コラム「企業法務相談室」一覧

会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。

  • 2013/12/19 商取引 『送信防止措置,発信者情報開示請求とプロバイダ責任制限法』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    送信防止措置,発信者情報開示請求とプロバイダ責任制限法

    Q 弊社はサーバの管理・運営をしているプロバイダーですが,先日,弊社のサーバを利用してブログを開設している方のブログにおいて,自身のプライバシーを侵害するような内容が載っているので削除してほしい,また当該ブログの発信者情報を開示してほしいとの依頼がありました。
    弊社としてはどのような対応をしたらよろしいでしょうか。

    A
    1 プロバイダ責任制限法

    特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めた,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称プロバイダ責任制限法,以下「法」といいます。)があります。

    プロバイダ等の自主的対応の場合,情報の違法性の判断が困難である等措置の責任が不明確な場合があること,また,民事事件ではほとんど発信者情報の開示がされず,被害者救済が困難であることから,プロバイダ等が責任を負う場合を明確にすることによって,プロバイダ等の自主的対応を促すために作られた法律です。

    2 送信防止措置に関して

    この法律では,送信を防止する措置に関し,プロバイダ等が被害者に対し損害賠償責任を負う場合とは,技術的に対応が可能な場合であり,かつ他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(法3条1項1号),もしくは違法情報の存在を知っており,他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(同項2号)に送信防止の措置を講じなかった場合を限定しています。

    また,発信者に対する損害賠償については,他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき(法3条2項1号),もしくは権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し,7日以内に反論がない場合(同項2号)に,送信を防止する措置を講じた場合には,賠償責任を負わないとされています。

    貴社はサーバの管理・運営をしている会社ということですので,特定電気通信役務提供者に該当します。

    したがって,本件では,まず,申出のあった「プライバシーを侵害するような内容」が本当にその方のプライバシー権を侵害する内容であるかを検討し,貴社においてプライバシー権の侵害であると判断できるものであれば,送信防止の措置を講じなければ損害賠償責任を負う虞があります(法3条1項)。また,当該措置を講じたとしても,法3条2項1号に該当し,発信者からの損害賠償責任は負わないと考えられます。

    一方,貴社においてプライバシー権を侵害する内容であると判断するだけの情報がない場合,権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(法3条2項1号)に該当しないため,送信防止の措置を講じた場合,発信者より損害賠償請求をされる虞があります。そのため,貴社において権利侵害であると認めるに足りる相当の理由がない場合には,法3条2項2号に基づき照会の手続きをとった上で,送信防止措置を講じることが必要になります。

    3 発信者情報開示請求について

    権利侵害が明らかであり(法4条1項1号),かつ損害賠償請求権の行使のために必要その他開示を受けるべき正当な理由がある(同項2号)とき,権利侵害がなされた者はプロバイダ等に対し発信者情報の開示を請求することができるとされています。

    発信者情報は通信の秘密に関するところであることから,その保障(憲法21条1項,電気通信事業法4条1項)の例外をなすものとして,明文化されたものです。

    一方,開示請求を受けたプロバイダ等は,開示請求に応じないことにより当該開示請求をした者に生じた損害については,故意又は重過失がある場合でなければ損害賠償責任を負わないとされています(法4条4項)。

    発信者情報は,一旦開示されてしまうと原状回復は不可能であるため,プロバイダ等も慎重に判断せざるを得ないことから,開示に応じなかった行為が,事後的に誤りであったと明らかとなった場合,常に損害賠償責任を負うとするのは酷であるため,損害賠償責任を負う場合を故意又は重過失の場合に限定しています。

    したがって,本件では, 法4条1項1号及び2号の要件を満たすかを判断することになりますが,開示に応じない場合であっても,それが故意又は重過失でない限り,請求者に発生した損害を賠償する責任は負いません。

    なお,プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において,名誉毀損・プライバシー関係に関するガイドラインが作成されていますので,これらも参考にされると良いと思われます。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


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  • 2013/12/16 企業経営 『自転車利用者対策に関する道路交通法一部改正』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    自転車利用者対策に関する道路交通法一部改正

    Q 当社は運送業を営んでいますが,自転車利用者対策として道路交通法が改正されたと聞きました。改正のポイントを教えて下さい。

    A

    自転車が関与した交通事故の増加を受けて,道路交通法の一部が改正され,自転車利用者対策の推進に関する規定が整備され,平成25年12月1日から施行されました。

    自転車利用者が特に留意する必要がある主な改正点は次の2点です。

    まず,自転車を含む軽車両が通行することができる路側帯は,道路の左側部分に設けられたものに限られることとなりました(法17条の2第1項)。

    これまで,自転車は,著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除いて,道路の左右どちらの路側帯も通行することができましたが,今回の改正により,通行できる路側帯は,道路の左側のみとされました。

    これに違反した場合には,3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科される可能性があります(法119条第1項1号の2,法8条1項)。

    次に,自転車の検査等に関する規定が整備され,警察官は,制動装置不良自転車と認められる自転車が運転されているときは,当該自転車を停止させ,当該自転車の制動装置について検査することができるようになりました(法63条の10第1項)。

    警察官の停止の指示に従わなかったり,検査を拒み,妨げた場合には,5万円以下の罰金が科せられる可能性があります(法120条第1項8号の3,法63条の10第1項)。

    また,検査の結果,必要に応じて道路における危険を防止し,その他交通の安全を図るため必要な応急の措置をとることを命じ,必要な整備をすることができないと認められる場合は,当該自転車の運転を継続してはならない旨を命ずることができるようになりました(法63条の10第2項)。

    これらの命令に従わない場合にも,5万円以下の罰金が科される可能性があります(法120条1項8号の4,法63条の10第2項)。

    なお,自転車の制動装置の基準は,前車輪及び後車輪を制動し,乾燥した平坦な舗装路面で,時速10キロメートルのとき3メートル以内で円滑に自転車を停止させる性能を有することと定められており(道路交通法施行規則9条の3),かかる基準に適合しない自転車は「制動装置不良」と評価され得ることになります。

    法令の規制は以上ですが,実際に交通事故全体に占める自転車関与事故は,全国で約20%,東京都内では約36%に上ります(警視庁HP参照)。

    運送事業を行う立場としても,法令改正だけで安心できるところではなく,むしろ誰もが容易に利用し得る自転車だけに,加害者にも被害者にもならないよう,利用者各人が自転車は「車両」であることを改めて自覚し,ルールを遵守して,安心して通行できる安全な道路交通を実現したいところです。


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  • 2013/11/29 商取引 『代金支払に関する和解~紛争の終局的解決のために~』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    代金支払に関する和解~紛争の終局的解決のために~

    Q システム開発業者である当社は,発注者に納品後も開発代金を支払ってもらえずトラブルになっていたのですが,双方で歩み寄り,相手方に請求額の一部を支払ってもらうことで納得しようと思っています。そこで,和解契約を締結しようと思っているのですが,どのような点に注意すればよいでしょうか。

    A 義務の内容・履行方法・期限の明示,期限の利益喪失条項の定め,強制執行認諾条項付き公正証書の作成等が挙げられます。

    他者とのトラブルが生じた場合,解決方法として真っ先に思い浮かぶのは「裁判」が挙げられるかと思います。とはいっても,実際には裁判を起こすことなく,本件のように当事者同士で譲歩して,和解によって解決が図られるケースが多いものです。

    和解契約を締結する場合,紛争を終局的に解決することを目的とするわけですから,せっかく取り交わした和解契約が,後に更なるトラブルの原因とならないよう,十分に注意を払わなければなりません。

    本件では,「相手方に請求額の一部を支払ってもらうこと納得する」ということですが,和解契約を結ぶにあたっては,次のようなことに留意される必要があるかと思います。

    ① 紛争の内容を特定する。

    …和解契約が何の紛争に関するものとして締結されるのかを明確にします。

    例えば,相手方が継続的な取引関係にある場合,当事者間に複数の契約が存在することも珍しくありません。
    紛争が複数ある契約のうちの一つに違反することに起因するような場合には,どの契約に関する紛争なのかを特定しておかなければ,後に「和解契約は別件に関するものである」などと主張される余地を残すことになります。
    後々,紛争が蒸し返されるリスクを回避するためには,紛争の内容を特定しておくことはとても重要なことです。

    ② 相手方が負うべき義務(債務)の存在を認めることと,その義務の内容を明示する。

    …和解契約の肝となる事項と言えます。

    相手方が負う義務の存在や内容に疑義が生じたために紛争に発展したわけですから,これを和解契約書で明確に定めておく必要があります。

    ③ 相手方の義務の履行方法や履行期限を明示する。

    …②で述べたように相手方が負う義務について明示したら,次はこれがどのように履行されるのかも定めておく必要があります。

    ④ 分割払いとする場合には,期限の利益喪失条項を置く。

    …債務者の支払の遅滞に対する制裁的な意味合いと,債務者の履行を確保する意味合いを持つものです。

    和解後に債務者の気が変わって支払いが止まるといったトラブルを抑止することにつながります。

    ⑤ 当該紛争について,和解契約書に記載のもの以外に何らの債権債務がないことを確認する旨を明示する。

    …紛争を終局的に解決するためには,当該紛争に関して当事者間に生じている権利義務関係を確定させることが肝要です。

    そのために「何らの債権債務がないことを確認する」との文言をおくのですが,これがないと,「和解契約書に記載されていない権利義務関係が他にある」と主張される余地を残すことになります。
    後に紛争が蒸し返されるリスクを回避するために,このような文言は欠かすことができません。

    ⑥ 和解契約書を「公正証書」によって作成することを検討する。

    …本件のように「金銭の支払いを目的とする債権」に関する和解契約書を「公正証書」によって作成し,その契約書のなかに「債務不履行時には強制執行を受けることを承諾する」という趣旨の文言を入れておくことにより,その和解契約書は「債務名義」といって,判決と同様の効力を有するものになります。

    すなわち,万一,和解契約で定めた支払いが滞ったとしても,民事裁判を提起して勝訴判決を獲得することなく,公正証書による和解契約書に基づいて強制執行をすることができ,後の訴訟リスク,訴訟コストを回避することにつながります。
    相手方が任意に支払ってくれるか不安が残る場合には,(費用は多少かかりますが,)公正証書により和解契約書を作成することをお勧めします。

    紛争を終局的に解決するためにはどのような和解契約書にしなければならないか,イメージが湧きましたでしょうか。
    これらを念頭において交渉し,和解契約書に反映させることが重要です。

    そして最後に,紛争を円満に解決するためには,当事者双方の歩み寄りが不可欠です。締めるべきところは締めつつ,相手の主張にも耳を傾け,互譲の精神をもって臨むことが和解交渉の肝ではないかと思います。


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  • 2013/11/18 商取引 『SNSでの懸賞広告の際の景品表示法上の留意点』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    SNSでの懸賞広告の際の景品表示法上の留意点

    Q インターネット上でSNSを運営する弊社は,キャンペーンの一環としてプレゼントを付けることを検討していますが,気を付けるべき点はありますか。

    A いわゆる景表法上の規制に留意する必要があります。

    1 不当景品類及び不当表示防止法

    消費者が景品に惑わされて質の良くないものや割高なものを買わされてしまうことは,消費者にとって不利益となること,また景品による競争がエスカレートすることにより事業者が商品・サービスの内容での競争に力を入れなくなり,消費者の不利益につながる虞があることから,「不当景品類及び不当表示防止法」(以下,「景表法」といいます。)では,景品類の最高額や総額等を規制しています。

    2 景品類とは

    そこで,上記景表法の規制にかかるかを判断するため,今回貴社で考えられているプレゼントが景表法にいう「景品類」に該当するか否かが問題となります。

    景表法2条3項において,「景品類」とは,顧客を誘引するための手段として,その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず,くじの方法によるかどうかを問わず,事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随して相手方に提供する物品,金銭その他の経済上の利益であって,内閣総理大臣が指定するものをいう,と定義されています。

    そして,「内閣総理大臣が指定するもの」は,「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(注1)において,
    一 物品及び土地,建物その他の工作物
    二 金銭,金券,預金証書,当せん金附証票及び公社債,株券,商品券その他の有価証券
    三 きよう応(映画,演劇,スポーツ,旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)
    四 便益,労務その他の役務
    が指定されています。

    ただし,正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は含まないとされています。
    (注1)http://www.caa.go.jp/representation/pdf/100121premiums_6.pdf

    3 当該プレゼントが上記「景品類」に該当する場合,上述のように景表法の規制対象となります。

    景表法に規定されている規制は次のとおりです。

    (1)一般懸賞の場合

    一般懸賞とは,商品・サービスの利用者に対し,くじ等の偶然性,特定行為の優劣等によって景品類を提供することを指します。

    例としては,くじやじゃんけん等により提供する場合,クイズ等の解答の正誤により提供する場合,競技等の優劣により提供する場合等が挙げられます。

    一般懸賞に該当する場合

    ⅰ)懸賞に係る取引価額が5000円未満の場合
    景品類の最高額は取引価額の20倍,
    景品類の総額は懸賞に係る売上予定総額の2%,

    ⅱ)懸賞に係る取引価額が5000円以上の場合
    景品類の最高額は10万円,
    景品類の総額は懸賞に係る売上予定総額の2%
    が限度額となります。

    (2)共同懸賞の場合

    共同懸賞とは,商店街や一定の地域内の同業者が共同して行う懸賞を指します。

    共同懸賞に該当する場合,景品類の最高額は取引価額にかかわらず30万円,景品類の総額は懸賞に係る売上予定総額の3%が限度額となります。

    (3)総付景品の場合

    総付景品とは,商品の購入者や来店者に対し,もれなく提供する景品を指します。

    総付景品に該当する場合,

    ⅰ)取引価額が1000円未満である場合,
    景品類の最高額は200円,

    ⅱ)取引価額が1000円以上である場合
       景品類の最高額は取引価額の10分の2
    が限度額となります。

    なお,商品・サービスの販売に必要な物品・サービス,見本・宣伝用の物品・サービス,自店又は自店と他店で共通して使用できる割引券,開店披露・創業記念等で提供される物品・サービスについては,景品規制は適用されません。

    4 オープン懸賞

    オープン懸賞とは,商品を買ったりサービスを利用したりすることなく,誰でも応募できる懸賞を指します。 新聞・テレビ・雑誌・ウェブサイト等で広く告知し応募させるもので,誰でも応募できるものである場合,景品規制の適用はありません。

    したがって,景品等の価額や総額に関し,上限はありません。

    もっとも,懸賞を実施するメーカーが資本の大半を出資している店舗や,懸賞を実施するメーカーとフランチャイズ契約をしている店舗に懸賞への応募用紙を設置するような場合はオープン懸賞とは認められませんのでご注意ください。


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  • 2013/11/09 企業経営 『会社法上の内部統制システム構築義務と内部通報制度の積極的役割』(田島正広弁護士)

    会社法上の内部統制システム構築義務と内部通報制度の積極的役割

    Q 当社には内部通報制度が存在しませんが、最近パワハラ問題が顕在化する等、社内のコンプライアンス体制に疑問が生じています。内部通報制度を導入しないと、会社役員(取締役・監査役等)には法的責任が生じるのでしょうか。

    A 善管注意義務違反により法的責任を問われる虞はあります。

    内部通報制度とは、会社がコンプライアンス体制を堅持するため、その違反行為についてのモニタリングを行うに際して、経営陣からの執行ラインでのモニタリングとは別に行われる、会社内部又は会社の指定した外部の窓口による社員からの内部通報の受付制度です。

    この制度は、社内に隠蔽される企業不祥事を早期に内部通報によって経営トップが把握し、自浄作用を発揮してコンプライアンス体制を見直すことで、当該不祥事が仮に外部への告発によって露見した場合に会社が被る重大な損失を回避するという重要な機能を有しています。

    内部統制システムにおける内部通報制度の位置づけについてですが、まず、財務分野の内部統制とは、金融商品取引法上導入された財務報告に係る内部統制の評価報告書及びその監査報告書において、評価及び監査の対象となるものです。

    内部通報制度との関連では、特にモニタリングの視点が関わり、特に業務から独立した視点から実施される独立的評価の場面において、その意義を有することになります。

    他方、会社法上の内部統制は、同法362条5項に定めるものであり、会社法施行規則100条において具体化されています。同条1項中、次の各号は、内部通報制度との関わりの深いものです。

    ・2号 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
    ・4号 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
    ・5号 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

    内部統制をより完全なものにするために、上記各号はコンプライアンス体制の確立を求めるものといえ、その際には内部通報制度はこれを実効的に実現するために機能することが期待される制度といえます。

    会社法上の内部統制においては、会社役員(取締役・監査役等)の善管注意義務の一貫として内部統制システム構築義務が観念されますので、内部通報制度の構築を怠った結果、会社役員(取締役・監査役等)が善管注意義務違反を問われる虞は存在することになり得ます。

    ところで、 会社役員(取締役・監査役等)の内部通報制度構築義務が争われた事件は少ないですが、ダスキン事件控訴審では、一審原告株主が法令遵守の徹底のために、コンプライアンス部門や品質管理機関の設置と通報者が保護される内部通報制度の整備を求め、これを怠った一審被告会社役員(取締役・監査役)らには、内部通報制度を含む法令遵守体制の整備義務違反の責任を免れない旨を主張したのに対して、大阪高裁は、いかなる法令遵守体制を整備すべきかは取締役の経営の裁量に委ねられることを前提として、

    ①経営上の重要事項を取締役会報告事項と定め、従業員に対してもミスや突発的問題を速やかに報告するよう周知徹底し、違法行為発覚時の対応についても定めていたこと

    ②食中毒事案に関する企業不祥事の事案を採り上げたセミナーを開催していたことを指摘して、コンプライアンス部門や品質管理機関の設置、内部通報制度の整備がなくとも法令遵守体制が整備されていなかったとまではいえないと判示しました。

    もとより、事件事故の経験の蓄積とそれを踏まえたコンプライアンス体制のあり方に関する当該会社や業界の対応、さらには一般的な実務の動向に従って、整備すべきコンプライアンス体制のレベルは高まる余地のあるものであって、同時に会社役員(取締役・監査役等)がその整備の不備を理由に善管注意義務違反を問われる場面も変わりうるというべきですから、上記の判示のみをもって、会社役員(取締役・監査役等)の善管注意義務違反が一般的に否定されたことにはならないというべきでしょう。

    この点、コンプライアンス体制のあり方として内部通報制度が多くの企業で導入され、監査役の監査基準にも挙げられるようになった今日、同制度抜きにコンプライアンス体制を維持、確立することが果たして可能であるかが、会社役員(取締役・監査役等)の善管注意義務の観点から慎重に吟味されなければならないといえます。

    その際、コンプライアンス体制の堅持に内部通報制度が必要であるというのであれば、それが形式的に導入されているというだけでは実質的な意味があるとは思われず、むしろ、それが実際に効果的に運用されていることこそが求められるというべきでしょう。

    この点、制度及び通報窓口の存在と運用状況の社員への周知、通報者の匿名性保護や秘密保持、不利益処分の禁止はその出発点であり、社外窓口の併用による信頼感の担保や適正な通報処理の実績により社員の信頼を得ることによってこそ、内部通報制度は十分に機能するものというべきです。

    こうして内部通報制度の存在が、違法行為の抑止力となるとき、企業のコンプライアンスにおけるPDCAサイクルは一段高いレベルに達したということができるでしょう。

    こうしてより高い次元のコンプライアンス体制を実現することが業界標準となるとき、法的には善管注意義務として求められる注意のレベルが一層高まるといえるように思われます(以上、同文舘出版「会社役員の法的責任とコーポレートガバナンス」当職執筆部分参照)。


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    弁護士 田島正広


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