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> 2014/06/06 知的財産
特許権実施の際の事業活動分野の制限と不公正な取引方法の該当性
Q 業界で多くの企業がライセンスを受けているある特許の通常実施権の設定を受けるため交渉中ですが,先方提案としては事業活動を行う分野を厳しく制限しており,実質的に当社の製品製造のために当該特許を実施することが困難となっています。このような条件は適法なのでしょうか。
A 当該事業分野の制限が,広く実施されている特許について差別的な取引拒絶と見うる程度に至っておれば,不公正な取引方法として独占禁止法上問題とする余地があります。独占禁止法の目的は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益確保と国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあります。これと,発明の保護・実施許諾による利活用による産業育成を図る特許法との関係が問われることになります。
この点,独占禁止法第21条は,「この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」としています。
公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日制定,平成22年1月1日改正,以下「知財指針」という)によれば,同条の趣旨としては,「技術に権利を有する者が,他の者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は,外形上,権利の行使とみられるが,これらの行為についても,実質的に権利の行使とは評価できない場合は,同じく独占禁止法の規定が適用される。すなわち,これら権利の行使とみられる行為であっても,行為の目的,態様,競争に与える影響の大きさも勘案した上で,事業者に創意工夫を発揮させ,技術の活用を図るという,知的財産制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合は,上記第21条に規定される「権利の行使と認められる行為」とは評価できず,独占禁止法が適用される。」としています。すなわち,「権利の行使」に該当するかどうかは,形式的外形的判断によるのではなく,多分に規範的評価を伴う実質判断によることになるのです。
そして,「ライセンサーがライセンシーに対し,当該技術を利用して事業活動を行うことができる分野(特定の商品の製造等)を制限すること」が独占禁止法の制限する不公正な取引方法に該当するかについては,「原則として不公正な取引方法に該当しない」(知財指針第4-3)とされているものの,次のような場合には例外的に不公正な取引方法に該当するとされます(同指針第4-2)。
① 自己の競争者がある技術のライセンスを受けて事業活動を行っていること及び他の技術では代替困難であることを知って,当該技術に係る権利を権利者から取得した上で,当該技術のライセンスを拒絶し当該技術を使わせないようにする行為。
② ある技術に権利を有する者が,他の事業者に対して,ライセンスをする際の条件を偽るなどの不当な手段によって,事業活動で自らの技術を用いさせるとともに,当該事業者が,他の技術に切り替えることが困難になった後に,当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為。
③ ある技術が,一定の製品市場における事業活動の基盤を提供しており,当該技術に権利を有する者からライセンスを受けて,多数の事業者が当該製品市場で事業活動を行っている場合に,これらの事業者の一部に対して,合理的な理由なく,差別的にライセンスを拒絶する行為。
本件では,③に該当する段階に至っておれば,不公正な取引方法に該当することになります。
田島・寺西法律事務所
弁護士 田島正広
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