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> 2014/04/25 商取引

国際物品売買に関するウィーン売買条約

Q 当社では国際的に動産売買を行うことになりましたが,ウィーン売買条約が適用されるのはどのような場合でしょうか?

A 相手の所在国次第で同条約が自律的に適用されますが,当事者間の合意でその適用を排斥した場合にはこの限りではありません。

近時は経済のグローバル化に従い,資材や中間製品の輸入による調達や最終製品の輸出による販売の機会も増大しており,国内企業が当然に国際契約に携わる時代になっています。

この場面を議論するに当たって,忘れてはならないのがウィーン売買条約です。

この条約は正式には,「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods : CISG)といい,我が国については,既に平成21年8月1日発効しています。

その趣旨は,国際的な物品売買契約について適用される各国に共通の契約法を定めることによって,国際取引を円滑化し貿易の発展を促進することにあります。

昭和55年(1980年)ウィーンで採択され,昭和63年(1988年)には発効していた条約に,我が国が71番目の加盟国として加盟したものです。

この条約を施行するための国内立法措置は採られず,本条約が日本の裁判所において直接適用されています。

以下に,その特徴を概観します(以下,法務省民事局参事官曽野裕夫他「ウィーン売買条約(CISG)の解説(1)ないし(5)(NBL No.887ないし895号)を参照)。

① 適用対象となる契約
国際物品売買契約,すなわち売主が物品を引き渡して所有権を移転し,買主が代金を支払う契約です。物品とは有体物を念頭に置いています。
製作物供給契約でも原料の供給による売買を伴う場合はこれに含まれる一方,主要な部分が役務提供からなる契約は含まれません。

②自律的適用
当事者の営業所がそれぞれ異なる締約国に所在するときには,国際私法を介することなく自律的に適用されます。
当事者の一方又は双方が締約国に営業所を有しない場合でも,法廷地の国際私法の準則((ex)当事者の合意による準拠法指定)によれば締約国の法が適用される場合には,本条約が適用されます。

③適用排除
当事者は,合意によって本条約の適用を排除でき,この場合は,法廷地の国際私法の準則によって準拠法が指定されることになります。

④方式の自由
契約は,当事者間の合意(口頭を含む)によって成立し,書面による必要はありません。

⑤契約の成立
契約は,申込とこれに対する承諾によって成立します。
契約の成立時期は承諾通知の到達時であり,申込に変更を加えた承諾も,その変更が実質的でないときには有効な承諾とされます。

⑥過失責任主義の否定と契約解除の制限
過失責任主義は否定され,当事者が合意した契約による拘束力を重視します。重大な契約違反が存在する場合にのみ契約解除及び代替品引渡請求が許され,相手方がその契約に基づいて期待することができたものを実質的に奪うような不利益を相手方に生じさせる場合が,これに該当するとされます。

⑦引渡
売主の義務としての引渡の方法は,最初の運送人への交付(運送を伴う場合),又は売主の営業所での引渡(運送を伴わない場合)とされます。運送及び保険を手配する義務を負うのは原則として買主であり(FOB的発想です),売主は運送契約締結義務も貨物海上保険締結義務も負いません。ただし,売主には,これらに必要な情報を提供する義務はあります。

⑧買主の物品検査及び不適合品通知義務
買主は,物品受取後可能な限り短期間内に物品を検査しなければならず,物品の不適合を発見し,又は発見すべき時から合理的な期間内に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行わなければなりません。
この通知を怠ると,買主は,物品の不適合を援用する権利を失います。

⑨第三者の権利
売主は,第三者の権利又は請求の対象となっていない物品を引き渡す義務を負います。
 請求は正当な権利に基づくものに限られないとされるため,紛争の対象となっている物品は基本的に引渡の対象外とされることになります。
知的財産権に関しては特例があります。

⑩危険負担
危険移転時期は,原則的には運送人への交付時(運送を伴う場合)や買主が受け取った時(運送を伴わない場合)とされますが,例外もあるため,必ずしも引渡時と一致はしていません。
危険移転前の滅失・毀損については,売主は,物品を再調達・補修して契約に適合した物品を買主に引き渡す義務を負います。
他方,危険移転後は,買主は代金支払義務を免れませんが,その滅失・毀損が売主の作為又は不作為による場合(債務不履行によることは求められていません)は危険移転の効果が生じません。

⑪損害賠償額
損害賠償額は,契約違反により相手方が被った損失に等しい金額とされますが,その範囲は,契約違反を行った当事者が契約違反から生じうる結果として契約締結時に予見可能であった損失によって画されています
。当事者双方に損害を軽減するための合理的措置が求められ,その違反に際しては損害賠償額の減額請求が可能です。

ここに概観したところによっても,ウィーン条約は我が国の国内法制度と相当程度異質なものと評されるところであり,現場においても未だになじみにくいところがあるように思われます。

今後,債権法の国際化を重要な動機としたその改正作業も視野に入れつつ,この条約の受け止められ方も変わっていくところがあると思いますが,現段階では従来型の準拠法指定による同条約の排斥がむしろ多く見られるところであり,今後の実務の動向が注目される所以です。

以上を踏まえ,設問の回答としては,上記②及び③に従い,同条約適用排除の合意があればそれが優先することになり,この場合は契約の準拠法として別途準拠法指定の合意が必要となります。


田島・寺西法律事務所
弁護士 田島 正広


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