コラム・企業法務相談室

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> 2014/05/07 企業経営

国会審議中の会社法改正案に見る社外取締役への期待と実効性

国会審議中の会社法改正案が先般衆議院を通過し,参議院の審議に付されました。企業統治のあり方を見直し,社外取締役等の任用に期待したものですが,実効性については企業自身の受け止め方によるところが大きいと言えるでしょう。

民主党政権時代から検討されてきた会社法改正ですが,紆余曲折を経て法案化され,先月25日衆議院にて可決の上,現在,参議院の審議に付されています。

内閣提出法案ということで,今会期中の改正法成立が見込まれます。

今回の会社法改正案の趣旨ですが,株式会社をめぐる最近の社会経済情勢に鑑み,社外取締役等による株式会社の経営に対する監査等の強化並びに株式会社及びその属する企業集団の運営の一層の適正化等を図るため,

①監査等委員会設置会社制度を創設し,
②社外取締役等の要件等を改め,
③株式会社の完全親会社の株主による代表訴訟の制度を創設し,
④株主による組織再編等の差止請求制度の拡充等の措置を講じたものです。

このうち,①監査等委員会設置会社制度と②社外取締役等の要件の改正は,企業統治のあり方を再考し,社外取締役の任用による企業統治の強化に対する期待を込めたものであり,
また,③完全親会社の株主による代表訴訟制度創設と④組織再編等の差止請求制度の拡充等は,企業統治におけるこれまでの制度の空白を埋め,より充実を図るものといえます。

企業統治における社外取締役の役割に関して顕著なところを挙げると次の通りです。

すなわち,監査等委員会設置会社の監査等委員である取締役は3人以上とされますが,その過半数は社外取締役とされています(会社法改正案331条6項)。

そして,大会社で監査等委員会設置会社でない場合には監査役会設置が義務付けられるところ(会社法改正案328条),監査役会設置会社で金融商品取引法24条1項により有価証券報告書提出を義務付けられている会社は,社外取締役を置かない場合には,それを置くことが相当でない理由の開示が求められることになります(会社法改正案327条)。

改正法案立案段階では,当初は社外取締役の選任を法的に義務づける方向で議論がなされていたのですが,それ自体は経済界の反発もあって見送りとなったこともあり,今回の改正法案では企業統治の強化には不十分との評価があります。そのる一方では,この改正法案でも上場企業に社外取締役を置くことが「事実上」義務付けられたとして一定の評価をする見解も観られるところです。

もちろん,今回の改正後も,上場企業の多くが「社外取締役を置かないことを相当とする理由」の起案にやっきになるようでは,改正法の趣旨は空洞化されることになります。もとより,企業の置かれた現状に応じて段階的に検討されるべき事項ですから,必ずしも全ての企業に直ちにその選任を期待すべきものではないことは当然ですが,将来の方向性として社外取締役の選任を真摯な検討課題とすること自体を当然に回避するような運用は避けて頂きたいと思う次第です。

なぜなら,企業統治の実を高めると共に,コンプライアンス遵守を徹底することの福利を享受するのは当該企業自身なのです。将来的には,当該企業の株式価値の最大化が実現することでしょうし,長期的スパンで見るとき,当該企業の永続性が実現することになるということを忘れないで頂きたいと思います。


田島・寺西法律事務所
弁護士 田島 正広


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