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> 2015/08/21 企業経営
共有に属する株式の権利行使
Q 以前,我が社のある株主が亡くなりました。その株主には3名の相続人がいるようなのですが,遺産分割協議が行われたかどうかは不明です。かかるところ,株主総会において,株主の相続人3名のうちの2名の連名で,議決権行使書面が送られてきました。我が社として,この議決権行使の取扱いについて,気を付けることはありますでしょうか。
A まず,会社としては,亡くなった株主の相続人に対して,株式の帰属関係を確認することが重要です。
株式が誰に帰属しているかが明らかになれば,株式が帰属している者に議決権を行使させれば足ります。しかし,本件の場合,2名の連名で議決権を行使しようとしているため,未だ株式が共有状態であることが予想されます。
未だ遺産分割が終了していないなどの理由で,株式が共有されている場合,会社としてどのように対応すればよいか問題となります。
株式が共有に属する場合における株式の権利行使については,会社法第106条に定めがあります。
同条によると,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない」とされています。
すなわち,会社としては,株式の共有者からの権利行使者に関する通知において指定されている者に権利行使させることが原則です。
したがって,会社としては,株式の共有者に対して,株式に関する権利行使者を指定して会社に通知するよう求め,当該指定された者に権利行使させるべきであると考えられます。
ところで,会社法第106条但書には,「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない」との定めがあります。
そこで,例えば,本件で遺産分割協議が未了で,株式が相続人3名の共有に属するという場合,会社は,株式の共有者のうちの一部の者により,会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま権利が行使されたとしても,同条但書の同意により,当該権利行使を適法なものとすることができるのか,ということが問題となります。
この会社法106条但書の株式会社の同意によりいかなる権利行使が適法なものとなるのかについては,学説が分かれている問題であったところ,近時,最高裁判決が出ました(最判平成27年2月19日)。
上記最高裁判決は,まず,会社法106条本文は,準共有株式についての権利行使の方法について民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(民法264条但書)を設けたものと解されるとした上で,会社法106条但書は,株式会社が当該権利の行使に同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解しました。
そして,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定および通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条但書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではない,と判示しました。
すなわち,上記判示からすると,会社法106条本文に基づく指定および通知がない場合であっても,民法の共有に関する規定に従って株式に関する権利が行使され,これにつき株式会社の106条但書の同意がなされることにより,当該権利の行使は適法となると考えられます。
それゆえ,会社として106条但書に定める同意により株式の共有者による権利行使を認める場合には,株式の共有者が誰なのか,株式の共有者による権利行使が,保存行為,処分行為,又は管理行為のいずれに該当するのか,該当する行為に要求される民法の共有に関する規定に従って権利行使されているのか,という点に留意する必要があるでしょう。
ちなみに,上記最高裁判例の事例においては,株主総会における「議決権の行使」の適法性が問題となったのですが,最高裁は「議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である」と判示しました。
その上で,本事案においては,議決権の行使が各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられていないため,会社が106条但書による同意をしても,議決権行使は適法となるものではない,と判断しました。
したがって,本件では,議決権の行使が問題となっていることから,特段の事情がない限り管理行為となるので,当該議決権の行使が,共有者の持分の価格に従って,その過半数で決せられたものであることが確認できれば,適法な権利行使と認めてよいと考えられます。
田島・寺西・遠藤法律事務所
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