コラム「企業法務相談室」一覧

会社法,商取引法,M&A・事業承継,倒産・再生,IT・知財,労働法,公益通報・コンプライアンス等について,企業法務を取り扱う弁護士が豊富な実務経験に基づき解説しています。

  • 2014/04/08 知的財産 『職務著作の要件と効果』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    職務著作の要件と効果

    Q. 従業員が創作した著作物について,会社が著作権を享有できるのは,どのような場合ですか?

    A. いわゆる職務著作の要件を満たす場合には,会社が原始的に著作権を享有します。

    職務著作の要件と効果

    1 職務著作とは

    著作物にかかる著作者人格権及び著作権は著作者が享有するところ(著作権法17条1項),「著作者」とは著作物を創作する者と定義されています(同法2条1項2号)。

    すなわち,著作権法は現実の創作行為をした者を著作者としており,創作者である自然人が著作者として著作物にかかる権利を享有するのが原則です。

    この例外が,いわゆる職務著作であり,法人その他使用者(法人等)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く)で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等となります(同法15条1項)。

    2 職務著作の要件

    職務著作の具体的要件は以下のとおりです(プログラムの著作物を除く)。

    ① 著作物の作成が法人等の発意に基づくこと
    「発意」とは,広く当該著作物を創作することについての意思決定が直接又は間接に法人等の判断に係らしめられていることと解されています。
    法人等が著作物の作成や具体的な内容を指示する必要はなく,その著作物を作成することが想定される業務を従業員等に命じることでも足りると解されています。
    また,法人等がその著作物の存在を認識しているか否かも問われません。

    ② 法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であること

    「法人等の業務に従事する者」であるか否かは,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等が支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等の具体的事情を総合的に考慮して判断されることになります。
    また,「職務」には,具体的に命令された内容だけでなく職務として期待されるものも含まれ,作成者の地位や従事する業務の種類,内容等も総合的に勘案して決せられることになります。

    ③ 当該著作物が法人等の著作名義の下に公表されること
    未公表のものであっても,法人等の著作名義で公表することが予定されているものであれば足りると解されています。

    ④ 作成時における契約,勤務規則その他に別段の定めがないこと
    なお,プログラムの著作物については,上記①②④の要件を満たす場合には,職務著作として,法人等が著作者となります(同条2項)。

    3 職務著作に該当する場合の効果

    職務著作の要件を満たす場合には,当該著作物にかかる著作者人格権及び著作権が原始的に法人等に帰属することになります(同法17条1項,15条)。


    田島・寺西・遠藤法律事務所

    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp





  • 2014/02/28 知的財産 『企業秘密漏えい防止のための秘密保持契約・守秘義務契約のあり方』(田島正広弁護士)

    企業秘密漏えい防止のための秘密保持契約・守秘義務契約のあり方

    Q.業務委託の際の企業秘密漏えい防止のためには,秘密保持契約・守秘義務契約において秘密の範囲をどのように設定すべきでしょうか?

    A 事業者の取り扱う情報の要保護性,現場での対応可能性等によって,設定のあり方は変わってきます。

    企業の保有する研究・営業に関する情報は,時に高度の資産価値を持つことがあります。

    その保護と利活用のあり方には大別して二つあり,
    ①特許出願して対外的に公開する一方ライセンス収入を確保する方法,
    ②営業秘密として内部留保し独占的に利活用を図る方法が考えられます。

    ②の場合,
    (a)法律による保護としては不正競争防止法による営業秘密の保護が挙げられ(同法2条6項,同条1項4号ないし9号,21条1項1号ないし7号,他),
    また,
    (b)契約による保護としては秘密保持契約(守秘義務契約)による保護が挙げられます。
    (a)においては,営業秘密としての保護の要件として,秘密管理性,有用性,非公知性の3要件が挙げられています

    それでは,(b)において高度の企業秘密の漏えいを防止するためには,当該情報の開示を伴う業務委託等の際に,秘密保持契約をどのように定めればよいでしょうか。

    この点,秘密を特に限定することなく,「本契約有効期間中であると否とを問わず,本契約の内容や本契約に関連して知り得た甲の業務上及び技術上その他の一切の情報」と広範に定義すれば,およそあらゆる秘密情報を網羅的に対象として守秘義務による拘束をかけることはできます。

    相手方に対する漏えい防止に向けた心理的抑止効も期待できるでしょう。

    特に高度の企業秘密が開示の対象となっていない場合には,合理的な定め方といえます。

    しかし,ありとあらゆる情報が秘密となれば,特に厳重な管理体制の実施を求めることは非現実的となります。相手方の業務において,特段の秘密管理の配慮も受けずにそのまま当該情報が利用される事態となることも懸念され,秘密保護のレベルが低下することにもなります。

    このような場合には,同時に,(a)の営業秘密としての保護のための要件である秘密管理性も否定される可能性も高いと思われます。結果として,情報の円滑な利活用に力点を置いて,その保護を形式化することが懸念されます。

    これに対して,情報の利活用に制限を掛けてでも,秘密保護のレベルを上げたいということであれば,秘密をより厳密に限定して厳格な取扱いを求めるという手法が検討されることになります。

    実際には,秘密情報の属性・内容による限定,秘密情報の交付方法・媒体による限定等が考えられます。

    前者は,「甲において業務上知り得た別紙1記載の製品の製造過程,取引相手,取引価格等に関わる事項,その他一切の甲が秘密として管理する情報」といった内容に関する例示列挙を行う等して,秘密の内容を限定する手法です。

    他方,後者は,「本契約の内容や本契約に関連して知り得た甲の業務上及び技術上その他の一切の情報のうち,書面又は電磁的媒体の場合には秘密であることが表示されたもの,それ以外の場合には開示後10日以内に相手方に秘密である旨とその情報の内容を書面又は電磁的媒体により通知されたもの」といった形で交付方法・媒体を限定することで秘密を限定する手法です。

    秘密の内容自体が限定しやすい場面であれば前者が有用ですし,個別判断が必要であれば後者が有用といえるでしょう。

    秘密をより限定することにより,通常の情報とは別次元の厳格な取扱いを求めることが現実的になります。

    その結果,実際に相手方において当該情報に関与する者も限定され,管理区画内での保管体制も実現するとなれば,秘密管理性も認められやすくなり,契約的保護のみならず法的保護も期待できるといえるでしょう。

    もちろん,その前提として秘密の限定の仕方が重要ということになり,これを誤ると重要な企業情報について何らの契約的保護,ひいては法律による保護が及ばない事態を招来することにもなりかねません。

    このように秘密保持義務の定め方には明確な答えがあるわけではなく,むしろ事業者の取り扱う情報の秘密としての要保護性と,実際の現場での対応可能性に応じてフレキシブルに選択するべきものといえます。


    田島・寺西法律事務所
    弁護士 田島正広


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp



  • 2013/11/07 知的財産 『商標登録によるブランド保護の有用性』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    商標登録によるブランド保護の有用性

    Q 当社は服飾品製造販売業者ですが,類似品対策に苦慮しており,新製品の発売に際して商標の登録出願を検討しています。商標登録のメリットと手続について教えて下さい。

    A アイディアを駆使したり,品質に配慮する等してブランド力を発揮すべき優良な商品も,粗悪な類似品を製造販売されては,その正当な顧客誘引力を阻害されかねません。このような場面を想定して対処するために有用なのが商標登録です。以下に,そのメリットと手続を紹介します。

    1 「商標」と「登録商標」

    商標法(以下「法」といいます)において,「商標」とは,業として商品を生産し,証明し又は譲渡する者がその商品について使用したり,業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用する標章(文字図形,記号もしくは立体的形状もしくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合)を指します(法2条1項)。

    法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発展に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的としており(法1条),商標を保護する手段として登録制度を設けています。

    当該制度において商標登録を受けた商標が「登録商標」であり,登録商標については,商標権者が指定商品又は指定役務について使用する権利を専有することになります(法25条)。

    他方,登録を受けていない「商標」については,商標上,他人の使用を排除する権利は認められず,むしろ他人が同一又は類似の商標につき商標登録を受けた場合には,いわゆる先使用権が認められる場合を除き(法32条参照),当該商標の使用は制限されることになります。

    2 「商標」が「登録商標」になるまで

    商標登録を受けるためには,まず,商標登録出願を行います(法5条参照)。その後,審査を経て(必要に応じて補正を行うこともあります),登録査定が出されると,登録料を納付することにより商標権の設定の登録がなされます(商標法14条,16条,18条2項)。

    実務上,出願から登録査定までに半年以上を要する例も少なくありませんので,「商標」を「登録商標」とするためには,早めの手続が必要です。

    3 商標権の効力

    商標権は,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする独占的な権利であり,設定の登録によりはじめて発生します(商標法18条1項,25条)。

    商標権者は,自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができますし,故意又は過失によって自己の商標権を侵害したものに対してその侵害による損害の賠償を請求することもできます(法36条,民法709条)。

    なお,登録商標の使用をする権利の専有は,あくまでも指定商品又は指定役務について認められるものであることに留意が必要です。

    指定商品又は指定役務の範囲は,願書の記載に基づいて定められることになるため,出願に際しては,商品又は役務を適切に指定することが重要となります(法6条1項,17条2項)。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp




  • 2013/08/19 知的財産 『ビッグデータの利活用と個人情報・プライバシー保護について』(田島・寺西・遠藤法律事務所)

    ビッグデータの利活用と個人情報・プライバシー保護について

    Q ビッグデータの利活用が注目されていますが,どのような点に留意すべきですか?

    A 個々のデータ単独では個人情報保護法上の「個人情報」には該当しない場合も多いと考えられますが,その利活用に際しては,個人情報保護やプライバシー保護の観点からの配慮が求められます。

    ネットワーク・サービスの進化とデバイスの高機能化・普及により,多様で膨大なデジタルデータがリアルタイムでネットワーク上に生成・流通・蓄積されるようになったことから,いわゆるビッグデータを新たなビジネスの創出,業務運営の効率化,利用者個々人のニーズに則したサービスの提供,インフラの整備・管理等に利活用することが期待されています。

    他方,ビッグデータの中には個人の行動履歴等も含まれており,消費者側からは,その利活用において個人情報やプライバシーが適切に守られているのかといった懸念や不安が生じています。

    この点,ビッグデータを形成する個々のデータは,それ単独では個人識別可能性を具備しないものが多く,基本的には個人情報保護法上の「個人情報」 には該当しないと考えられますが,データを取得する事業者によっては当該事業者が保有する他の情報との関係において個人識別可能性が認められる場合があり得るほか,データが大量に蓄積され分析されることにより個人識別可能性が生じることもあり得ることから,その取扱いに際しては,個人情報保護やプライバシー保護の観点からの配慮が不可欠です。

    現在,個人情報保護やプライバシーに配慮しながらビッグデータの適正な利活用を促進するための仕組みや明確なルールの策定に向けて各方面において検討が進められています。

    その中で,事業者側に求められる取組みの主な課題としては,透明性の確保が挙げられています。

    すなわち,消費者側の個人情報保護やプライバシー保護の観点からの懸念や不安感は,いつ,どのような形で,どのような情報が収集され,収集された情報がどのように利活用されるのかが必ずしも明らかではないことから生じていると考えられます。

    そうであるとすれば,事業者側がデータの取得や利活用の方法等についての十分な事前説明や情報提供についての判断材料や選択肢を分かりやすい方法で提供することによって,消費者側の懸念や不安感は大幅に払拭され,データの利活用についての消費者側の理解を得ることが可能になると思われます。

    平成25年7月,株式会社日立製作所がJR東日本からSuicaに関するデータの提供を受けてマーケティング資料を作成・販売することが発表されると,データの提供について,個人情報保護やプライバシー保護への懸念の声が上がりました。

    この事態を受けて,JR東日本が希望者のデータ除外を受付けたところ,約1週間で9400件を超える除外の希望が寄せられたとのことです。

    JR東日本は,提供するデータにつき,氏名や住所等の識別情報は除外されており,IDの変換や利用者の少ない駅のデータの除外等個人情報やプライバシーに配慮した対応を行っていることを明らかにしましたが,かかる対応や提供について予め十分な説明がなされていれば,ここまで大きな反発を招く事態には至らなかったのではないでしょうか。

    なお,平成25年7月16日に総務省が公開した平成25年版情報通信白書によると,消費者は自己の情報を提供するに際しては,情報の提供先の信頼性を最も重視しており,その他には情報を提供することで経済的なメリットを享受できる場合,情報を提供することで利便性が向上する場合には,情報を提供しても良いと考える人が多いようです。

    また,利活用の方法としては,売買されることや公開されることについて抵抗を感じる人が特に多いようです。

    消費者側の信頼と安心を獲得して適正なデータの利活用を実現するためにも,こうした消費者側の認識を把握した上で,懸念や不安感を理解し配慮する自主的な取り組みや工夫が求められます。


    田島・寺西・遠藤法律事務所


    このコラム執筆者へのご相談をご希望の方は,こちらまでご連絡ください。

    ※ご連絡の際には,コラムをご覧になられた旨,及び,執筆弁護士名の記載がある場合には弁護士名をお伝えください。

    直通電話 03-5215-7354

    メール   advice@tajima-law.jp