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> 2014/01/31 商取引

アベノミクス三本目の矢と産業競争力強化法

第2次安倍内閣において,日本経済の再生に向けて,①大胆な金融政策,②機動的な財政政策,③民間投資を喚起する成長戦略という3つの政策,いわゆる「三本の矢」が提示されています。
本日は,その三本目の矢と関連する「産業競争力強化法」について少しだけ書いてみようと思います。ちなみに,この法律は平成25年12月4日に成立し,平成26年1月20日から施行されています。

《そもそもどのような法律なのか?》

まず,この「産業競争力強化法」とはどのような法律なのかといいますと,経済産業省のHPには,「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)に盛り込まれた施策を確実に実行し,日本経済を再生し,産業競争力を強化することを目的としている,と紹介されています。

具体的には,①企業単位での規制改革や,②収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編や起業の促進などの産業の新陳代謝を進めることにより,日本経済の歪みである「過剰設備」,「過少投資」,「過当競争」を是正して産業競争力を強化していく,その役割を果たすための法律,ということのようです。

《①企業単位での規制改革とは?》

産業競争力強化法では,企業単位での規制改革として,(1)企業実証特例制度(通称)と,(2)グレーゾーン解消制度(通称)を定めています。

前者は,企業単位で特例的に規制を緩和することを認める制度です。本来であれば規制がかかっている事項について,その規制の目的を達成することができる代替手段を企業が計画提案し,事業・規制を所管する両大臣が協議し,その計画を認定することで,当該企業に対する規制を緩和するというものです。

後者は,事業者が新規事業分野を開始するにあたり,規制の適用の有無が不明である場合に,個別の事業について関係大臣が連携して適法であることを明確化することによって,事業者が規制の有無が曖昧であることで事業開始に委縮することを防ぎ,新事業開拓への取組みを促進するというものです。

《②産業の新陳代謝を進めるとは?》

産業競争力強化法には,事業の新陳代謝を促す支援策を推進するため,国の責務として,事業者による設備投資,事業再編を促す環境の整備や,過剰供給・過当競争など事業再編が必要な分野について調査・公表することが掲げられ,一方,事業者の責務(努力義務)として,先端設備導入など積極的な投資や,低収益分野の改善・撤退その他事業再編に積極的に取り組むべきことが掲げられています。

そして,新陳代謝の支援策を具体化するものとして,
(1)ベンチャー投資の促進(認定ベンチャーファンドに出資した場合,その出資の8割を損失準備金として損金算入することができるようにするなど,ベンチャー企業への資金供給を行う企業に税制優遇。)
(2)事業再編の促進(計画認定された事業再編について,税制措置や政策金融など。)(3)先端設備投資の促進(即時償却や税額控除,高額な初期費用を要し,初期稼働が見通しにくい先端設備について,リース手法を用いた支援措置を創設)などが検討されています。

《その他の関連施策》

上記施策のほか,地域中小企業の創業・事業再生の支援強化や,国立大学のベンチャー投資特例,特許料減免の特例,早期事業再生の促進(私的整理の円滑化)などの施策が掲げられています。

《雑感》

「産業競争力強化法」は,創業支援の強化や新規事業における個別の規制緩和など,ベンチャーをはじめとする中小企業への支援を想定する制度であるとともに,ベンチャーに出資する企業への税制支援や,事業再編の促進,先端設備の投資の促進など,比較的規模の大きな企業への支援も想定しているものと考えられます。

その意味で,この制度は,規模や業種を問わず,新規事業を開拓しようとしている企業や既存の事業の在り方を変えようとしている企業など,多数の企業に関係するものであり,注目しておくべき法律の一つであると言えるでしょう。

なお,最近,三菱重工業と日立製作所が事業再編を行う上で,産業競争力強化法の適用を経済産業省に申請し,同省が同法に基づく特定事業再編計画を認定したようです(経産省HP)。これにより両社合わせて数百億円の法人税を先送りできる見通しであるといった報道もされていました。

この法律が,日本の企業の競争力強化と新たな成長の実現を目指した法律であることを前向きに評価するとともに,三菱重工業や日立製作所に続いて,多くの企業がこの制度を利用することによって,近未来における日本の企業がますます発展し,今より少しでも明るい社会になることを期待したいと思います。


田島・寺西・遠藤法律事務所


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