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> 2014/04/28 知的財産

特許発明の共同研究開発における留意点

特許発明の共同研究開発を行うに際しての留意点について,以下概論します。

1 共同研究開発と独占禁止法

共同研究開発は,
①研究開発のコスト軽減,リスク分散又は期間短縮
②異分野の事業者間での技術等の相互補完等
により研究開発活動を活発で効率的なものとし,技術革新を促進するものであって,多くの場合競争促進的な効果をもたらしますが,しかし,それは複数の事業者による行為であることから,研究開発の共同化によって市場における競争が実質的に制限される場合もあり得ないではありません。

また,共同研究開発それ自体には問題がないとしても,その実施に伴う取決めによって,参加者の事業活動を不当に拘束し,共同研究開発の成果である技術の市場やその技術を利用した製品の市場における公正な競争を阻害するおそれを生じる場合も懸念されます。

そこで,共同研究開発が競争を阻害することなく,競争を一層促進するものとして実施されることを期待して,「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(以下,「共同研究開発指針」という)が公表されるに至っています(平成5年4月20日制定,同17年6月29日及び22年1月1日改定)。

共同研究開発指針は,基礎研究,応用研究及び開発研究の全ての段階における共同研究開発に適用されます。また,この指針により共同研究開発に関する独占禁止法上の問題が判断されるのは,原則として共同研究開発契約締結時点ですが,共同研究開発の成果の取扱い等について,その時点においては定められない場合には,それらが取り決められた時点で独占禁止法上の問題が判断されることになります。

2 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について

研究開発の共同化に対する独占禁止法違反の判断に当たっては,
①参加者の数,市場シェア等
②研究の性格
③共同化の必要性
④対象範囲,期間等
を総合的に勘案することになります。

なお,上記の問題が生じない場合であっても,参加者の市場シェアの合計が相当程度高く,規格の統一又は標準化につながる等の当該事業に不可欠な技術の開発を目的とする共同研究開発において,ある事業者が参加を制限され,これによってその事業活動が困難となり,市場から排除されるおそれがある場合に,例外的に研究開発の共同化が独占禁止法上問題となることがあります(私的独占等)。

3 共同研究開発の実施に伴う取り決めに対する独占禁止法の適用について

共同研究開発の実施に伴う取決めが市場における競争に影響を及ぼし,独占禁止法上問題となる場合があります。

すなわち,当該取決めによって,参加者の事業活動を不当に拘束し,公正な競争を阻害するおそれがある場合には,その取決めは不公正な取引方法として独占禁止法19条の問題となります。

また,製品市場において競争関係にある事業者間で行われる共同研究開発において,当該製品の価格,数量等について相互に事業活動の制限がなされる場合には,主として独占禁止法3条(不当な取引制限)の観点から検討されることになります。

(1) 共同研究開発の実施に関する事項

原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項としては,
①研究開発の目的,期間,分担等(業務分担,費用負担等)を取り決めること
②共同研究開発のために必要な技術等(知見,データ等を含む。以下同じ。)の情報(共同研究開発の過程で得られたものを含む。以下同じ。)を参加者間で開示する義務を課すこと
③(②で)他の参加者から開示された技術等の情報に関する秘密を保持する義務を課すこと
等が挙げられます。

他方,不公正な取引方法に該当する虞がある事項としては,
①技術等の流用防止のために必要な範囲を超えて,共同研究開発に際して他の参加者から開示された技術等を共同研究開発以外のテーマに使用することを制限すること
②共同研究開発の実施のために必要な範囲を超えて,共同研究開発の目的とする技術と同種の技術を他から導入することを制限すること
が挙げられます。

また,不公正な取引方法に該当する虞が強い事項としては,紛争防止や共同研究開発への専念に必要な範囲を超えて,
①共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限すること
②共同研究開発のテーマと同一のテーマの研究開発を共同研究開発終了後について制限すること
③既有の技術の自らの使用,第三者への実施許諾等を制限すること
④共同研究開発の成果に基づく製品以外の競合する製品等について,参加者の生産又は販売活動を制限すること(一般指定第12項(拘束条件付取引))等
が挙げられます。

(2) 共同研究開発の成果である技術に関する事項

原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項としては,
①成果の定義又は帰属を取り決めること
②成果の第三者への実施許諾を制限すること
③成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること
④成果に係る秘密を保持する義務を課すこと
⑤成果の改良発明等を他の参加者へ開示する義務を課すこと又は他の参加者へ非独占的に実施許諾する義務を課すこと
が挙げられます。

これに対して,不公正な取引方法に該当する虞が強い事項としては,
①成果を利用した研究開発を制限すること(参加者の研究開発活動を不当に拘束するものとして公正競争阻害性が強い(一般指定第12項(拘束条件付取引))
②成果の改良発明等を他の参加者へ譲渡する義務を課すこと又は他の参加者へ独占的に実施許諾する義務を課すこと(一般指定第12項(拘束条件付取引))
が挙げられます。

(3) 共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項

原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項としては,
①成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合に,合理的な期間に限って,成果に基づく製品の販売先について,他の参加者又はその指定する事業者に制限すること
②成果であるノウハウの秘密性を保持するために必要な場合又は成果に基づく製品の品質を確保することが必要な場合に,合理的な期間に限って,成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先について,他の参加者又はその指定する事業者に制限すること
③成果に基づく製品について他の参加者から供給を受ける場合に,成果である技術の効用を確保するために必要な範囲で,その供給を受ける製品について一定以上の品質又は規格を維持する義務を課すこと
が挙げられます。

①及び②で,「合理的な期間」は,リバース・エンジニアリング等によりその分野における技術水準からみてノウハウの取引価値がなくなるまでの期間,同等の原材料又は部品が他から入手できるまでの期間等により判断されます。

他方,不公正な取引方法に該当する虞がある事項としては,
①成果に基づく製品の生産又は販売地域を制限すること
②成果に基づく製品の生産又は販売数量を制限すること,並びに,上記例外事由によることなく(→③~⑤)
③成果に基づく製品の販売先を制限すること
④成果に基づく製品の原材料又は部品の購入先を制限すること
⑤成果に基づく製品の品質又は規格を制限すること
が挙げられます。

また,不公正な取引方法に該当する虞が強い事項としては,成果に基づく製品の第三者への販売価格を制限することが挙げられます(一般指定第12項(拘束条件付取引)。


田島・寺西法律事務所
弁護士 田島 正広


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