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2013/08/01
事業再生・承継
『事業承継後の相続での非嫡出子への対応』(田島・寺西・遠藤法律事務所)
事業承継後の相続での非嫡出子への対応
Q 事業承継を受けた先代社長である父が亡くなり,兄弟と遺産分割協議を始めたところ,生前の交際相手との子どもと名乗る方が現れました。今後の法律関係を教えてください。
A非嫡出子が相続を受けるためには認知を受けなければならず,亡父の死後3年は認知の訴えが可能です。これを経れば嫡出子と同等の相続分が発生します。
1 非嫡出子
婚姻関係にない男女の間に生まれた子を,「非嫡出子」といいます(法律上は「嫡出でない子」(民法779条)と表現されています。)。
非嫡出子と父親との法的な親子関係は,父親の認知を受けることで初めて発生するものであるため,父親の認知を受けていない場合,親子関係はないものとして扱われます。
そのため,扶養義務や相続等は発生しません。
すなわち,父親は認知していない子に対しては,養育費等を支払う義務はなく,また認知されていない子は父親が亡くなった場合でも法定相続人にはなりません。
2 認知の訴え(民法787条)
そのため,父親との法的な親子関係を持つには,父親に子を認知してもらうことが必要になります。
父親が認知を拒否する場合,当該子,その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は,裁判所に認知の訴えを提起することが出来ます(もっとも,調停前置主義ですので,まずは家裁に調停の申し立てをすることになります。)。
この認知請求権は放棄出来ないとされていますので(最判昭和37年4月10日),認知の訴えを提起しない旨の約束をした場合であっても,当該約束は無効となります。
なお,父親の生存中は,いつでも訴えを提起が出来るものの,父の死後は3年に限って提起出来るとされています(787条但書)。
本件でも,生前認知がなされていないのであれば,今後認知の訴えが提起されることが想定されます。
3 相続分
上述した通り,父親から認知された子は,父親との法的な親子関係が生じるため,父親が死亡した場合,子として,法定相続人となります(887条1項)。
従来,非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1であると規定されていましたが(旧900条4号但書),この規定が最判平成25年9月4日によって憲法14条1項違反と判示されたことから,その後国会で法改正に至り,同月5日以後に開始した相続については非嫡出子も嫡出子と同等の相続分を有することとなりました(同条項)。
本件の場合,被相続人の遺言がないようですから,承継を受けた事業の継続に支障を来さないよう,現預金や株式,債券類等の金融資産を相続させる方向で遺産分割協議するのが望ましいと思われます。
田島・寺西・遠藤法律事務所
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2013/08/01
商取引
『事業者間の典型的トラブルとその予防』(田島・寺西・遠藤法律事務所)
事業者間の典型的トラブルとその予防
Q.事業者間の取引における典型的なトラブルにはどのようなものがありますか。また,それらのトラブルを予防する手立てはありますか。
A.
事業者間の取引において想定される典型的なトラブルとしては,
①取引先による債務不履行
②取引先の倒産
③取引先からの一方的な取引の解消または取引内容の変更
などが挙げられます。まず,①取引先が債務不履行に陥り,または,②倒産することにより,債権回収が不能となるといったトラブルを回避するためには,取引を開始する前段階における与信調査が重要です。取引金額の大小や対象取引先への依存度にもよりますが,当該取引先への債権回収が不能となった場合に想定される影響が大きければ大きいほど,より慎重に与信調査を行う必要があるでしょう。
調査においては,例えば,不動産登記事項証明書だけでも,取引先の本店が自社ビルか否か,自社ビルの場合,不動産に担保権が設定されていれば債権者が誰かなどがわかります。街金やノンバンク,商工ローン等の担保権が設定されていたり,国税等の差押えがされていたりする取引先は,すでに銀行からの融資を断られている可能性が高く,資金繰りに行き詰っていることを疑うべきと考えられます。
また,与信調査の結果,取引を行うこととした場合に,上記債権回収が不能となるリスクを回避する手段としては,契約時に担保を取っておくことが考えられます。
この場合の担保には,抵当権などの物的担保と,保証などの人的担保があります。たとえ取引先が債務を履行せず,また,倒産に陥ったとしても,抵当権を実行することで,あるいは保証人に履行請求することで,債権回収を図ることができます。
次に,③取引先からの一方的な取引の解消あるいは取引内容の変更のトラブルですが,これらのトラブルは,対等の関係にない,すなわち大手企業と中小企業といった関係の当事者間における取引に見受けられます。
このようなトラブルを防止するためには,きちんと契約書を作成し,契約内容を明確にしておくことが肝要です。契約書は,単に「ものを売ります・買います,値段はいくらです」といった合意があったことの証拠となるのみならず,当事者双方が取引内容を認識することでトラブルの発生を未然に防ぎ,また,たとえトラブルが生じたとしても解決のための指針となるなど,重要な役割を果たします。
事業者の方々の中には,契約を締結する際に定型的なひな形や取引先の用意した契約書をそのまま使用したり,はたまた契約書を作成しなかったりということもあるのではないでしょうか。しかしながら,先に述べた通り,契約書は皆様をトラブルから守るための,いわば「盾」となりうるものです。
全ての契約とは言わないまでも,重要な取引や長期の継続的取引などの契約を締結する際には,そのような視点にたって契約書の内容をチェックすることがトラブル予防への第一歩といえるでしょう。
また,長年使用している契約書のひな形なども,肝心な場面で皆様を守る盾となりうるものかどうか,今一度ご確認されてはいかがでしょうか。
【事業を行う方であれば,多かれ少なかれ取引先とのトラブルの経験があるかと思います。今回のコラムは,そのような方々にとって常識的な内容だと思いますが,そうであるからこそ,今一度,紛争の予防の重要性についてご確認いただくきっかけとなれば幸いです。】
田島・寺西・遠藤法律事務所
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