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> 2014/05/14 企業経営
改正会社法における社外取締役の要件と東証の独立性基準,要件を欠く場合のリスク
Q 当社は,東京証券取引所への上場を検討していますが,社外取締役を選任するに際して,どのような要件を守る必要がありますか。また,要件を欠く者を選任した場合のリスクを教えてください。
A 改正会社法において具体化された社外取締役の要件と,独立役員(社外取締役・社外監査役)に関する東京証券取引所の独立性基準を遵守する必要があります。この要件を満たさない場合には,会社法上の責任や証券取引所の各種措置の対象となることがあります。
1 会社法上の社外取締役の要件
改正会社法は企業統治のあり方を見直すと共に,社外取締役・社外監査役の要件を改めて,独立性に疑問のある場合を排除する一方,時間の経過による例外を定めています。すなわち,改正会社法が定める社外取締役の要件は次のいずれをも満たすものとされます(会社法改正案2条15号。要約は筆者)。
イ 現在も含め就任前10年内に,当該会社,子会社の業務執行取締役,執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」といいます)に就任したことがないこと。
ロ 前号に該当するとしても,就任前10年内に当該会社,子会社の取締役、会計参与又は監査役に就任したことがある場合には,その職に就任する前10年間に当該会社,子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ハ 当該会社の自然人たる支配株主,又は親会社の取締役,執行役,支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該会社のグループ内兄弟会社の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該会社の取締役,執行役,支配人その他の重要な使用人,又は自然人たる支配株主の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
ここでは,当該会社・子会社の業務執行取締役等経験者の就任制限が就任前10年間のものに限られた点が特徴的です。
2 東京証券取引所における独立性基準
一方,東京証券取引所においては,経営陣と一般株主との利益相反問題に関し,一般株主保護の観点から,経営陣から独立した役員を確保することを目的として,独立役員(社外取締役・社外監査役)の確保に係る企業行動規範が導入されています。
そこでは,上場内国株券発行者は,社外取締役または社外監査役を1名以上確保することが義務付けられており(上場規程436条の2),また,社外取締役の確保に関する努力義務もある他(同445条の4),独立役員届出書の提出が義務付けられています(同436条の2)。
ここでいう独立性の基準は,次の通りです(上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2)。
a 当該会社の親会社又は兄弟会社の業務執行者
b 当該会社を主要な取引先とする者・その業務執行者,又は当該会社の主要な取引先・その業務執行者
c 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント,会計専門家又は法律専門家
d 最近においてaから前cまでに該当していた者
e 次の(a)から(c)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者
(a) aから前dまでに掲げる者
(b) 当該会社又はその子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与を含む。)
(c) 最近において前(b)に該当していた者
なお,独立性基準に抵触しない場合であっても、「一般株主と利益相反が生ずるおそれがない」とはいえない場合には,独立役員の要件を満たさないとされている点に留意が必要です。
3 改正会社法と東証独立性基準の概観と要件を満たさない場合のリスク
業務執行取締役等に関する限りは,会社法改正案の方が10年という縛りを設けている分要件が厳しいと見ることができますが,対象の範囲という点では,東証独立性基準の方が,会社側か役員側のどちらかにとっての主要な取引先である場合や役員報酬以外の多額の財産を得ている専門家(顧問弁護士ではないが,個別事件の依頼を受けたに過ぎない弁護士も対象),さらには親族等も含まれ,要件が厳しいと言えるでしょう。これらの要件該当性については規制の趣旨との関連で,多分に規範的・専門的判断が求められるところと言えます。
また,選任した者がこれらの要件を満たさない場合ですが,まず,会社法上社外取締役として選任した者が要件を満たしていなかったとなれば,選任に関わる経営陣の善管注意義務違反,登記上の問題,社外取締役の責任限定契約の無効等の問題を生じます。その際,特に問題となるのは被選任者全員がその要件を欠く場合です。
この場合は,本来は監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社であれば,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示が必要だったところとなり(改正会社法327条),手続的な瑕疵を残すことになります。
他方,東証独立性基準については,社外監査役を含め独立役員が不在ということになれば,企業行動規範に違反したものとして,状況次第で,公表措置,上場契約違約金の徴求,改善報告書・改善状況報告書の徴求,特設注意市場銘柄への指定など所定の措置を講じられることがあり得るところとなります。
近時は,インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ(ISS),グラスルイス等の議決権行使助言会社が,より厳しい独立性基準を基礎として,経営陣に対して厳しい議決権行使を行うケースも見られます。
これらの議決権行使を敵対的なものとばかり位置付けずに,むしろその理解を得られるような経営を実践することは,それ自体一般株主を初めとする多くのステークホルダーの利益にかなうことであり,その支えの上に立ってこそ,グローバリゼーションの時代において企業の永続性の確保がより確実になるといえます。そのためには,独立役員特に社外取締役の関与により一般株主との利益相反を回避し,より透明性の高い企業統治を実現する必要があるというべきでしょう。
田島・寺西法律事務所
弁護士 田島 正広
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