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> 2015/08/28 企業経営
上場株式を大量に買い付ける場合の規制について~公開買付けを中心に~
Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。・・・
Q 私が代表取締役を務める会社(A社)は,知人数名(10人以下)から,ある上場会社(B社)の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けることを考えています。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,A社の役員もB社の株式を所有しておりません。このような場合に公開買付けを行う必要があるのでしょうか。
また,A社の総株主の議決権の過半数を有する親会社(C社)がB社の株式を保有していたとしたら,結論に影響を与えますでしょうか。
その他,金融商品取引法上気にしておくべきことはありますか,概要だけでも教えてください。
※B社が有価証券報告書提出義務のある発行者であることを前提としております。
※知人数名は,いずれも会社関係者ではないことを前提としております。
A 金融商品取引法においては,一定の場合に,公開買付けを行うことが義務付けられておりますが,株券等所有割合が5%超となる買付けであっても,株券等所有割合の3分の1を超えない範囲での「著しく少数の者」からの買付けであれば,公開買付けは強制されません。A社は,現在,B社の株式を所有しておらず,また,知人数名(10人以下)から有償で譲り受けて株券等所有割合が10%になる者であるため,公開買付けは強制されません。
もっとも,C社は,A社の特別関係者に該当するため,公開買付けが強制されるかの判断において,A社はC社が所有しているB社の株式も合算しなければなりません。本件において,買付け等開始時のC社の株券等所有割合と買付け等を行った後におけるA社の株券等所有割合の合計が3分の1を超えるのであれば,公開買付けを行わなければならないことになります。
また,発行済株式総数の5%を超えて保有すること(「大量保有者」と呼ばれます。)になるため,大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出する必要があります。
さらに,A社は,B社の主要株主(総株主等の議決権の10%以上の議決権を保有している株主)となるため,インサイダー取引の未然防止のため,売買報告義務,短期売買利益提供義務が課せられ,空売りが禁止されるなどの規制を受けることになります。
1 公開買付け
(1) 概要
公開買付けとは,「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の申込み又は売付け等(売付けその他の有償の譲渡をいう。)の申込みの勧誘を行い、取引所金融商品市場外で株券等の買付け等を行うことをいう。」とされています(金融商品取引法(以下,「金商法」といいます。)27条の2第6項)。
そして,金商法においては,株主および投資者への適正な情報開示を図り,また,株主などに株券等の平等な売却機会を与える必要があることなどから,一定の要件に該当する場合には,公開買付けを行うことが義務付けられています(金商法27条の2第1項)。
(2) 公開買付けが強制される取引
具体的には,有価証券報告書提出義務がある発行者の株券等について,発行者以外の者が行う買付等であって,以下に該当するものは,適用除外に該当しない限り,公開買付けによらなければならないとされています。
① 株券等所有割合(金商法27条の2第8項1号,以下同じ)が5%超になる市場外での買付け(同条第1項1号)
本号においては,著しく少数の者からの買付け等(金融商品取引法施行令(以下,「令」といいます。)6条の2)などは対象外とされており,また,特別関係者(後述)がある場合には,その者の所有割合を加算する必要があります。
② 著しく少数の者からの買付け等で株券等所有割合が3分の1超になる買付け(同項2号)
著しく少数の者」とは,10名以下とされ,当該買付けの際の相手方の人数と,それ以前の60日間に市場外で買付け等(一定の買付け等は除かれます。)を行った際の相手方(一定の者は除かれます。)の人数を合計した延べ人数で判断されます(令6条の2第3項)。
③ 取引所金融市場における有価証券の売買等であって競売買の方法以外の方法で内閣総理大臣が指定したもの(特定売買等)によって,株券等所有割合が3分の1超になる買付け等(同項3号)
特定売買等として,各取引所の立会外取引が指定されています(平成17年7月8日金融庁告示第53号)。
④ 市場内外の取引を組み合わせた急速な買付け等(同項4号)
本号は,32%までの株式を市場外で買付け,その後,市場内で2%の株式を買い付けたり,第三者割当てを受けるといった態様を規制するために設けられました。
具体的な規制内容は,以下のとおりです(令7条2項ないし4項,発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下,「他社株府令」といいます。)4条の2第1項,2項)。
ア)3か月以内に,株券等の総数の10%超の株券等の取得を行い,
イ)上記ア)の取得のうち,株券等の総数の5%超の株券等の取得が市場外(公開買付けを除く)
または立会外取引によるものであって,
ウ)取得後における株券等所有割合が3分の1超となる場合
⑤ 他者の公開買付け期間中における競合買付け等(同項5号)
公開買付者は,別途買付の禁止により公開買付け以外の方法で買付けを行うことができないこととのバランスや投資者がいずれの者によって会社を支配させる方が相当かを判断できるようにする必要があるという観点から設けられた規制です。
具体的には,他者が公開買付けを行っている期間中に,対象者の株券等の3分の1超を所有している者が5%を超える株券の買付け等(市場内外を問いません)を行う場合には,公開買付けによらなければならないとされています(令7条5項,6項,他社株府令4条の2第3項)。
⑥ 上記①ないし⑤に準ずるものとして政令で定める株券等の買付け等(同項6号)
具体的には,5%超基準から除外されるPTS(私設取引システム)における上場有価証券の買付等(令7条7項1号),実質基準特別関係者を加算して4号を適用した場合の買付等(令7条7項2号)が政令で定められています。
(3) 特別関係者
復数の者が共同して対象者の株券等の買付けを行う場合があることを考慮して,公開買付けの要否を判断するにあたっては,買付者の株券等所有割合に買付者の特別関係者の株券所有割合を加えて算定されます(金商法27条の2第1項1号)。
そして,特別関係者は,形式基準の特別関係者(同条第7項1号,令9条)と実質基準の特別関係者(金商法27条の2第7項2号)に区分されております。
形式基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」(同項1号)とされ,金融商品取引法施行令9条において詳細に規定されております。
具体的には,買付者が法人の場合,その役員(令9条2項1号),買付者が他の法人に対して特別資本関係(当該法人等の総株主等の議決権数の20%以上の株式又は出資を自己または他人名義で所有する関係)を有する場合における当該他の法人等及びその役員(同項2号)などが挙げられます。
実質基準の特別関係者とは,「株券等の買付け等を行う者との間で、共同して当該株券等を取得し、若しくは譲渡し、若しくは当該株券等の発行者の株主としての議決権その他の権利を行使すること又は当該株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡し、若しくは譲り受けることを合意している者」(同項2号)とされ,合意の時点で特別関係者になるとされています。
(4) 適用除外
上記①から⑥に該当して,投資者保護などの観点から,公開買付けによる必要性の低いものなどについては,適用除外とされています(金商法27条の2条第1項ただし書,令6条の2)。
具体的には,権利行使による買付け等の適用除外(新株予約権の行使により株券を取得する場合など),関係者からの買付け等の適用除外(1年間継続して買付者の形式基準の特別関係者である者から行う株券等の買付けなど),25名未満のすべての株主の同意がある場合の適用除外などが挙げられます。
(5) 小結
今回,A社は,B社の株式を市場外で大量(取得後の議決権割合10%)に有償で譲り受けるということであり,買付後のA社の株券等所有割合が5%を超える場合(上記①)に該当するとも思われますが,上記①においては,「著しく少数の者からの取得」は除外されており,今回A社が買い付けるのは,10名以下の知人数名であることから,上記①には該当しません。また,A社の株券等所有割合は10%になるため,著しく少数の者から買付けであっても3分の1を超えない(上記②)ことから,公開買付けによる必要はないものと考えられます。
また,A社の親会社であるC社は,A社を被支配法人(令9条5項)とするものであり,A社の特別関係人(令9条2項3号)であることから,公開義務の存否においては,A社はC社がB社の株券を有しているか,また,その数を確認する必要があるといえます。今回,C社の株券等所有割合を合算しても,3分の1を超えない場合には,公開買付けは不要ですし,反対に,3分の1を超えるようでしたら,公開買付けを行う必要があります(上記②)。
2 大量保有報告
上場会社等の発行する株券等の保有者は,その株券等保有割合が5%を超えたとき(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く),5営業日以内(初日は算入しない)に大量保有報告書を財務局長等に提出しなければなりません(金商法27条の23第1項,株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令(以下,「大量保有府令」という。)2条)。
さらに,大量保有報告書の提出義務者は,大量保有者となった日後に株券等保有割合が1%以上増減した場合,(保有株券等の総数の増減を伴わない場合等を除く)その他の大量保有報告書に記載すべき重要な事項の変更があった場合には,その日から5営業日以内(初日は参入しない)に変更報告書の提出義務があります(金商法27条の25第1項,大量保有府令9条)。
本件では,A社は,B社の発行する株式を株券等保有割合5%を超えて保有することになりますので,大量保有報告書の提出が義務付けられ,また,変更報告書の提出事由が生じた場合には,変更報告書の提出義務を負います。
3 インサイダー取引未然防止のための主要株主等に対する規制
(1) 売買報告書
上場会社等の役員及び主要株主は,自己の計算において,当該上場会社等の特定有価証券等の買付け等又は売付け等をした場合には,適用除外となる場合を除き,その売買等に関する報告書を翌月15日までに財務局長等に提出しなければなりません(金商法163条,令43条の10)。
この規制は,インサイダー取引の間接的な防止との制度趣旨の下,主要株主の上場会社等への短期売買利益の提供義務の実効性を確保する観点から,行政当局が主要株主による自社株の売買を把握できるようにするものになります。
(2) 短期売買利益の返還
上場会社等の役員または主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため,上場会社等の役員または主要株主がその特定有価証券等について,自己の計算において6か月以内の短期売買取引(買付け等後6か月以内に売付け等または売付け等後6か月以内に買付け等)をして利益を得た場合には,適用除外となる場合を除き,当該上場会社等は,その利益を上場会社等に提供すべきことを請求できます(金商法164条)。
(3) 空売りの禁止
株価が下落するような内部情報を知ったものが不当な利益を得るために利用する恐れのある特殊な取引を禁止することにより,間接的にインサイダー取引の防止を図るため,上場会社等の役員または主要株主による一定の空売りが禁止されています(金商法165条)。
田島・寺西法律事務所
弁護士 西川 文彬
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