したことを知っているのであれば,原則として,重要事実の決定を知っていることとなります。

 なお,業務提携の決定については,軽微基準(提携から3年以内の各事業年度において提携効果として見込まれる売上増加額が,最近事業年度の売上高に対して10%未満であること等,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49条1項10号)が定められていますので,軽微基準に該当する場合であれば,業務提携の決定を知っていても,インサイダー取引規制の違反とはなりません。

4 適用除外(法166条6項)

 会社関係者等のインサイダー取引規制には一定の適用除外が定められており,証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保の観点から類型的に規制対象とする必要がないと考えられる取引については,適用除外とされています(法166条6項)。

 適用除外としては,既に有する権利を行使する場合(ストックオプションの行使等),法令に基づく場合(反対株主の株式買取請求等),重要事実を知る前に決定された売買等の計画の実行としての売買等(従業員持株会が株券の買付けを行う場合,株式累積投資制度(るいとう)による買付け等),組織再編がなされるにあたって売買等がされる場合,などが挙げられます。なお,適用除外に関しては,自社株売買に対する過度な制約を解除するため,近時,「知る前契約」「知る前計画」に係るインサイダー取引規制の適用除外に関して「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」が一部改正され,平成27年9月16日から施行されております(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」及び「金融商品取引法等に関する留意事項について」(「金融商品取引法等ガイドライン)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果並びにインサイダー取引規制に関するQ&Aの追加等について」http://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20150902-1.html#bessi4)。

 設例のストックオプションを行使して株式を取得することは,上記適用除外に該当し,インサイダー取引規制に違反することにはなりません。

 他方,ストックオプションを行使して得た株式を売却する場合は適用除外になりません。したがって,重要事実が公表されてからでなければ,売買をすることができないので,注意が必要です。

 なお,公表とは,①上場会社等又は上場会社等の子会社などにより多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置が取られたこと,または,②これらの者が当該事項の記載されている法定開示書類が公衆縦覧に供されていること(法166条4項)とされており,上場会社等のホームページにおける公開では足りないことに注意が必要です。実務上は,①のうち,東京証券取引所が運営している「TDnet(Timely Disclosure network)」による公表方法が中心となっています。

5 罰則

 インサイダー取引規制に違反した場合の罰則としては,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金,又はこれらの併科になります(法197条の2第13号)。

 また,法人の代表者又は法人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には,その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます(法207条1項2号)。

 さらに,インサイダー取引規制の違反によって得た財産は原則として没収又は追徴されます(法198条の2)。

 このほか,行政上の措置として,インサイダー取引規制に違反して自己の計算で有価証券の売買等を行ったものに対して,金融庁から課徴金納付命令が出されます(法175条)。

弁護士 西川 文彬

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