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> 2017/08/09 知的財産
インターネット上にあるイラストの使用上の問題点
Q 当社部署内のプレゼン用資料にイラストを挿し入れたいのですが,インターネットで「イラスト 無料」と検索してヒットしたものであれば自由に使えるでしょうか。
1 問題の所在
今日,インターネットで検索すれば,様々なイラストが表示されます。 会社の広告宣伝用のチラシ,プレゼン用資料,ホームページやSNS等,イラストを挿し入れたい場合に,インターネット上で見つけたイラストを使えれば便利でしょう。しかし,その際,そのイラストの使用行為が第三者の著作権を侵害しないか,注意する必要があります。
イラストと一口に言っても様々で,有名な漫画の登場人物のイラストやCGを駆使して緻密に描かれたイラスト等,誰もが著作権を侵害するかもしれないと思うに至り,自由に使用することに抵抗感を覚えるものから,シンプルな風景画や人物のシルエット画等,何らか価値があるとはおよそ考えにくいものまであります。実際,インターネット上においては特に後者のようなイラストについて,深く考えずに(おそらく著作権者に無断で)使用していると思われる例が散見されます。
しかし,どのようなイラストについても,それを無断で使用することは,著作権侵害に該当する可能性があるのです。
現に「有料イラスト 無断使用 ニュース」で検索すれば,行政が有料イラストを無断で使用したとのニュースが散見されるほどです(高知県による無断使用(産経ニュース))や,岡山市による無断使用(山陽新聞digital)等)。
では,どのような場合に,イラストを自由に使用できるのでしょうか(なお,ここでいう「自由に」とは,著作者ないしは著作権者の個別の許諾を得なくとも,という意味で用いています(以下同じ))。
2 著作物該当性
大前提として,著作権は著作物について発生するので,使用したいイラストが著作物に該当しないのであれば,著作権を侵害することもありません。
著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽に属するものをいう」(著作権法第2条1項1号)と定義されています。このうち「思想又は感情が表現されているか」そして「創作的か(他者の表現と異なるか)」という点が,著作物性を判断するカギといえます。
しかし,「思想又は感情が表現されているか」又は「創作的か」の判断は難しく,また著作権は特許権・商標権と異なり,登録して初めて権利が生じるのではなく,著作物を創作した時点でいわば自然発生します。したがって,そのイラストが著作物に該当するか否か判断できる一見して明らかなメルクマールは存在しません。
イラストに関していえば,どれだけシンプルなものであっても,あえてシンプルにした点が創作的であるといえることもあり,原則として著作物として扱った方がリスク回避という観点からは望ましいでしょう。仮に創作的であるか疑わしく,著作物性が疑わしいものについても,著作物だといわれてしまえば,最終的には訴訟等で明らかにするほかありません。
以上のとおりであるので,イラストを使用したいと考えたときに,それが著作物に該当するかを考えるよりも,そのイラストが自由に使えるかどうかを見極める必要があります。
3 著作権者の許諾
イラストが自由に使えるものかどうかは,著作者ないしは著作権者(著作者と著作権者が異なる場合もありますが,以下では便宜上著作権者で統一します)が,その自由な使用を許諾しているかによります。
もちろん,著作権法上,許諾がなければあらゆる用途の使用ができないとされているわけではなく,一定の場合には例外的に,著作権者の意思にかかわらず使用が認められています。例えば「私的使用のための複製」です。
複製とは「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」を指し(法第2条1項15号),私的使用であれば,インターネット上のイラストを何枚プリントアウトしても良いことになります。
しかし「私的使用」は「個人的に又は家庭内」で使用する場合等,ごく限られた範囲でしか認められません(法第30条)。したがって,社内において,少人数部署内でのプレゼン用資料にイラストを挿し入れて印刷する行為も「私的使用のための複製」とはいえず複製権侵害となります(法第21条。なお配布すれば頒布権の侵害にもなります(法第26条))。
現実問題としてそれが表面化しないのは,単に,事実が明るみに出ず,又は出たとしても目くじらを立てる程のことではないことが通常だからです。もっとも後述するように,事後的な高額請求事案も散見されます。
以上のとおり,会社の業務上イラストを使おうとする場合,「私的使用のための複製」のような著作権法上の例外に該当して自由な使用が認められる,という場合は少ないと思われます。そうであるからこそ,著作権者が,その自由な使用を許諾しているかが重要になります。
4 インターネットでイラストを探す場合の注意点
検索エンジンを利用して自由に使える無料のイラストを検索する場合,検索したいキーワードを打ち込み,検索結果のうちの画像のみを表示させ,いわゆるサムネイルの状態で各画像を吟味する,という過程を経ることになると思われますが,各画像それぞれに,その画像が保存・保管されているサイトに飛べるリンクが付されています。少なくともそのリンク先に飛び,当該イラストが自由に使用できるものとされているか(また無料であるか)を確認することが重要です。
サイトの中には,冒頭で「本サイト内のイラストは無償で自由にご利用頂けます」などと謳っているものや「本サイト内のイラストは全て著作権フリーです」と記載されているものもあります。しかし,その文言だけで判断できない場合も多いことから,その趣旨について注意深く読み込み,著作権者が誰であるかを示す識別情報や権利関係が明確で,真に自由な使用が許諾されているかを確認する必要があります。
サイトによっては,上記の識別情報や権利関係が不明確なものも存在するでしょうが,そうしたイラストについては使用を控えるべきです。有料イラストの無断使用に関して損害賠償が求められた裁判例(東京地判平成27年4月15日)においても「フリーサイトから入手したものだとしても,識別情報や権利関係の不明な著作物の利用を控えるべきことは,著作権等を侵害する可能性がある以上当然」と判示されています(以下「平成27年東京地裁判決」といいます)。
なお,注意が必要なのは,インターネット上で「無料」と謳われているイラストです。
インターネット上の有料のイラストに関しては,そもそも著作権者の許諾がないと使用できない場合が多く(イラスト上に「SAMPLE」の透かし文字が表示されるなどして,文字の入っていない高画質のイラストは料金を支払わないと入手できない等),そういった場合は通常,料金の支払と共に個別の著作物使用許諾もなされるので問題になりません(もちろん「SAMPLE」の文字入りの低画質のイラストについても,自由な使用が許諾されていないことが多いでしょう)。
一方,無料のイラストは,使おうと思えばダウンロードして自由に使えることが多いですが,その使用に対価が発生しないにとどまり,それがそのまま自由に使えることを意味するわけではありません。
検索エンジンで「イラスト 無料」と検索した経験のある方は少なくないと思われますが,そもそも無料であることと,自由に使えることは同義ではないのです。無料であっても,その使用又は使用方法が限定されている場合があります。したがって,たとえ無料であって自由にダウンロードできるとしても,自由に使えるかどうか上記の識別情報や権利関係を確認する必要があります。
5 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
ここでは「法律や技術に関する専門的な知識がなくても,自分の希望する条件を組み合わせることで,自分の作品をインターネットを通じて世界に発信することができる画期的なライセンスシステム」が創設されており(クリエイティブ・コモンズ・ジャパンホームページ FAQ よくある質問と回答),複数のアイコンを組み合わせた表示を著作物と共に示すことで,その著作物の使用にどのような制限がかかっているかを容易に知り得る仕組みが設けられています。この仕組みを利用しているサイトでは,そのサイト内に存在するイラストをどのように使うことが許諾されているか,各イラストに明示されているので,非常にわかりやすくなっています。
6 悪意を持った者が存在する可能性
著作権者の権利と,著作物を利用したい者の要望は対立することも多く,インターネットを通じて発表した著作物が,使用を一切許諾していないにもかかわらず第三者に無断転用される等,保護されて然るべき権利が保護されていない事例も多く存在します。
これに対しては,どのようなイラストでも著作物として保護されるべきであり,著作権者保護の観点からして,その使用に正当な対価が支払われるべきとの高いコピーライトリテラシーの下,イラストを著作物として扱うことを明示したうえで,その使用を有料とするサイトも見られます。
一方で,一般消費者又は企業の知識不足につけ込み,無料で自由に使えると誤信してイラスト等を使用した者に対して,一定期間経過後,当該期間中の使用の対価を請求するような悪意を感じさせる事例も散見されます。「「イラスト 無料」と検索して見つけたから,自由に使えると思っていた,無料だと思っていた」と反論しても,元のサイトに飛べば有料であることは明らかであり,その確認という簡単なステップさえ怠った点に落ち度がある,との再反論の前に沈黙を余儀なくされることもあるでしょう。
検索エンジン上においても「画像は著作権で保護されている場合があります」との注意が記載されているので,最終的に不法行為における故意又は過失が立証されてしまう可能性が高いと思われます。平成27年東京地裁判決においては,著作権侵害行為の主体者の「経歴及び立場に照らせば」との前提で,著作権侵害の未必の故意(積極的ではなくとも,結果の発生をやむを得ないものとして認識し,認容する故意)まで認められてしまっています。
イラスト使用料については,その高さに驚くような例もあり得るところですが,平成27年東京地裁判決において,原告の設定していたそもそものイラスト使用料を損害賠償金額の算出根拠とするには高すぎる,と被告が争った点に関し「利用者がこれらのコンテンツを購入,ダウンロードできる本件サービスを提供するなど,相当な市場開発努力をしているばかりか,当該市場において相当程度の信頼を勝ち取っていることが認められるのであり,また,その使用料金が当該市場において特に高額なものとも認められない」と判示され,被告の反論が退けられています。したがって,高額と感じたとしても,その使用料が損害賠償金額の算出根拠とされる可能性があります。
厄介なことに「イラスト 無料」のように検索しても,有料のイラストがヒットする可能性はあります(検索エンジンにその責任を問うことは検索エンジンの性質上難しいでしょう)。上記のような事後的な高額請求を避けるためには,インターネット上のイラストを使用する際は,十分に注意する必要があります。
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