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> 2013/11/29 商取引

代金支払に関する和解~紛争の終局的解決のために~

Q システム開発業者である当社は,発注者に納品後も開発代金を支払ってもらえずトラブルになっていたのですが,双方で歩み寄り,相手方に請求額の一部を支払ってもらうことで納得しようと思っています。そこで,和解契約を締結しようと思っているのですが,どのような点に注意すればよいでしょうか。

A 義務の内容・履行方法・期限の明示,期限の利益喪失条項の定め,強制執行認諾条項付き公正証書の作成等が挙げられます。

他者とのトラブルが生じた場合,解決方法として真っ先に思い浮かぶのは「裁判」が挙げられるかと思います。とはいっても,実際には裁判を起こすことなく,本件のように当事者同士で譲歩して,和解によって解決が図られるケースが多いものです。

和解契約を締結する場合,紛争を終局的に解決することを目的とするわけですから,せっかく取り交わした和解契約が,後に更なるトラブルの原因とならないよう,十分に注意を払わなければなりません。

本件では,「相手方に請求額の一部を支払ってもらうこと納得する」ということですが,和解契約を結ぶにあたっては,次のようなことに留意される必要があるかと思います。

① 紛争の内容を特定する。

…和解契約が何の紛争に関するものとして締結されるのかを明確にします。

例えば,相手方が継続的な取引関係にある場合,当事者間に複数の契約が存在することも珍しくありません。
紛争が複数ある契約のうちの一つに違反することに起因するような場合には,どの契約に関する紛争なのかを特定しておかなければ,後に「和解契約は別件に関するものである」などと主張される余地を残すことになります。
後々,紛争が蒸し返されるリスクを回避するためには,紛争の内容を特定しておくことはとても重要なことです。

② 相手方が負うべき義務(債務)の存在を認めることと,その義務の内容を明示する。

…和解契約の肝となる事項と言えます。

相手方が負う義務の存在や内容に疑義が生じたために紛争に発展したわけですから,これを和解契約書で明確に定めておく必要があります。

③ 相手方の義務の履行方法や履行期限を明示する。

…②で述べたように相手方が負う義務について明示したら,次はこれがどのように履行されるのかも定めておく必要があります。

④ 分割払いとする場合には,期限の利益喪失条項を置く。

…債務者の支払の遅滞に対する制裁的な意味合いと,債務者の履行を確保する意味合いを持つものです。

和解後に債務者の気が変わって支払いが止まるといったトラブルを抑止することにつながります。

⑤ 当該紛争について,和解契約書に記載のもの以外に何らの債権債務がないことを確認する旨を明示する。

…紛争を終局的に解決するためには,当該紛争に関して当事者間に生じている権利義務関係を確定させることが肝要です。

そのために「何らの債権債務がないことを確認する」との文言をおくのですが,これがないと,「和解契約書に記載されていない権利義務関係が他にある」と主張される余地を残すことになります。
後に紛争が蒸し返されるリスクを回避するために,このような文言は欠かすことができません。

⑥ 和解契約書を「公正証書」によって作成することを検討する。

…本件のように「金銭の支払いを目的とする債権」に関する和解契約書を「公正証書」によって作成し,その契約書のなかに「債務不履行時には強制執行を受けることを承諾する」という趣旨の文言を入れておくことにより,その和解契約書は「債務名義」といって,判決と同様の効力を有するものになります。

すなわち,万一,和解契約で定めた支払いが滞ったとしても,民事裁判を提起して勝訴判決を獲得することなく,公正証書による和解契約書に基づいて強制執行をすることができ,後の訴訟リスク,訴訟コストを回避することにつながります。
相手方が任意に支払ってくれるか不安が残る場合には,(費用は多少かかりますが,)公正証書により和解契約書を作成することをお勧めします。

紛争を終局的に解決するためにはどのような和解契約書にしなければならないか,イメージが湧きましたでしょうか。
これらを念頭において交渉し,和解契約書に反映させることが重要です。

そして最後に,紛争を円満に解決するためには,当事者双方の歩み寄りが不可欠です。締めるべきところは締めつつ,相手の主張にも耳を傾け,互譲の精神をもって臨むことが和解交渉の肝ではないかと思います。


田島・寺西・遠藤法律事務所


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