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> 2015/11/06 商取引

事業投資有限責任組合における無権代理行為の追認

Q 当社はとある投資事業有限責任組合の有限責任組合員ですが,無限責任組合員が組合契約で定めた事業範囲を逸脱して業務執行を行ったことを知りました。もっとも,当該行為は上記組合にとって利益となる行為だったので有効としたいのですが,何か方法はありますか。


A 投資事業有限責任組合法第3条1項に掲げる事業の範囲内である場合に限り,有限責任組合員全員で「追認」をすることができます。

1 投資事業有限責任組合について

 投資事業有限責任組合(Limited Partnership 以下,「LPS」といいます)とは,投資事業有限責任組合契約(各当事者が出資を行い,共同で一定の事業の全部又は一部を営む契約)によって成立する無限責任組合員及び有限責任組合員からなる組合を指します(投資事業有限責任組合契約に関する法律2条及び3条 以下「LPS法」といいます)。

 LPSは,民法上の組合(民法667条1項)を基本としながらも,管理者たる無限責任組合員以外の組合員の責任を有限とすることを法的に認める仕組みが採用されており,民法上の組合に比べて投資家が出資に踏み切り易いようになっています。

 もっともその反面,LPSでは,組合員(無限責任組合員であると有限責任組合員であると問わない)の出資を「金銭その他の財産」に限定しています(LPS法6条2項)。民法上の組合と異なり,労務出資が認められていないのです。その理由は,出資を具体的に債務の引き当てになりうるものに限定して,組合と取引関係に入る第三者の保護の観点から,組合の責任財産の充実をはかることにあります。

 LPSでは,投資対象が制限されており,具体的にはLPS法3条1項に列挙されているものに限られます(1号から7号までは投資等資金の供給に関する事業,8号はコンサルティング事業,9号は他の投資組合向けの出資,10号は1号から9号までの事業に付随する事業,11号は外国法人への投資,12号は余裕金の運用)。これらの事業の全部又は一部を営むことを約することで(またそれを含めた絶対的記載事項等を組合契約書に記載することで),LPS法上の契約ということができることになります。

 LPSは無限責任組合員及び有限責任組合員からなることが必要とされているため,無限責任組合員又は有限責任組合員の全員の脱退が,組合の解散事由として定められています(LPS法13条2号)。

2 無限責任組合員による業務執行

 LPSにおいては,業務執行は無限責任組合員がこれに当たることになります。民法上の組合同様,無限責任組合員は自己の名(○○投資事業有限責任組合 無限責任組合員 甲)で組合のために法律行為をすることができます。LPSは法人格を有しないため,無限責任組合員は,法人の機関としてではなく組合員全員の代理人的地位において業務を執行することとなるのです。なお,民法の委任の規定が準用されており,無限責任組合員は組合の業務を行う上で善管注意義務を負うことになります(LPS法16条)。

 無限責任組合員が複数存在する場合は,組合の業務の執行はその過半数をもって決します。LPS法上,業務執行組合員を定めるための規定は存在せず,LPS法17条において義務付けられている,組合契約の効力の発生の登記事項に業務執行権者が含まれておらず,さらには上記した組合契約書における絶対的記載事項にも業務執行権者が含まれていないことから,無限責任組合員は例外なく全員業務執行に携わらなくてはならず,LPS法7条1項の解釈として組合契約によって一切の業務執行権のない無限責任組合員を定めることはできません。

3 無権代理行為の追認の可否

 本件においては,無限責任組合員の業務執行としての行為が組合契約において設けた組合の事業の範囲を逸脱しており,当該行為は法的には無権代理行為ということになります。民法上は無権代理行為は本人の追認があれば有効な代理行為とすることができますが(民法第 113 条第 1 項),本件の場合においても追認が可能であるか,LPS法7条4項との関係で問題となります。

 同項は,「無限責任組合員が第3条第1項に掲げる事業以外の行為を行った場合は,組合員は,これを追認することができない」と規定するところ,LPS法においては,LPS法の目的及び組合の事業範囲を法律上定めた趣旨に鑑み,法律上で定められた事業の範囲を逸脱した法律行為については追認を認めず,組合との関係では確定的に無効な行為(無限責任組合員による無権代理行為)とするものです(逐条解説48頁)。

 もっとも,第 3 条第 1 項各号に規定する範囲よりもさらに事業範囲を限定した場合も,契約で定めた事業範囲を超えた行為は全て無権代理行為となりますが,当該行為が法律上の事業範囲を逸脱したものでなければ,追認によりその効果を有効に組合に帰属させることができます。

 以上の通りであるので,無限責任組合員による行為が組合契約で定めた事業の範囲を逸脱しているとして,それが3条1項各号に規定する範囲内か否かによって,追認の可否が異なることになります。

 なお,3条1項各号の範囲外の行為であった場合,追認は認められないことになりますが,当該行為の相手方は,当該行為を行った無限責任組合員に対し,民法第 117条にしたがって無権代理についての責任追及をすることが可能です。


田島・寺西・遠藤法律事務所


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