コラム・企業法務相談室

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> 2014/05/09 知的財産

IT・システム開発関連紛争における紛争予防のポイント

IT・システム開発関連紛争を概観して,これを上手に避けるための紛争予防のポイントについて考えてみたいと思います。

IT関連紛争と一言で言っても,広範囲の争訟が含まれることになりますが,典型的にはコンピューターのシステム開発に関するトラブルを指すことが多いと言えます。

このタイプの争訟の場合,発注者側の意図するところと受注者側の認識とに齟齬が生じた結果,受注者としては立派な完成品を納品したはずなのに,発注者からすれば全く使い物にならないという場合が出てきます。

システムに関するプログラム著作物についてはバグが生じることがむしろ当然で,契約で定めた要件定義に従いつつ,当事者の追加協議も踏まえて善処するのが通例ですが,そもそもそのような微調整の段階に至ることができない程の重大な齟齬が結果として生じてしまう場合もある訳です。

また,受注者側が真摯に業務を行ったにもかかわらず,要件定義の定め方が不十分であったことをよいことに,発注者側から事後的に注文を付けられた挙げ句,代金の支払を拒絶されるというケースも間々見られます。

これらに共通しているのは,当初の契約時点での要件定義の具体化が不十分であるという点です。性善説に立つとすれば,当初決めきれなかったことがあっても事後的に協議で定めればよいということになるのでしょうが,実際に起きている多くの紛争例はそのような対応の限界を如実に表しています。

受注者としても,既に多額の経費をかけて業務を行ってしまっているにもかかわらず,それによる成果物を放棄して,発注者の意図をその都度汲むことは非現実的でしょう。

発注者としても,これからの修正には追加的に多額の経費を要すると言われれば,それは承諾し難いところとなります。

そのため,契約締結時点では双方いかに良好な関係であるにしても,性悪説を意識して,要件定義を厳格に定めることが重要と言わざるを得ないのです。

IT・システム開発関連紛争においては,いわゆるBtoB取引であるとは言え,受注者側は当該分野における専門家として,システム開発を主導しなければならない立場にあります。

従って,要件定義の定め方が甘いことによる不利益もまた自ずから自己に降りかかってくるリスクが高いことを受注者側は認識しなければならないと言えるでしょう。

他方,発注者側としても,受注者側の規模次第で人的戦力・資本力の投入には限界があることを意識して,無駄な作業をさせることなくピンポイントで業務を提供してもらえるよう,要件定義の具体化には慎重になるべきと言えます。

なお,契約書上の要件定義の定め方が甘いケースにおいては,当事者双方の合理的意思がどこにあったのかを当時の協議状況を踏まえて探る必要が出てきます。

この作業を事後的に行う上で重要なのは当時の議事録や議事メモ,連絡メール等です。議事録に双方署名捺印できればよいのですが,実際にはそこまでの作業はなかなかしづらいものです。

議事録案に記載した内容で問題ないかとのメールでのやり取りだけでも,事後的には十分な証拠となる場合があるので,ステップ毎の意思確認を忘れずに行って頂きたいと思います。

田島・寺西法律事務所
弁護士 田島 正広


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