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> 2015/08/07 商取引
情報成果物作成委託における下請法上の留意点(著作権の処理を含む)
Q. 弊社(資本金1000万円)はCM制作会社(資本金1000万円)との間の取引基本契約に基づき,インターネット上の動画広告の作成を繰り返し委託しておりますが,この度増資(500万円のうち2分の1を資本金に組入れ)するにあたり,当該取引が下請法の適用対象となると聞きました。現在既に発注済の分も含め,今後取引を継続するにあたり,留意点としてどのようなことが考えられますか。
A. 下請法の適用対象となりますので,発注書の交付義務等,一定の規制に服することに留意する必要があります。 1 下請法の適用対象
下請代金支払遅延等防止法(下請法 以下,特に示さない場合は下請法を指すものとします)は,独占禁止法の特別法として制定されたものであり,取引が下請法の適用対象となるかどうかは,取引内容並びに作成を委託する親事業者及び下請業者双方の資本金額によって形式的に定められます。
下請法が適用される取引内容のひとつに,「情報成果物作成委託」があり,その中でもプログラム作成委託に該当するかしないかで,資本金額要件が異なります。
インターネット上の動画広告の作成委託(以下,「本件作成委託」といいます)は「情報成果物作成委託」の3類型のうちのひとつである「自社で使用する情報成果物を自社で作成している会社が情報成果物の作成の全部又は一部を他の事業者に委託すること」に該当すると考えられ,またプログラム作成委託には該当しないものと考えられるため,①親事業者の資本金額が5000万円超(5000万1円以上)であり,かつ,下請業者の資本金額が5000万円以下(個人を含む)である場合,②親事業者の資本金額が1000万円超5000万円以下であり,かつ,下請業者の資本金額が1000万円以下(個人を含む)である場合に,下請法が適用されることになります(第2条7項及び8項)。
本件においては,増資前は親事業者である御社及びCM制作会社双方の資本金額が1000万円であり,下請法の適用対象外でしたが,増資後は御社の資本金額が1250万円となることから,上記②の場合に該当し,下請法が適用されます。
2 下請法が適用される場合の親事業者の義務等
下請法が適用される場合,親事業者は下請業者に対し,作成委託に当たって,概要以下の義務を負います。
①発注書面の交付(第3条)
②発注時における下請代金の支払期日の決定(第2条の2)
③取引記録の作成及び保存(第5条)
④支払遅延時の遅延利息支払い(第4条の2)
①については,親事業者及び下請業者の名称,下請業者の給付内容等,法定記載事項(公正取引委員会規則)を記載する必要があります。なお,発注書とは別に契約書の取交しは義務付けられていません。
②については,支払期日はコンテンツの受領後60日以内で,かつできる限り短い期間になるように定める必要があります。
③については,取引が完了した場合,給付内容,下請代金額等,取引に関する記録(書類又は電磁的記録)として作成し,2年間保存する必要があります。
3 増資後に下請法の適用対象となった場合
本件では増資後に下請法の適用対象となっていますが,増資前,つまり下請法の適用対象外であったときに既に発注していた分の本件作成委託については,増資後に改めて発注書を作成する必要がないだけでなく,増資後に取引が完了した場合も,取引記録作成及び保存の義務を課せられることはありません。支払期日についても,コンテンツ受領後60日以内との制限を受けません。
もっとも,取引基本契約の期間が増資後も継続するとしても,増資後の個別発注については,原則通り下請法の適用があるため,上記した①ないし④の義務を課せられます。
なお,発注書の作成にあたり,発注書への記載が法定されている事項について取引基本契約に記載が存在する場合,個別発注書においてその点について繰り返し記載する必要はありません。取引基本契約及び個別発注書全体として,各法定記載事項が記載されていれば要件を満たしていることとなるからです。この場合,個別発注書に対し,取引基本契約が紐づけられている必要があります。
4 著作権の処理
下請業者に原始的に発生する著作権を親事業者に譲渡する場合,作成委託の一内容として,下請業者の親事業者に対する「給付の内容」に含んで譲渡させる方法と,「給付の内容」には含まずに,後日,作成委託とは無関係に著作権の譲渡について別途対価を支払って行う方法があります。前者の場合,著作権の譲渡もまさに「給付の内容」に含まれるものとして発注書面に記載する必要があります。
その際親事業者は,本来の作成委託料部分及び著作権の譲渡対価を含んだ下請代金の額を下請業者との十分な協議の上で設定して発注する必要があります。なぜなら,そのような協議を行うことなく,著作権の譲渡対価が本来の作成委託料に含まれているとして一方的に定め,その金額が一般的な対価に比べ著しく低かった場合,「買いたたき」に該当するとして下請法に違反する可能性があるからです。
「買いたたき」は親事業者の優越的な地位の濫用類型のひとつとして定められているところ,下請代金額を決定するにあたり,①発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を②不当に定めた場合に該当し,第4条5号が規定する親事業者の禁止事項に該当します。
著作権の譲渡について下請業者の「給付の内容」に含めておきながらそれに対する対価を考慮せずに下請代金を定めると,本来の作成委託料のみの金額としては問題なくとも,本来の作成委託料及び著作権譲渡料の合計金額としては著しく低いと判断される可能性があるので,注意が必要となるのです。
本件においては,委託内容が動画広告であって,制作物について制作したCM制作会社に著作権が発生すると考えられますが,当該著作権の譲渡については取引基本契約において処理方法が予め定められているものと考えられます。当該処理方法として本来の作成委託料に含まれる形で,又はそれとは別に,著作権の譲渡に係る対価が適切に定められていれば,下請法適用後に特段問題となることはないと考えられます。
5 下請法違反の勧告,公表,罰金等
親事業者が下請法に違反し,当該事実が公正取引委員会に把握された場合,違反事実を解消し,原状回復措置,再発防止措置等実施するよう勧告及び公表が行われます。
また,上記の発注書面の交付義務,取引記録の作成及び保存義務についての違反は重大違反と考えられているようであり,違反行為者及び会社は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
6 その他
下請法の適用対象となる取引かどうかは,当該取引内容によって資本金額による形式的要件が異なり,また適用対象となった場合の親事業者の禁止行為も買いたたき以外に複数存在します。
下請法の適用対象となることが疑われる取引については,まずは資本金額から形式的に判断し,そのうえで親事業者の禁止行為に該当する取引形態となっていないかどうか速やかに判断する必要があります。
田島・寺西・遠藤法律事務所
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