コラム・企業法務相談室

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> 2014/02/28 知的財産

企業秘密漏えい防止のための秘密保持契約・守秘義務契約のあり方

Q.業務委託の際の企業秘密漏えい防止のためには,秘密保持契約・守秘義務契約において秘密の範囲をどのように設定すべきでしょうか?

A 事業者の取り扱う情報の要保護性,現場での対応可能性等によって,設定のあり方は変わってきます。

企業の保有する研究・営業に関する情報は,時に高度の資産価値を持つことがあります。

その保護と利活用のあり方には大別して二つあり,
①特許出願して対外的に公開する一方ライセンス収入を確保する方法,
②営業秘密として内部留保し独占的に利活用を図る方法が考えられます。

②の場合,
(a)法律による保護としては不正競争防止法による営業秘密の保護が挙げられ(同法2条6項,同条1項4号ないし9号,21条1項1号ないし7号,他),
また,
(b)契約による保護としては秘密保持契約(守秘義務契約)による保護が挙げられます。
(a)においては,営業秘密としての保護の要件として,秘密管理性,有用性,非公知性の3要件が挙げられています

それでは,(b)において高度の企業秘密の漏えいを防止するためには,当該情報の開示を伴う業務委託等の際に,秘密保持契約をどのように定めればよいでしょうか。

この点,秘密を特に限定することなく,「本契約有効期間中であると否とを問わず,本契約の内容や本契約に関連して知り得た甲の業務上及び技術上その他の一切の情報」と広範に定義すれば,およそあらゆる秘密情報を網羅的に対象として守秘義務による拘束をかけることはできます。

相手方に対する漏えい防止に向けた心理的抑止効も期待できるでしょう。

特に高度の企業秘密が開示の対象となっていない場合には,合理的な定め方といえます。

しかし,ありとあらゆる情報が秘密となれば,特に厳重な管理体制の実施を求めることは非現実的となります。相手方の業務において,特段の秘密管理の配慮も受けずにそのまま当該情報が利用される事態となることも懸念され,秘密保護のレベルが低下することにもなります。

このような場合には,同時に,(a)の営業秘密としての保護のための要件である秘密管理性も否定される可能性も高いと思われます。結果として,情報の円滑な利活用に力点を置いて,その保護を形式化することが懸念されます。

これに対して,情報の利活用に制限を掛けてでも,秘密保護のレベルを上げたいということであれば,秘密をより厳密に限定して厳格な取扱いを求めるという手法が検討されることになります。

実際には,秘密情報の属性・内容による限定,秘密情報の交付方法・媒体による限定等が考えられます。

前者は,「甲において業務上知り得た別紙1記載の製品の製造過程,取引相手,取引価格等に関わる事項,その他一切の甲が秘密として管理する情報」といった内容に関する例示列挙を行う等して,秘密の内容を限定する手法です。

他方,後者は,「本契約の内容や本契約に関連して知り得た甲の業務上及び技術上その他の一切の情報のうち,書面又は電磁的媒体の場合には秘密であることが表示されたもの,それ以外の場合には開示後10日以内に相手方に秘密である旨とその情報の内容を書面又は電磁的媒体により通知されたもの」といった形で交付方法・媒体を限定することで秘密を限定する手法です。

秘密の内容自体が限定しやすい場面であれば前者が有用ですし,個別判断が必要であれば後者が有用といえるでしょう。

秘密をより限定することにより,通常の情報とは別次元の厳格な取扱いを求めることが現実的になります。

その結果,実際に相手方において当該情報に関与する者も限定され,管理区画内での保管体制も実現するとなれば,秘密管理性も認められやすくなり,契約的保護のみならず法的保護も期待できるといえるでしょう。

もちろん,その前提として秘密の限定の仕方が重要ということになり,これを誤ると重要な企業情報について何らの契約的保護,ひいては法律による保護が及ばない事態を招来することにもなりかねません。

このように秘密保持義務の定め方には明確な答えがあるわけではなく,むしろ事業者の取り扱う情報の秘密としての要保護性と,実際の現場での対応可能性に応じてフレキシブルに選択するべきものといえます。


田島・寺西法律事務所
弁護士 田島正広


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