コラム「企業法務相談室」一覧

会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。

  • 2015/10/13 商取引 インサイダー取引規制~ストックオプションの行使について~(西川文彬弁護士)

    インサイダー取引規制~ストックオプションの行使について~

    Q 私は,上場会社の従業員ですが,会社から付与されたストックオプションを行使することを考えております。もっとも,私は,会社が他社との業務提携を決定したという未公表の情報を知っておりますので,ストックオプションの行使はインサイダー取引規制に反することになるのでしょうか。また,私がストックオプションを行使して得た株式を売却することは許されるのでしょうか。


    A ストックオプションとして付与された新株予約権を行使して株式を取得することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当するので,未公表の重要事実を知っていても,ストックオプションを行使して株式を取得することは可能です。
     もっとも,ストックオプションの行使によって得た株式を売却することは,インサイダー取引規制の適用除外に該当しません。そのため,未だ公表されていない業務提携の決定(軽微基準に該当する場合を除きます。)という重要事実の決定をご存じであれば,株式を取得しても,当該事実が公表されるまでは売却することが許されません。


    1 インサイダー取引規制の概要

     インサイダー取引規制としては,会社関係者等によるインサイダー取引(金融商品取引法(以下,「法」といいます。)166条),公開買付関係者等によるインサイダー取引(法167条)に分けられます。 
     
     また,インサイダー取引を未然に防止する規制としては,上場会社等の役員及び主要株主に対する売買報告書提出義務(法163条),短期売買差益の提供義務(法164条),空売りの禁止(法165条)等が挙げられます。

     設例は,会社従業員による相談ですので,以下,会社関係者等によるインサイダー取引について概説いたします。

    2 会社関係者等によるインサイダー取引(法166条)

     会社関係者等によるインサイダー取引とは,

    会社関係者
    (①上場会社・親会社・子会社(子会社にかかる重要事実のみ)の役職員,②会計帳簿閲覧権者,③法令に基づく権限を有する者,④契約締結者・締結交渉中の者,⑤②,④と同一法人のほかの役職員)

    元会社関係者
    (会社関係者でなくなってから1年以内の者)

    情報受領者
    (会社関係者・元会社関係者から重要事実の伝達を受けた者等)

    重要事実の決定・発生後公表前に,職務等に関して(注:情報受領者には「職務等との関連性」は要求されません。)重要事実を知りながら特定有価証券等を売買等することを指します(法166条1項,3項)。

     設例において,会社従業員が職務に関して重要事実の決定を知ったような場合には,会社関係者(法166条1項)として,職務とは関係のない飲み会の席などで重要事実の決定を知った場合には,情報受領者(法166条3項)としてインサイダー取引規制の対象とされる可能性があるといえます。
     
    3 重要事実(法166条2項)

     次に,設例において会社従業員が知っている他社との業務提携の決定という事実が「重要事実」の決定といえるのか検討が必要になります。

     重要事実は,投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報とされており,上場会社等又はその子会社にかかる①決定事実(法166条2項1号,5号,一部軽微基準あり),②発生事実(同項2号,6号,一部軽微基準あり),③決算情報(同号3号,7号,重要基準あり),④バスケット条項(同項4号,8号)が定められています。

     上場会社等にかかる決定事実としては,株式や新株予約権の募集・自己株式の処分,資本金の額の減少,資本準備金又は利益準備金の額の減少,自己株式の取得,株式無償割当て,株式の分割,剰余金の配当,組織再編行為,業務上の提携等が挙げられています(法166条第2項1号)。

     そのため,設例において,他社との業務提携を決定したことを知っているのであれば,原則として,重要事実の決定を知っていることとなります。

     なお,業務提携の決定については,軽微基準(提携から3年以内の各事業年度において提携効果として見込まれる売上増加額が,最近事業年度の売上高に対して10%未満であること等,有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49条1項10号)が定められていますので,軽微基準に該当する場合であれば,業務提携の決定を知っていても,インサイダー取引規制の違反とはなりません。

    4 適用除外(法166条6項)

     会社関係者等のインサイダー取引規制には一定の適用除外が定められており,証券市場の公正性・健全性に対する投資者の信頼確保の観点から類型的に規制対象とする必要がないと考えられる取引については,適用除外とされています(法166条6項)。

     適用除外としては,既に有する権利を行使する場合(ストックオプションの行使等),法令に基づく場合(反対株主の株式買取請求等),重要事実を知る前に決定された売買等の計画の実行としての売買等(従業員持株会が株券の買付けを行う場合,株式累積投資制度(るいとう)による買付け等),組織再編がなされるにあたって売買等がされる場合,などが挙げられます。なお,適用除外に関しては,自社株売買に対する過度な制約を解除するため,近時,「知る前契約」「知る前計画」に係るインサイダー取引規制の適用除外に関して「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」が一部改正され,平成27年9月16日から施行されております(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」及び「金融商品取引法等に関する留意事項について」(「金融商品取引法等ガイドライン)の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果並びにインサイダー取引規制に関するQ&Aの追加等について」http://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20150902-1.html#bessi4)。

     設例のストックオプションを行使して株式を取得することは,上記適用除外に該当し,インサイダー取引規制に違反することにはなりません。

     他方,ストックオプションを行使して得た株式を売却する場合は適用除外になりません。したがって,重要事実が公表されてからでなければ,売買をすることができないので,注意が必要です。

     なお,公表とは,①上場会社等又は上場会社等の子会社などにより多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置が取られたこと,または,②これらの者が当該事項の記載されている法定開示書類が公衆縦覧に供されていること(法166条4項)とされており,上場会社等のホームページにおける公開では足りないことに注意が必要です。実務上は,①のうち,東京証券取引所が運営している「TDnet(Timely Disclosure network)」による公表方法が中心となっています。

    5 罰則

     インサイダー取引規制に違反した場合の罰則としては,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金,又はこれらの併科になります(法197条の2第13号)。

     また,法人の代表者又は法人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人の計算でインサイダー取引規制に違反した場合には,その法人に対して5億円以下の罰金刑が科されます(法207条1項2号)。

     さらに,インサイダー取引規制の違反によって得た財産は原則として没収又は追徴されます(法198条の2)。

     このほか,行政上の措置として,インサイダー取引規制に違反して自己の計算で有価証券の売買等を行ったものに対して,金融庁から課徴金納付命令が出されます(法175条)。

    弁護士 西川 文彬

    こちらのコラムをご覧になりご相談をご希望の方は,弁護士西川までご連絡ください。

    直通電話 03-5215-7390

    メール  nishikawa@tajima-law.jp


  • 2015/09/14 知的財産 ビッグデータの利活用を視野に入れた個人情報保護法改正(田島正広弁護士)

    ビッグデータの利活用を視野に入れた個人情報保護法改正

    Q ビッグデータの利活用の観点から,個人情報保護法が改正されると聞きました。改正の概要を教えて下さい。



    A 個人情報の定義の明確化,要配慮個人情報のに関する規制,匿名加工情報に関する取扱いの定め,トレーサビリティの確保,個人情報保護委員会の新設,国境を超えた適用等が挙げられます。


    1 ビッグデータの利活用の必要性と個人情報保護のあり方

     ビッグデータの利活用が企業活動における重要な課題とされる今日,プライバシーに関わる個人の権利利益が不当に侵害されないよう,ビッグデータの利活用を推進するためのルール作りが各国における重要課題となっています。この点,我が国においても,法制度上個人情報として取り扱うべき範囲が曖昧なことから,JR  東日本のSUICAに関するデータ提供事案を初めとして,企業側でもビッグデータの商業利用の推進に躊躇しており,一方,自らの個人データを匿名化して提供される国民の側でも,情報の匿名化の程度,復元可能性等について不安感を募らせるところとなっていました。そこで,この点を明確にしたのが,今回の個人情報保護法改正案です。現在,衆議院での審議中であり,間もなく成立見込です。以下にその重要なポイントを指摘します。

    2 個人情報の定義の明確化

    (1) 個人情報の定義の明確化

     改正法においては,個人情報は,生存する個人に関する情報であって,次の各号のいずれかに該当するものをいうものとされます(改正法2条1項)。すなわち,

    ① 生存する個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(文書,図面若しくは電磁的記録に記載され,若しくは記録され,又は音声,動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

    ② 個人識別符号が含まれるもの

      ここで,個人識別符号とは,次の各号のいずれかに該当する文字,番号,記号その他の符号のうち,政令で定めるものをいうものとされます(同条2項)。

    ① 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字,番号,記号その他の符号であって,当該特定の個人を識別することができるもの

    ② 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ,又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され,若しくは電磁的方式により記録された文字,番号,記号その他の符号であって,その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ,又は記載され,若しくは記録されることにより,特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの
     
    (2) 要配慮個人情報の定義と新たな規制

     改正法2条3項は,「本人の人種,信条,社会的身分,病歴,犯罪の経歴,犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別,偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」をもって要配慮個人情報と定義しています。

     その上で,法令に基づく場合,又は人の生命,身体,財産の保護に必要な場合,公衆衛生の向上等のため特に必要な場合,若しくは国の機関等の事務に協力すべき場合で本人の同意が得られない場合の他,本人,国の機関,地方公共団体等,その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合等の例外を除いては,あらかじめ本人の同意を得ないで,要配慮個人情報を取得してはならないものとされます(同法17条2項)。

     また,オプトインが原則である第三者提供の例外として,オプトアウトを認める法23条2項により提供可能な個人データからは,定義上要配慮個人情報が除外されており,オプトアウトに依拠する名簿屋での第三者提供は一切許されません。

    3 適切な規律の下での個人情報等の有用性確保

    (1) 匿名加工情報に関する加工方法,取扱い等の規定の整備

     改正法では個人情報を匿名化して利活用を進めるため,その加工方法や取扱いが整備されました。

     すなわち,まず匿名化された情報の定義として,「匿名加工情報」とは,次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて,当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって,当該個人情報を復元することができないようにしたものをいうものとされます(改正法2条9項)。

    ① 法2条1項1号に該当する個人情報 

      当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含みます。)

    ② 法2条1項2号に該当する個人情報(個人識別符号) 

      当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含みます。)

     そして,個人情報取扱事業者が匿名加工情報データベース等を構成する匿名加工情報を作成するときは,特定の個人を識別すること及びその作成に用いる個人情報を復元することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い,当該個人情報を加工しなければならないものとして(改正法36条1項),匿名加工の際の個人識別性及び復元性排除の基準を定めています。

     さらに,匿名加工情報を作成した個人情報取扱事業者は,その作成に用いた個人情報から削除した記述等及び個人識別符号並びに前号の規定により行った加工の方法に関する情報の漏えいを防止するために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い,これらの情報の安全管理のための措置を講じなければならないものとされます(同条2項)。
    この他,当該個人情報取扱事業者は,個人情報保護委員会規則で定める公表義務等が課せられる他(同条3項,4項),当該個人情報取扱事業者が個人を識別するために,当該匿名加工情報を他の情報と照合してはならないものとされます(同条5項)。

    (2) 個人情報保護指針の作成,届出,公表等の規定の整備

     従前より対象事業者の個人情報の適正な取扱いのために認定個人情報保護団体による個人情報保護指針の作成,公表の努力義務が定められていましたが,改正法ではその対象を事業者の個人情報及び匿名加工情報に拡大すると共に,対象事業者に対する一定の措置を同団体の義務としました(改正法53条1項ないし4項)。

    4 個人情報保護の強化

    (1) トレーサビリティの確保

     オプトアウトの機会を実効化するためには,自らの個人データの第三者提供のルートを事後的に辿るためのトレーサビリティの保障が必要となります。このことは,個人情報の不正取得,漏えいの状況を明らかにするためにも必要であり,同時にこれらに対する抑止力としても機能することが期待されます。

     そこで,個人情報取扱事業者は,個人データを第三者(法2条5項各号に掲げる者(行政機関等)を除くものとされ,これらに提供した場合は作成義務は課されません。)に提供したときは,個人情報保護委員会規則で定めるところにより,当該個人データを提供した年月日,当該第三者の氏名又は名称その他の個人情報保護委員会規則で定める事項に関する記録を作成しなければならないものとされます(改正法25条1項)。

     ここで,法23条1項各号又は5項各号の場合は除外されていますが,外国にある第三者への提供の場合は同1項各号のみが除外されていることから,同等性認定を受けていない外国にあるクラウド事業者に個人データを提供して管理させる行為が同法上の委託と見られる場合,事業者には上記記録作成義務が課せられることになります。

     また,個人情報取扱事業者が,第三者から個人データの提供を受けるに際しては,個人情報保護委員会規則の定めるところにより,

    ① 当該第三者の氏名又は名称及び住所,並びに法人の場合は代表者の氏名

    ② 当該第三者による当該個人データの取得経緯

    を確認した上,当該データ提供の年月日,確認にかかる事項等に関する記録を作成し,同規則で定める期間保存しなければなりません(改正法26条1項,3項,4項)。当該第三者は上記確認に対する虚偽告知が禁止されています(同条2項)。

    (2) データベース提供罪の新設

     個人情報の漏えい行為を直接処罰の対象として個人情報保護を強化し,不正行為への抑止力を高める趣旨で,法83条が新設されました。ここでは,個人情報データベース等を取り扱う事務に従事する者又は従事していた者が,不正な利益を図る目的でそれを提供又は盗用する行為が処罰されます。罰則としては,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

    5 個人情報保護委員会の新設及びその権限

     本法制定時点で既に,個人情報取扱事業者に対する監督を適正かつ実効的な規制の実現という観点から,特定の省庁から独立した統一的な第三者機関の権限に委ねるべきとの意見がありました。この点,いわゆるマイナンバー法制定に当たり,特定個人情報の機微性,不正なデータマッチングによる重大なプライバシー侵害の危険等に照らして,独立した第三者機関として特定個人情報保護委員会が設立され,運用が開始されています。

     そこで,この度本法改正に当たり,内閣府設置法49条3項により内閣府の外局として,特定個人情報保護委員会を改組して個人情報保護委員会を設立し(改正法59条),現行の主務大臣の有する権限を集約すると共に,立入検査の権限等を追加して(同法40条1項),個人情報取扱事業者等に対する,より適正かつ実効的な規制が図られることになりました。

    6 個人情報の取扱いのグローバル化

    (1) 国境を越えた適用と外国執行当局への情報提供

     個人情報を利用するビジネスのグローバル化に対応して,個人の権利利益の適正な保護と利活用の調和を実現するために,改正法は,日本国内の個人情報を事業上取得した外国の個人情報取扱事業者に対しても個人情報保護法を原則適用することとしました。すなわち,この場合,改正法15条,16条,18条(2項を除く),19条から25条まで,27条から36条まで,41条,42条1項,43条及び76条の規定が適用されます(同法75条)。
      
    (2) 外国にある第三者への個人データの提供に関する規定の整備

     提供先第三者が外国の事業者の場合にも従前より法23条が適用されていますが,国内事業者の場合に比して自己情報のコントロールがより難しいことが想定されるため,改正法は企業活動のグローバル化を踏まえつつも本人の権利利益保護の観点に照らして,同条にはよらずに,原則として本人の同意を要求することとしました(改正法24条)。

     ただし,次の場合には法24条は適用されないものとされています(同条)。

    ① 提供先の外国が,個人の権利利益を保護する上で我が国と同等の水準にあると認められる個人情報の保護に関する制度を有している外国として個人情報保護委員会規則で定めるものである場合。

    ② 提供先の第三者が,個人データの取扱いについてこの節の規定により個人情報取扱事業者が講ずべきこととされている措置に相当する措置を継続的に講ずるために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に適合する体制を整備している者である場合。

    7 その他の改正事項

    (1) 個人情報取扱事業者の除外規定の削除

     6月以内に取り扱う個人情報の件数が5000件を超えない事業者は,法2条5項によって個人情報取扱事業者から除外されていますが,これでは個人情報保護が十分ではなく,EUからの十分性認定を受けられない一因ともなっているとの指摘もあることから,改正法では同項が削除されました。

    (2) 利用目的を変更可能とする規定の整備

     事業者側において機動的な目的変更を可能にするために「相当の」という限定文言を削除することとなりました(改正法15条2項)。変更可能な範囲は,本人が通常予期し得る限度内と立法者に解されています。

    (3) 利用の必要性がなくなった場合の個人データ消去義務

     従前より,個人情報取扱事業者が利用する必要性のなくなった個人データを取り扱うことは,利用目的達成に必要な範囲を超えており目的外利用であるとの指摘がありましたが,改正法では,係る場合には事業者は,当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならないものとされ,消去の方向性が示されました(改正法19条)。

    (4) オプトアウト規定の厳格化

     不正取得した大量の個人データが名簿屋を通じて広範に提供される事案が生じていることから,改正法ではオプトアウトのための要件を厳格化しました(改正法23条2項)。

    (5) 保有個人データの開示請求権等と事前請求

     改正法は,保有個人データの開示請求等の上記各請求が裁判上請求可能な本人の請求権であることを明示すると共に(改正法28条1項,29条1項,30条1項),訴え提起に当たっては,被告となるべき事業者に対し,あらかじめ裁判外で当該請求を行い,その到達から2週間を経過した後でなければ,訴えを提起できないものとしました(改正法34条1項)。

    (6) 苦情処理及びあっせん

     改正法においては,個人情報保護委員会の任務として,個人情報及び匿名加工情報の取扱いに関する監督並びに苦情の申出についての必要なあっせん及びその処理を行う事業者への協力に関することが挙げられており(改正法61条2号),同委員会が国民生活センター等と並行して苦情処理等に当たることになります。

    弁護士 田島 正広

    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。
    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。


    直通電話 03-5215-7354
    メール   advice@tajima-law.jp
  • 2015/09/11 商取引 WEB上におけるプライバシーポリシー(個人情報の利用目的)の表示(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    WEB上におけるプライバシーポリシー(個人情報の利用目的)の表示

    Q 弊社はウェブサイトを改正し,ウェブ上で申込みを受けてサービスを提供する新ビジネスを考えています。それにあたり,利用規約とともにプライバシーポリシーを定める必要があると聞きました。プライバシーポリシーを定めたとして,ウェブ上でどのように表示させるべきでしょうか。

    A ガイドラインにしたがって「公表」及び「明示」する必要があります。

    1 プライバシーポリシーとは

     まず,プライバシーポリシー(個人情報規約ないしは個人情報保護方針)とは,個人情報についてその収集や活用,管理,保護等に関する取扱いの方針を明文化したものです。

     プライバシーポリシーを定義し,プライバシーポリシーを定める旨を直接的に規定する法律は存在しませんが,個人情報保護法において,個人情報を扱うウェブサイトを開設,運営等する場合について必要な通知,公表,明示等が定められています。

     プライバシーポリシーは,目的・手段において適切に各個人の情報を取得するために必要であり,以下のような内容を有するウェブサイトにおいてはその制定が必要です。

    ・商品や各種サービスの申込み,確認
    ・懸賞・クイズへの応募
    ・カタログ・資料請求
    ・会員制サイトへの登録や入会
    ・イベントの参加申込み,施設の利用申込み
    ・メールによる問い合わせ,照会や意見募集
    ・電子会議室や掲示板
    ・メルマガ等の配信登録
    ・クッキーによるユーザー識別やアクセス情報の収集
    ・その他,何らかの形で個人情報を収集するもの
    (公益社団法人日本広報協会ホームページ)

     個人情報においては,プライバシーポリシーというよりも「個人情報の利用目的」の明示義務が定められており,表示義務はその限りにとどまります。もっとも,当該利用目的はプライバシーポリシー内に記載されていることが通常であることから(プライバシーポリシーの一部を構成),利用目的の表示義務は,そのままプライバシーポリシーの表示義務ということができます。

     以下,引用条文中は「利用目的」との文言が存在しますが,いずれもプライバシーポリシーに置き換えて説明します。

    2 プライバシーポリシーの「公表」義務

     個人情報保護法18条1項においては,

     個人情報取扱事業者は,個人情報を取得した場合は,あらかじめその利用目的を公表している場合を除き,速やかに,その利用目的を,本人に通知し,又は公表しなければならない

    と定められています。

     取得の都度本人に通知又は公表するよりも,あらかじめ公表する方法が実用的ですが,ここでいう「公表」とは,「広く一般に自己の意思を知らせること(国民一般その他不特定多数の人々が知ることができるように発表すること)」とされており,その具体例として,ウェブサイトについては
     
     自社のウェブ画面中のトップページから1回程度の操作で到達できる場所への掲載

    とされています(個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン(平成26年12月12日改正))。これが,様々に存在する各ウェブサイトにおいて,基本的にプライバシーポリシーのリンクがトップページ下に設けられている理由です。

     以上の通りであり,まず一段階目の回答として,プライバシーポリシーをウェブサイト上で「あらかじめ公表」するために,「ウェブ画面中のトップページから1回程度の操作で到達できる場所へ」掲載しなければなりません。

    3 プライバシーポリシーの「明示」義務

     次に,同条第2項(一部抜粋)において,

     個人情報取扱事業者は,前項の規定にかかわらず,本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電子的方式・・・を含む・・・)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合・・・は,あらかじめ,本人に対し,その利用目的を明示しなければならない

    と定められており,上記の場合に「本人に対し」「明示」することが要求されています。ここでいう「明示」とは,「本人に対し,明確に示すこと」とされており,その具体例として

     ネットワーク上においては,本人がアクセスした自社のウェブ画面上,又は本人の端末装置上にその利用目的を明記すること(ネットワーク上において個人情報を取得する場合は,本人が送信ボタン等をクリックする前等にその利用目的(利用目的の内容が示された画面に1回程度の操作でページ遷移するよう設定したリンクやボタンを含む。)が本人の目にとまるようその配置に留意する必要がある。)

    とされています(同ガイドライン)。

     ウェブ上で契約を締結する際,個人に対して利用規約を示すことが通常行われていますが,それと同様に,プライバシーポリシーについても明示しなければならず,その方法も限定されているということです。

     ここで問題なのは「1回程度の操作でページ遷移するよう設定したリンクやボタン」です。
    この「操作」にはスクロール操作やクリック操作も含まれており,クリックした後スクロールする操作は合計2操作になります。

     「1回程度」という言葉の曖昧さはありますが,要は「一つの行動と捉えられる範囲の操作」ということになるため,ダブルクリックや,マウスのスクロールボタン(ホイール)を利用した,ホイールを複数回に分けて回転させて行うスクロール行為等が「1回程度」の定義に該当するでしょう。

     いずれにせよ,例えば送信ボタンの上にプライバシーポリシーのページに遷移するリンクを設けていても,遷移した先のページで実際の利用目的を確認するのにスクロールしなければならないとなると,「明示」に該当しないおそれがあるのです。

     以上の通りであり,二段階目の回答として,ウェブページ上において送信ボタン上部にプライバシーポリシーを記載した窓を設け,利用目的が記載されていることを示したうえでスクロール行為のみで確認できるようにする,又は同部にリンクを設け,遷移先でスクロールなしに利用目的を確認できるようにする,等の形式で,利用目的を「明示」しなければなりません。

     なお,法的規制とは別に,JIS Q 15001:2006「個人情報保護に関するマネジメントシステム-要求事項」の第三者認証制度を利用する場合は,それらの規制をも遵守することになり,さらに厳しい要件が課されることになります。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。
    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354
    メール   advice@tajima-law.jp
  • 2015/08/28 企業経営 上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~(西川文彬弁護士)

    上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。・・・

    Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,A社の役員もB社の株式を所有しておりません。このような場合に公開買付けを行う必要があるのでしょうか。

     また,A社の総株主の議決権の過半数を有する親会社(C社)がB社の株式を保有していたとしたら,結論に影響を与えますでしょうか。

     その他,金融商品取引法上気にしておくべきことはありますか,概要だけでも教えてください。
     ※B社が有価証券報告書提出義務のある発行者であることを前提としております。
     ※知人数名は,いずれも会社関係者ではないことを前提としております。

    A 金融商品取引法においては,一定の場合に,公開買付けを行うことが義務付けられておりますが,株券等所有割合が5%超となる買付けであっても,株券等所有割合の3分の1を超えない範囲での「著しく少数の者」からの買付けであれば,公開買付けは強制されません。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,知人数名(10人以下)から有償で譲り受けて株券等所有割合が10%になる者であるため,公開買付けは強制されません。

     もっとも,C社は,A社の特別関係者に該当するため,公開買付けが強制されるかの判断において,A社はC社が所有しているB社の株式も合算しなければなりません。本件において,買付け等開始時のC社の株券等所有割合と買付け等を行った後におけるA社の株券等所有割合の合計が3分の1を超えるのであれば,公開買付けを行わなければならないことになります。

     また,発行済株式総数の5%を超えて保有すること(「大量保有者」と呼ばれます。)になるため,大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要があります。
     さらに,A社は,B社の主要株主(総株主等の議決権の10%以上の議決権を保有している株主)となるため,インサイダー取引の未然防止のため,売買報告義務,短期売買利益提供義務が課せられ,空売りが禁止されるなどの規制を受けることになります。

    1 公開買付け

    (1) 概要

     公開買付けとは,「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。)の申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うことをいう。」とされています(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)27条の2第6項)。

     そして,金商法においては,株主および投資者への適正な情報開示を図り,また,株主などに株券等の平等な売却機会を与える必要があることなどから,一定の要件に該当する場合には,公開買付けを行うことが義務付けられています(金商法27条の2第1項)。

    (2) 公開買付けが強制される取引

     具体的には,有価証券報告書提出義務がある発行者の株券等について,発行者以外の者が行う買付等であって,以下に該当するものは,適用除外に該当しない限り,公開買付けによらなければならないとされています。
     
    ① 株券等所有割合(金商法27条の2第8項1号,以下同じ)が5%超になる市場外での買付け(同条第1項1号)

     本号においては,著しく少数の者からの買付け等(金融商品取引法施行令(以下,「令」といいます。)6条の2)などは対象外とされており,また,特別関係者(後述)がある場合には,その者の所有割合を加算する必要があります。

    ② 著しく少数の者からの買付け等で株券等所有割合が3分の1超になる買付け(同項2号)

     著しく少数の者」とは,10名以下とされ,当該買付けの際の相手方の人数と,それ以前の60日間に市場外で買付け等(一定の買付け等は除かれます。)を行った際の相手方(一定の者は除かれます。)の人数を合計した延べ人数で判断されます(令6条の2第3項)。

    ③ 取引所金融市場における有価証券の売買等であって競売買の方法以外の方法で内閣総理大臣が指定したもの(特定売買等)によって,株券等所有割合が3分の1超になる買付け等(同項3号)
     
     特定売買等として,各取引所の立会外取引が指定されています(平成17年7月8日金融庁告示第53号)。

    ④ 市場内外の取引を組み合わせた急速な買付け等(同項4号)

     本号は,32%までの株式を市場外で買付け,その後,市場内で2%の株式を買い付けたり,第三者割当てを受けるといった態様を規制するために設けられました。

     具体的な規制内容は,以下のとおりです(令7条2項ないし4項,発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下,「他社株府令」といいます。)4条の2第1項,2項)。
      
     ア)3か月以内に,株券等の総数の10%超の株券等の取得を行い,
     イ)上記ア)の取得のうち,株券等の総数の5%超の株券等の取得が市場外(公開買付けを除く)
       または立会外取引によるものであって,
     ウ)取得後における株券等所有割合が3分の1超となる場合

    ⑤ 他者の公開買付け期間中における競合買付け等(同項5号)

     公開買付者は,別途買付の禁止により公開買付け以外の方法で買付けを行うことができないこととのバランスや投資者がいずれの者によって会社を支配させる方が相当かを判断できるようにする必要があるという観点から設けられた規制です。

     具体的には,他者が公開買付けを行っている期間中に,対象者の株券等の3分の1超を所有している者が5%を超える株券の買付け等(市場内外を問いません)を行う場合には,公開買付けによらなければならないとされています(令7条5項,6項,他社株府令4条の2第3項)。

    ⑥ 上記①ないし⑤に準ずるものとして政令で定める株券等の買付け等(同項6号)

     具体的には,5%超基準から除外されるPTS(私設取引システム)における上場有価証券の買付等(令7条7項1号),実質基準特別関係者を加算して4号を適用した場合の買付等(令7条7項2号)が政令で定められています。

    (3) 特別関係者
      
     復数の者が共同して対象者の株券等の買付けを行う場合があることを考慮して,公開買付けの要否を判断するにあたっては,買付者の株券等所有割合に買付者の特別関係者の株券所有割合を加えて算定されます(金商法27条の2第1項1号)。

     そして,特別関係者は,形式基準の特別関係者(同条第7項1号,令9条)と実質基準の特別関係者(金商法27条の2第7項2号)に区分されております。

     形式基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」(同項1号)とされ,金融商品取引法施行令9条において詳細に規定されております。

     具体的には,買付者が法人の場合,その役員(令9条2項1号),買付者が他の法人に対して特別資本関係(当該法人等の総株主等の議決権数の20%以上の株式又は出資を自己または他人名義で所有する関係)を有する場合における当該他の法人等及びその役員(同項2号)などが挙げられます。

     実質基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者との間で、共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、若しくは当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使すること又は当該株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡し、若しくは譲り受けることを合意している者」(同項2号)とされ,合意の時点で特別関係者になるとされています。

    (4) 適用除外

     上記①から⑥に該当して,投資者保護などの観点から,公開買付けによる必要性の低いものなどについては,適用除外とされています(金商法27条の2条第1項ただし書,令6条の2)。

     具体的には,権利行使による買付け等の適用除外(新株予約権の行使により株券を取得する場合など),関係者からの買付け等の適用除外(1年間継続して買付者の形式基準の特別関係者である者から行う株券等の買付けなど),25名未満のすべての株主の同意がある場合の適用除外などが挙げられます。

    (5) 小結

     今回,A社は,B社の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けるということであり,買付後のA社の株券等所有割合が5%を超える場合(上記①)に該当するとも思われますが,上記①においては,「著しく少数の者からの取得」は除外されており,今回A社が買い付けるのは,10名以下の知人数名であることから,上記①には該当しません。また,A社の株券等所有割合は10%になるため,著しく少数の者から買付けであっても3分の1を超えない(上記②)ことから,公開買付けによる必要はないものと考えられます。

     また,A社の親会社であるC社は,A社を被支配法人(令9条5項)とするものであり,A社の特別関係人(令9条2項3号)であることから,公開義務の存否においては,A社はC社がB社の株券を有しているか,また,その数を確認する必要があるといえます。今回,C社の株券等所有割合を合算しても,3分の1を超えない場合には,公開買付けは不要ですし,反対に,3分の1を超えるようでしたら,公開買付けを行う必要があります(上記②)。
     
    2 大量保有報告

     上場会社等の発行する株券等の保有者は,その株券等保有割合が5%を超えたとき(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く),5営業日以内(初日は算入しない)に大量保有報告書を財務局長等に提出しなければなりません(金商法27条の23第1項,株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下,「大量保有府令」という。)2条)。

     さらに,大量保有報告書の提出義務者は,大量保有者となった日後に株券等保有割合が1%以上増減した場合,(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く)その他の大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更があった場合には,その日から5営業日以内(初日は参入しない)に変更報告書の提出義務があります(金商法27条の25第1項,大量保有府令9条)。

     本件では,A社は,B社の発行する株式を株券等保有割合5%を超えて保有することになりますので,大量保有報告書の提出が義務付けられ,また,変更報告書の提出事由が生じた場合には,変更報告書の提出義務を負います。

    3 インサイダー取引未然防止のための主要株主等に対する規制

    (1) 売買報告書

     上場会社等の役員及び主要株主は,自己の計算において,当該上場会社等の特定有価証券等の買付け等又は売付け等をした場合には,適用除外となる場合を除き,その売買等に関する報告書を翌月15日までに財務局長等に提出しなければなりません(金商法163条,令43条の10)。

     この規制は,インサイダー取引の間接的な防止との制度趣旨の下,主要株主の上場会社等への短期売買利益の提供義務の実効性を確保する観点から,行政当局が主要株主による自社株の売買を把握できるようにするものになります。

    (2) 短期売買利益の返還
     
     上場会社等の役員または主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため,上場会社等の役員または主要株主がその特定有価証券等について,自己の計算において6か月以内の短期売買取引(買付け等後6か月以内に売付け等または売付け等後6か月以内に買付け等)をして利益を得た場合には,適用除外となる場合を除き,当該上場会社等は,その利益を上場会社等に提供すべきことを請求できます(金商法164条)。

    (3) 空売りの禁止

     株価が下落するような内部情報を知ったものが不当な利益を得るために利用する恐れのある特殊な取引を禁止することにより,間接的にインサイダー取引の防止を図るため,上場会社等の役員または主要株主による一定の空売りが禁止されています(金商法165条)。

    田島・寺西法律事務所
    弁護士 西川 文彬

    こちらのコラムをご覧になりご相談をご希望の方は,弁護士西川までご連絡ください。

    直通電話 03-5215-7390

    メール  nishikawa@tajima-law.jp

  • 2015/08/21 企業経営 共有に属する株式の権利行使(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    共有に属する株式の権利行使

    Q 以前,我が社のある株主が亡くなりました。その株主には3名の相続人がいるようなのですが,遺産分割協議が行われたかどうかは不明です。かかるところ,株主総会において,株主の相続人3名のうちの2名の連名で,議決権行使書面が送られてきました。我が社として,この議決権行使の取扱いについて,気を付けることはありますでしょうか。

    A
     まず,会社としては,亡くなった株主の相続人に対して,株式の帰属関係を確認することが重要です。

     株式が誰に帰属しているかが明らかになれば,株式が帰属している者に議決権を行使させれば足ります。しかし,本件の場合,2名の連名で議決権を行使しようとしているため,未だ株式が共有状態であることが予想されます。

     未だ遺産分割が終了していないなどの理由で,株式が共有されている場合,会社としてどのように対応すればよいか問題となります。
     
     株式が共有に属する場合における株式の権利行使については,会社法第106条に定めがあります。
     
     同条によると,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない」とされています。

     すなわち,会社としては,株式の共有者からの権利行使者に関する通知において指定されている者に権利行使させることが原則です。

     したがって,会社としては,株式の共有者に対して,株式に関する権利行使者を指定して会社に通知するよう求め,当該指定された者に権利行使させるべきであると考えられます。

     ところで,会社法第106条但書には,「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない」との定めがあります。

     そこで,例えば,本件で遺産分割協議が未了で,株式が相続人3名の共有に属するという場合,会社は,株式の共有者のうちの一部の者により,会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま権利が行使されたとしても,同条但書の同意により,当該権利行使を適法なものとすることができるのか,ということが問題となります。

     この会社法106条但書の株式会社の同意によりいかなる権利行使が適法なものとなるのかについては,学説が分かれている問題であったところ,近時,最高裁判決が出ました(最判平成27年2月19日)。

     上記最高裁判決は,まず,会社法106条本文は,準共有株式についての権利行使の方法について民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(民法264条但書)を設けたものと解されるとした上で,会社法106条但書は,株式会社が当該権利の行使に同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解しました。

     そして,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条但書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではない,と判示しました。

     すなわち,上記判示からすると,会社法106条本文に基づく指定および通知がない場合であっても,民法の共有に関する規定に従って株式に関する権利が行使され,これにつき株式会社の106条但書の同意がなされることにより,当該権利の行使は適法となると考えられます。

     それゆえ,会社として106条但書に定める同意により株式の共有者による権利行使を認める場合には,株式の共有者が誰なのか,株式の共有者による権利行使が,保存行為,処分行為,又は管理行為のいずれに該当するのか,該当する行為に要求される民法の共有に関する規定に従って権利行使されているのか,という点に留意する必要があるでしょう。

     ちなみに,上記最高裁判例の事例においては,株主総会における「議決権の行使」の適法性が問題となったのですが,最高裁は「議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である」と判示しました。

     その上で,本事案においては,議決権の行使が各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられていないため,会社が106条但書による同意をしても,議決権行使は適法となるものではない,と判断しました。

     したがって,本件では,議決権の行使が問題となっていることから,特段の事情がない限り管理行為となるので,当該議決権の行使が,共有者の持分の価格に従って,その過半数で決せられたものであることが確認できれば,適法な権利行使と認めてよいと考えられます。

    田島・寺西・遠藤法律事務所

    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp