コラム・企業法務相談室

会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。

> 2015/06/09 商取引

メールマガジン配信に関する特定電子法及び特定商取引法の規制

Q 当社は自社開発商品について店舗販売及び通信販売を行っており,新商品開発や既存商品の割引セールを行うたび,メルマガを配信しています。先日とある異業種交流会に参加した際,他の参加者と名刺を交換しました。名刺記載のメールアドレス宛に,本人の同意を得ずしてメルマガを配信することに問題はありますか?

A 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律,及び特定商取引法の制限を受け,問題となる場合があります。

1 特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特電法)の改正  

平成20年に特電法が改正され,「オプトイン方式」が導入されて以降,企業の広告宣伝メール全般の送信については,厳しい制限が課せられることとなりました。  

具体的には一部例外を除いて,あらかじめ同意した者に対してのみ,広告宣伝メールを送信することができるにとどまることとなります。  

特電法の規制を受けるメール(特定電子メール)とは,「営利を目的とする団体及び営業を営む場合における個人」である送信者が「自己又は他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」を指します(消費者庁 『特定電子メールの送信等に関するガイドライン』)。  

ご質問のような新商品開発,もしくは既存商品の割引セールを行うたび配信されているメルマガは,それら商品の広告・宣伝が主として行われていると考えられますので,特定電子メールに該当する可能性が高いと言えます。

2 オプトイン方式の例外  

そもそも前提として,特電法第3条1項本文で  
 送信者は,次に掲げる者以外の者に対し,特定電子メールの送信をしてはならないと規定され,

そして同項1号で,   
 あらかじめ,特定電子メールの送信をするように求める旨又は送信をすることに同意する旨を送信者・・・に対し通知した者 

と規定されていることで,オプトイン方式が採用されていることが示されています。  

もっとも,特電法の趣旨は電子メールの送受信上の支障の防止にあるところ,下記の場合にはそのような支障が経験上それほど懸念されないことから,法第3条1項2号から4号において,同意を通知したもの以外の者であっても,その者に宛てて特定電子メールの送信が可能なものが定められています。  

同項2号   
 前号に掲げるもののほか,総務省令・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを送信者又は送信委託者に対し通知した者  

同項3号   
 前二号に掲げるもののほか,当該特定電子メールを手段とする広告又は宣伝に係る営業を営む者と取引関係にある者  

同項4号   
 前三号に掲げるもののほか,総務省・内閣府令で定めるところにより自己の電子メールアドレスを公表している団体又は個人(個人にあっては,営業を営む者に限る。)

そのうち上記2号のいわゆる「自己の電子メールアドレスの通知をした者」については,さらに施行規則において,

第2条1項   
 法第3条1項2号の規定による送信者又は送信委託者に対する自己の電子メールアドレスの通知の方法は,書面により通知する方法とする。ただし,次の各号に掲げる特定電子メールを受信する場合の通知の方法は,任意の方法とする。  

同項1号   
 第6条各号のいずれかに掲げる場合に該当する特定電子メール  

同項2号   
 法第3条1項1号の通知の受領のために送信がされる一の特定電子メール

と規定されています。

3 書面による通知  

書面により自己の電子メールアドレスを通知した場合には,書面を提供した側にも,書面の通知を受けた者から電子メールの送信が行われることについての一定の予測可能性があるものと考えられるため(上記ガイドライン),上記のように規定されています。
そして,「名刺」も書面に該当します。

したがってご質問の場合については,名刺をくれた方に対して,たとえメルマガを配信することについて具体的に同意を得ずに配信しても,特電法上は問題ないものと考えられます。

4 特定商取引法(特商法)による規制  

ところが特商法において,通信販売等の形態で消費者と取引をする場合において,事業者が取引の対象となる商品や役務などについての電子メールによる広告(電子メール広告)を行う場合についての規制が存在します。  

販売業者等が,電子メール広告に基づき通信手段により申込みを受ける意思が明らかであり,かつ,消費者がその表示により購入の申込みをすることができるものであれば上記規制に服することになります(消費者庁 『改正特定商取引法における「電子メール広告規制(オプトイン規制)」のポイント』)。  

したがって,ご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,特商法の規制も考慮しなければなりません。  

特電法と特商法は,前者の趣旨が「電子メールの送受信上の支障の防止」であるのに対し,後者の趣旨は「消費者保護,取引の公正」であり,また管轄庁が異なることから,その関係性については明らかにされておらず,それぞれ全く別の法的規制として該当性を検討し,要件を満たす必要があります。  

特商法における電子メール広告に該当すれば,相手(消費者)からあらかじめ請求や承諾を得ていない限り,電子メール広告の送信が原則的に禁止されます(特商法12条の3第1項)。そして,同項における例外は 

①特商法施行規則11条の3第2項   
 契約の申込みの受理及び当該申込みの内容,契約の成立及び当該契約の内容,並びに契約の履行に係る事項のうち重要なものの通知に付随して,通信販売電子メール広告をする場合  

②同条の4第1号   
 相手方の請求に基づいて,又はその承諾を得て電磁的方法により送信される電磁的記録の一部に掲載することにより広告がなされる場合

③同2号
 電磁的方法により送信しようとする電磁的記録の一部に広告を掲載することを条件として利用者に電磁的方法の使用に係る役務を提供する者・・・による当該役務の提供に際して,広告がなされる場合

とされています。

③については,フリーメールアドレスサービスにおいて,利用条件として利用者がそのアドレスからメールを送ると,当該メールに事業者の広告が掲載されることとなるもの等を指します。したがって,残る①,又は②に該当しない限り,上記規制に服することになります。

②については,広告宣伝でないメルマガ等の一部に広告を掲載する場合を指し,ただし,消費者が上記メルマガ配信の請求や承諾をしたものにとどまり,広告宣伝を主目的とするメルマガの配信について請求や承諾をしていない場合は適用除外になりません(上記ポイント)。また「一部に掲載」にとどまるか否かは,メルマガ全体を見て主副の関係が逆転していないか,という観点から判断されるようです。  

したがって,仮にご質問のメルマガが電子メール広告に該当する場合,「電子メール広告を送ること」についてあらかじめ請求や承諾を得ておかなければならず,さらに,原則としてその請求又は承諾を得た記録を,書面又は電子データの形式で保存する義務が課せられることになります(特商法12条の3第3項)。

5 結論  

以上の通り,ご質問のメルマガが,主に開発した新商品又は割引セールを実施している既存商品の広告・宣伝を目的としている場合,名刺を取得したことで特電法による規制は受けずとも,電子メール広告に該当する可能性があり,特商法の規制を受ける可能性が高い以上は,あらかじめ本件メルマガの配信に関する請求又は承諾を得る必要があるでしょう。

田島・寺西・遠藤法律事務所

このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。
※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

直通電話 03-5215-7354
メール   advice@tajima-law.jp

『企業法務診断室』では、田島・寺西法律事務所所属弁護士が、豊富な実務経験に基づきよくある相談への一般的な回答例を紹介しています。
事案に応じたピンポイントなご回答をご希望の方は、面談での法律相談をご利用ください。

遠隔地の方でもZOOMにて対応しています。


« 戻る